【感想・ネタバレ】言語が違えば、世界も違って見えるわけのレビュー

あらすじ

古代ギリシャ人は世界がモノクロに見えていた? 母語が違えば思考も違う? 言語と認知をめぐる壮大な謎に挑む、知的興奮の書!

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Posted by ブクログ

英語と日本語が喋れる(英語を大人になってから学んだような)人が日本語で喋ると内気になるけど英語で喋ると性格が変わったかのように自分が積極的でポジティブで行動的になる、みたいな事を言ってるのを以前Xのポストで見かけたので、そういう事が書いてあるのかな〜言語が性格に与える影響って何だろうと思い、読んだ。
 
最初の方は古代ギリシアの詩人ホメロスの色を表す語彙の少なさ、海や鉄を葡萄酒色と呼びハチミツを緑色と言い空を一度として青いと言わない、それは古代ギリシア人が色弱だったのか?という謎から始まる。
様々な研究者の色々な実験や希少言語の原住民へのフィールドワークの結果、冒頭で私が書いた使う言語によって性格が変わるのか?ということにも答えが与えられる。
それは言語がそもそもの原因というより言語を話す人々が所属する社会の文化での、その言語を通してのコミュニケーションによって強いられる思考というものだった。

一例を挙げると、左右の概念がなく、方向を話す場合はすべて実際の東西南北で表すとある部族の話が面白かった。「右の」「左の」手や足、部屋に入って右の棚みたいな概念がなく右手を「お前の南にある手」とか「店に入って北東の棚」となるのだそう。それも外だろうが太陽も星も見えない室内だろうがお構いない上にその時自分の体がどっち向きかによって違ってくるから右手は「お前の東にある手」にもなりうる。そしてその方向感覚はその部族が生得しているわけではなく、赤ん坊の頃から周りの大人や人々と話が通じるために必須で、子ども自身が東西南北を瞬時に判断できるように覚えていくらしい。そこはそういう文化になっちゃっているので、そうやって覚えて成長していかないとまわりと話が通じず、コミュニケーションができなくて生きていけないから。
な、なるほどー!!
つまり日本語だと大人しい人が英語をしゃべると積極的になるのは言語で性格が変わるのではなくて、
その言語を使う社会の文化によってであり、生きていくうえでのその文化の中での相互コミュニケーションがどうなされるのかで変わるってことですよね。
アメリカ辺りで英語で恐らく「あなたの意見は何?」「あなたはどう思ってる?」としょっちゅう聞かれたり積極的で陽気な人たちと積極的で陽気なコミュニケーションを取らざるを得ないから英語を使う場面で積極的で陽気に染まっていくんだろうなあ。(ならない人もいるでしょうけど!)
そして色の問題もまた、文化的差異の結果だそう。

当たり前と思っている物事が、社会の慣習が違うと全く違うものになってくる、という本書のなんとなく理解していたと思っていたけど実は良く理解してなかったものがストンと腑に落ちて、世界がちょっと明瞭になった気がする。

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2025年10月24日

Posted by ブクログ

言語が私たちの思考や世界の見方にどのような影響を与えるのかを、色覚・方位感覚・文法的ジェンダーなどの例から探る一冊。
どんな言語でも同じことは表現できるが、話す際に“何を強いられるか”が異なるという表現が新鮮でした。
英語と日本語を使う自分の感覚の違いとも重なり、言語が思考だけでなく、性格や居心地の良さにまで影響しているのではと改めて感じさせる内容でした。
まだまだ掘り始めたばかりの分野という印象で、これからも興味深い発見が多くありそうな予感がします。

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2025年10月17日

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「認知能力において、人類は基本的に平等であり、民族間、種族間での差異を説明するのに遺伝子に着目するということはなくなった」ということを前提に、異なる言語を話すことによって身についた思考方式の違いについて、「色覚」「語構造」「空間表現」「ジェンダー文法」という4つの観点から論じている。

結論からいうと、わたしたちの母語が絶えず、ある概念に注意を払うように仕向けたり、またはその逆であったり、連想関係を喚起させたりすることを繰り返し心に刻むことで、思考体系に影響を及ぼす、としている。

それは、わたしたちの思考を習慣化させ、文化として根付く。

人種間や民族間で、概念や抽象的思考、認知機能に優劣があるということではない。
しかし、言語は「記憶」「知覚」「連想関係」などの思考領域に影響を及ぼす。それについての感受性に影響を与える。

