あらすじ
南房総の海沿いの町で、古い日本家屋に愛猫と暮らす小説家のハナ。二度の離婚をへて、人生の後半をひとりで生きようとしたときに巡り合ったのは、幼少期を姉弟のように過ごした幼馴染のトキヲだった――。四季のうつくしい巡りのなかで、喪失も挫折も味わったふたりは心も体も寄せ合いながら、かけがえのない時を積み重ねていく。あたたかな祝福に満ちた、大人のための傑作恋愛小説。
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Posted by ブクログ
トキヲさんの言葉が私の心に寄り添ってくれて癒されました!
子供の頃から普通の家庭じゃなくて、私にだけ母親や祖父や母親の再婚相手やその子供の弟に暴言吐かれたり、暴力振るわれたりされて躁鬱になって、今も辛い日々を過ごしてるんですけど、心が救われました!
この小説に出会えて幸せを感じました!
ありがとうございます!村山由佳先生!
Posted by ブクログ
2025/02/17
ずっと気になってた村山由佳さんのこの本をやっと読み終えることができました。
タイトルからも滲み出る素敵な話の感じ。実際に読んでみてもやっぱり素敵な話でした。
幼少期の幼馴染であるハナとトキオはそれぞれご結婚や離婚を経験し、子どもいたりと人生の次のステップに進んでいたもの同士で再開し、改めて恋人関係から作り上げていくお話です。
大阪に拠点があるトキオと、南房総で暮らすハナはとても遠距離な恋愛をしていますが、お互いに気持ちが通じ合っていると言うのはこう言う関係のことなのかと、それぞれの話を読むにつれてその感じが増していきます。
恋愛に年代や年齢は関係ないんだなと思う一冊です。
Posted by ブクログ
村山さんに再びハマっている。
主人公のハナは大人の女性だけどどこかかわいらしくて好きだし、トキヲは関西弁や言動の色々に魅力を感じる。
恋愛、家族の話も、日々のくらしもどれもよかった
面白かった!
Posted by ブクログ
キュンとする作品でした。
と言っても、青春ラブロマンスではなく、
恋の駆け引きでもなく、日常を切り取って描いた作品でした。
なんかホッコリしました。
Posted by ブクログ
解説を書かれているのが小手鞠るいさんなのが、まず最高。
冒頭で小手鞠の花が出てくるところも伏線のようで嬉しい。
小手鞠さん同様、私もこの小説を読んで初めてわかった。
私も恋愛体質である。
でも、人生を幸せに生きるために、それっていいことなんじゃないかなとも思う。
ハナちゃんがちはるちゃん夫婦と合う席に同席するシーン。
そしてそれをちはるちゃんが望んでいる事実。
これらを含めたラストシーンは夢のようだった。
でも、可能性は0じゃないということも教えてくれた。
ずっと持っていたい一冊。
”一緒に過ごせるのはあと数時間。でも離れてもこの関係が終わるわけじゃない。終わらせないと感じるしその努力もするであろう自分を感じられる。こんなことは初めてだ。この感情をなんという名前で呼べばいいのかわからない”
”せっかく今を一緒に過ごしているのに、また離れなくてはいけなくなることばかりを考えて、悲しさや寂しさを先回りして感じてもなにも意味はない”
”人は、その時の精いっぱいで行き、流れ流されて何処かへ辿り着く。流れ着いた先で日々を愛おしく思えるなら、それを幸せと呼ぶのだろう”
”人生にはとっておきなんてない。毎日がとっておきなのだから”
”あなたは余命1ヶ月と宣告されました。最後の日々を誰と過ごしたいですか?”
