あらすじ
大ヒット作!2020年11月公開。
ヒーローだった兄ちゃんは、20歳4か月で死んだ。超美形の妹は、内に籠もった。母も肥満化し、酒に溺れた。僕も東京の大学に入った。あとは、「サクラ」となづけられた犬が一匹――。そんなある年の暮れ。家を出ていた父が戻ってきた…。
(底本 2007年12月発行作品)
感情タグBEST3
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前半の幸せな家族を描いた部分も、後半の救いようがないようでいつも光が差し込んでいるような家族を描いた部分もどちらも好きだった。
悲しい物事が起きても、結局は残された者、受難した人がそれをどう捉えて生きていくかなんだよなぁ。明るく生きていきたい(雑すぎる感想)。
主人公の恋愛の様子は、10代のまだ大人になりきっていない未熟さが、自分の10代の苦い思い出を蘇らせて濁音付きであ〜と叫びたくなった。
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西加奈子さんの作品は、本当に心揺さぶられます。
この作品もそうでした。
家族に最大の不幸が起こり、家庭内が崩壊していく中、犬という愛の存在に救われる。
私の家にも犬がいます。本当に癒されます。
純真無垢な愛の存在の犬、尊い生き物です。
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犬が出てくる話はつらいので何となく敬遠していたけど見事に泣かされてしまった。読んで良かった。人間もつらいのを忘れてた。
最後はまさかのお父さんが全てを持って行った。ただでさえ存在感が薄く、長男が亡くなって消え入りそうになっていたお父さんが、さくらのために管制室時代の熱い姿を取り戻す展開は興奮だったし、家の中でゆっくりと流れる時間や子供達の異質な記憶力が実はお父さんから貰った物だった事もとてもよかった。
お母さんは始終すばらしい人だった。夜、子供達にあの声を聞かれて「昨日なにしてたん?」と幼い娘に問い詰められても、「みきの目は誰に似てる?耳は?指は?」から始まり「生まれて来てくれてありがとう」で終わる話をした。本当に美しかった。
作中には社会で生きにくそうな人たちがたくさん登場していて、子供時代のお兄ちゃん達の嘲笑の的にされて、読んでいて暗い気持ちになっていたけど、やがてお兄ちゃんにその順番が回って来てもっと複雑で暗い気持ちになった。どこにいても人気者で人生イージーモードだったお兄ちゃんがある日突然ベリーハードモードになったら。想像もできない。
さくらがとても可愛い。人間達にはあんな残酷な人生を用意するのに、さくらには残忍になれない作者の犬好きが垣間見れてほっこり。
今回のオチ:
大学生の兄が交通事故で顔半分と下半身機能を失う。奇異の目で見られるようになり「ギブアップ」と遺書を残し、妹が贈った犬用のリードで首を吊った。一家はボロボロに。
超絶美人なのに全く恋愛して来なかった妹は兄が好きだった。兄が本気で好きだった子の手紙を隠したり、兄になりすまして拒絶したりしていた。兄が事故に遭った時も独占欲から安心していた。やがてその罪悪感等で潰れそうになった頃に、父がその手紙の入ったランドセルを持って蒸発。美しかった母は過食症とアルコール依存で激太りしていた。
散り散りだった4人が久々に集まった大晦日にさくらが息絶えそうになる。父が強引に全員を車に乗せ、病院を探して街を暴走する。日本中の道を記憶していそうな暴走。パトカーに止められ諦めムードの時にさくらがみきの上で下痢をしてケロっと治る。みきのランドセルは父が捨てたと言う。みきの憑き物が落ち、全員に明るい事が起きそう新年エンド。
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最高にすてきな兄と最強の妹に挟まれた次男が語る家族のお話。あまりに切なく、そして犬のサクラが愛おしくて読む前と後では自分の心が変わってしまう程。
いつまでも同じではいられないことの淋しさ。変わっても生きていたら続いていくことを思ってやっぱり切ない。
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こてこての大阪弁で綴られる家族の物語。こんな人たちがそばに居たらめんどくさいだろうなと思いつつ、すべてが流れ星の向こうにあるみたいに、ぼうっと輝いてすっと消えていくような不思議な小説でした。
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あなたは、『犬』が好きでしょうか?
