片岡剛士のレビュー一覧
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早稲田大学経済学部の若田部正澄教授が円高のメカニズムを理解するための3冊のうちのひとつにあげているのが本書。円高の状況、その原因と弊害、政府・日銀の対応について、理論、歴史、データに基づいて、丁寧な分析を行っています。本書を十分に理解すれば日々の為替の動きや金融政策に対して、新聞の論説やエコノミストのコメントの確からしさを見極めたり、自分なりの考えを述べることが十分に可能となるでしょう。
本書の内容で、特に私が興味をひかれたのは、円高がどの程度進行すれば弊害が生じる「過度な円高」と言えるのかの基準を示すところです。それに照らすと、リーマン・ショック後(2008年→2012年在)の110円→70円台は過度な円高ですが、プラザ合意後(1985年→1988年)の254円→127円は過度ではないとなります。この違いに興味を覚えた方は是非、本書を手にとってください。
なお、本レビュー冒頭の若田部先生推奨の円高を理解するための3冊ですが、私もこれらが鉄板と考えます。残りの2冊は安達誠司『円高の正体』、岩田規久男『デフレと超円高』。
若田部先生は、『円高の正体』、本書、『デフレと超円高』の順で読むことを推奨していますが、私は本書の先に『円高の正体』を読んだ方がよいと考えます。為替の変動には予想インフレ率が大きく寄与しますが、『円高の目標』はこの点の理論的な説明が詳細で、本書の理解の助けになると考えます。 -
Posted by ブクログ
日本経済の長期にわたる停滞の要因は何か。このテーマで書かれた本はきわめて多いが、本書は経済理論の枠組みを踏まえるとともに、可能な限りデータの裏付けを取りながら議論を進めたきわめて手堅い本である。著者の筆遣いはきわめて慎重であり、ついつい結論を急ぎたくなるところも、一歩一歩に議論を進めてゆく。類書ではあまり利用されない歴史データを用いているところも特徴だ。
経済理論というと、きわめて難解なイメージがあるが、本書でもっとも重要なのは「国際金融のトリレンマ」という考え方(p.85)。すなわち、為替レートの安定化、国際資本移動の自由化、独立した金融政策の3つの中で、同時に達成できるのは2つまでという議論である。この比較的単純な考え方を使うと、歴史的な事象に始まって現在のユーロ危機にいたるまで、急に見通せた気になるから不思議だ。
本書は4章までに理論、実証、歴史を扱いながら経済分析の枠組みを用意し、いよいよ5章で日本経済再生の処方箋を描いてゆく。その切り口は非常にあざやかで、十分な説得性を持つように思った。
大学で経済学を教える者は、定評のある入門書のあと、ステップアップのできる中級レベルの本の選択に迷うことが多い。本書は、そういうニーズにも十分応えられる本だと思う。 -
Posted by ブクログ
1985年の「プラザ合意」によって、日本は国際通貨基軸であるドルの安定化のために、国内経済を安定を犠牲にせざるをえなかった。
急激な円高による国内は円高不況となり、政策当局は公定歩合の引き下げと内需拡大(投資の促進)によって乗り切ろうとした。
ところが、これがバブルを産む結果となる。
バブルによる地価高騰が社会問題になったことで、日銀が行ったのが急激な公定歩合引き上げ。1989年に2.5%だった公定歩合は、1990年に6%となる。
これは日銀の意図的なバブル潰しによって、株価の下落と地価下落という混乱の中でバブルは崩壊した。
その後,2000年のITバブルで一旦盛り上がりそうになった日本経済であったが、日銀の早期公定歩合引き上げにより崩壊。
失われた20年と言われる長期デフレ。
企業の債務負担の増加は、投資の余力を失い、金融機関は企業の債務不履行リスクを恐れて貸し出しには慎重になるため、市場において十分な投資が行われず、企業の成長が抑制されてきた。
株価も低迷し、デフレスパイラルと称された。
出口の見えない日本経済を「アベノミクスによって、失われた20年に終止符を打つことができるか?」というのが、本書の主題である。
安倍政権が打ち出している、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を換気する成長戦略」について考察している。
大胆な金融政策に関しては、実態経済の好況に結びつかないバブルという批判もあるだろうが、出口のないデフレに対するカンフル剤としては、必要であろう。
とにかくお金がまわっていないのだから。
ただし、一部の富裕層だけが金融資産によって恩恵を受けることが経済の復活につながるとはしていない。
競争的な市場メカニズムが持つ効率性を高める成長政策と、所得再配分政策によるアンバランスの是正という補完的な関係をつくることが重要であるとしている。
安倍政権では所得の再配分について名言されていないが、筆者は消費者のボトムアップこそが成長戦略には欠かせないのだと力説している。
成長戦略が効果を生んでいない状況で増税に踏み切るのは反対している。せめて2%の実質成長率が安定するまでは増税すべきではないとの立場をとっている。
プラザ合意以降の日銀の蹉跌を顧みるに、増税や公定歩合の引き上げにはタイミングが重要だ。
量的緩和→成長の安定→公定歩合の引き上げ→増税といった政治政策と経済政策とがきちんと歩調を合わせることが必要であると考える。
本作は、失われた20年における経済政策の問題点を鋭く指摘した良書であるとともに、明日の経済に対する提言書でもある。
ただ一点、TPP参加を成長戦略における不可欠要素としたことは納得がいかなかった。
TPP参加後のGDP成長率を0.66%とし、経済効果を3.2兆円としているが、農業関係者に対する補助金がどの程度増加するかに関しては名言していない。
関税を撤廃することで、農業関係者に国の補助金によって保護するという提言なのだが、0.66%の成長と引き換えに国債発行額が増えるのは間違いないはずだ。
長期にわたって国債発行による補助金の捻出は、問題の先送りでしかないはずだ。
本旨とは関係のないことだが、経済における円の価値についての考察は新鮮だった。
デフレとは、「円」の財やサービスに対する相対的な価値が高まり、インフレとは「円」の価値が財やサービスに対して相対的な価値が低くなるという説だ。
デフレになるとモノが売れなくなり、消費意欲が低下することがあらためて理解できたとともに、インフレにおける消費意欲の向上が実感できた。
何かにせっつかれたようにモノを買いあさるインフレ時の心理というのは、経済が密接にかかわっているのだと、深く納得してしまった。 -
Posted by ブクログ
大胆な金融政策と機動的な財政政策の実施により、2013年の日本経済は円安・株高が進み、実質GDPの成長率は1.5%の結果を出している。物価上昇率は上がり失業率も改善が進み着実に実体経済にも好影響を及ぼした。しかしながら消費税の増税は2014年の日本経済に想定外の落ち込みを記録させるに至った。著者の主張は再増税の延期であり、現実は主張どおりとなっているが、いまだ深刻な日本経済の落ち込みは慰撫されていない。数値の高い経済指標に酔いしれるのもいいが、いまだ景気の恩恵に浴していない大多数の庶民が巷にあふれている。現実というものをしっかり見つめてほしい。