”誰にされても不快だった「頭ぽんぽん」がトキヲにされると心地いい”
”台所と風呂とトイレの掃除にはクエン酸とハッカ油を少し加えると水垢も落ちて香りもいい”
”過去を美化し過ぎて、自分を責めて後悔するのはあかん”
”自分のことすら好きでいられなかったら、人生を愛おしみ、日々の生活に花を飾ろうとも思えないだろう”
”お互いの記憶の一つ一つが二人を繋ぐ物語になる”
Posted by ブクログ
40代の落ち着いた恋愛のお話
房総の古い日本家屋に住む四十代半ばの小説家ハナ
幼少期に家が隣で姉弟のように過ごした4歳下のトキヲ
二人はお互いに二度の結婚と離婚の末に出会い、普段は千葉と大阪と遠距離な恋愛をしている
季節の移り変わりと共に描かれる、ハナとトキヲの大人の物語
文学性に関しては、解説の小手鞠るいさんが指摘しているように
「雨」という単語を使わずに雨の降り始めを表現していたりと
五感のすべてを動員して想像させられるような文章が美しい
一年間に渡る四季折々の情景や生活に密着した季節感は、流石は村山由佳さんだと思う
お互いの想いにしても、激しい感情ではないけれども
落ち着いた心持ちの中で本当に相手の事を想い、また想われているというのがわかる
遠距離な事情、親や家族との関係など、若い頃にはなかった事情が付帯しているけれども、大人の恋愛はこうありたいと思わせられる雰囲気を感じる
読んでいる途中で作家の経験がどこまで投影されているのか、不安になる
作中でも、エッセイと小説のどちらの方がフィクション要素が強いかについて語られている
エッセイはどこまで出すのか線引きができるけど、物語の場合は境界線を引くことができない
これは正にこの物語が自伝的なものである証左なのではないかと思った
離婚歴や房総での季節に密着した生活、そして幼い頃からの想い人との関係
若干の差異はあるものの、かなり自己を投影して書かれてあるのでは?と邪推してしまう
村山由佳さんの作品の中で、黒ムラヤマ色が出始めてからはあまり好みではないなと感じていた
四半世紀に渡って刊行されたシリーズが完結してしまった後は、もう白ムラヤマの作品は読めないのかと思った
この作品は、黒ムラヤマ要素はない(ちょっとだけ顔を覗かせかけるけど)
かといって消去法で白ムラヤマ作品というわけでもなく
それなりに人生経験を積んで、紆余曲折があった末の二人の関係性に感じる
母親との確執
親に読まれると何を言われるかという強迫観念からの白い物語
認知症を患った母親からの開放
それらを経てこの物語に至ったと考えると、純白な白ムラヤマ作品だけでなく今後の作品にも期待が持てた
Posted by ブクログ
いろんな経験を経たからこそ、お互いを愛おしく思える関係って、あるんだなと実生活で思っていたけど、そんな気持ちがかたちになってる一冊でした
自分を大事に出来るからこそ、相手も大事にできる…でも、様々な人間関係を経験してきたからこそ、本心をだせなかったり素直になれない瞬間もあったりして…
誰かと真剣につながるって、ほんとに大変でパワーが必要で…でも、幸せなことだなと思った
Posted by ブクログ
大人の少し余裕があるけれど、若い頃にはなかった悩みがプラスされてからの恋愛。
作者の私小説なのか?と勘ぐったりして。
小手鞠るいさんの解説の熱量がとても良かったです。
Posted by ブクログ
大人の恋愛小説。
著者のエッセイなどを読んでいる人はすぐ分かると思うけど、これは著者自身の私小説?と思うような設定の数々。本当のところはどうなのでしょう。
特に何か大きなことが起きるわけではないけれど、房総の自然の描写・季節の移り変わり・隣のお爺ちゃんとの交流など優しい部分と、恋人との深く濃い愛情のつながり、高齢親との関わり方などが交わって、なんとも言えない情緒のある作品だった。