古来より人と深い関わり合いの中に生きてきた『犬』。このレビューを読んでくださっている方の中にも『犬』と共にある生活を当たり前のものとされていらっしゃる方も多いと思います。2023年時点で684.4万頭という飼育頭数が掲げられもする『犬』。
そんな『犬』は小説にも数多く登場します。18歳の青春を駆け抜け大人になって行く高校生を見続けた『犬』のコーシロー視点で描かれる伊吹有喜さん「犬がいた季節」、幼き頃飼育していた愛犬ロクジロウを思う気持ちに今を重ねる高瀬隼子さん「犬のかたちをしているもの」、そして”どうぞよろしく、と付け加えたら、仔犬はぼくに向かってひと声「ワン」と吠えた”という『犬』好きな人必読の加納朋子さん「1(ONE)」などそこには感動的な名作が揃ってもいます。
さてここに、そんな名作小説に名を連ねるように『犬』が印象的に登場する物語があります。『犬』を迎え入れた5人家族の悲喜交々の人生が描かれるこの作品。次から次へと訪れる衝撃的な出来事と個性ある登場人物に最後まで一気読みする他ないこの作品。そしてそれは、『犬』と共にある、一つの家族の相当変わった!日常を垣間見る物語です。
『長谷川 薫 様』とはじまる『汚い、明らかに男の字で書かれた茶色い封筒を見つけ』たものの『自分宛のものだと分かるのに少し時間がかかった』と父親『からの、二年ぶりの手紙』を見るのは主人公の長谷川薫(はせがわ かおる)。『年末、家に帰ります。 おとうさん』と『文面の最後』に書かれた手紙を見て、『年末を彼女と過ごすことになっていた』薫は、『彼女への言い訳を』考えはじめます。『久しぶりに故郷の言葉を思い切り話したくなって!』等『散々考えた挙句』、『飼っている犬に逢いたくなった。』という『言い訳』を思いついた薫。『僕の犬の名前は、サクラという。白に黒ぶちの雑種で、中型の掃除機くらいの大きさ、足元が黒くて長靴を履いているみたいに見える…』というサクラは『今年で十二歳、犬にしたらかなりのおばあちゃん』になっています。『言い訳として考えたことだけど、一度サクラのことを思い出すと、もうそれ以外考えられなくなった』という薫は、『サクラに会わなければ!』と『使命』を抱きます。そして、『東京から大阪まで約三時間』、『乗車率二〇〇%』の新幹線で実家へと向かう薫は『ねぇ、あたしと犬とどっちが大切なの?』と彼女が涙目になった時のことを思い出します。そんな問いに『黙り込んでしまった』薫は、『頭の中でサクラと遊ぶ正月と彼女と過ごす正月を比べて、そりゃもう、断然サクラだぜ!』と思いましたが『さすがにそれは言え』ませんでした。
場面は変わり、『郊外の新興住宅地にある』実家へと帰ってはきたものの、『そのまま家に入って行くのも何となく気が向かないので』、『サクラに会いに行くことにし』た薫。『家の横の細い道を通りながら』『呼びかけるけど、姿を現さない』サクラ。やむなく『庭の方へ廻ると、母さんが庭仕事をしてい』ました。『声をかけ損なって、かけ損なってから困って、ただただ黙って、母さんの動くのを見ていた』薫でしたが、『結局数分が過ぎて』『やっと振り返』ります。『おかえり』、『うん』と会話を交わすも『お互いそれ以上言葉が続かなくて、なんとなく黙って』しまった二人。『えーと、サクラは?』と訊く薫に『サクラ!』と『のけぞってしまうほど大きな声』で返す母親は『あの子、最近ずっとあそこやねん』と『僕らが小さな頃乗っていた自転車が三台ほど停まっているあたりを指さし』ます。『最初は垂れ下がった自転車カバーで見えなかったけど、よく見ると、ミキの赤い自転車の下にサクラの足』を見つけた薫は、『あれほど焦がれた可愛らしい肉球が、無防備にこちらを向いてい』るのを目にします。『寒いやろうに。犬小屋の方が、あったかいんとちゃうの?』と訊く薫に『自転車のカバーが風除けになってて、結構あったかいみたいやねん』と返す母親は『あ、サクラ、耳えらい遠なってるから、近くまで行って、そおっと体にさわってやらな気ぃ付かんよ。』と続けます。『そおっとやで!』と後ろから言う母親を背に『サクラ。』と呼びながら歩いていく薫でしたが、サクラは『死んだみたいに、口をだらりと開けて寝てい』ます。『乱暴にお腹に触って、それでやっと起きたサクラは最初、条件反射のように尻尾を振ってい』ました。しかし、薫の『匂いを嗅いで、それが嗅ぎなれた匂いだと分かると、嬉しそうに尻尾を振』ります。『両目は白内障で真っ白になっていて、おそらく僕のことも、おぼろげにしか見えていないのだろう』と思う薫、『お前、僕のこと、分かってんのか?』と言う薫にサクラは頭を『膝にすりつけてき』ます。『犬は人間より早く年を取るというけど、急激に年老いてしまったサクラが哀れに思えて、頭やお腹、足をぐしゃぐしゃと撫でてや』る薫に、『強く撫でられて気持ちがいいのか、「そこそこ。」という感じに、体をくねらせる』サクラ。『歯をむき出して体を震わせる』サクラ『の顔があまりに不細工なので』笑ってしまった薫は、『サクラ、女の子やろが』と呟きますが、そんな『言葉にも、尻尾を振って応える』サクラ。そんな時、『お父さんが、帰ってきはったよ!』とミキの声がしました。『犬』の『サクラ』と共にある薫の家族の日常が描かれていきます。
