【感想・ネタバレ】少将滋幹の母のレビュー

あらすじ

左大臣時平のおもわれ人となった北の方は年老いた夫や幼い子と引き離され、宮中奥深くに囲われてしまう。母を恋い慕う幼い滋幹は母の情人がしたためた恋文を自らの腕にかくし、母の元に通う。平安文学に材をとった谷崎文学の代表作。

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Posted by ブクログ

この話の始まりは、色好みの平中こと兵衛佐平定文の色ごとからなる。
時の左大臣は、政敵菅原道真を追い落とした藤原時平(通称しへい)。時平は年老いた叔父国経の若く美貌の北の方に目を付け、自分のものにしようとしていた。かの北の方は、かつて平中も国経の目を盗み忍んだ相手だ。
時平は、国経を持ち上げ追い込み、ついには「我が宝」と呼ぶその北の方を堂々と連れ去ってしまう。
その様子を平中は苦々しく思っていた。平中は色を好むが、相手につれなくされれば燃え上がり、泣き真似が読まれていたり相手の汚物を手に入れようなどとユーモラスかつ粋な恋の駆け引きを楽しむ。そんな彼にとって、見せつけるようにしてその妻を奪うというのは美意識に反したのだ、しかも相手は自分のかつての恋人で、さらに自分の艶話が時平を焚き付けたとあってはなおさらだ。
しかし名うての色事師平中は、時平の目を盗み北の方との文通を続ける。それは北の方と国経との間の男児、後の少将滋幹の腕に手紙を書き付けて北の方と文通をするというやり方だった。
やがて成長した滋幹は、父ではない男の妻となった母の元へ通うことは叶わなくなる。平中の恋も終わる。
だが滋幹にとって母の面影は増すばかりだった。
母への妄執を断ち切ろうとしつつもそれができずに衰えてゆく父を見て、そして父違いの弟を遠くから密かに親しみを感じて、それでも母に会うことはなく四十年の日々が過ぎた。
ある時滋幹は、尼庵の近くに佇む尼僧の姿を認める。
それこそ母だったのだ。幼い頃から母の面影を求め続けた滋幹は、ただただ老いた母の膝下にすがるのだった。


===
古典文学で出てくる人々を数々の資料から再構築したお話。
古典文学では菅原道真の祟りで死んだとされる藤原時平をはじめとするその一族たちの政治的手腕を書き、平中の懲りない色事をユーモラスかつ真摯に書き、美しい妻に去られた老人の諦めきれない諦めの心境を書く。
そして、幼い頃から大人の色恋沙汰に振り回され、中年になってもただ母を慕う滋幹の心境を掘り下げ掘り下げてゆく。 
貴族たちの恋愛や政治駆け引きは華やかさとおかし味があり、北の方に去られた国経が妻を忘れようと美女の死骸や骸骨に触れてそれでも断ち切れない様相は人の業の深さがある。
谷崎潤一郎の美意識は、汚いもの、おかしいものと表裏一体なのでしょうか。流れるような筆捌きです。
人間模様の織りなす王朝絵巻。

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2019年12月29日

Posted by ブクログ

私が読んだ谷崎作品では、少し異風。
ご本人がよく登場する。
谷崎さんは日記に興味がおありと見える。
人の真実の声が描かれるからだろうか?
谷崎さんは、見栄や何かをとっぱらった人の気持ちに興味をお持ちでなはないかと思う。だからこそ、なかなか書くことに抵抗のあるジャンルについても書ける豪胆さを持っているかとも。
鍵も老人日記も日記が語るし、これも実在の人物の実際に存在しない日記を実存すると虚構を構えて、学術的に進めるていをとっている。

でも、物語としても入り込めないわけでもなく、やはり上手。

滋幹がお母さんに会いに行く場面が好き。お母さんが無言で、滋幹を膝に乗せ、頬ずりしてくれるところとか。

小倉遊亀の新聞連載時の挿絵が、脱力感があってかわいい。また、谷崎さんは源氏物語も訳出されており、平安朝がお好きらしいです。恋愛が自由だからかな?この中ではある意味自由ではないけど。。。

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2015年08月12日

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