あらすじ
「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」
家族を失い真っ白い悲しみのなかにいた青山霜介は、バイト先の展示会場で面白い老人と出会う。その人こそ水墨画の巨匠・篠田湖山だった。なぜか湖山に気に入られ、霜介は一方的に内弟子にされてしまう。それに反発する湖山の孫娘・千瑛は、一年後「湖山賞」で霜介と勝負すると宣言。まったくの素人の霜介は、困惑しながらも水墨の道へ踏み出すことになる。第59回メフィスト賞受賞作。
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心に残った本中の言葉。
水墨を描くと言う事は、自然とのつながりを見つめ学び、その中に分かちがたく結びついている自分を感じていくことだ
水墨というのは森羅万象を描く絵画だ。森羅万象と言うのは宇宙のことだ。現象とは外側にしかないものなのか、心の内側に宇宙はないのか?
現象が先だってあって、空間が生まれる
「どうして、こんなに美しいものが創れるの?」
「美しいものを創ろうとは思っていなかったから」
僕は満たされている。
自分自身の幸福で満たされているからじゃない。
誰かの幸福や思いが窓から差し込む光のように、僕自身の中に移り込んでいるからこそ、僕は幸福なのだと思った。
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水墨画という一般的にあまり馴染みがない芸術を題材にしているものの、言葉選びが自然でとても読みやすい。
突っかからず、スっと入ってくるから映画を見てる感覚でずっと頭で映像が流れていた。
早朝のように空気が澄んでて、夏休み初めの爽やかさを感じる。
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水墨画を体験した。
そう感じさせるような"美"の表現に惹きこまれた。
ただ形の、技術の美しいを探求するのではなく、水墨画における真髄を追求、模索してゆく姿にただただ憧れた。
自分は青山君のように懸命に挑んだことがあるだろうか。
心のうちを表現する事が苦手だ、何事にも希望を持てないなど何処か共感を誘われるような青山君を通して自分を改めて捉えなおしてみようと感じた。
これからの青山君の姿を見る事は叶わないが目に浮かぶように成長していく姿が想像できた。
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へのあこがれを持つ自分がいることを気づかされた。水墨に携わる作者による作品だけにより、迫るものがあった。白い世界、死でなくてもだれもが持つものなのか。私にもある。だから救われる作品であった
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小説は文字のみの表現であり、そこには読者に想像の余地が残されている。誰もが、自分の中で登場人物のイメージを作り、その世界を楽しむ。しかし、その想像を超え、自分の知らないはずの感覚が生まれ、心酔してしまう作品がごく稀にある。まさにこの作品がそうだ。水墨画を知らないはずなのに、青山君の心を通して、頭に浮かぶ絵に感動した。一種の絵画療法的な面もあるが、青山君の純粋さが水墨画に取り組むことで、周りの人の温かさを吸収していく。小説の文学要素というより芸術性を感じさせられた。
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楽しむ.自然に.
四君子
春蘭: 深山幽谷に孤高に咲く理想の姿,風格
竹: まっすぐスタッと立っていて,折れずに柔軟というところが理想の姿
梅: 厳しいときを耐え抜きながら花を咲かせるというところが理想の姿
菊: 厳しい寒さの中でも薫り高く咲いているところが理想の姿
そうありたい.
この物語はとても美しい.水墨画の話を通して主人公が水墨画を通してみた美しい世界を文字で表して自分に見せてくれているようだ.
自分にも同じようにつらかったことがある.誰にでも同じようにつらかったことがあるだろう.
それを同じように表すことができるくらい深みにまで到達できていない.もしくは外に表現するやり方を見いだせていない.
今,私の目には細かな美しさの潰れた圧倒的な光の集合体のような美しさしか見えていない.
いつかちゃんと見れるといいのだけれど.
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①私自身、書道を習っている。
水墨画と書道は似ているところがあるように思う。
手本通りに書くのではなく、生命力のある見た人に感動させる作品を描きたいと私はいつも考えている。
この点は、似ていると感じた。
自分も、より良い作品を作るために、主人公たちのように、努力を続けたいと思う。
②本作品を読んで、1度、春蘭を描いてみたいなと思った。
③水墨画という芸術を文字だけで読者に伝えてることを単純に凄いなと思った。
主人公の成長に感動するオススメの1冊です!