読後調べてみると、著者のデビュー25周年記念作品で、やはり編集者から「今のパートナーとの幸せな感じを小説でかいてほしい」との要望で書かれたものらしい。
それなら、かなり赤裸々だなぁとも思った。
Posted by ブクログ
甘すぎない大人の恋愛小説。
とにかく描写が綺麗で、季節や温度を感じられる心地の良い文章にうっとり。
関西弁好きの私は、トキヲのセリフにいちいちとろけました(笑)
高齢の親や仕事のことで若い人ほど突っ走れないけどこんな恋愛素敵だな。
小手鞠るいさんの解説に共感しすぎた笑
Posted by ブクログ
大人の恋。
ハナの2回の離婚を経て再会した幼馴染み・トキヲとの恋に久しぶりにキュンとしました。
そしてハナの住む南房総の四季の自然描写、情景描写が本当に素敵。
どこか幼さの残るハナちゃん、自然に他人を気づかえるトキヲ、ハナの愛猫ユズ、ご近所の亀吉さん。
みんなの紡ぎだす日常にホッとする。
章ごとに季節感を感じられたのも良かった。
穏やかで幸せな気持ちに満たされました。
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Posted by ブクログ
サクサク読めてすぐ読み終わった。植物が沢山出てきたり、ハナが住む家の雰囲気だったり、季節の流れを感じさせる細かい描写だったり、トキヲの関西弁や近所のおじいさんの方言だったりが、ハナの生活を想像しやすくさせる。最初は40代の恋愛にしては、恋愛の内容や感じる気持ちが若すぎて、なんか嫌だな..って思ってたけど、読み終わる頃にはあと10年後の自分もハナとトキヲみたいな気持ちでいられたら幸せだよなぁと思った。お互いの親を大事に思い合えるのって夫婦の最上級の形だと思う。ハナの生活こそ丁寧な暮らしだなぁと。真似出来ないけど、いつかこういう生活を望む日がくるのかなぁ。
Posted by ブクログ
ハナとトキヲの最後の恋と思わせるそんな小説。四季によって綴られる2人
遠距離による喪失、お互いの親の事。
若くない年齢の恋バナ。
ドロドロじゃないから二人を応援したくなる。うますぎる話しかと思う描写が多々ありだけどそんなサプライズとして行動したくなる人も居るのでは…
Posted by ブクログ
恋愛小説としての魅力は、自分が男性だからか、ひねくれてるからなのかわからないが、ほぼ皆無に近かった。
ただ、主人公ハナの、都心から離れた南房総ののどかな一軒家での暮らしぶりがずっと胸を打って、見返すために線を何度も引いて読み進めた。
『庭は、人をつなぐ。遠くのひとを、近くする。』興味はあるもののガーデニング一般に労力を割く気になれなかった自分が、深く腑に落ちて、次の引っ越しは植物と暮らすことを決意できた。
こんな生活の中の豊かさを大いに教えてくれるものだった。
幼なじみと再会して、恋人になった、という話だけど、一年をゆっくり巡り、四季折々を丹念に味わうハナの感性を追体験するような小説でもある。
ハナは凝った料理をしたりわけではないが、土鍋でごはんを炊いたり、ドリッパーやマグカップを何種も持っていて気分に合わせて使ったり。
着たおしてくたくたになった衣類の肌馴染みを楽しんだり、パリッとした服を着て新鮮な気持ちになったり。
ミニマルに偏ってきた感性が忘れていた喜びを蘇らせてくれる。
ミニマルに、必要なものだけ揃えきってしまったから、これからは好きの一点張りで身近なものを選んでみることにする
Posted by ブクログ
あなたは、『初恋』の相手が今どこで何をしているかご存じでしょうか?
