あらすじ
アベノミクスとも言われる「大胆な」金融政策、「機動的な」財政政策、「民間投資を喚起する」成長戦略の3つの経済政策への期待感は、株式市場や為替市場の活況という形で表れている。一方で、「大胆な」金融政策は長期金利の急騰や行き過ぎたインフレをもたらすのではないか、といった不安の声も聞こえる。気鋭のエコノミストが、アベノミクスを支える“3本の矢”の現状評価と今後のゆくえを、精緻な分析によって論じる。
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Posted by ブクログ
アベノミクスに関する書籍の中では、本書が一番バランスが取れていると思う。3つのフレームワークは、かえってわかりにくくしている印象を受けたが、おおむね理解しやすかった。
Posted by ブクログ
1985年の「プラザ合意」によって、日本は国際通貨基軸であるドルの安定化のために、国内経済を安定を犠牲にせざるをえなかった。
急激な円高による国内は円高不況となり、政策当局は公定歩合の引き下げと内需拡大(投資の促進)によって乗り切ろうとした。
ところが、これがバブルを産む結果となる。
バブルによる地価高騰が社会問題になったことで、日銀が行ったのが急激な公定歩合引き上げ。1989年に2.5%だった公定歩合は、1990年に6%となる。
これは日銀の意図的なバブル潰しによって、株価の下落と地価下落という混乱の中でバブルは崩壊した。
その後,2000年のITバブルで一旦盛り上がりそうになった日本経済であったが、日銀の早期公定歩合引き上げにより崩壊。
失われた20年と言われる長期デフレ。
企業の債務負担の増加は、投資の余力を失い、金融機関は企業の債務不履行リスクを恐れて貸し出しには慎重になるため、市場において十分な投資が行われず、企業の成長が抑制されてきた。
株価も低迷し、デフレスパイラルと称された。
出口の見えない日本経済を「アベノミクスによって、失われた20年に終止符を打つことができるか?」というのが、本書の主題である。
安倍政権が打ち出している、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を換気する成長戦略」について考察している。
大胆な金融政策に関しては、実態経済の好況に結びつかないバブルという批判もあるだろうが、出口のないデフレに対するカンフル剤としては、必要であろう。
とにかくお金がまわっていないのだから。
ただし、一部の富裕層だけが金融資産によって恩恵を受けることが経済の復活につながるとはしていない。
競争的な市場メカニズムが持つ効率性を高める成長政策と、所得再配分政策によるアンバランスの是正という補完的な関係をつくることが重要であるとしている。
安倍政権では所得の再配分について名言されていないが、筆者は消費者のボトムアップこそが成長戦略には欠かせないのだと力説している。
成長戦略が効果を生んでいない状況で増税に踏み切るのは反対している。せめて2%の実質成長率が安定するまでは増税すべきではないとの立場をとっている。
プラザ合意以降の日銀の蹉跌を顧みるに、増税や公定歩合の引き上げにはタイミングが重要だ。
量的緩和→成長の安定→公定歩合の引き上げ→増税といった政治政策と経済政策とがきちんと歩調を合わせることが必要であると考える。
本作は、失われた20年における経済政策の問題点を鋭く指摘した良書であるとともに、明日の経済に対する提言書でもある。
ただ一点、TPP参加を成長戦略における不可欠要素としたことは納得がいかなかった。
TPP参加後のGDP成長率を0.66%とし、経済効果を3.2兆円としているが、農業関係者に対する補助金がどの程度増加するかに関しては名言していない。
関税を撤廃することで、農業関係者に国の補助金によって保護するという提言なのだが、0.66%の成長と引き換えに国債発行額が増えるのは間違いないはずだ。
長期にわたって国債発行による補助金の捻出は、問題の先送りでしかないはずだ。
本旨とは関係のないことだが、経済における円の価値についての考察は新鮮だった。
デフレとは、「円」の財やサービスに対する相対的な価値が高まり、インフレとは「円」の価値が財やサービスに対して相対的な価値が低くなるという説だ。
デフレになるとモノが売れなくなり、消費意欲が低下することがあらためて理解できたとともに、インフレにおける消費意欲の向上が実感できた。
何かにせっつかれたようにモノを買いあさるインフレ時の心理というのは、経済が密接にかかわっているのだと、深く納得してしまった。