そして、わたしたちが現実に生きていくうえでは、これらの領域が抽象的推論よりもはるかに重要であることがわかる。

本書は、わたしたち、自分の考えが普遍だという思い込み、自文化中心主義になることへの警告でもある。

とりわけ、ジェンダー文法についての章は興味深く、日本語でもジェンダー名詞はないことから、ドイツ語の詩に付されている日本語訳との対比に驚嘆した。

日本では、今日当たり前として使用されている言語も、明治以降の造語が多く含まれていることから、わたしたちの思考もかなり西欧よりになってきているのではないか、と感じる。

解説で、今井むつみ先生が「わびさび」について挙げているけれど、この概念を理解している平成、令和生まれの若者はどのくらいいるだろうか。

他文化を理解することはもちろんだけれど、自分たちの文化の中で育まれてきた日本語、も大切にしていきたいとあらためて感じた。

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2025年08月17日

Posted by ブクログ

「色」を手がかりに、言語という文化的慣習が如何に人間の世界認識に影響を与えているかを紹介してくれる本
人間の無意識下でも作用している言語の力が近世の賢人から現代の科学者にかけて明らかになっていく過程が面白かった
絶対方位感覚を備えさせるグーグ=イミディル語の話者がどういう世界なのかを紙面で体験させたり、本書で扱われた実験で使われた色のセットなど、読者にも実体験してもらおうという気がして楽しめた
ドイツ語の文法における性(ジェンダー)をトウェインが面白おかしく取り上げていたのも面白かった
サピア・ウォーフの仮説(言語相対論)が、現在では否定されたとはいえ本書の主題でもある、言語が認知に与える影響の分かりやすく衝撃的な例として興味深かった

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2025年02月20日

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面白い。
言語が人間の認知機能にどの程度影響をあたえうるのか、というシンプルな命題に空間、ジェンダー、色を中心に実例を出しながら丁寧に分析を行っていく。
文化的土壌がアプリオリに人間の主観的判断や認知に言語を通じ、変化させ、どのように変化させ続けているのか。
物事を捉える際、言語が人に課す認識の方向性や趣向こそが、言語が違えば世界が違うというウォーフの極論の学問的進歩を感じた。
著者の親切丁寧な文章力に拍手を。

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2024年11月30日

Posted by ブクログ

言語の違いが思考にどのような影響を与えるのか。欧米における研究の歴史を振り返りながら、丁寧に説明されている。その歴史はバイアスとの戦いであり、それゆえに本書の説明はとても慎重であり、誠実な印象。

「絶対方位」しか使わないグーグ・イミディル語など、具体的な言語も紹介されていて、興味深く読めた。

語の違いが論理的推論に影響を与える実例は「いまだ提示されていない(原著は2010年)」とされているが・・・。

文庫版では、「ゆる言語学ラジオ」でおなじみ(?)の今井むつみ先生の解説、最新の実験結果の紹介もあり、お得感がある。

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2023年02月23日

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生得主義が言語学の主流であるとは聞くのだが、面白そうだと思って手に取る本は、この本も含めて「非主流派」の本になりがちだ。本書の立場は生得主義に真っ向から反対するものでもないみたいで、自然により与えられた「制約のなかの自由」により、文化もある程度まで言語に影響を及ぼす、さらにその逆として、言語が文化に影響を及ぼすこともあるといったところ。

言語の「氏か育ちか」論争が、ある極端から一方の極端へと行き来する歴史も丁寧に解説しており、一種の科学史としても読める。

色の認知については、どこか他所で日本人の少し上の世代にミズイロの認識がないことを読んだ。ベーシックな知覚だけに驚いたせいで覚えているのだが、それにとどまらぬ様々な色の表現パターンが世界の言語にはある。面白い。グーグ・イミディル語の方向認識にも驚かされる。言語についての工夫をこらした実験デザインも興味深い。

そろそろピンカーあたりの本を読んでおいたほうが良い気もするのだが、あまり面白そうでないのだよなあ。

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2022年07月16日

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やっと読み終えたー。
第二章の初めがどうしても進まなくて、断念しようかと思ったけどそこを過ぎたらまた興味深くなって読み切れました。
へぇ〜って内容が盛り沢山で、全体としては面白いです。
ただ、普段小説という厳選された言葉と文章を読んでばかりいるので、論文的なしつこい口調は辛かったです。
例えが多過ぎるし、全然先に進まないし、書き手の自己満足的な上手いこと言っただろ的な言い回しとか、要らないと思う部分が多いように感じました。

