【感想・ネタバレ】経営リーダーのための社会システム論~構造的問題と僕らの未来~のレビュー

あらすじ

「安全、快適、便利」なのに、なぜ生きづらいのか? 社会学者・宮台真司と経営学者・野田智義が、大学院大学至善館で行った講義を初書籍化。社会なくしてビジネスは存在しない。ところがビジネスパーソンほど、ふだん社会のことはあまり考えない。社会は便利で暮らしやすくなっているはずなのに、人々はなぜ孤独で誰もが入れ替え可能なことに悩むのか? すべての企業人必須の、社会と未来を見通すための知的フレームワーク。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

冒頭で語られる「日本は社会の底が抜けた状態」というのが、本書を読むことでよく理解できる。また講義形式のせいか、難解な社会システム論が理解しやすく語られているのと、受講生による質問で議論が更に深まっている。

本書では、市場・行政を”システム世界”と呼び、その拡大により、人々の感情劣化(利他性が損なわれ、損得勘定が主な価値判断となる)と孤立化が進んでいると言う。それが仲間意識の希薄化・分断となり、民主政の機能不全に繋がっている。
民主政は、それを営む人間の”善意”や”倫理”が前提となっており、いかに維持が難しいかということと、自分自身も損得勘定の価値判断にすっかり染まっていることに気付かされた。

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2023年03月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

うーん。難しい時代だ。
処方箋は提供されているが、共同体の確立とかできるんだろうか。
食を入口とする、というのはおもしろそう。

P79 
人々はもはや地域にも家族にも属さない浮遊した存在となり、それぞれが匿名者として戯れています。そして、グローバル化によって中間層が崩壊した格差社会において、地域と家族の空洞化を埋め合わせているのが、市場や行政といったシステムにほかなりません。システムに依存した社会は「社会の穴を、経済で埋め合わせる」ものです。だから「経済が回らなくなれば、社会の穴に人々が落ち込む」のです。その 事例は、孤独死以外にもさまざまなものがあります。

P88
さらに言えば、日本は災害大国で、気候変動を背景にして今後どんどん災害が起こります。災害時には、市場も行政も止まりがちです。だから、システム世界の外に生活世界を持たない人が現実に死んでいくことになります。だから僕は20年間ずっと「システムの外を大事にしろ」と言い続け てきました。今まで誰も耳を傾けませんでしたが、今後は僕が言わなくても、生き残るために、シ ステムの外にある生活世界を大事にするようになるかもしれません。

P124 ヒラメとキョロメに覆い尽くされた日本
野田 現在の日本は「社会の底が抜けている」状況であり、そのことを僕らは深く危惧しています。 というのも、宮台さんが指摘されるように、人間はゲノム的に孤独に耐えられない存在です。その人間が社会の中で生きていくためには、自分たちを包摂してくれる集団が必要なのですね。
宮台 かつて、われわれの本拠地は、生活世界でした。われわれは、生活世界を「ホームベース」 として暮らし、ときどきシステム世界に出かけては、狩猟採集活動をするかのように「獲物」を持 ち帰り、生活世界を生きるみんなのためにシェアしたわけです。しかし、われわれがシステム世界 に過剰に依存するようになるにつれて、生活世界がやせ細っていきます。
今や社会は、システム世界がメインで、生活世界はその下請けであるかのように変容しています。 その結果、生活世界が持っていた包摂性は失われ、個人はむき出しの状態で「システムに直撃され る」ようになっています。そのことが人間の感情的劣化を引き起こしているのだ、というのが僕の考えです。
日本ではこうした変化が特に著しく、汎システム化と共同体空洞化の先に絶望しかないことを他の国々に先駆けて示している点で「課題先進国」なのです。

宮台 日本が課題先進国になった理由は、第1に、「郷に入っては郷に従え」の類の共同体従属規範はあっても、「共同体の衰退を是が非でも避けなければならない」という共同体存続規範がないこと。
第2に、「人が見ていなくても神がみている」の類の、人のまなざしと神のまなざしを分ける宗教的規範がないことです。代わりに日本は、上の御機嫌をうかがうヒラメと、周囲の空気をうかがうキョロメに覆い尽くされています。