何度も、読み返したくなる作品です。
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面白かった。過去に辛い経験をして無気力に生きていた主人公が、ある日ひょんなことから才能を見出されて水墨画の世界で生きる意味を見つける。こう書くとよくあるストーリーだけど、読み易いし描写も素晴らしいし、何より水墨画という題材がいい。イメージは出来るけどあまり知らない世界で読んでてとても興味が湧いた。
実写にするなら師匠の爺ちゃんは木場勝己のイメージ。
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芸術について文章で表すのは難しいと思っていました。『美しい』などの普通の形容詞だとありきたりですし、奇をてらった表現をされるとついていけないし…
しかしこの作品は、主人公が水墨画に対して感じたことをとてもわかりやすく真っ直ぐに描いており、一体感を感じながら読み進めることができました。霜介が水墨画と出会えて良かった。
水墨画が好きになりそう
読みやすく、進行もスムースで、肩も凝りません。
作者の筆力は、すばらしいです。
水墨画は、ただ、美術館などで観るだけでした。
描くのも難しそうだと思っていましたが、
その何も知らない主人公が、その世界に入っていく、
その様子が、水墨画とは何かと、教えられます。
水墨画の世界というか、筆遣いや、考え方が良くわかりました。
「水墨画の最大の評価は、絵を楽しんでいるかどうかだ」という、
作中の先生の言葉が見事です。
この本がまるで水墨画の教科書のような気がして、
水墨画に馴染みたくなります。
水墨画を観る目も変わってきたような気がします。
この作者の続きの本も出版されているようで、読みたくなります。
水墨画に興味のある方に、ぜひ薦めたい本です。
というよりも、
読めば、水墨画が好きになり、描きたくなります。
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墨の香りが漂ってくるような
静かでどこまでも美しい
水墨画といえば中国の山奥の仙人の
というイメージしかなかったけど
文字で表現される墨の絵がとても美しい
1人の青年の深く沈んだ心が
水墨画と携わる人たちとの関わりで
自分自身を
命を見つめることで
変化していく様子がとてもきれいでした
自分自身を語る術を持つことの
尊さが感じられる作品でした
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これまで全く知らなかった水墨画の世界。
読み始めたら、一気に読み終えてしまった。
たくさんの書き留めておきたい言葉が有りましたが、私には「必ずしも・・・・・・」「拙さが巧みさに劣るわけではないんだよ」との湖山先生の言葉が印象に残りました。
本当に良い物語でした。
映画からはいりました
原作は映画よりももっと深かった
決して映画が浅いとかではなく。
題材としても、新しく
お話しとしても素晴らしかったです。
そして誰もイヤな配役の登場人物がいない
苦言があるとしたら、2人の約束の会食の場面が
描かれてなかったことくらいでしょうか?
さぁ、2作目も拝読致しましょう。
サクッと読めて、充足感◎
恩田陸の『蜜蜂と遠雷』が好きな人は、多分好きだと思う。
読むだけで、実物を鑑賞していなくても、ここまで芸術の美しさで心が満たされるとは。なんなら、芸術が分かる人の視点だからこそ、より高度な悦びにひたれるまである。
少年が悩みながらも己の感性に導かれて自分の意思を超えて突っ走っていく姿は、疾走感があってぐいぐい引き込まれる。
とにかく面白かった!
映画を見て
映画を見てから読んだのですが、どちらも悲しさがあり、でもそれを乗り越えていく強さがあり、これからの自分にも参考になるかと思います。
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読み終えたあと、題名がストンと落ちた。「僕は」ではなく、「線は」なのだと。表現するとは、自分の思いの表出であると思う。そして、それは、表現するもの(ここでは、水墨画)と何度も対話をしていくことで、自分の痛みや願いがわかり、自分の納得のいく表現ができるような気がする。
だから、表現の手段に自分を委ね託していくことで、自分の心の自然な表出となり、自分が救われていくのだと思う。
日本の水墨画の世界にもたっぷり浸れた。墨の深い香り、筆を動かす人の気配だけが響く静寂、そこから生まれる黒と白の水墨画の世界は、新しい世界観だった。
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水墨の技法など結構知らない言葉が多かったけど、全体的に読みやすかった。
学祭とか同い年のライバルとかコンクールとか、王道でわかりやすい要素が多かったからだと思う(あとがきに書かれてたからそう思ったのかも)。
ひとの作品とかそこら辺の草木から人間性とか生命力とか感じ取ってて、主人公の感受性の高さ(?)に驚いた。