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2022年06月02日

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「母語の言語体系(文構造、文法、語彙)が、話者の知覚・認知・思考を規定している」という命題について。

その言語によって「何を伝えることができるかではなく、何を伝えることをを強いられるか」という観点に拠ってみると、↑の命題は正しいようだ。
そして特に色の見え方について、碩学の方々が導いた結論はかなり驚くべきもので、ぜひ読んでみてほしい。

言語の「強制」の興味深い事例をひとつ。。
「前後左右」の語彙がないオーストラリアの先住言語では(!?)「東西南北」を代わりに用い(!?!?)、例えば絵の中の位置関係も「東西南北」で表す。
だから絵について記憶を辿って説明するとき、「自分がどの方角に立っていたか/イラストがどの向きにあったか」も合わせて把握しないと、そもそも他者とコミュニケーションできない、という。
ただ「前後左右」の概念を理解できないわけではなく、ここを見誤ると一気にトンデモ論化らしい。

日本語も含め、名詞のジェンダーなどいろいろな言語の事例がユーモアたっぷりに紹介されており、とても楽しい。

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2022年05月14日

Posted by ブクログ

言葉は、発する人の世界の見方にどう影響を与えるかについての考察本。

ウォーフの仮説が妙に気になる、だけど信じていいのかな、と思ってたところでこの本に出会い、読んだ。結局ウォーフの仮説は今は否定されていることがわかったけど、でもだからと言って言語と思考が全くの無関係でもないということがちゃんと説明してあって(しかもユーモアたっぷりに)、私的には満足。解説も言語の研究で何冊も本を出している先生が書いていて、それもまた満足。興味深いし、面白いしで、大事に読んでいきたい本になった。

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2022年05月07日

Posted by ブクログ

面白かった。筆者は比喩がじょうず。サイエンスの本だったので、筆者が言うように、地味かもしれないけれど、母語が思考にもたらす影響はあるのだということを丁寧に説明してくれる。母語がなんでも思考力に違いがあるわけないよ!という、みんなが思っている「正論」ではなく、ね。

久しぶりに本屋さんで棚で見て買った本。こういうのがあると本屋さんに行きたくなるなあ。

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2022年04月10日

Posted by ブクログ

言葉ってすごいんだなー。絶対方位感覚が必要な言語を習得することは到底無理だと思うし、そういう人と接したら、多分、超能力者か?と思うだろうな。赤は赤、緑は緑、と世界中の誰もが同じように捉えていると思ったけど、そうではない。そして、言語の影響があると知ってとても勉強になり、ものの見方が広がったように思います。

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2022年03月26日

Posted by ブクログ

言語が違えば、考え方・世界の見え方も異なるのか?
ワクワクするテーマに対して、答えはかなり小さい。我々が如何に見えていないかが痛いほどわかるし、そんな中でも見えていることすら、見えていなかった自分にもびっくりする。
筆者の語り口はクセありだけどだんだんじわじわ面白い。個人的には、1章読み終わるくらいまでは耐える必要がある気がした。

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2025年08月21日

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言語の違えば世界は違って見えてくる、とは読む前から時折感じていたことだけれど、その違い方は私が想像していたよりも些細なことで、ただその些末なことの積み重ねが世界の認識に確実な違いをもたらすものである、と教えてくれた。
少し読みづらさはあるけれど、着実な論理の積み重ねが丁寧に書かれていてとても納得させられる書籍でした。

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2025年03月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

いろんな興味深い例が紹介されてて面白かった。

言語の違いは色、ジェンダー、空間の認識に対して影響を与えるようだということがいくつかの実験をもとに紹介されている。
かつては他言語の概念理解や思考にも制約がかかると考えられていたが、現在は否定されている。
ただし脳の働きを調べる手法が未発達なので、わかっていないことも多い。

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2025年01月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

タイトルに「わけ」と入っているが、実際には理由までは切り込めていない。むしろ、言語が認知に関わるということ自体が、(意外にも)科学的には最近分かりはじめたばかりらしい。
タイトルと中身がずれているので、読む前に期待していた内容とは違った。面白かったけど。

