【感想・ネタバレ】カルロ・ロヴェッリの 科学とは何かのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

みんな大好きカルロ・ロヴェッリの科学哲学本。
『時間は存在しない』、『世界は「関係」でできている』は読んでいるので、(訳者あとがきであったように)そこらへんの繋がりも気付けて面白かった。

古代ギリシアのアナクシマンドロスを中心に話は進むんだけど、「科学とは何か」というより「科学的思考とは何か」の方が適切かな。
科学哲学で言うと、本書でも引用されていたポパー(反証可能性)やクーン(パラダイムシフト)が有名だけど、そこにあえて「連続性という視点が欠けている」と批判するロヴェッリの鋭さ。そしてその「連続性」という形式を生み出したのがアナクシマンドロスだ、というのが本書の意見なわけだな。

アナクシマンドロスの功績はいくつかあるものの、代表的なものは師─つまりこれまでの積み重ね─を継承しながらも批判すること。これこそが科学的思考の骨子であり、宇宙の真理すら明らかにしようとする科学者達の理(ルール)ってワケだ。

最近『絡新婦の理』や『話が通じない相手と話をする方法』あたりを読んでたので、なんとなく繋がる部分も見えてきたり。見る視点が変わると、見えるものも変わってしまうんだねぇ。

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2024年04月28日

Posted by ブクログ

現代科学に最も貢献した人物は、ニュートンでもアインシュタインでもなく、アナクシマンドロスらしい。
彼は、地球を「なにもない空間に浮かぶ円柱」であると予想し、雨は海の水が蒸発したものであると予想し、すべての生き物は魚のようなものから派生したと予想した。

彼の生きた紀元前5世紀では、まだ世界の理解には神が必要不可欠であったが、「自然」にその解答を見出そうとした。(しかもかなり真実に近い)
これは当時にしてはかなりの発想の飛躍であり、常識を疑うという科学の本質を、初めて実践した人物らしい。

こういった予想を立てることができた背景には、彼の天才的な才能だけでなく、当時のギリシャ(のミレトスという都市)の活発な異文化交流、師に対しても異議を申し立て議論する風潮、上流階級による知識の独占が無かったことなどが大きかったのではないかということ。


普通におもろかった。
タイムマシンがあったらどこ行きたいか論争が良くあるが、僕は古代ギリシャに行って、神いない説を打ち立ててみんなで盛り上がりたい。

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2022年05月29日

Posted by ブクログ

本書のテーマは「科学的思考の歴史」。
著者のカルロ·ロヴェッリはその科学的思考の一大転機を、古代ギリシャの都市国家ミレトスのアナクシマンドロス(BC610生まれ)とする。
その時代は、あらゆる事象はギリシャ神話に出てくる神々の意思と結びつけられてていたが、彼は
1.雨水は元々海や川の水で、それが太陽の熱で蒸発して降ってくる。地震は酷暑や豪雨が引き金。
2.大地は有限で宙に浮遊し、落下しない理由は落下さる特定の方向わ持たない=他の物体に支配されていないから。
3.太陽、月、星は地球の周りを完全な円を描いて回っている。
4.自然を形づくる事物の多様性は、全て唯一の起源(アペイロン)から生じている。
5.ある事物が別の事物に変化する過程は必然に支配されている。
6.この世界はアペイロンから「熱さ」と「冷たさ」が別れた時に生じた。これにより世界に秩序がもたらされた。
7.あらゆる動物は、海かかつて大地を覆っていた原初の水に起源を持つ。
と言うことを初めて提唱した。
また
8.人類史上初めて世界地図を作成した。
9.ギリシャ世界に太陽の高さを棒の影の長さで図ることが出来ることを広めた。
10.横道の傾きを初めて測定した。
人為的に整えた物理的状況下で実験を行うという発想が欠落しているとは言え、この時代にこれらの着想が出来るのが素晴らしい。

著者がアナクシマンドロスの功績の中でも特に貴重なのは、「私たちの考えは間違える。しかも極めて頻繁に」と言う。間違いを認めつつ、修正を加えることで科学は前進する。現行の知に敬意を払うが、一方で徹底的な反抗の身振りから新しい知識が生まれると言う一貫した主張が、全体に流れていることを感じた。

