あらすじ
第二次世界大戦の悲劇を繰り返さない――戦争の抑止を追求してきた戦後日本。しかし先の戦争での日本の過ちは、終戦交渉をめぐる失敗にもあった。戦争はいかに収拾すべきなのか。二度の世界大戦から朝鮮戦争とベトナム戦争、さらに湾岸戦争やイラク戦争まで、二〇世紀以降の主要な戦争の終結過程を精緻に分析。「根本的解決と妥協的和平のジレンマ」を切り口に、真に平和を回復するための「出口戦略」を考える。
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Posted by ブクログ
帯に小泉悠さんが載っていたのでウクライナ戦争の行く末も念頭に購入。
購入動機の不純性はさておき、面白い内容でした。
本書では戦争の終わり方を「権力政治的アプローチ」と「合理的選択論的アプローチ」の2つの視点から解釈し、これまで発生した戦争にこれらを当てはめて説明します。
「権力政治的アプローチ」は軍事力を中心としたパワーバランスを重視する視点、「合理的選択論的アプローチ」は交戦勢力間の合理的な費用対効果の算定を重視する視点ですね。要は戦争は軍事的に強い側が一方的に弱い側をボコって終わるだけではなく、損害に見合ったリターンを得られるのか?の観点も終わり方を左右する、という考え方でしょうか。
そのため(特に後者の視点により)、主に軍事的に強い側においては ”二度と起ち上がれないよう徹底的に相手を叩きのめすのか、それともある程度妥協して和平を結ぶのか” のジレンマが生じます(これを本書では「根本的解決と妥協的和平のジレンマ」と呼びます)。
そして第一次大戦からイラク戦争までの主要な戦争を題材に、このジレンマのはざまに揺れる交戦各国の状況(心境)と戦争終結に至る過程が説明されます。
しかし実際の戦争の構図はそう単純ではありません。本書は基本的に上記の整理構造をとりますが、様々なファクターが複雑に絡み合うそれぞれの戦いの歴史は読みごたえがあります。
個人的にはベトナム戦争の章が複雑かつ緊迫感があり、面白く読みました(アメリカを中心とする西側は圧倒的な軍事力を有していたものの、北ベトナムの背後にいるソ連や中国との全面対決というリスクと、反戦運動に揺れる国内政治という不安定要素にさいなまれます。共産側も北ベトナムの無謀ともいえる強硬姿勢に対し、西側との全面対決を望まないソ連や中国の微妙な姿勢が一線を画します。そしてこれら各国の繊細な心境と打算にお構いなく戦況は動きます・・・)。
戦争が終わるに際して必ず上記の構造が当てはまるかどうかは断言できないと思いますが、戦争終結のロジックを構造的にわかりやすく整理している点が興味深いのと、実際の戦争に当てはめた説明は納得感があり面白いです。
またそれぞれの戦争の、終結に至る経緯や内幕がある程度詳細に記載されており、歴史を学ぶという点でも参考になる1冊だと思います。
Posted by ブクログ
「戦争なんてしなければいいのに」と感情的に考えてしまうが、
現場では何を考えているのか知ることができる良書。
以下読書メモ。
戦争がいかに終結するのかは
「紛争原因の根本的解決と妥協的和平のジレンマ」という視点から考えられる。
それは、優勢勢力側が「将来の危険」と「現在の犠牲」のどちらをより重視するかで決まる。
「紛争原因の根本的解決」の極に近いのが、
両世界大戦、アフガニスタン戦争、イラク戦争。
「将来の危険」の方が大きいと考えられたから。
「妥協的和平」の極に近いのが
朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争。
「現在の犠牲」が多大となることを恐れたから。
劣勢勢力側は、自分達が守ろうとしている価値が犠牲に見合うものなのかの判断が必要。パワーバランスを変える可能性が乏しいなら、損切りを選択する勇気も必要。
日本の安保のことにも言及がなされている。
日米同盟側が優勢で「将来の危険」が極めて大きいなら相手政府の打倒が追求されるが、自衛隊の専守防衛の原則から外れないか。
「将来の危険」にとらわれ「現在の犠牲」が大きくなる子はないか。
日米で認識がズレたらどうなるのか。
日米側が劣勢なら、パワーバランスを変化させるのか、損切りによって収拾させるかの決断が必要になる。