鏡としての言語とレンズとしての言語の二本立てとなっている。すなわち、前者は言語が外界の認知のしかたを反映するというもので、後者は逆に、外界の認知に言語が影響するというもの。
本書の主題は後者なのだけれど、歴史的経緯もあって、まずは前者が紹介される。特に、グラッドストンによるホメロスの詩をはじめとする、古代の文章の色にまつわる研究が詳しく紹介される。古代の詩には青に相当する色が登場しないそうで、たとえば葡萄酒色(ワインレッド)の空などと表現される。このことから、当時の研究者は、古代の人々は青が見えていなかったのだ、と推論した。これは誤りだったと後に分かるのだが…。ただ、誤りであることもそれなりの驚きがある。私たちと同じように青色が見えているにもかかわらず、青を示す語彙が生まれないというのは、一見すると信じがたい。
ただ、古代の人々が青を見えなかったという主張は、一部の少数民族の言語と色彩感覚の研究から否定される。実際、少数民族などの言語には、黒、白、赤の3色の基本語彙しか持たないものがあるという。(どの言語でも黒白赤が最初に現れて、青は最後になるらしい。)とはいえ、彼らは青を正しく識別することができた。また、子供が色を独立した概念として認識できるのは、他の物の認識よりも相当遅いとのこと。人間にとっての色の認識は、私たちが思うほど当たり前のものではないのかもしれない。

青の語彙を持たない言語を話す人でも青を認識できないわけではないし、未来時制のない言語でも未来の話はできるから、言語と認知の関係については否定的な見方が主流になっているらしい。ここまでが前半部分。
著者はそこに異を唱え、言語が認知に影響する事例を紹介する。ただし、過去の見方とはある意味逆で、言語のできることではなく、言語がしなければならないことに着目する。「時制のない言語は過去や未来を語れない」という主張は誤りだが、代わりに「時制がある言葉は話し手に時制の認識を強いる」と考えるという具合だ。
例として、我々とは異なる空間認識をする言語(あなたの前にと言う代わりにあなたの北にという)、ジェンダーをもつ言語による認識の歪み(男性名詞・女性名詞というのが生物学的性とこうもズレるということに驚いた)、色の認識を挙げている。

色にまつわる前半部分の記述など、細かい歴史的な経緯がかかれている。興味深くはあるものの、本書の主題からすると前置きにあたる内容なので、もう少しコンパクトでも良いのかなと思った。
人間の脳には、言語の種類によらない普遍文法を理解するための仕組みが備わっているという考えがあるらしいので、そのあたりの本も読んでみたい。

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2024年08月14日

Posted by ブクログ

初めて読んだ言語学の本。
言語が文化や知覚・思考に及ぼす影響、社会的慣習が言語に及ぼす影響を多面的に分析している。
とても興味深いテーマで、新たな発見が多かった。
バベルの塔伝説による、言語の違い(文法体系、語彙体系、音韻体系等)が、どのように生じてきたのかという新たな興味が湧いてくる。

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2024年05月18日

Posted by ブクログ

想定よりも専門的で難しかったですが、理解はできるレベルであり、とてもおもしろく読めました。
言語が違うと見える世界が違うのか、というテーマで、空間、色、ジェンダーについて詳細に書かれていて、基本的には読んでいて、そういうもんか〜とただただ頷くのみでした。
その言葉がないことがその概念を理解しないこととは違うというのは、言われてみれば当たり前ですが、言われないと言語化できなかった感覚でした。
言語が文化や思考に影響を及ぼすのか、文化や思考が言語に影響を及ぼすのか、一意に定まるわけではどうやらなさそうですが、考えるのが楽しいテーマです。

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2024年05月03日

Posted by ブクログ

名詞に性別がある言語の存在は幾つか知っていたが、同じ色名でも実際に指し示す色が言語によって異なっていたり、位置や方向を表す時に相対時に表す言葉と絶対的に表す言葉があるのを初めて知った。

