あらすじ
「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」
家族を失い真っ白い悲しみのなかにいた青山霜介は、バイト先の展示会場で面白い老人と出会う。その人こそ水墨画の巨匠・篠田湖山だった。なぜか湖山に気に入られ、霜介は一方的に内弟子にされてしまう。それに反発する湖山の孫娘・千瑛は、一年後「湖山賞」で霜介と勝負すると宣言。まったくの素人の霜介は、困惑しながらも水墨の道へ踏み出すことになる。第59回メフィスト賞受賞作。
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Posted by ブクログ
水墨画を目の前に見ていないにも関わらず、
読み終わった時、美しい画をたくさん見たような、穏やかな気持ちになった。
『自分自身の幸福で満たされているからじゃない。誰かの幸福や思いが、窓から差し込む光のように僕自身の中に映り込んでいるからこそ、僕は幸福なのだと思った。』
この言葉が、読者である自分にもあたたかく差し込む光のように感じられた。
教員である自分に、子どもたちの幸福や思いが、自分に映り込んで人生を鮮やかにしてくれていると思えて、幸せな気持ちになれた。
Posted by ブクログ
17歳のときに両親を事故で亡くして以来、喪失感のなかで生きてきた大学生の霜介。偶然出会った老人に導かれて、水墨画の世界に入る。無心に絵を描き続けていくなかで生きることに目が向くようになり、絵師として歩み始める。
水墨画の世界がこれほど豊饒なものだとは知らなかった。感嘆して著者略歴を見ると、水墨画家。なるほどである。これから水墨画を見る目が変わる(とはいえ、鑑賞眼があるわけではないが)。
いい人しか出てこないが、そこはあえてそうしたのだろう。霜介の成長もとんとん拍子でご都合主義といえなくもない。しかし、そういうことが枝葉末節としか思えないくらい、描写が素晴らしい。
水墨画を観たくなった。
Posted by ブクログ
主人公の、両親の死など周りの出来事や、水墨画に対する感じ方の表現に独特の感性があって面白かった。
これまで水墨画は目にすることはあれど、この本のようにじっくりと作品として味わって鑑賞することは殆どなかった。
水墨画の巨匠にたまたま巡り会って価値を見出され、滅多になれない内弟子になれるというところはできすぎているが、その巨匠も、孫娘も、きっかけを作った親友の古前くんにしろ、不快感のない、主人公に刺激を与えてくれる良きキャラクターだった。
「そんなに凄い絵なのですね〜」などと記者がコメントしている場面があり、確かに水墨画というと渋い分野に思え、玄人世界に感じる。
また時間がある時に、水墨画に触れてみようと思う。
いいかい。水墨を描くということは、独りであるということとは無縁の場所にいるということなんだ。水墨を描くということは、自然との繋がりを見つめ、学び、その中に分かちがたく結びついている自分を感じていくことなんだ。その繋がりが与えてくれるものを感じることだ。その繋がりといっしょになって絵を描くことだ。
そのためには、まず、心を自然にしないとp85
「そんなに凄い絵なのですね。簡素な絵なので、インパクトに欠けているように感じます。やはり我々素人には難しい世界があるのですね」p378
Posted by ブクログ
両親が亡くなってから人生の色が薄くなってしまった大学生青山が水墨画と出会い、人間として再生していく物語。
映画を先に観ていたので、水墨画のイメージができていたのはよかった。映画の方がより起伏がある物語になってて、小説は素朴な展開だった。小説から映画観てたら無駄にドラマチック要素付け加えられたな……と思ってたろうなと思う。
師匠の国宝爺さんが倒れたやつもそうでもなかったし。
最終的に菊の花が上手く描けるかという点に話が行き着く。形を描くのはそれなりにできるが、心を描くことに挑戦をする。
かなり心情描写と水墨画の描写量が多かった。デビュー作と考えると悪くなかったのでないかなと思う。