“ヒーローだった兄ちゃんは、20歳4か月で死んだ。超美形の妹は、内に籠もった。母も肥満化し、酒に溺れた。僕も東京の大学に入った。あとは、「サクラ」となづけられた犬が一匹 ー。そんなある年の暮れ。家を出ていた父が戻ってきた…”と内容紹介にうたわれるこの作品。2020年11月に、主人公の長谷川薫を北村匠海さん、妹の美貴を小松菜奈さん、そして家を出て行った父親役に永瀬正敏さんという陣容で映画化もされた西加奈子さんの代表作の一つです。
そんなこの作品の書名は「さくら」です。単行本、文庫本ともに、白地に鉛筆線で住宅地が描かれた表紙に「さくら」色の字で書名が書かれていますが、この言葉から想像される”桜”がそこに描かれているわけではありません。そんな書名の「さくら」に繋がるものが主人公の薫の実家で飼育されている『今年で十二歳、犬にしたらかなりのおばあちゃん』という『犬』の『サクラ』です。この作品を語るのになくてはならない『サクラ』についてまずはまとめておきましょう。
● 『サクラ』ってどんな『犬』?
・近所の家で五匹いた子犬の中で、一番小さくて、痩せていて、とても頼りなかったことが気になった薫がこいつじゃなきゃ駄目と思いもらって帰った。
・『サクラ』からハラリと落ちたピンク色の花びらを見て『女の子はいつか赤ちゃんを産むけど、きっとこの子は小さいから、桜の花びらを産んだんだよ。なぁ名前決まったで、この子の名前はサクラや!』と言ったことで『サクラ』と命名。
・白に黒ぶちの雑種で、中型の掃除機くらいの大きさ、足元が黒くて長靴を履いているみたいに見える。鼻の頭にもそばかすみたいな黒い斑点がついている。
・一応女の子だけど、『サクラ』という名前を言わない限り、皆オス犬だと思うような冴えない風貌
・生後二ヵ月、薫が十歳、美貴が六歳の時に長谷川家にやってきたことが描かれる一方で、作品冒頭では、『今年で十二歳、犬にしたらかなりのおばあちゃんだ』と記されている
おおよそのイメージが伝わったかと思います。物語では、そんな『サクラ』を家族の一員として大切にする長谷川一家の姿が描かれていきます。こちらもいくつか抜き出して見ましょう。まずは作品冒頭、『おばあちゃん』になった『サクラ』の描写です。
『ミキが、「おー、寒い寒い。」と言いながら、サクラのお尻をぺちぺち叩く。サクラは、叩かれても嬉しそうに尻尾を振って、ミキは、サクラが可愛くてしょうがないので、体中をぺちぺちと叩く。すると、ぷわぁー、とサクラが欠伸をする』。
なんとも平和そのものといった情景が思い浮かびます。年をとって『白内障』を患う『サクラ』ですが、家族の一員として大切にされていることがわかります。それは、散歩に行く時も同じです。
『僕が散歩用の鎖を見せると、尻尾をちぎれんばかりに振るので、年をとってもやっぱり散歩は嬉しいんだなと、僕も嬉しくなった』。
『ちぎれんばかりに』尻尾を振る『サクラ』が描写されるこのシーン。作品冒頭で、主人公の薫は『サクラと遊ぶ正月と彼女と過ごす正月を比べて、そりゃもう、断然サクラだぜ!』と思い帰省しますが、その選択に悔いなしという状況が伺えます。つぎは、まだ『サクラ』が幼かった頃、『家に入れてもらえるのが嬉しい』『サクラ』の様子を描写したものです。
『ドアを開けたらカールルイスのスタートダッシュで家の中に飛び込んできて、調子に乗ってリビングまで入ってくるのだけど、そんなサクラのことを誰も怒らなかった。ミキは四つん這いでサクラとタオルの取り合いをしたり、ごろごろと転がったりして、母さんに 「女の子やろ?」とたしなめられていた』。
『カールルイス』を例えにするところがこの作品の時代設定を彷彿とさせますが、『サクラ』のことを家族全員で大切にしている様子が伝わってきます。そんな『サクラ』がやってきたタイミングは、長谷川家が『新興住宅地』へと引っ越してきたばかり、一同『新しい環境に馴染めず少し元気を無くしていた』時のことでした。『サクラがやってきてから』、『また賑やかになった』という長谷川家の面々がこんな風に描写されます。
