あらすじ
デビュー戦を初回KOで華々しく飾ってから、3敗1分けと敗けが込むプロボクサーのぼく。そもそも才能もないのになぜボクシングをやっているのかわからない。ついに長年のトレーナーに見捨てられるも、変わり者の新トレーナー、ウメキチとの練習の日々がぼくを変えていく。これ以上自分を見失いたくないから、3日後の試合、1R1分34秒で。青春小説の雄が放つ会心の一撃。芥川賞受賞作。(解説・町田康)
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Posted by ブクログ
純文学的スポ根小説。ストーリー自体は特に突飛なものではない。初戦をKO勝ちで飾ったはものの、その後は負けがこんで苦悩する主人公。ボクシングをする意味、勝利の意味、敗北の意味、そしてボクサーである自分の存在や生の意味、何もかもの輪郭が曖昧になっていく。しかし新たなトレーナー、ウメキチとの出会いによって、彼は大きく変わっていく。ぼやけた事物の輪郭に目を凝らすことを諦め、単なる逃避か、最後の希望か、彼はウメキチに全てを託すことに決める。そしてラストシーン、1R1分34秒、彼は遂にKO勝ちを収めることになる。
この小説の本質は主人公が勝ち取った勝利にあるわけではない。町屋良平が巧みに描く、情けのない、何処にも辿り着かない内省の反復。その輪廻や無力感から抜け出そうと藻掻く、人間の生々しい喘ぎ。主人公の語りこそ冷徹だが、ウメキチよって引きずり出される彼の裸の叫びは、人間という生物の愚かさ、そして美しさを思い出させてくれる。