【感想・ネタバレ】常設展示室―Permanent Collection―(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

この、『常設展示室』は短編集となってるが、それぞれの物語の人生にアートが密接に関わっている。どの物語も自分の人生の中に「とっておきの作品」があって、ある時には励まされ、ある時には新たな視点をくれる重要なものになっている。この本を読むと、自分の人生を支えてくれる作品を探しに行きたくなる、まさに、解説で上白石萌音さんが話していた「美術館への招待状」になっているなと納得した。この解説を読む前にしっかり自分も美術館のチケットを予約していたのでまさにそう!最後の『道』は感動して涙でした。

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2024年02月03日

Posted by ブクログ

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絵画と女性を主人公に描かれた六作の短編集

1.群青…「朝、目覚めると、世界が窮屈になっていた」美青。職場のメトロポリタン美術館では、障害を持つ子どもに向けたイベントを開催する動きがあった。美青も当初は賛成していたが、病院で出会った近視の少女の母の一言をきっかけに障害を持つ子どもだけにフォーカスを当てることに違和感を抱く。

2.デフルトの眺望…絵を売る仕事をするなづき。弟のナナオを父を残して世界を飛び回っていたが、ある日父のいる施設に訪れると、父は薄暗い部屋でベッドに固定され、窮屈そうにしていた。なづきは思わず弟を責めるが、全て人に任せていたなづきにその資格はあるのか想い馳せる。そして父が安らかに後生を過ごせるような〈あじさいの家〉を見つけ出す。窓からの眺めはまるで『デルフトの眺望』のようで。

3.マドンナ…『あのね、湯呑みが割れちゃったのよ』とあおいの母は言う。仕事で忙しいのにも関わらず、緊急性の低そうな話題にあおいはイラつく。体は弱っているのは確かだが、快活に話すくらい元気なのだ。とあおいは思っていた。しかし母は最近始めたハーモニカを「寂しい時に吹く」と言う。そして美術関連の仕事をするあおいに対して、美術に関心のない母。そんな母の若かりし時を支えたのは名前も知らない一枚の絵画の切り絵だった。

4.薔薇色の人生…田舎のパスポート更新センターで働く多惠子。そこに「天国と地獄の両方を見てきた」と言う金持ちの男が現れる。多惠子は男を意識するようになり、身なりを整え、男との再会を待った。男と再会し夜を共にし、目を覚ますと男と多惠子の財布の中身は消えていた。しかしそこには美術館のチケットが入っていた。

5.豪奢…紗季は年上の金持ち、哲郎に尽くすため美術の仕事を辞めた。紗季は絵を芸術と思っていたが、哲郎は資本としか見ていなかった。それをきっかけに喧嘩をするが、突然哲郎から高級コートと共にパリ行きのチケットが送られ、仲直りをする。ひと足先に紗季が到着すると、哲郎はドタキャン。一人パリに立つ紗季は美術館に行き、高級コートをロッカーに入れたまま美術館を後にする。

6.道…翠は新人画家を審査する委員会の新顔でありながら、古い格式を撤廃させた時代の寵児。とある審査会に画用紙を組み合わせた粗末な作品がノミネートし、それを見た翠の頭を離れない。幼い頃、現在と打って変わって貧乏な暮らしをし、兄と離れ離れになったこと。原宿の道で絵画を売っている男のことを思い出した。ノミネートした作品をもとに住所登録地へ訪れると、そこはかつて兄と離れ離れになった家だった。しかしそこに兄の姿はない。

本作は寂しくも暖かい物語の連続である。これは私のような21歳の人間よりも、もう少し高齢な方の方が響くのではないかと思う。なぜなら物語には仕事、親の死、幼い頃の思い出など様々な事が関わってくるからである。それでもつまらないということは全くなく、するすると読めるし、物語も面白く、不思議と心温まる。

本作で心に残ったのは次の二文である。
「-この世でもっとも贅沢なこと。それは、豪華なものを見にまとうことではなく、それを脱ぎ捨てることだ。」
……「捨てる」という選択はそれを持っていなくてはできないものである。この選択肢の多さはまさしく贅沢なことだろう。

「午後の日差しに白々と輝いて、道はどこまでも続いている。」……本作の最後の一文。翠のトラウマとも言える「どこに辿り着くのかわからない道」は「どこまでも行ける道」へと変化した。翠を変化させたのは絵画と人の力だった。やはり他人からの影響というのは良くも悪くも強いものだなと思った。

余談だが本作の一文目「朝、目覚めると、世界が窮屈になっていた。」これは中々秀逸な出だしだと思う。
まず文章の意味を理解するために物語に引き込まれる。そして次第に美青の視力問題であることに気づくのである。そしてそれだけではなく、美青の厳密にはメトロポリタン美術館の視野が狭くなりかけていたことを示している。障害持ちの子供向けイベントのことである。同業者のアネットは「障害のある子供にフォーカスを当てるのがポイントだ。」と言う。しかし絞り込む必要はないと美青は気づくのである。障害も健常も関係なく混ざり合えばいいと。美青は美術関係の仕事人としては致命的な緑内障による視力の狭まりと引き換えに、人として大切な俯瞰した視点を手に入れたのである。

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2024年01月11日

Posted by ブクログ

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ラヴィアンローズ以降なかなか読み進められていませんでしたが、手放すタイミングで読みました。
ラヴィアンローズ、道の2章が気に入りました。

ラヴィアンローズ
退屈な日常に突然訪れた甘美な誘い。ちょっとした恋心で見た目を整えて心まで高ぶる姿は少女のようでこちらまで浮き足立ちました。結局騙されてしまうけれども、心持ち、ちょっとした工夫で薔薇色の人生になるということが感じられました。


小さい頃に別れてしまった兄妹の絵を通じた邂逅。道が分かれても絵で道が再度交わることができた。
兄妹にとって大切な風景(道)がこれからお兄さんの娘さんと翠さんの道になっていく、美しい風景が想像でき、2人が幸せであるようにと、願わずにいられませんでした。

あと、本編ではありませんが、上白石萌音さんのあとがきから彼女の頭の良さが滲み出ていました。普段から言葉を大切に使い、たくさんのことを考えているのだろうなと感じました。見習いたいです。

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2024年03月17日

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