・『兄ちゃんは学校が終わると真っ先に家に帰ってきて、サクラと庭で遊んだし、僕もそうだった』。
・『父さんは自分の家を持つことが出来たうえ、庭で犬を飼うという贅沢を許されたことに満足して、ますます仕事に精を出すようになった』。
・『母さんは教えてもいないのにきちんと花壇を避けるサクラに感心して、新しい娘を可愛がるみたいにサクラを愛した』。
・『ミキはミキで兄ちゃんがまた遊んでくれることが嬉しくて、そして何より自分にその体を預けて、安心しきった寝息を立てているサクラが愛しくて仕方ないらしかった』。
家族5人が5人とも『サクラ』がやってきたことをきっかけに確実に元気を取り戻していく様子が描かれています。『犬』が生活に入ってきたこと、家族の一員となることの意味と、その意義が存分に描かれていきます。これは、犬好きな方には、とても納得感のある話なのではないかと思います。ブリーダーの減少にその一因があるともされる『犬』の飼育頭数の減少、それでも2023年時点で684.4万頭も飼育される『犬』。そんな『犬』を自分も飼ってみたい!そんな思いの起点になるのがこの作品、読み終えると誰もが犬好きになってしまう、この作品はそんな強い魅力を備えた作品だと思いました。
そんなこの作品、上記した通り『犬』の『サクラ』が大いなる存在感をもって登場しますが、物語の中心は、そんな『サクラ』を飼育する長谷川一家の物語です。では、映画の役者さんの情報を付記して家族5人の面々をご紹介しておきます。
● 長谷川一家の5人の面々
・長谷川薫(北村匠海さん): 主人公、長谷川家の次男、東京の大学に通う。父親からの手紙を見て年の暮れに帰郷する。
・長谷川美貴(小松菜奈さん): 長谷川家の長女(薫の妹)、『世界できっと二番目か三番目に美しい女の子』
・長谷川一(吉沢亮さん): 長谷川家の長男、小さな頃からもてた。『「好きな子だーれ?」という質問に、ひとりを除く組全員の女の子に指を差されるという快挙』
・長谷川つぼみ(寺島しのぶさん): 母親、いわゆる肥満、『頭から足まで一切のくびれがない…何かに似ている。ぽってりとした洋酒のボトル、調理寸前の蕪、ハロウィンのかぼちゃ』
・長谷川昭夫(永瀬正敏さん): 父親、運送会社でトラックの運行を管理する仕事、ある一件にきっかけに家を出る→作品冒頭で薫に連絡し家に戻る
このような感じでしょうか?母親の『肥満』キャラが寺島しのぶさん?というところが多少引っかかりますが、描かれる母親のキャラクターは寺島しのぶさんの印象そのまんまです。他の面々含めて非常に上手いキャスティングがなされていると思います。
そんなこの作品は〈はじまりの章〉、〈第2章〉、〈第3章〉、〈第4章〉、〈第5章〉、そして〈おわりの章〉という合計で6つの章から構成されています。数字の入っていない最初と最後の章が二十二歳になり東京の大学に通う薫が描かれる今の物語で、間に挟まれた4つの章が薫の幼き時代、大阪に家族と暮らす長谷川一家の過去を回想する物語という構成になっています。幼き薫を育てる一家は『新興住宅地』へと引っ越します。そんな一家に迎え入れられたのが『犬』の『サクラ』です。
『僕らの新しい生活と共に、ある女の子が家にやって来ることになる』
ある日突然、『犬を飼いたい』と言いだしたミキ。近所の家で生まれた『五匹の子犬』の中から『何故かは分からないけど、こいつじゃなきゃ駄目だ。そう思った』という薫の意見により引き取られ、長谷川家の一員となった『サクラ』。物語は『サクラ』が長谷川一家に入って以降の様子が描かれていきます。そして、そこに描かれていくのは、まさしく家族5人それぞれに光が当たっていく物語です。上記した通り長谷川家の面々は非常に個性豊かです。西加奈子さんの作品では他の作品でもそうですが、登場人物のキャラが立ちすぎるほどに立っているのが特徴ですが、この作品も負けてはいません。それは、ちょっと変わっているというような表現で語れるものではなく超・変わっている様を見せつけてもくれます。この作品では妹のミキのあまりに強烈な様子が強いインパクトを持って迫ってきます。
『「美しく貴い子」、初めての女の子が両親は可愛くて仕方ないらしく、甘やかし放題に育てた』
名前自体は一般的ですが性格は強烈です。二つ見てみましょう。
・『売られた喧嘩は必ず買う』→『どんなに安かろうが、高かろうが、タダだろうがローンだろうが、ミキは少しでも臨戦態勢を取られると、猛烈なファイトを見せる』。