誰もが経験する『初恋』。あなたにも私にも、この世に生きる全ての人に『初恋』の経験があると思います。そんな経験をした年齢は異なるでしょう。そんな想いを寄せた相手も当然に異なります。しかし、その言葉を見るだけでもそれが現在進行形でも、過去形になっても人の心の中に特別な想いがよぎるもの、それが『初恋』だと思います。
その一方で、そんな『初恋』は成就することがあるのでしょうか?ライフネット生命が実施した調査によると、『初恋』の相手とゴールイン(結婚、婚約)に至った確率は、なんと1.0%なのだそうです。この値を高いと見るか、低いと見るかはそれぞれの価値観にも直結してくるでしょう。しかし、万人が必ず通る『初恋』という経験の先に挙げられる数字としては、相当に低いものだと私は思います。まあ、そんなことを言う私自身、『初恋』の相手が今、どこで何をしているか全く知らない状況…と、そもそも偉そうに言える立場ではありませんが(笑)。
さて、ここにそんな『初恋』の相手と長い空白期間を経て再会した二人を描く物語があります。『子どもの頃、トキヲとハナは隣同士の家に住んでいて、まるでほんとうの姉弟のようにして育った』という二人。それぞれ『二度の離婚を経て今はひとり』という中に奇しくも再会した二人。この作品は、そんな『幼なじみの二人が四十年を経て』、季節の移り変わりを静かに感じる中に一緒の時を過ごす様を見る物語です。
『トキヲがいきなりおかしなことを言ったように聞こえた』ので、『彼の背中を揉む手を止めた』のは主人公のハナ。『俺に、もし何かあっても』『悲しまんとけよ』とくり返すトキヲに、『四十代も半ばを過ぎた恋人の身に何かあった場合のこと』を考えるハナは、『職業柄、想像力は人並み以上にたくましい』こともあって『いやだぁ…』と『大きな泣き声をあげ』ました。『どないしてん、子どもみたいに。もしも、の話やろが』と驚くトキヲに『なんでそんなこと言うの。この歳になって、やっとトキヲとこんなふうになれたのに…』と泣くハナを『あほやな』とトキヲは抱き寄せました。『俺が悪かった。大丈夫、ちゃんと気ぃつけるから』というトキヲは『ほんの数時間後』、『大阪の実家へ向けて発』つことになっています。『さんざん世話になっ』た『大工の棟梁に、新しい現場の応援を頼まれた』というその理由。『一人親方として働くトキヲの仕事の基盤は地元大阪に』ある一方で『文章を書いて暮らすハナの住まいはここ、千葉県南房総の海のそばにある』という二人。『トキヲには、前の結婚で授かった十九の娘と、七十を過ぎた母親がいる』こともあって『いくら恋しくても自分が独占してしまうわけにはいかない』とハナは考えています。そんな二人は『子どもの頃』、『隣同士の家に住んでいて、まるでほんとうの姉弟のようにして育』ちました。その後、『ハナにも、夫と呼ぶ人が』二人いたものの、『結局、二度とも別れ』、子もなく今に至ります。『久々に大きな冒険をしてみたかった』と『南房総の田舎にこの家を見つけて衝動的に移り住んだ』ハナは『自分がかなりの恋愛体質であることはわかっている』とも認識しています。そして、『この家に移り住んで数年』で、ハナは『奇しくも彼のほうもまた、二度の離婚を経て今はひとり』という『トキヲと再会し』ました。そんなハナは『古くて新しい恋人の目の奥を覗き込』み、『人生も後半戦に入って、まさかこんな幸せが待っていようなんてさ。トキヲのおかげだよ』と甘えます。そんなハナを見て『お前はまったく、脳天気なやっちゃのう』とハナを抱き寄せるトキヲの胸で『うふふ』と笑いを漏らすハナに『笑うな』と返すトキヲ。そんな二人は互いに目をつぶります。そんな〈卯月〉のある日、ハナとトキヲの仲睦まじい光景から始まるこの作品。そんな二人の一年の暮らしが美しい季節の描写と共に描かれていきます。