読み終わった日にちょうど紅葉を見に行ったので普段より注意して見てみたが、本当に感じ取れるものがほぼ無かった。
自分じゃわからない感覚を言葉で知ることが出来た良い機会だった。
せっかくなので富山に水墨画の美術館があるらしいので行ってみたい。
重たいテーマも少しあったけど、若者の可能性、周りの大人の温かさ、自然の尊さ、未来への明るさなどを感じる爽やかな本だった。
あと、ちょっとしかご飯食べてないのに5キロの米担いで帰ってて驚いた。
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『日日是好日』を読んだ時のような清々しさと静けさに包まれる、気持ちの良い時間を過ごせた。自分としっかり向き合う時間を捻出するのは忙しい現代人にはなかなか難しいが、わずかでも設けたい。綺麗すぎるストーリーに反発を覚える人も少なくないと思うが、そこは二の次でただただ未知の水墨画の世界とその世界観に浸ることが心地良い。霜介のように没頭できることに出逢えることが奇跡だが、気軽に何かを始めるフットワークの軽さを持たねば。映画も観てみたい。
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砥上裕將さんの作品を初めて読みました。これまで私とは全く接点のなかった水墨画が題材になっています。
水墨の世界に入っていくきっかけに少し無理があるようにも感じましたが、美しい文章でその場面を想像しながら読み進めました。
とにかくやってみる、観察して、真似をして、繰り返し練習する、いろいろなことに通じるなと思いました。
自分の全く知らなかった水墨画という新しい世界を少しだけ知ることができました。技術技巧だけでなく命を描く、シンプルなだけに逆に奥が深いのだろうと感じました。
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絵を描くことが好きなので、初めて知る水墨画の世界に魅了されました。
白黒の濃淡の世界に見出す「生命の美しさ」
水墨画に没頭し、人と関わる中で自分の中の喪失感に折り合いをつけていく主人公。
見出してくれた先生との、病院でのシーンはとても良かった。
どんな菊を描いたのか、とても見たくなりました。
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「ともかく描くことだ。そして常に問い、立ち止まり、顧みて、また描く、その連続だよ」
本作を読んで、湖山先生の言葉一つ一つが僕に突き刺さった。この作品のモチーフは水墨画であり、言葉で表現することは至難の業であるが、砥上さんの表現力によって、すんなりと読むことができた。
殻に閉じこもっている主人公を救い出した芸術は、水墨画だけでなく絵画や音楽にも当てはまると思う。
ギターをやっている身からして、1番上に書いた文に深く共感した。正解のない世界で、ひたすら考える主人公に感情移入した。
水墨画がやってみたくなる作品でした。
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両親を二年前に突然交通事故で二人とも亡くした青年霜介。
あまりのことで何も考えられなくなって 自分の世界、何もない世界に閉じこもってしまっていた。
ひょんなことから 水墨画の世界に導かれる。
彼の純粋な心が水墨画の世界と響き合い 自分だけの世界から外の世界へ抜け出し 生きることの意味を見いだす。
水墨画を通して描き手の所作、心情を 丁寧に描写していく。自分が 描き手や水墨画をあたかも目の前にするように感じられた。
水墨画のことはあまり良く知らないが、ここに登場する湖山先生、湖峰、千瑛先輩ら、そして主人公霜介の絵をぜひ見てみたいと思った。
もちろん これは小説なので見れないけれど どこか水墨画展で出会えたら嬉しい。そう思わせられた小説でした。
ちなみに 作者は水墨画家だそうです。
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第59回メフィスト賞
第3回ブランチBOOK大賞2019大賞
第17回 本屋大賞 第3位
花を見る目が変わると思った。
花は水墨画の重要なモチーフであり、花を描くことは、命が刻々と姿を変えている瞬間を線で表現するということ。花は今この瞬間を生きていて、同じ姿は二度と見られないのだと理解したら、より美しいものに思えてくる。
白と黒だけで描かれた花が真っ赤に見えたり、余白さえも彩りとなるという水墨画の魅力を知り、興味がわいたし、線一つ描くことへの重みが伝わってきて芸術の世界はすごいなと感じた。
さっそく水墨画を生で観てみたい気もするけど、素人の私がなにかを感じ取れる自信が全くない。
絵画だって、説明を聞いてもそうなの?としか思えない芸術感覚の乏しさ。
だけど文字で綴られるからこそ伝わる感覚もあると思うので、本書のおかげでちょこっと水墨画を理解したような気分でいる。
ストーリー自体は、単純だし、そんな上手い話がと思うので感動的なわけではないけど、私は青山君が羨ましい。