・『電柱に立小便しているところを近所のおばさんに見つかって、ちょっとしたニュースになる』
特に後者のインパクトは最強ですが、物語ではその強烈さが全編にわたって描かれていきます。おそらく読後一番印象に残る登場人物がミキだと思います。これから読まれる方には是非その想像の数段上をいくキョーレツさに魅せられていただければと思います。
物語は、そんな長谷川一家と彼らの周囲の人たちとの関わりをさまざまに描いていきます。物語冒頭で幼かった薫も大人の階段をのぼっていきます。
『僕は恋という、その途方も無い力を感じた』。
そうです。思春期を迎えた薫が通る恋の物語はそこに”青春物語”を描きだしもします。
『誰かを好きになるということは、眠るときの切なさや幸福を運ぶものだということは何となく分かっていたけど、誰かに全身で愛されて、そしてその人の口元にいつも笑みを浮かべさせるような、そんな恋が出来るかは分からなかった』。
そんな言葉の先に描かれていく薫の恋の物語は読み味抜群です。しかし、西加奈子さんはこの作品を単に美しい”青春物語”とは描きません。
『一度セックスの味を覚えてしまった僕は、兄ちゃんと同じ、猿のようにその快楽に身を任せていた』。
キョーレツに描かれる薫の”性の目覚め”の物語はある意味、西加奈子さんの弾けっぷりが頂点に達するものであり間違いなくこの作品の強い個性を形作ってもいます。兎にも角にも読者を飽きさせることなくこれでもか!と展開していく物語の推進力は半端ではありません。
『あのときの僕らに、足りないものなんて何も無かった』。
そんな風に過去を思う二十二歳の薫と家族の面々、そして彼らに愛されてきた『サクラ』の姿が活き活きと描かれるこの作品。家族の絆の強さとそんな家族の面々が繰り広げるドタバタ劇が描かれたこの作品。そこには、しみじみと良い物語を読んだ感いっぱいの中に本を置く、そんな素晴らしい読書の時間をプレゼントしてくれた、あたたかい物語の姿がありました。
『「飼ってる犬に逢いたくなった。」 僕の犬の名前は、サクラという。』
そんな思いの先に、故郷である大阪へと向かう主人公の薫の今と10代の青春の日々が綴られたこの作品。そこには、個性豊かな家族と喜怒哀楽の日々を生きてきた薫の姿が描かれていました。あんなことこんなことが次々読者の前に起こる慌ただしさに身を委ねる他ないこの作品。そんな中に『サクラ』が良い味を醸し出してくれるこの作品。
濃すぎるくらいに濃い長谷川一家の面々のキョーレツさを『サクラ』の愛らしさが絶妙に緩和してくれもする素晴らしい作品でした。
Posted by ブクログ
知人にすすめられて読んだのですが、なんだろう、言葉でうまく表せないんだけど、なんだかすっと心の隙間を埋めてくれたような作品でした。とてもチープな感想でしかないのでだけど、人生いろいろあるよね。楽しいことも、嬉しいことも、悲しいことも、悔しいことも、理不尽さに怒りたくなることもあるし、大泣きしてヤケクソになりたいときもある。でも日々は変わらずやってくるし、過ぎてゆく時間の中で思い出となる感情もある。ずっと同じ感情を抱き続けることはできないから、情熱は燃やし続けないといけないけれど、悲しい気持ちもいずれは薄らいでいく。そんな当たり前だけど、大事なことをなぜか気づかせてくれた作品でした。
Posted by ブクログ
勧められて読んだ本だけど、
誰かに勧めたい1冊。
くすっと笑える表現をしながらも、
やわらかな世界観がすっと入ってくる。
長谷川家の、一見おだやかな日常。
三回イキんだら、すろんと出てきたミキ。
妹にどうやっておしっこの仕方を教えようか悩む薫。
向日葵が太陽に向かって伸びていくように、人気を集める兄、一。
誰かにわき腹をくすぐられているみたいに、いつまでもくすくすと笑う、何か大切なことを言うときは、いつも少し失敗してしまう、子どもみたいな男、父。
笑うときはいつも目尻を下げて、その柔らかな曲線がそのまま水平線にまで届きそうな母。
庭で、こっそり恥ずかしそうにおしっこをする、でも家族にバレバレなタワシ狂いの犬、サクラ。
そこから芽を出す穏やかでない感情。
ありきたりな表現だけど、表と裏って
表裏一体なんだな、を気付かされる。
「嘘をつくときは、あんたらも、愛のある嘘をつきなさい。騙してやろうとか、そんな嘘やなしに、自分も苦しい、愛のある、嘘をつきなさいね。」
Posted by ブクログ
この作品が、少し評価が低い理由もよくわかるし、好きだと言えない気持ちも分かるが、私は好きだ。
世の中のグレーな部分が大集合していて、そのことのリアルな反応がかかれている。