「はつ恋」と敢えてひらがな+漢字で”初恋”を記したこの作品。”旧知の担当編集者から、’小津安二郎映画のような、なんでもない日常を書いてほしい’とお話をいただいた”ことが執筆のきっかけと語る村山由佳さん。そんな村山さんというと、『生まれてはじめて経験する激しい感情の揺れ』から始まる主人公・歩太の純愛物語を描いた「天使の卵」、女性が過労自殺した”ワタミ事件”を元にした社会派小説「風は西から」、そして『肉体を伴わない恋愛なんて、花火の上がらない夏祭りみたいだ!』と官能の世界に魅せられる「アダルト・エデュケーション」といったいったように心を激しく鷲掴みにするような作品が頭に思い浮かびます。”物語のなかで何か事件を起こせばそれについて書けるのですが、たわいのない日常を描くというのは、実はとても難しいことなんですよね。そういった作品は書いたことがなかったので、チャレンジ精神を刺激されました”と続けられる村山さん。そんなこの作品は落ち着いた書名から想像される通り、過去の『初恋』を起点とした大人な二人の男女の日常が淡々と描かれていきます。
何かが起こることのない物語というと一見つまらなくも見えてしまいますが、この作品は村山さんの見事な筆の描写力が何よりもの見どころです。作品は〈卯月〉から〈弥生〉までの和風月名がついた一年十二ヶ月の章の後に、〈後悔〉、〈爆発〉、〈初恋〉の三つ、合計15の章から構成されています。まずは、そんな和風月名の12の章に記される季節の表現の幾つかを抜き出してご紹介しましょう。
〈皐月〉: 『小手毬は終わっていた。かわりに、玄関先の庭から畑へと続く土手際には今、大手毬の花房が重たげに揺れている』と紫陽花にも似た大手毬を5月の花として持ち出す村山さん。そんな5月の情景を目にして『世界が光り輝く新緑の季節は、晴れていても雨降りでも、毎朝カーテンを開けて庭を眺めるたび美しさに胸が躍る』と気持ちを盛り込んでいく村山さん。その表現は植物だけに留まらず『楓の木にかけた鳥の巣箱は今年も、春の訪れと同時にきれいにしてあった』と野鳥へと読者の目を向けさせ『今年はどうやらシジュウカラのようだ。無事に巣立つところを見られるといい』と情緒あふれる5月の風景として切り取っていきます。
〈葉月〉: 『よかった、間に合ったよ』と言うトキヲの台詞に続くのは『後ろの空がぱあっと明るくなり、ふり返ると同時に、どぉん、と音が響いた』と、『花火』という文字を出さずにそのイメージから読者に次に来る光景を連想させる入り方。『赤、緑、黄、橙、青、立て続けに打ち上げられる花火の振動が、折り重なってお腹の底に伝わる』と、視覚と振動を巧みに組み合わせたこの表現。『まばゆい光の輪が夜空に高々と弾け、火の粉が散り、細い糸のような残像をにじませる』と、最後は音や振動が消えて目の前の光が残像となって消えていく花火の打ち上がりから終わりまでの情景を見事に表現しています。
そして、〈解説〉の小手鞠るいさんが指摘される絶品の表現が登場します。
〈水無月〉: 『ふと、独特の匂いをかぎつけて、ハナは再び縁側の向こうの庭を見やった』という場面。『乾いた土埃が湿ってゆく時特有の、きなくさいような、錆くさいような、どこか酸っぱい匂いが鼻腔に届く』と、雨が降ってきたと書かずに雨の降り出しを読者にイメージさせる見事な表現。また、これに続いて、『水色から薄紫に色づいた紫陽花の花たちが、上下にうなずくように揺れる』と季節感を鮮やかに感じさせます。そして、『蛙の合唱が急に大きくなる』と音の表現を組み合わせて場面を作っていく村山さん。
章題で和風月名を使った時点で読者はそこに日本ならではの季節の描写の登場を期待します。そんな読者の期待を裏切らないどころか、その期待の数倍上をいってみせる見事な表現の数々、これからこの作品を読まれる方には、本を読みながら目の前に日本の美しい季節の描写が鮮やかに展開していくこの作品の魅力にどっぷりと浸っていただきたいと思います。