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2022年05月02日

Posted by ブクログ

カルロ・ロヴェッリさんの言えば「時間は存在しない」の著者
何か読んでみたいと前々から思っていた
たまたま書店で目についたのでこちらが1冊目のカルロ・ロヴェッリ氏


アナクシマンドロス
紀元前610年、ミレトス出身の古代ギリシアの哲学者
著者によれば、科学史における、最初の概念上の革命を実現し、物理学、地理学、気象学、生物学の先駆けとなった人物とのこと
さらには世界像を捉え直すことへの道を切り開いた科学的思考の源流に立つ思想家とする
そのアナクシマドロスの今もなお影響が生きている革命について語られるのが本書だ

アナクシマドロスの時代は巨大な宮殿も、半神のような王の存在も、組織化された宗教的権威も聖職者階級もない新しい時代(ちょうど暗黒時代の終焉後)である
経済と文明が再生したギリシャはいわゆるポリス(都市国家)が形成され、民主的な政治プロセスが形つくられていった
このような新しい社会・政治の構造と科学的思考の誕生は関連がある
自由に批判を表明させ、議論を受け入れ、誰に対しても発言の権利を認め、あらゆる提案を真剣に検討する
このポリスという仕組みが民主制や多くの哲学者を生んだのだ
〜上からの軋轢のない新しい社会 その代わり自分達の手で全てやらなくてはいけない社会 常に人任せにせず考え議論が絶えない社会であったことが想像できる

さらにアナクシマンドロスと師のタレスの密接な師弟関係に著者は注目する
師の教えを徹底的に学び、我がものにする
その知を土台にして、師の思想の間違いを発見し、修正し、世界をより良く理解する方法を探求する
これこそが知の発展への扉を開く鍵だという著者
最初に実感したのがアナクシマンドロス
古代の世界に溢れかえる師弟関係でこのような関係性を築いた例はないだろう
孔子と孟子、イエス・キリストと聖パウロ…
〜アナクシマドロスも凄いがタレスの懐の広さが探求の道を広げたのだ!

中国の引き合いが面白い
中国文明は何世紀もの間さまざまな分野で西洋文化より優越していた
しかし科学革命に比する変革は起こらなかった
なぜか
中国の思想において師が決して批判されず疑義が呈されなかった
既存の思想の深化、肥沃化のみに特化された
(アナクシマンドロスが中国に居たら皇帝に首を刎ねられていただろう 現代の社会で言えば会社で上からの反発にあい解雇されちゃうタイプですね)

そして資源現象を常に神話的、宗教的に結びつけた時代にも関わらず、(雨降らすのはゼウスであり、風を吹かすのはアイオロスであり海の波を揺らすのはポセイドン)
「資源現象は神の意志や決定ではない」とする
この立役者がアナクシマドロスなのだ!

具体的なアナクシマンドロスの発見
異なるものもあるが現代とイコールな科学的思想
・生命が海から生じ、大地が乾燥すると海の中にいた生物が移動して大地に適応した
・大気現象 雨は太陽の熱を浴びて大地から立ちのぼった蒸気に由来
・大地はなにものにも支配されず、宙づりであり、自らの居場所にとどまる
・物体は「大地の方へ」落下する 
 つまり「下方」に向かって落ちるのではない

星の観察結果程度の乏しい素材から、世界全体を描き直した偉大さ
わたしたちが暮らす大地は開かれた空間に浮遊している…
〜凄い!表現力はともかく全てが本質を突いている

イオニア学派3名の万物の基礎にある「唯一の起源」の追求
※備忘録

■タレス…水
「すべては水でできている」

■アナクシメネス…空気
 空気を圧縮すると水が得られ、水を希釈すると空気が得られる
水をさらに圧縮すれば大地が得られる

■アナクシマンドロス…アペイロン
 アペイロンとは「無限」、「不特定」
 存在の起源は、限界の持たない自然であり、天地に存在する万物はそれに由来する



アナクシマンドロスがどうしてパイオニアなのか環境や時代背景などさまざまな角度から理解できた
今を生きる我々にとって当たり前のことを紀元前160年頃、世の中や自然の仕組みの本質を理解するというのは桁外れの知力である
他にも宗教との絡みや哲学、科学だけではない歴史が散りばめられており、思わぬ勉強になった
勉強と言っても実にわかりやすく楽しめる
ところどころ理屈が理屈で塗り重ねられ、結局何が言いたいのかよくわからない部分やあったが…
知的レベルの高い方のお考えは難しいです(笑)

全く思っていた内容とは違ったものの、知らない世界の知的好奇心を満たしていただき満足である
そうユヴァル・ノア・ハラリ氏の「サピエンス全史」を読んだ感覚に似ている

引き続きカルロ・ロヴェッリ氏の著は読んでいきたい

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2022年03月10日

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