だから、これを好きだと言ったら差別的になるとか、好きだと言っていいのかわからないと考えてしまうのだろう。ただ私はとても好きだった。
雑で荒く、若く強い。
深く悩みたい人には難しい作品だと思う。
考えすぎるか、つまらないと考えそう。
初めてバカでよかったと思った。単純でよかった
最後にも書いてあったが、書くこととはなにか?を忘れさせたことがよく分かる。
この物語の疾走感が私は好きだ。
Posted by ブクログ
ハンサムで人気者の長男、恐ろしいほど美人だがワイルドすぎる妹に挟まれた薫と両親の幸福な生活はあまりにも順調に過ぎていくが一つの事故が彼らの暮らしを奈落に落とし込む。
それは誰の人生にも起こりうる事なのだが人はそこでうずくまってしまって前に進めなくなってしまうかもしれない。あるいは強く立ち上がって人生を取り戻すかもしれない。
愛犬「サクラ」はそんな一家の運命、生活を静かに冷静に見守っている。
著者が書きたかったことは主張したかった事は何なのだろう?
私には彼ら長谷川一家の人生が人々の中に包括されているすべてが現れた物なのかもしれないと思うのだが答え合わせができない。
Posted by ブクログ
前半は優しくて暖かくてあまりにも素敵な家族のお話で、居心地が良くて幸せな気持ちになった。
何より、西加奈子の独特の表現が良すぎる。幸せな情景をありありと思い浮かばせる素敵な比喩表現が多くて、うっとりとしてしまった。
家族っていいなあって心から思えた。
お兄ちゃんが事故にあってからは、目に見えて家庭が崩壊していく様子が読んでいて辛かった。
家族の団欒は家族それぞれが支え合って紡いでいるのだと思った。
あまりにも胸が痛む展開で複雑な気持ちになったけれど、これこそ人生らしいのでは無いかとも思った。
一言では表せない、楽しいキラキラした時期もあれば苦難の時期もある、、
人生とは波乱万丈なものなのだと感じる。
家族とはいえども他人ではあって、人それぞれ思うところは違えど関わり合うことで成長したり、退化したりしていく。
この小説はまさしく多種多様な人生の1つを表していると思った。
あと、さくらちゃんが可愛かった。
タイトルになってるけれど思ったより犬メインの話じゃなかった。
(オーディブルにて)
Posted by ブクログ
長谷川薫
長谷川家の次男。
薫の彼女
長谷川昭夫
長谷川家の父親。
サクラ
飼っている犬。
ミキ
長谷川美貴。長谷川家の長女。薫の妹。
長谷川一
長谷川家の長男。四年前に産まれて二十年と四ヵ月後に死んだ。
ばあちゃん
フェラーリ
恐怖の男。
難関
一に幼稚園から小学校の六年間恋をしていた。
湯川
矢嶋優子
一の彼女。
溝口サキコ
溝口先史。昭夫の高校の同級生。おかまバー「ラガーウーマン」。
リリー
妖怪
サクラを見てもらった病院の医者。
須々木原環
薫が童貞を失った相手。アメリカ帰りの帰国子女。
薫
中二の夏に転校してきた。薫のふたつ年下。ワイルドな女の子。
Posted by ブクログ
兄を亡くした家族の想い出話
以下、公式のあらすじ
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スーパースターのような存在だった兄は、ある事故に巻き込まれ、自殺した。誰もが振り向く超美形の妹は、兄の死後、内に籠もった。母も過食と飲酒に溺れた。僕も実家を離れ東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた年老いた犬が一匹だけ――。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、何かに衝き動かされるように、年末年始を一緒に過ごしたいとせがむ恋人を置き去りにして、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏の余白に微弱な筆圧で書かれた家出した父からの手紙が握られていた――。
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次男は「父が帰ってくる」という手紙により年末に久しぶりに実家に帰る
何でもできた兄、美人の妹、鷹揚な父、綺麗だった母
家族が変容したのは兄が亡くなってから
父はどこかへ行き、母はぶくぶくと太り、妹は引きこもりに
家族の歴史とバラバラになるまでの経緯の物語
西加奈子の家族小説という事で「サラバ!」との共通点を感じる
兄という存在の大きさ
成績もよく頼りがいもあり、自分より一足先に成長して俗な知識も教えてくれて、妹からも好かれる存在
