赤瀬川原平のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
荒木博之さんのvoicy、マイブックカフェのコーナーで紹介されていた本。
赤瀬川さんの著作は新解さんの謎以来で2作目。
確か、子どもと一緒に読み継ぎたい本として紹介されていたのだが、鉛筆描きのような、ゆるく味わい深いタッチの絵に、そこまで長くないセンテンスが添えられていて、大人なら10分あれば読み通せる。
絵だけ眺めるのも楽しいが、文章が秀逸。
こんなに簡単で短い文章なのに、今まで考えたことなかった、わりと本質的な問いに気づかせてくれて、その問いを考えることで、今まで見てきた世界の、新たな面白さを教えてくれる。
赤瀬川さんなりのこの問いに対する探究は、最後にはクルリと一周して、なんとも言えない心地良い余白と余韻を残す。
読書に不慣れな人でもたぶん楽しめて、何度でも読み返したくなる本。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ読み終わった。この著者はトマソンで出会って二度目の本である。トマソンに比べたら勢いは少しないような気がしたが、新解さん、という命名がやはり天才的である。
著者のもとに寄せられた、「新明解国語辞典」の例文がちょっとおかしい、ということでさっそく見てみる、というユーモアエッセイ。
「恋愛」の解説に情熱的な気持ちが込められていたり、まるで小説のワンシーンのような描写がでてきたり、食べものの項目に「おいしい」という個人的な感想めいた説明があったり、「世の中」「読書」などには一家言ある意固地な性格が透けて見えたり、時には辞書ではなく偏見だ!と思わず目を疑うような解説や例文がある。
こんな辞書が存在していいのか?と思うが、そこまで踏み込むゆえに、言葉の意味が「新明解」になる、という逆説でもあり、身をもって言葉の意味や辞書の役割を考えさせる。
また、偏りがあるから辞書として不適切、と一言では切り捨てられない「何か」があり、それを「新解さん」と名付ける。辞書の性格を擬人化して社会の許容度を問う。あとがきでもあったように、実際に新解さんに聞いて終わり、という個人的な話ではない。
その背景にある社会への視点や投げかけ、想像の余地を楽しむという点が重視されていて、それがいかにもトマソン的と言うか芸術的である。
同時収録されている「紙がみ」についても、エッセイとしては軽い読みものだが、「紙」に対して私たちが感じる神聖さ、高級さ、信仰、といったものについて考えさせられるものだった。
お札(さつ)やお札(ふだ)について、軽々しくプラスチックには移行できない「神聖なもの」がつきまとう、という話。今は特に電子マネーが増えて、より神聖なものを遠ざけようとする感じがうかがえるのだと思わされた。
また、写真や映像について、検索したり映し出したりするスクリーンは、いつか「電源を切る」が、紙に印刷した写真にはそういうことをしない、という指摘。印刷する意味、紙(実体)である意味について考えさせられた。きっと絵や芸術作品もそうだろう、どれだけデータとして持っていたとしても、真の所有ではない。
それらは飾られるもの。そして、いかにも、実用ではない。それゆえに存在価値があるという。まさに紙の要不要という視点からトマソン的な社会における「充実」を問う、この著者らしい議論だと思った。
紙が好きな人、紙や実用的でないことにどうしても惹かれてしまう人、そんなアナログな人におすすめ。 -
Posted by ブクログ
面白い!
この本の話はいろんな人から聞いていたし、大筋分かっていた(つもりだ)。
でも、実際に読んでみると、電車の中なのに笑い出しそうになるほど可笑しい。
要所要所に入る妙な写真も、これまた妙な味わいがある。
実際の新明解。
今は七版が出ているんだったかな?
私が使っていたのは六版、七版くらい。
そう面白い語釈や例文がある印象はなかった。
二版、三版あたりが面白いのかな?
今調べたら、金田一京助編集ということだ。
そうか!
それにしても、先日読んだトウェイツの『ゼロからトースターを作ってみた結果』にしても、この本にしても、面白がることが上手な人ってうらやましい。
いや、私も結構な面白がりやだと思っていたのだけど、最近どうもダメ。
もっとこういう本を読んで遊び心を活性化したい。
このおもろいおじさんが、紙の無駄に関してはびっくりするくらい真面目に考えているギャップに驚く。
本書に出てくるオレンジカードも、イオカードも、もうなくなった。
赤瀬川さんは、もういないんだ、と改めて気づいた。 -
Posted by ブクログ
何かを忘れるということはマイナスの作用でしかないのか。
自分の嫌なことがあって、その嫌なことが頭から離れないのなら、それは忘れたほうがプラスになる。
老人力は力を抜くエネルギーの事だという。
自力だと一向に自分に力がいってしまう。しかし、他力をつかうと他の人にエネルギーが循環する。昨今では誰も信用できない世界になりつつあるから、この考え方は誰かを信用するための力なのかもしれない。
頭が固いと身体も自然と固くなる。固さは丁度よく保っていなければならないのだが、固すぎる。その調度よさをこの本はしめしてくれているのかもしれない。
頭の柔らかい、老人がゆったりとしているような文体で、その力を解明してくれる一冊。