あらすじ
「大河」ファン必携の北条全史
鎌倉幕府百五十年の歴史をつくった謎の一族、北条氏。名もなき一介の武士の一族が、なぜ政権を奪取し日本を動かし続け、最後は族滅したのか。時政、義時、泰時……、歴代の北条家当主のリーダーシップから読み解く鎌倉通史の決定版。
――北条家のリーダーたちに学べ
第一章 北条時政 敵を作らない陰謀術
第二章 北条義時 「世論」を味方に朝廷を破る
第三章 北条泰時 「先進」京都に学んだ式目制定
第四章 北条時頼 民を視野に入れた統治力
第五章 北条時宗、貞時 強すぎた世襲権力の弊害
第六章 北条高時 得宗一人勝ち体制が滅びた理由
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Posted by ブクログ
文藝春秋社の「本の話 メールマガジン」に応募したら、この本が当たりました。
日本中世史(鎌倉時代)を専門とする本郷教授の執筆なので、応募したのですが、たまたま今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」とぶつかりラッキーでした。NHKとしてこの時代をテーマにした大河ドラマは2012年の「平清盛」以来です。この時は低視聴率にNHKも悩まされたようですが、今回は汚名返上すべく豪華キャストで臨むようです。
本書は、当時辺境であった伊豆の田方郡を拠点とする平氏の在地豪族であった北条氏が、如何にして鎌倉幕府の中心的な地位まで登り、その後百年以上に渡り日本を動かす政治集団のリーダーに成り得たのか、かつ滅亡する原因は何であったのか等をリーダーシップのあり方を通じて論じたものです。
この本を読んで興味を引いたのは、以下の3点です。
1.北条氏の幕府内での地位
頼朝を支えた御家人を分類すると、
① もっとも重んじられたのが、頼朝の親族にあたる「下野の足利氏」「信濃の平賀氏」。 この一族は将軍になれる可能性があります。後の室町幕府を作った足利尊氏は、この一員です。
② 次に「家の子」と呼ばれる頼朝の親衛隊。北条義時や結城朝光等
③ 最後は「侍」。これは普通の御家人だが、この中でも大きな意味を持っていたのは、伊豆、駿河、相模、武蔵の南関東四か国の御家人で、ここの出身者であれば、幕府の中枢に入ることができた。北条氏、安達氏、三浦氏、和田氏、梶原氏、畠山氏、比企氏がこれに当たります。
北条氏もこの有力メンバーの一員ではあるが、飛びぬけて大きな存在ではなく、むしろ頼朝の伊豆時代を経済的に支えた比企氏の方が優勢で、頼朝は二代将軍となる頼家の妻をこの一族から迎えています。
そしてこの御家人の中から如何にして北条氏が抜けだしてくるか・・・は、省略します。
2.元寇の時の北条時宗は「救国の英雄なのか」
結論を言ってしまえば、著者の見解は、「外交能力の欠如した幕府崩壊の遠因となった無力なリーダー」というものです。詳細は本書に譲ります。
3.幕府の変遷という視点
① 鎌倉幕府1.0:頼朝の開いた幕府
② 鎌倉幕府2.0:承久の乱で朝廷を打ち破り西国進出
③ 鎌倉幕府3.0:元寇以降・・・幕府は、元寇による外からの脅威に対応した挙国一致体制を目指す「(オールジャパン)統治派」と「御家人ファースト派」との争いが続く。この争いは「御家人ファースト派」が勝利するのですが、その後の変遷を経て、執権職を誰かに譲ったのちに、北条本家の当主が権力を掌握し続けるという「得宗家ファースト」というべき偏狭な幕府に変わってゆきます。
しかも時代の流れでもある貨幣経済に上手く対応できないこともあり、御家人の離反を招き、その中から新しいリーダーとして足利尊氏が登場し、幕府の滅亡へと繋がってゆきます。
著者は「北条家の成長と安定、それに衰退の歴史を知ることは実に興味深い。足利氏も徳川氏も、家の歴史として見たときに、ここまでのダイナミズムはありません・・(略)・・私たちの視点からすると、なんだか不思議な一族。北条氏の足跡を追いながら、日本という国がもつ特質に思いを馳せて下されれば、書き手としてはこれに過ぎる喜びはありません」と結んでいる。
大河ドラマの先にある興亡史。
2023年1月読了。
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の便乗…、いや失礼、本郷先生の解説本2冊目です。
本書は、大河ドラマへの解説と云うより「鎌倉幕府を支えた執権北条氏は、どう興り、どう栄え、そしてどう滅んだのか」迄を、年代順と云うより歴代執権の順に、当時の国難や政変等を交えて、「中世日本史に輝く鎌倉幕府の実態」を、豊富な史料と本郷先生独自の推理力でズバッと切り込んだ上質な歴史解説本でした。
大河ドラマは北条時政~義時~泰時迄の、鎌倉幕府草創期の動乱を描いた素晴らしい作品でしたが、本書は「その後の鎌倉は…?」と云う思いを抱いた方々へ、正に波瀾万丈の「中世日本史」を垣間見せてくれる、誰にでも読みやすく、分かりやすい良書です。
「明確な政治感覚を持っていた源頼朝」が、政治客体としては全く未成熟な「鎌倉幕府」を作り、(結果的に)それを継承し、一時は朝廷を含めた日本全国を完全に統治した「北条得宗体制」の驚く程簡素な人事機構に驚き、政治観や大局観を次第に失い、組織としてほぼ自己崩壊に近かった最期に至るまで、本郷先生御専門の時代と云う事もあり、筆の進みも流暢且つ巧みで、一気読みしてしまいました。
あとがきに有るように、天皇でも将軍でも無く、官位も低い儘だった「北条家」が、日本の全てを統治していたと云う事実(指摘)には、膝を打つ思いでした(そんなにわざわざ先生に怒ったりする人が居るんですかねww?)。
「鎌倉時代」と一般的には括られる歴史の中に、これだけの驚くべき史実が有ったことに驚き、又歴史を学ぶ事の楽しさ、豊潤な時間をたっぷりと味わえました。
本郷先生、ありがとうございました。相模国の一住人としても、心より感謝申し上げます。