そして、季節の描写に加えて、もう一点記しておきたいのが、主人公のハナが『ものを書く人間』と設定されていることです。主人公が小説家という作品は多々あります。そういった作品の場合、どうしても”主人公 = 作者“という意識が読者の中に芽生えます。この作品では特にその印象が強く、読者に否が応にも”ハナ = 村山由佳さん”を強く意識させます。実際に村山さんも二度の離婚を経て、現在は幼い時期をともに過ごした男性とともに軽井沢で暮らされているという事実がその意識を後押しします。そんな作品には『ものを書く人間』の独白とも言える表現が多々登場します。その中から強く印象に残った二つをご紹介したいと思います。まず一つ目。
『多くの人は、エッセイに書かれているのは〈ほんとうのこと〉で、小説に書かれているのは〈作りごと〉だと思っている。…。けれど、じつは逆だったりもするのではないかとハナは思う。エッセイを書いている間は自分に対してコントロールがきく…小説はそうはいかない。…。小説こそは魔物であり、書き手すらも気づかないところで〈ほんとうのこと〉になりうるのだ』。
この箇所は、ハナに言葉を託しながら、村山さんご自身が、小説とエッセイに対する思いを吐露されたとも感じるものです。村山さんの小説に対する印象、激しいまでの感情の気迫に圧倒されるあの小説群にかける村山さんの思いがそこから垣間見えてもきます。二つ目は、小説を書くにあたって、そのイメージが自分の中に降臨する瞬間を表現した箇所です。
『ぱたん、ぱたん、と脳内で音を立てながら、物語が勝手に組み立てられ始めた。…こんなふうな天の啓示のような瞬間の訪れに、二十数年間くり返し土壇場で救われてきたのだな、というのが実感だ。…。そう、一行目はもう決まった。あとは一刻も早く書き出したい。今、身体の中にあるこの感覚が消えてしまわないうちに』。
天才がひらめきを感じる瞬間を想起させるようなこの表現。作家さんがどのように作品を生み出されるかは人によって当然異なるのだと思いますが、それが天才だった場合の感覚を見事に垣間見せてくれるこの箇所は読んでいて鳥肌が立ちました。そう、この作品は”小説家・村山由佳”を知りたい!そういった方に是非おすすめしたい作品である、そう思いました。
そんなこの作品の登場人物はハナとトキヲにほぼ限られ、二人の密接な関係が描かれていきます。幼馴染としてかつて同じ時間を共にした二人。『俺にとったら、姉ちゃんが正真正銘の初恋やもん』というトキヲにとっての『初恋』の相手がハナでした。
あなたは、『初恋』の相手が今どこで何をしているかご存じでしょうか?
私にとっての『初恋』は中学時代のクラスメイトでした。クラスの委員が一緒だったこともあって関わる機会も多かったのですが結局その想いを口にすることなく終わりました。相手がどのように思ってくれていたかも今となっては知る術はありませんし、そもそも現在どこで何をされているかの情報も一切持ち合わせていません。『初恋』という青春時代の美しい想い出の一コマ、それが私にとっての『初恋』です。その視点からは、ハナとトキヲの関係は夢心地にさえ映ります。もちろん、想い出の一コマとは違って、一緒の時を過ごせばいろんなことが起こります。美しい想い出として封印してしまう方が良いと言えるかもしれません。しかし、そんないろんなことが起こる時間でさえも過ぎてみればどんどん宝物になっていくのだと思います。〈解説〉の小手鞠るいさんは、ハナのそんな思いをこんな風に絶妙な表現で綴られます。
『死後、もしもこの世に生まれ変わることができたなら、私は、トキヲを見つけて、いっしょになりたい。…いちゃいちゃしたり、けんかしたり、「荒っぽい優しさで、きつく」叱られたりしたい』。
