あらすじ
経営における意思決定の精度向上を目指す
世界中で気候変動のリスクは年々高まっており、日本でも豪雨や酷暑等が毎年甚大な被害をもたらすようになりました。これらを背景にグローバル企業は気候変動時代における競争力の確保に向け、業態転換を含めたダイナミックな対応を始めています。
日本企業もようやく重い腰をあげ、気候リスクを経営リスクとして捉え、RE100(再生可能エネルギーの使用を進める国際企業連合「RE100」が主宰する温暖化防止の企業表彰)などに本腰を入れ始めました。しかし、日本の取り組みは欧米諸国にかなりの後れを取っており、グローバルスタンダードから引き離されているのが実情です。
本書は、実際に国内外で動き出している政策・企業事例(ケース)を紹介。日本企業に対し、気候変動に対する経営アクションを起こす際の「きっかけ」と、実際に脱炭素経営を進める上での「羅針盤」を提供する、脱炭素「経営」の初めての解説書です。
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Posted by ブクログ
気候変動に伴い、社会が晒されるリスク、そして各企業がそのリスクに対してどのように取り組むべきなのか、また機会として活かせるのかついて書かれていた。
まず、脱炭素の目指す方向性として、気温上昇を1.5℃までに抑える必要がある。
これは、物理リスク、気候リスク、政策リスクから計算される。
そして、考慮すべきは年排出量ではなく、炭素予算と言われる概念であり、CO2の蓄積量の指標である。
企業は、RE100やSBTに準じた対応を進めており、その対策が長期的な目線において、脱炭素だけでなく、財務や利益追求にも繋がる。
脱炭素経営を進めるにあたっては、
①事業経営に伴う各段階において、どの程度のCO2を排出しているかを認識する。
②将来の自社に対する気候変動リスクを考慮する。
③シナリオを作り、財務面に落とし込む。
④脱炭素の取り組みをRe100などの知見を用いて、行う。
⑤投資家などのステークホルダーに開示する。
ことなどが大切であることが理解できた。
Posted by ブクログ
脱炭素経営とは何か、どういう文脈で脱炭素化の動きが加速したのかという部分から詳しく分かりやすく書かれている。
まとめ
◯地球温暖化→気候変動→気候危機
◯カーボンバジェット
・気温の上昇は二酸化炭素の累積量に比例する
・1.5度目標を達成するための上限が炭素予算(カーボンバジェット)、2600Gt
・2017年までに2200Gt排出されている。残り400、世界の年間排出量は40程度で、10年で使い切ってしまう。
・66%の確率で2度未満に抑えられる上限が2900
◯欧米の政策について
・タクソノミー
・欧州委員会で2020年に自動車のLCAについて450ページにわたる詳細な報告書をまとめた。結果ライフサイクルでCO2が最も少ないのがEV、製造時はガソリン車の倍排出するが、トータルで優位。
・脱炭素という大義と、自らのビジネスを合致させた企業が勝つという新たな競争軸の到来
・自動車は50g/kmという数字が閾値になっているが、2021年時点で最も少ないハイブリッドカー、トヨタヤリスで、64g/kgという水準
◯炭素税
・二酸化炭素を出さない行動に経済的なインセンティブをつける仕組み
・炭素税のない国に生産拠点を移す炭素リーケージが問題になるが、これは国境炭素税を課すことで、炭素税を導入しないことで税収にマイナスな状況を作り出すことで回避できる。
・自由貿易の維持と発展を目指すWTOとの整合も一つの焦点。保護主義に当たらないか
◯投資基準の変化
・FSB サブプライムローン問題への反省から国際的な金融の安定化を目的に設立された金融安定理事会、2015年10月の暫定結果の書簡で、見えないぬがら気候変動を新たなリスクとして位置付け、リスクの所在を明らかにするための情報開示の必要性を挙げた。これがTCFD発足につながっている。
・気候変動の影響がわからないために、適切に株価に反映されていないことが問題
・保険系の機関投資家は巨額の資産を運用し、長期での運用益の最大化を目指している。気候変動による長期的影響を自分ごととして捉えられる稀有な存在。
・現時点の気候リスクに関する情報開示は企業が都合のいい解釈で情報開示ができる発展途上段階にあり、多くの投資アドバイザーや格付け機関が独自でツールを開発して補っている。
・機関投資家から投資先へ行っている対応は、
1. リスクの所在を具体的に見える化する
2. 取締役会に対応を求める
3. リスクを管理できない場合は投資を引き上げる