P142
でも女性が生きていこうとすれば、男性を見つけて結婚するしかありませんでした。今は、仕事で成果を出したり資格を取得したりしてステータスアップを図れます。クズ男性とつき合うぐらいなら、ステータスアップに時間を使う方が合理的になります。 これらすべてを踏まえて単純な図式にすると、まず、男性が損得化して、一部が性的に退却し、次に、女性が損得化した男性とつき合って懲りて、一部が性的に退却した、という展開になっています。
そもそも性愛関係は、喜怒哀楽を含めた包括的・全人格的なものです。僕たちは性愛を通じて、自分が根源的に肯定される体験を得ました。しかし、性愛が属性主義に陥るほど、ほかに代替でき ない喜びは、小さくなります。だから、属性主義を背景に、男女がともに性愛をコストとベネフィ ットという損得勘定に帰着させてしまうのは、実は自然な成り行きです。
ところで、男女の性愛の損得化の背景には、より深刻な家族の損得化があります。家族の損得化 が、そこで育った男女の性愛の損得化をもたらし、性愛の損得化が性愛をへてつくられる家族の損 得化をもたらす、という悪循環があるのです。

P149
ネットコミュニティにおける人間関係は、つき合いたい相手とだけつき合う、つき合いたいときにだけつき合う、相手の見たいところだけを見る、というつまみ食いです。すると、部分的な人間関係しか経験できず、包括的な人間関係から疎外されます。その結果、「相手が困っていたら、思わず自分が動いてしまう」ような損得を超えた利他的つながりを経験できなくなります。実際、そうしたつながりを経験したことがないという大学生が大半です。
思わず動いて、困っている相手を助ける。それで相手が喜んでくれ、そのことに自分も喜びを感 自分が困っているときに相手が助けてくれる。それで自分が喜びを感じ、それを相手も喜んでくれる。そういう喜びは、相対的な快楽というより、絶対的な享楽です。至上の悦びで す。でも、ネットコミュニティの人間関係ではその悦びが得られません。だからネットコミュニテイが拡大すれば、人間関係の悦びを知らない人が増えます。
すると、何が起こるでしょう。人は他者との関係を、プライベートを含めてコストパフォーマンスだけで測るようになります。だから、人間関係において生じる面倒くさいことやわずらわしいことを回避するようになり、対人能力の退行や未発達も進みます。その結果、人間関係から生じるノ イズをますます怖がるようになり、ネットコミュニティのつまみ食い的な人間関係にますます依存 する、という悪循環に陥るわけです。

P153
親は、子どもを持つと、いい幼稚園に入れ、いい学校に進学させ、いい会社に就職させるという ふうに子育てし、それに成功して周囲の人たちから「いいね」ボタンを押してもらいたいと考える ようになります。「いいね」ボタンはほかのことでも押してもらえます。そこでは、子どもを育てることのメリットとコストが天秤にかけられるのです。つまり、子どもをつくるかどうかも損得勘定による判断になるということです。社会学的には、それが少子化の最大要因です。

パク マッチングアプリのようなシステムを使って出会いの効率化を追い求めた結果、かえって恋愛が非効率なものになってしまっているのではないかと理解したんですけど、間違っていますか。
宮台 間違っていません。出会いにコストをかけたくないから、マッチングアプリを使う。マッチ ングアプリは、スペックでスクリーニングする。すると、相手が見つかっても、もっと条件に合う 相手を求めて相手をどんどん替える。多くの人は「おかしいな、なんでこんなに頻繁に相手を替え なきゃいけないんだ」と思う。でも、どうしたらいいのかわからず、不全感も埋まらず、ムダなあ がきを続ける。結局は、逆説的なコスト高になります。

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2024年08月31日

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