まるで本編に存在してもおかしくないようにハナの心持ちを見事に表現したこの一文。この作品では、それぞれ二度の離婚を経て再会した二人が『初恋』の延長にある夢のようなひとときを過ごす様が描かれていました。何か特別なことが起こるでもない穏やかな日常の中に、美しい季節の描写と共にゆったりと流れる二人の恋の時間。それこそが、この物語。それこそがこの「はつ恋」という作品の何よりもの魅力なのだと思いました。
村山さんの小説というと、どうしても感情の起伏の激しい物語が思い浮かびます。その感覚を期待してこの作品を手にした読者には、なんだこの作品は?となる感情はわからないではありません。実際にその旨記されているレビューも多々見かけます。しかし、村山さんの圧巻の筆の描写力はそんな感情の起伏だけが魅力ではないと思います。そう、激しい感情の起伏の表現ではなく、穏やかに流れる季節の中の自然の描写や、ハナとトキヲの間に静かに流れる時間の描写に、心の機微を見るこの作品。季節の流れをゆっくりと眺めながら、長い時間を経て再会した『初恋』という言葉が時を超えて大人な二人を繋いでいく物語。大人の恋の物語を読みたい、そんなあなたに是非おすすめしたい作品だと思いました。
Posted by ブクログ
2人の男女が出会ってあーなってこうなって…という、いわゆるベタな恋愛小説ではなかったので
恋愛系嫌いの私でもすんなり読めた。
それは恐らく、全体を通して「凪」の、落ち着いた状態の2人の話だったからだろう。
恋愛の情が激しく燃え上がったり、相手を貶めて修復不可能なケンカが起きたり、
そういう針の振れ幅がほとんどない幼馴染の2人の話。
結婚こそしてないけど、醸し出す雰囲気が
長年連れ添った熟年夫婦のようで、のんびり読み進めることができた。
この先2人が結婚するのかどうかは分からないけど
何となくこのままの距離感で人生の年輪を重ねそうな2人ではある。
Posted by ブクログ
エッセイなのかと言うくらい情景が鮮やかで温かく、季節を感じながら二人の人生も垣間見た。読み終えたあとも二人の世界が心に残っていて、その余韻が心地よかった。
Posted by ブクログ
元幼なじみ、バツ2同士の大人な恋。
大人になったからこその余裕、焦り、仕事とのバランス、親の心配など、様々な情景が丁寧に描かれている。
ハナの住む家の四季が移ろうのを感じながら、2人の恋の行方を微笑ましく見守ることができる。
読む年代によって感じることが変わりそう。
大人の遠距離恋愛っていいなぁ。
Posted by ブクログ
二度の離婚を経験しているから得られた恋かもしれないけれど、ハナの今の生活が羨ましい。恋する人とは遠距離恋愛になっているけれどいずれは2人で暮らすことを望んでいる。時々気持ちがすれ違いケンカもするけれど2人の気持ちの根っこのところは強く結ばれているようだ。思いやる気持ちがなければこんな大人の恋は成立しない。定年間際の旦那を持つ同年代は熟年離婚を考える人が多い傾向にあるのにこんな大人の恋をしている人も現実にいるのかと思うと羨ましすぎる。いや、少数派だろうー田舎暮らしも生活力があるからこそ成立するということで現実はどうなのか…
Posted by ブクログ
大人の静かな恋愛小説。
酸いも甘いも経験してきたからこそ出来る、お互いを思いやり情愛深い生き方。
ドキドキするような事件や展開はないけど、
たまにはこういうのもいいね。
四季折々の自然の描写、ていねいな暮らしの主人公。自分には出来ないだろうけど憧れる
Posted by ブクログ
田舎の静かな生活が描かれたお話が好きなのですが、どちらかというと男女の愛情がメインに感じました!
しかし、作中に出てくる季節の移り変わりを感じる花の名前を覚えたくなりました!
