ボナンザというのは、将棋ソフトの名前である。この本の共著者である、保木さんはこのボナンザの開発者である。もう一方の共著者である渡辺明は、プロの将棋棋士で、竜王というタイトルを保持している、現在の将棋界を代表する最強の棋士の1人だ。2007年3月、当時、将棋ソフトの中で最強と言われたボナンザと渡辺竜王
...続きを読むが、持ち時間それぞれ2時間のルールで対戦した。将棋に興味を持っているかなりの割合の方が関心を持っていた対局ではなかったかと思う。当時、一般紙にも記事として掲載された記憶があるので、もう少し広い範囲の方が興味を持たれていたかもしれない。渡辺竜王が負けることを予想していた人は皆無であったと思うけれども、それでも実力がある程度離れていても100戦100勝という訳にはいかないのが将棋であり、ほとんど万が一の確率で、というか、渡辺竜王がよほどの悪手を指した場合には、ボナンザが勝つこともなくはない、という感覚での予想が多かったように思う。実はチェスの世界では、既にコンピューターの方が強いということになっている。ところが将棋の場合には、チェスよりも複雑なゲームなので、まだ今のところトップレベルのプロ棋士の方が、コンピューターよりもかなり強い、という評価である。関心は、いつの日にか、コンピューターの方がトップクラスのプロ棋士よりも強くなる日が来るかどうかである。今の実力差であれば、トップクラスのプロ棋士がよほどの悪手を指した場合に負けることはあっても、10戦してコンピューターが勝ち越すことはあり得ない。将棋の初手からの指し手の可能性、すなわち場合の数は、10の220乗から260条の間であるらしい。また、これらの場合の数を読みきる、コンピュータであれば、計算させることは、現在のスーパーコンピューターであっても、数億年かかるのではないか、と言われている。とすれば、コンピューターがプロ棋士に近づくには、基本的には方法は2つ。1つはコンピューター自体の性能を上げること、すなわち、数億年かかる計算を数時間でやってしまえるレベルまで演算速度を上げること。もう1つは、計算しても意味のない選択肢を削ってしまう、すなわち、場合の数自体を少なくしてしまうことである。そういうことが実現する日が来るだろうか?私は将棋にもコンピューターにも詳しい訳ではないけれども、少なくともここ数年の単位でそういうことが起こるとは思えない。でも、いつかはそういう日が来ると思う。ただ、それが10年後のことなのか、100年後のことなのかは分からない、ということだ。個人的には、そうなったら、つまらないだろうな、と思う。私のような将棋は強くないけれども好き、という人間は、プロ棋士の指しての意味がほとんど分からない。それでも将棋雑誌や新聞の将棋欄を読んだり、あるいは、テレビを見たりするのは、プロ棋士の個性を見ることも好きなのだからだと思う。あるいは、日曜日の午前中のNHK杯戦でプロ棋士が見せる必死の表情や、勝ち負けが決まった後の時として放心したような様子も将棋を見る楽しみの大きな部分だと思っているからだと思う。個人的には、そういう日を見たくないと思う。