このような言語の違いは話者の世界の見方が異なるからなのかそれとも別の要素が絡むのかを様々な事例から論じている。

これを読むと言語は多様性を映す格好の鏡なのだなと思った。

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2024年01月30日

Posted by ブクログ


 古代ローマの人々と現代の我々の間、まして現代の異なる地域に住む我々の間に色彩感覚の生物学的な差異あるとは考えにくい。にもかかわらず、ホメロスは海の色を「葡萄酒の色」と表現するし、現代の日本語の"アオ"が示す範囲と英語の"blue"が示す範囲は同じではない。これらは、母語が人間の論理的な思考を形づくる、という言語相対論ウォーフ仮説を助長するかに見えるが、自分の母語で特定の概念を一言で言い表すことはできずとも理解自体はできることは、今では感覚的に知るところである。色彩感覚の違いについては、脳が網膜からの信号を取捨選択、拡大解釈する際に行う補正と標準化において、言語が介入してる可能性が高い。つまり、ある特定の表現を頻繁に用いることで培われる習慣、発話習慣によって形成される心的習慣が単なる言語自体の知識を超えて、より大きな影響を及ぼしうる。記憶、知覚、連想関係などの思考領域及び自分の位置を知るという実用的スキルの領域において母語が言語に影響すると考えられる。

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2023年11月02日

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本書は我々の思考がその社会の文化的習慣に大きく影響されていることを提示する。その例として、言語が世界を様々な概念に切り分け、我々が見ているものや思考に影響を与え、人間として普遍的なものが最初から自然にあるわけではないことを証明する。特に、空間的座標軸(東我々と違い、東西南北を絶えず座標軸とする言語)やジェンダー(名詞に常に恣意的な男性性や女性性、中性性を割り当てる言語)、色の概念(言語による色の境界性の多様性)がその言語を日常的に使い続けることの習慣性による思考や行動への影響力。我々が世界をどう見ているのか、言語の影響力の大きさをみることは、人間文化の多様性と相互理解を進めるうえで大切である事を再認識した。

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2023年10月28日

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素晴らしく面白かった。世界には様々な特徴を持つ言語がある(あった)こと、そのような特徴が我々の思考や認識に何をもたらすのか(あるいはもたらさないのか)、言語によって我々の世界の見え方は異なるのか、などなど。
今までは気にも留めていなかったような知的好奇心を刺激する数々の疑問がこの本では紹介されている
文章が少しスノッブ気取りで読み進めにくく感じた部分もあるけれど、決して専門的にはなりすぎず、あくまで一般向けに書かれていたと思う。

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2023年05月13日

Posted by ブクログ

言語は自然と文化、どちらを反映するのか。母語は思考に影響を及ぼすのか。現代人には奇妙に感じられる「葡萄酒色の海」というホメロスの色彩感覚にはじまり、視覚と色名の関係をめぐる議論の歴史や、左右前後を表す言葉を持たず、常に東西南北の絶対方位感覚を必要とする言語の発見など、言語学が生まれた西洋で〈普遍〉と信じられていた常識が崩れていった事例を、言語学者の功罪に鋭く斬り込みながら語るノンフィクション。