Posted by ブクログ
読み進むと、語り手となっている主人公のハナと作者の村山女史とがピタリと重なってくる。
ハナは、自身が自覚しているかなり強烈な恋愛体質、人一倍の寂しがりや、過去に2度の離婚歴、そして千葉の南房総での猫との暮らしなどを考えると、村山女史そのものではと想像してしまう。
生まれて半世紀になろうとしているハナは、もしも自らの心を占める男性が再度出現した時でも、常に恋人気分を味わっていたい性分だ。
がしかし、そんな詮無い願いを語っても寂しいばかりと悟り、これからは一人の豊かな人生後半を過ごそうと、理想郷を求めて千葉南房総へ移り住んだ。
そんな時、38年振りに弟のような存在だった幼馴染のトキヲと再開する。
トキヲもまた2度の離婚歴があるのだが、二人は何故かお互いに繕うことなく素直な付き合いが始まり、3度目の結婚に至る。
トキヲは地元の大阪で一人親方として建築仕事に従事していることもあり、南房総と大阪との遠距離夫婦としての生活だ。
人生の山も谷も越えてから再会した二人は、南房総の美しい牧歌的な風景を背にして、まるで初恋のような瑞々しい恋愛をする。
実際に、人生経験豊富な男女が中年になって落ちた恋なら、ハナとトキヲ夫妻のように、お互いを拘束することなく自然体で付き合えるのかも知れないなと思った。
Posted by ブクログ
40代の大人の恋愛話。房総と大阪の遠距離恋愛を、季節の移り変わりと共に書かれた小説。年老いた親や嫁に行く娘の話しなどこの世代にある話が盛り込まれていました。タイトルのはつ恋は、主人公ハナの相手トキヲが、幼馴染みのハナに幼少期に抱いていた恋心。展開はそんなに激しくないので、ゆったりした物語好きにはよいかもと思います。
Posted by ブクログ
40代で再開した幼馴染の2人の恋模様を描いた作品で、始終2人の甘い雰囲気と小気味良い掛け合いを楽しめる作品でした。
本作の主人公は小説家である「ハナ」と大工である「トキヲ」。幼馴染である2人はそれぞれ2度の結婚と離婚を経験したのち、恋人となる。本作は月ごと+大きな出来事があった時の15個の章に分かれ、2人のその時々のやり取りが描かれるといったストーリー。
全体として2人が寄り添い合う姿が印象的な作品でしたが、それが2度の結婚と離婚を繰り返した40代の主人公たちが繰り広げているということに意味がある作品かなと。
本作でも触れられているのですが、大人になるにつれ分別がつくようになり「恋の賞味期限」が切れたのではないかと悩める方も多いのかと思います。
しかし、想い人の行動に胸がときめくことも、お互いふざけ合って笑い合うことも、子どものように喧嘩することも年齢は関係ないんだよと言わんばかりの展開で、恋に億劫になっている大人の人を励ましているように感じました。
ただ個人的には、ちょっと甘い部分に若干胃もたれしたこともあって評価としては普通になりました。
Posted by ブクログ
2度離婚した者同士の幼馴染の恋物語。月毎に章が区切られてて、その月の季節を感じられるのが良かった。忙しなくて季節を感じる余裕もないから、周りに目をやってゆっくり生きていきたくなる。元から恋愛の熱量が薄い方やからこの熱量が新鮮だった。
Posted by ブクログ
しっとりと、心地よく読みました。
身の回りの物や、自然や風景の描写が美しくて、
こういう一つ一つを大切にする暮らしを私もしたいとしみじみ思いました。
春の夜に、灯りを落として
ひとり読みたい一冊です。
Posted by ブクログ
なんともいえない世界観
素敵な二人だなぁ。と思いました。
幾つになっても、初めて出会う感情があって
相手を思いやる言葉や態度に
すっかり魅了されてしまいました。
Posted by ブクログ
大人の穏やかな恋愛。
季節の描写が美しいと思った。
普段殺人事件が起こるような激しい小説ばかり読んでいるからか、少し物足りなく感じた。
まったり穏やかな気持ちになりたい時におすすめ