そんな彼が心折れた理由もなぁ……
子供の頃に揶揄していたフェラーリと同じように見られるようなものになったからというのがどこまで本気なのだろうな
もしあの時、手紙が届いていたら、彼女に会えていたら、自分が諦めなかったら
ま、意味のない想像ですね
Posted by ブクログ
長編な分、長谷川家に感情移入していける。
元々のポテンシャルが高いところ、少し後ろから物事を見ているところなど、サラバと主人公は近いような感じがした。
綺麗な文章表現から、情景が思い浮かびやすかったです。
兄の死、サクラのピンチになるところは少し駆け込みな感じがしました。
長編でも読み切れるくらい、入り込みやすい作品でした。
Posted by ブクログ
4.0/5.0
ある家族の物語。
笑って泣いて怒って喜んで…そういう普遍的な家族の姿が凛々しく、ハートフルに描かれている。
人それぞれ幸せの形は違うし、それをお互い完璧にわかりあうことは難しいかもしれないけど、なんとなく繋がれていたり、誰かのことを想ったり出来たらその時は少し幸せになれるかも。そんなことを思った。
Posted by ブクログ
とても時間かかって読んだ。
この世界から離れたくない気持ち。久しぶり。
「さくら」という犬と共に暮らす家族、長谷川一家のの話。
苦しいような、心がどこまでも入り込んでいくような。涙は出ないけど、心が泣いている感覚に陥った。
ちょうど、今日は雨が降っていて、それが心地よかった。この本を読んだ後の感覚が好きで何度でも西加奈子さんの本を読みたいと思ってしまう。
薫、一、ミキ、お父さん、お母さん。湯川さん、矢島さん、フェラーリ、サキコさん。
Posted by ブクログ
☆2.5かな。ちょっと自分には合わない。
「夜が明ける」と同じか。希望のかけらがあるようなんだけれど、自分にはそう思えないような。
この本は奥さんか娘の本。彼女たちはどう感じたのだろう?
Posted by ブクログ
ある6人家族(わんちゃん含んだ)の日常を切り取って物語にしたような作品でした。短編と長編を混ぜ合わせて創った小説になっているので読みやすいですが、長く感じました。
家族構成が違うからなのか個人的にはあまり入り込むことができず少し寂しかったです。
家族愛の強い方や学生の方、時間に余裕があって独りの時間に没頭してじっくり読める方にオススメです。
Posted by ブクログ
話の内容は良いのだが、文章は比喩的な表現が多くてちょっとテンポが悪く感じた。それが好きな人もいるだろうけど、自分にはどうもその説明が長く感じてしまった。少し性的表現が過剰な気がする点も、確かに大切な要素ながら、どうも物語の繊細さを邪魔している気がしてあまり好みではなかった。度重ねて話自体はよく練られていて惹きつけられるので、作品としてちょっと残念な気がしてしまう。作品名になる犬についても、作品の焦点は兄か妹のはずなので、犬を作品名にする意味がちょっと弱いと思うのだが。
Posted by ブクログ
西加奈子さんの著書は、いつも異次元の世界にあって、その独特な感性から訴えかけるような表現や描写は後からジワジワ響いてくる。
お兄ちゃんが不慮の事故にさえ遭わなければ…と思いつつ、やりきれないところがある反面、純粋なんだけど世間一般からは少しズレているミキのことを思うと、兄離れするにはこの展開しか無かったのかなとも…何とも複雑で色々考えさせられた。
あと、ペット=家族の存在って、やっぱ大きいよねと感じました。
Posted by ブクログ
「大人になるというのは、一人で眠ることじゃなくて、眠れない夜を過ごすことなんだ。」
「女同士、同姓の悪口を言ってるときの醜い顔ったら無い。」
ところどころに挟まれるはっとする主人公の言葉。これは注目を浴びる兄妹の真ん中で色んな人たちを見てきたからなのかな。
ミキの一に対する恋という表現は些か軽すぎるように思える恋慕や、薫の密かに眠るミキへの恋心、湯川さんとの文通と再開、両親の恋と愛、一と矢嶋さんの恋。さくらが中心となって元には戻れなくても、新たな形を模索する長谷川家の話であると同時に、多様な恋の形、愛の形が丁寧に、偶に共感できる感情として描写されていて胸が苦しくなりながらも最後には温かさに包まれるお話だった。
Posted by ブクログ
長谷川家が愛しい。サクラがものすごく可愛い。
物語の最初からずっと兄が死ぬことはわかっていても、こんなにさまざまに家族の歴史を見せられると、何かの間違いであってほしいと思ってしまう。
悲しすぎる…。でも間違いなく長谷川家は幸せで、大丈夫。きっとこれからも大丈夫。