ホメロスは『オデュッセイア』も『イリアス』もまだ読んでないけど、「葡萄酒色の海」のことだけは知っている。だけど、これが文学的な修辞の範疇を超えて「古代人は色弱だったか否か」の議論にまで発展していたなんて知らなかった。西洋の研究者はアフリカやポリネシアへのフィールドワークを通して、空や海の色を黒と同一の単語で表す人びとの存在に驚愕したという。
ホメロスの叙事詩は本来口で語られたわけで、厳密な色名を挙げるより実物を指し示せばそれで事足りたのだろう。アフリカやポリネシアの人びともそうで、空や海は「地の色」であって、そこに浮かんだり飛んだりしているものは何かという情報のほうが重要だったゆえに、海や空そのものの色を黒(暗色)と区別する必要がなかったのだと思われる。
色名が生まれる背景に、人工的にその色を作る技術が関わってくるという説も面白かった。そして勿論、文字を持つ文明か持たない文明かも大きい。直接対話できない相手との交流が活発な地域であれば、共通概念としての色は重要になる。反物を指定の色に染めてほしいという注文書とか。
以上のように、本書の第一部では色名を例に、視覚と言語の関係をめぐる研究史を紹介している。「研究に値する言語」はギリシア語とラテン語だけだとされていた19世紀初頭から、さまざまな偏見を晒しながら歩んできた言語学の歴史にツッコミを入れつつ語っていく。具体的な研究成果が一切報告されていないのに常識化してしまった「言語学の基本」や、偏見への反省がある分野の研究を停滞させてしまった例も引き、鋭い批判も飛ばす。この本は一般向けに書かれた言語学の入門書であると同時に、言語学の罪を暴く本でもあると思う。
第二部で言語相対論を取り上げると、ドイッチャーの語気はさらに強くなる。「宇宙観は言語に依存する」と断言したウォーフによって、言葉は認識の限界を定める牢獄になり、誰しも母語にないものは本質的に理解できないことになってしまった。ドイッチャーは、そんな考えは馬鹿げていると言う。言語相対論を打破する説がヤコブソンの翻訳に関する思索からでてきたのは興味深い。「言語の違いは〈何を伝えていいか〉ではなく、〈何を伝えなければならないか〉にある」というのがそれである。
そこで時制を明らかにしなければ一言も話せない言語、男女の区別が無機物にまで及ぶ言語、そして地理座標が体に染み込んでいないと位置関係を表現できない言語が登場する。最後に挙げた例のひとつ、グーグ・イミディル語は、それを母語とする人びとにどんな場所でも東西南北が識別できる身体感覚を無意識レベルで叩き込む。この事例は、オリバー・サックスが『音楽嗜好症』で中国語のような声調言語を母語にしていると絶対音感を持ちやすい、と言っていたのと少し近いと思った。言葉の〈ジェンダー〉にまつわる章は日本語話者には不可解極まりない男性名詞・女性名詞の区別をネタにしていて楽しい。マーク・トウェインの皮肉が冴え渡る。
最後はふたたび色名と色の識別の相関性を、最新の脳科学実験のデータから考えていく。日頃から言語学って文系と理系の中間にある学問だと思っていたけれど、認知科学と手を取ることで「人間がどのように世界を把握しているのか」「言葉と認知の相互関係はどのくらい強いのか」がこれから明らかになるのであれば、もう言語学こそがSFだとすら言ってもいいんじゃないだろうか。そんな未来に対するワクワクと、そして何より過去の過ちを認めることこそが「科学的」であるというアティチュードを教えてくれる一冊だった。

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2022年12月12日

Posted by ブクログ

途中別の本を読んでいたため、最初の方を忘れていた。一気に読めば良かった。反省。言語学の歴史のところでは日本も野蛮人だと思われていたのかなと思ったり。地理座標のところは難しかったけれど、面白かった。言語って移り変わっていくものだよな、とつくづく感じた。最後は脳科学にまで触れており、歴史を見てきた筆者は少々悲観的な結びで終わる。しかし私はテクノロジーの進化に期待したい。今は日本語で思考しているけれど、脳だけで考え会話する事も出来るのだろうか。

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2022年05月07日

Posted by ブクログ

めちゃくちゃ楽しめると同時に自身の無知さを思い知れる。
言語学の格闘を時系列順に展開していくから楽しい。
ただ、読み切る前に知識を披露したくなるのは分かるが、次のページで論破されてたりするから注意。

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2025年08月16日

Posted by ブクログ

・言語学の挫折と努力の歴史を追いかける本。
・ウォーフがボロカスに言われてて、さすがにちょっとかわいそうだな...。
・すべての方向を右左上下じゃなくて東西南北で表す言語、おもしろすぎる。
・あとがきがかっこいいぜ。

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2025年04月27日

Posted by ブクログ

既知の内容だったため少し感動が薄れてしまったので勝手ながら星3つ
新規の知識だったらとっても興味深かったと思う

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2025年04月15日

Posted by ブクログ

やや回りくどいが、視点は興味深い。しかし、言語(母語)だけにいろんな要素を結びつけ過ぎであるようにも感じた。世界が違って見えるのは、言語を含む様々な活動の相互作用と見るべきだろう。

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2022年08月10日

Posted by ブクログ

言語が話し手になにを伝えるのを許すか、ではなく、なにを伝えるのを強いるか
この観点は私にとって新しく糧となった

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2022年03月29日

Posted by ブクログ

言語が世界の認識を完全に規定するわけはないけど影響は与えるし、世界の限界を決めるわけはないけどその速度や難易度には影響を与える。

言葉が何を伝えるか制約するのではなく、何を伝えなければならないかを強制する。それにより形作られた習慣が、世界の見え方を少し変える。

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2022年03月27日

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