巨匠に導かれながら水墨画を通して自分を解放していく、そんなのめり込める手段を持てるのは誰だって憧れると思う。
湖山先生の名台詞がたくさん出てくるのも魅力の一つ。一番好きなのはこれ。
「拙さが巧みさに劣るわけではない」
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文章がとても美しく、水墨画に向かう人たちの美しい気持ちをそのまま表していると思った。心の動きをこんなにも細やかに、繊細に表現できることに圧倒された。
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水墨画を通じて再生と成長を描いた物語だ。両親を亡くして心を閉ざしていた主人公・青山霜介が、ひょんなことから水墨画と出会い、師である篠田湖山やその孫娘・千瑛との交流を通じて変わっていく様子が感動的に描かれている。
印象的な場面の一つは、霜介が初めて「無」の感覚を体験するシーンだ。墨を紙に落とし、線を引く瞬間に、彼は自分が墨の流れと一体化していくように感じる。水墨画では、線が単なる形ではなく、描き手の内面や心情そのものを映し出すものであることが、この場面から強く伝わってきた。また、篠田湖山が語る「空白もまた絵の一部だ」という言葉が印象的だ。描かれていない部分にこそ意味があり、そこに見る人の想像が広がるという考え方は、霜介が人生の空白を抱えていることと重なり、物語全体に深みを与えている。
さらに、千瑛との関係性も霜介の変化に影響を与える。水墨画に真摯に向き合う千瑛は、当初は霜介に冷たく接していたが、やがて互いの葛藤を理解し合うことで少しずつ心を通わせていく。二人が切磋琢磨しながら成長していく姿に、友情や信頼の大切さを感じさせられた。
この作品を通して、人生には形のない空白や欠落があるが、それを恐れず受け入れることが大切だと気付かされた。また、何かに真剣に向き合い、自分の心を表現することで、過去の傷や失ったものさえも意味を持ち始めることを教えてくれる。水墨画の繊細さと奥深さを感じながら、自分自身を描くように生きることの大切さを学んだ。
しみじみと感動する物語
映画化されたことで興味を持ち読んでみました。
初めは映像を頭の中に描いて
中盤からは私の想像力を超え 文字の中に墨絵を思い浮かべ ゆっくりと物語の中に沈んでゆく感じでした。
素敵なお話です。
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両親を失い、空虚な心を抱えた主人公が、だからこそ、鋭く繊細な心と眼をもって水墨画に向き合う。主人公が、水墨画を学んでいく中で、仲間に心を開き、自分の心も見つめ直して、再生していく物語。文書から水墨画の美しさと魅力が伝わってくる。映画も観たくなった。
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芸術を文章であらわすのはすごいと思う。透明感のある作品。
生きるを線で表す技術もそれを感じとれる感覚も芸術センスがある人は見方が違ったりするのかな。
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千瑛が青山君のことを、ただのド素人だと思っている頃は面白かった。でも、自分にない無いモノを持ってるんじゃないかと気付いてからは、ただの説教臭い普通の小説になってしまった。キン肉マンであろうがドラゴンボールであろうが、自分の隠された素質を知らない内が一番楽しいのだな。
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あなたが表現する方法を持っていますか・・・
家族を失い生きる希望もなくなんとなく生きていた時
バイト先で偶然出会った水墨画の巨匠・篠田湖山に気に入られる・・・
タイトルが気になって読むことにしました。
人生の哲学が詰まっているような小説だと感じました。
如何に自然体でいられるか簡単なようでとても難しく感じます。
一つの線で人の人生を感じることができると思うと日々の文字や線の息遣いを感じてしまいそうです。
映画化もされているそうなので、どのように映像化れせているのかも気になる作品でした。
Posted by ブクログ
これまで水墨画について触れたことが全く無かったので興味深く読んだ。
水墨画の世界はとても深くて主人公が水墨画を通して自分の人生と向き合い成長していく様子が応援したくなる。
読み終わってから著者の方が水墨画の方だと知り、著者の方の水墨画をネットで見て作品の余韻を味わえた。
Posted by ブクログ
芸術 絵画や彫刻、イラストに小説、写真に音楽、もちろん水墨画にしても、あらゆる芸術作品には余白が大事だと思います。余白の中にある空気感が美しさだと思います。物理的な余白であったり、ストーリー的な余白、描きすぎない余白があることで、私たち見る側の感性や想いが入る余地が出てくるのだと思います。その余白には作品を見た感動と共に私たちが生きて経験した中から選び抜かれた感情が注ぎ込まれるのではないでしょうか。そんなことを感じさせてくれる作品でした。