・CA100+は機関投資家が連携し、投資先企業はの働きかけを共同で行うネットワーク。世界的大企業が含まれるが、個社では政策への賛同を示しつつ、所属する業界団体では後ろ向きなロビー活動を行っており、姿勢の改善を求める活動をしている。
・ロビー活動をスコープ4と捉える考え方もある。ネットゼロ企業ベンチマークの中で、投資家が企業に期待する行動が示されている。ここにロビー活動も含まれる。
◯脱炭素経営
・気候変動を踏まえた中長期的な視点を持つ。エクソンモービルの過去40年の広報文書をハーバード大学の研究チームが解析した結果「気候変動は石油製品を使う消費者に責任がある」という論調を作ってきたことがわかり、石油会社が消費者に対して無力な存在であるように見せるためのマーケティング戦術かプロパガンダだという厳しい指摘をされている。
・ガバナンスの議論は発展途上だが、気候リスクを十分理解した上での意思決定ができる体制を整え、株主に情報開示を行うことが基本。現在の会社法でも、気候変動への対応を怠った取締役は責任を問われるとブリティッシュコロンビア大学法学部のジャニスサラ教授は明言している。
・目標は1.5度目標に整合する形が望ましい。目標は到達したい場所、あるべき姿として設定し、必達というニュアンスは含まない。
◯SBT
・目標の時間軸: 達成年は基準年から5〜15年
・スコープ1,2が相対的に少ない場合は3も対象
・シェア拡大の場合は、業界全体のたんそよさんを超えないように調整された製品サービスあたりの削減目標(原単位目標)も一部認められる
◯開示
・環境報告書は似ているが、目的が社会に対する開示で、環境にどう影響を与えているかという視点。TCFDは企業の財務インパクトに立脚
・TCFDの利用によって、多くの企業では情報が追加されておらず、焼き増しになっているという指摘もあるがように、第三者のお墨付きも不要な現在の枠組みは投資家にも参考にしかなっていないが、いずれにせよ投資家ら気候リスクを見てくる中で、一方的に評価されるだけでなく企業が自分の言葉で説明しようとすることは意義深く、TCFDは役に立つ。
Posted by ブクログ
気候変動は環境問題の範疇を超え、社会基盤を根底から揺るがすリスクであると警鐘しつつ、脱炭素化に向けたグローバルスタンダードや個別企業の取り組み事例を紹介している本。いま脱炭素経営は黎明期にあり、様々な枠組みが精緻化されている途上にあるが、10年後には脱炭素経営は「普通の経営」となっていく可能性が高い。
国際的な枠組みの解説や個社事例の詳細が豊富に触れられているので!カーボンニュートラル関連の仕事に関わる際には読み直したい一冊。
Posted by ブクログ
気候変動への対応は営業許可証である。
気候変動の健康被害は高齢者、低所得国の人々。
海面上昇により移住リスク。
気候変動よりも気候危機、地球温暖化より地球過熱化を使うようにイギリスの新聞社が推奨。気候非常事態という言葉も生まれた。
1.5度を望ましいとしている背景は、対策のコストよりも便益が大きい。自然のフィードバックの限界。永久凍土のメタンが空気中に放出される前にとどめる。
1.5度のCO2は2600gt、あと400gtしかない。
石炭火力発電所は40年稼働することが見込まれる。やってはいけないリストのトップ。
CCS(炭素固定化)は再エネ+蓄電池よりもコストが高い。CCS付きの火力発電所は世界で一か所だけ。
製造走行廃棄を合わせても、EVのほうが大幅にCO2は少ない。自動車のLCA規制=走行時だけでなく原材料の調達から廃棄までの環境負荷。自動車産業の立地にも影響が出る。LCA=ライフサイクルアセスメント)
日本は再エネのコストがヨーロッパの2倍。
脱炭素を自らのビジネスを合致させた企業が勝つ。
カーボンプライシング=炭素税と排出量取引。
炭素リーケージ=カーボンプライシングを導入した国を避けて緩い国に逃げること。このために炭素税を導入できない。国境炭素調整措置が必要。
気候変動によってGDPが10~20%下振れする。
機関投資家は長期投資なので、気候変動に留意した投資をしないと最終的に損を被る。資金を引き上げる=ダイベストメント。
企業の情報開示は自分の都合に合わせて開示できる程度。
日本では、再エネや省エネに追加的にコストがかかる。消費者が望むから、だけでは脱炭素経営への移行は困難。
製造業では5~10年、インフラは20~30年の期間が必要。
SBT=科学に準拠した温室効果ガス削減目標。
日本企業の取り組み例
リコー、武田薬品工業、富士通、三菱地所、
RE100=電力を100%再エネに転換するイニシアティブ。
EV100、EP100、などもある。
大和ハウス工業、三井不動産、株式会社メンバーズ、芙蓉総合リース、積水ハウス、
ロビー活動で政策導入が阻害されている。
TCFDに基づく情報開示。いまのところいいとこどりの情報開示。