何が起きても、どんなに変わってても、それでも家族は家族。家族はいいなあ、犬はいいなあ、と思うようなお話でした。
Posted by ブクログ
美男で運動神経の良い暖かい雰囲気の長男、普通な感じの次男、美しくて雰囲気のある次女、痩せてきれいだった母、落ち着きがあってイケメンの父、家族の支えの賢い犬サクラの話。長男は恋人と文通してたが、恋愛感情的に長男のことが好きな次女が手紙をかくし、兄のふりして彼女に別れ話の手紙を送り破局、その後事故にあって見た目が酷くなり、周りからの視線などに耐えきれなくなり自殺。母はショックから暴飲暴食で太って醜くなり、父は小さく痩せていき逃げた。最後は体調不良のサクラを中心に家族が再度集まり、わだかまりもなくなり、サクラを中心に笑顔が戻ったってはなし。
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豪快に幸せを謳歌する家族の歴史が小説の大部分を占めている。だからこそ、淡々としていても、その幸せがぐしゃっとなってしまった喪失感を感じる。ところどころに出てくる「あの時のぼくらに足りないものなんてなかった」みたいな未来を予感させる言葉。ほんと、幸せは無くして振り返って気づくものだなあ。性に奔放な人たちのエピソードが多すぎるところが減点だけど、読んで良かったとは思う本。
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彩りのある、でもどこか淡い儚さをもつ独特の比喩表現が作品を現実のような夢のような独特の世界観を作り出してた
順風満帆に見える、でもかなり歪さを感じる家族だった
誰もが振り返る美女の末っ子、ミキ
末っ子らしい無鉄砲、の度を超えている印象
発達障害とも思える行動
それを家族が受け入れてるとも言えるが、無関心とも感じるくらい直そうとしないところや、兄への恋慕に気が付かない(親は見て見ぬふり?)家族の距離感として歪さを覚えた
兄への気持ちによって、その行動によって、歯車が少しずつズレで暖かい愛のある家族が、悲しみの淵に落ちてしまう
ヒーロー的存在の兄一が「持っている側」から「持たない側」になる
ギブアップ という言葉が突き刺さる
夫婦間では子は鎹、だけど、家族間では犬は鎹、サクラ
全力で真っ直ぐな犬の家族への愛が幸せの象徴にも悲しみの中のオアシスにもなる
ボールを投げる、打つで人主体で考える人間と
跳ねるアレね!とただ事実としてみるサクラの言葉が印象的
夫婦の純粋な愛、家族愛、献身的な愛、近親愛、LGBT、性愛と違う形で様々な愛の形がどれも本人にとっては現実で
ただすべてが叶うことはない
頭に残った言葉
・いつまでいるかわからないから、好きやっていう
・生まれてきてくれて、ありがとう
・美しくて、貴い
・愛し合ったから生まれてきた
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さくらは長谷川家の飼犬の名前。
さくらは長谷川家の家族の繋である。
20歳で交通事故で下半身不随で車椅子で生きる事になった兄が来年もこの状態で過すのは無理と残し旅立つ。
それを堺に父親が家出、妹が家に引きこもり、母親は肥満化していく。
そんな家族に変わらずお尾振り応えるさくらがいる。
それぞれに多感な少年期を中心にストーリーが展開している。
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家族がテーマになっていたため、今の実家の問題のヒントになるかと思って読んだ。
前半と後半の落差がすごくて、同じ小説とは思えなかった。家族は強いものだと思っていたが、一つのピースがなくなっただけで大きくバランスを崩す可能性があると感じた。家族でもやはり他人であるため全て理解することの難しさも感じた。最後は少し光が見えたことと、あとがきや解説を読むと、一度壊れたものでまた何度でも積み上げていけば良いこと、犬のように感情は大きく表現し、さらに人間しかできない言葉にして伝えていくことの大切を感じた。
読み終わって本の裏の内容紹介を読んだ際、この本読むきっかけになった文章とは違う印象を受けた。説明一つで本の印象は変わるのだと改めて感じた。
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本当にこの人が経験したことではないの?
ってくらい西加奈子さんが描くヒューマンストーリーはリアリティーがある
自分的にはサラバ!の方が好きなのでこちらの評価で