南博のレビュー一覧

  • 日本人の心理

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    初版は昭和28年。実に70年以上も前の日本人論ですが、思い当たる節がとても多く、非常に面白く読めました。
    ということは、日本人の心理は当時も今もあまり変わっていないのかもしれません。

    まず、日本人の幸福感と不幸感については、後者に実に三倍程度ものページが割かれています。
    日本人は幸福という言葉を使うことが非常に少なく、幸福とは空しいもので、不幸を忍ぶことが美徳であるという観念が教え込まれているということを、様々な例を挙げながら指摘しています。
    また、日本人は不幸や不運をあきらめたり慰めたりすることで、消極的に不平不満を抑える工夫をする一方、むしろ積極的に、修養にとっていいことだなどの理由をつけて受け入れるという不足主義、不完全主義のような心境がある、とも。
    著者はこういった心理を「日本的マゾヒズム」と称しており、今の境遇を何かと理由をつけて我慢する、慰めになることを見つけて気を鎮める、不幸の原因を自分自身に負わせる、といった解決(折り合い)がなされていることも指摘しており、日本人の不幸感を深掘りしたこの部分には大いに頷かされたところです。

    その他にも、日本人の非合理主義と合理主義、精神主義と肉体主義なども論じられており、敗戦後という事情を割り引いても、十分現在にも通用する充実した日本人論だと思います。

    日本人の心理的特性がよく整理されたこの本がとても面白かったので、著者による「日本的自我」、「社会心理学入門」の二冊もすぐに注文してしまいました。
    優れた研究は時を超えても色褪せることはない、ということをあらためて認識した次第です。

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    2025年08月31日
  • 日本人の心理

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    日本のキーワードは"自然を愛でる"なんだと思う。科学と日本の相性がさほど悪くないのは科学も自然に対する愛情がなきゃ観察しようという風にならないじゃん。だから日本人は科学的感性の高い国民だと思う。数学のノーベル賞受賞者数、日本人世界5位だし、西洋数学が入ってくる前の江戸の関孝和とかも凄かったしね。

    南博
    (みなみ ひろし、1914年7月23日 - 2001年12月17日)は、日本の社会心理学者。日本女子大学教授・一橋大学社会学部教授・成城大学教授を歴任。日本社会心理学会第3期・第9期・第10期理事長。

    われわれ日本人は、外国人にくらべると、「幸福」ということばを使うことが非常に少ない。とくに日常の会話では、「ぼくは幸せです」とか「わたしは幸福よ」という文句を使えば、たいへんキザであるか、芝居がかって聞える。  そうして、書きことばでは、手紙などに、「幸甚に存じます」とか「幸せに存じます」と書いたりするけれども、それは、やはりよそ行きのことばである。どうみても、けっして実感を伴ったことばではない。  これは、つまり、日本人のあいだでは、幸福な状態についての生活感情が、なんらかの理由でうすいからであろうと思われる。幸福ということばが、日常に使われないのは、日本人が生活上、幸福に縁遠いことばかりでなく、幸福について遠慮しがちな習性を養われてきたからにちがいない。

    そこで、日本人の幸福感がうすい由来をたどってみると、むかしから、幸福とは危険なあるいは空しいものであり、同時に不幸を忍ぶことが美徳であるとする観念が、くりかえし教え込まれているのである。いまそれを便宜上、幸福危険論、幸福空虚論と、不幸弁護論とに大きくわけて考えてみよう。

    このように、歌道は、人生が無常で、はかないことを悟るための方法であり、のちに見るように、自然のなかに人間の無常を見てとろうとする日本独特の感傷詩は、中世の連歌以来今日の流行歌にまで流れ込んでいる。

    また、今日でも多くの人によって特殊な精神修養の一つとして考えられる茶道には、無常感を会得して、人生の不幸に対処する心構えをつくることを目的とする、という考えがいまでもつよく残っている。  茶道では、茶会を「一期一会」といって、一回ごとの茶会に席を同じくする人たちは、それを一生に一度の機会として、再会することはないと思う気持でふるまわなければならない。そこに、茶会の無常感があるというのである。

     「……一生に一度の茶会にて、……ふたたびめぐり合ふこともなき……うたかたの如く儚く消えてゆく茶会……人の世の儚さを、……真実に知らしてくれる」のが茶会である。

    不幸への心理的免疫であるこの無常感に対して、積極的に、人生の無常から、かえって思いがけない幸福を予期するという態度も出てくる。このばあいには、無常感が、幸福の否定につながるのではなく、不幸の否定にみちびくのである。のちに運命主義の章でくわしくあつかうけれども、無常感は、賭けの精神と結びついて、日本に独得な運命論となっている。

    これは一例だけれども、むかしから日本人が自然に親しみを感じ、社会よりも自然に関心が強く、とりわけ芸術の領分では、自然を材料として、うたい、描き、のべることが、さかんなのはなぜだろうか。

    日本人が好んで自然を文学作品の題材にすることを、日本の「風光明媚」のせいにする人も多いが、ただ景色がよいとか、季節のうつりかわりが美しいから作品の対象になりやすいだけではなく、やはり自然を擬人化して、あるいは逆に人間を自然化して見る態度が、伝統的につづいているからでもあろう。

    この態度がいちばんはっきり文学作品のなかに出ているのは、前にも引いた中世の連歌である。連歌は、まさしく、形式の上でも、また内容についても、自然と人生に共通な転変をあらわしているのである。二条良基は『筑波問答』に、「連歌は、前念後念をつがず。又盛衰憂喜、境をならべて移りもて行くさま、 浮世の有様にことならず。昨日と思へば今日に過ぎ、 春と思へば秋 になり、 花と思へば紅葉 に移ろふさまなどは、 飛花落葉 の観念もなからんや」と、連歌の形式が自然と人生の無常転変をそのままあらわしていることを説いた。

    そうして心敬が、「心ふとく欲心をかまへ」ている人たちが、「言葉ばかりにて、うく、つらき、かなしき、あぢきなき、世をいとふ、身をすつるとのみいへども、かたはらいたくこそ候へ」(『心敬僧都庭訓』) と嘆いていることは、逆にいうと、心敬にとって歌道は、「心ふとく欲心をかまへ」るような態度を直すための修養であったにちがいない。これは、やはり、自然のなかに無常を見て、人間の不幸をあきらめ、悟りに達する心術としての歌道を考えたからであろう。

    日本人が自然を愛する気持には、このように、人間の世界を逃れて、唯一の「我がもの」として心を休めるなぐさめがふくまれる。

    不足主義の美を、いちばんはっきりと説くのは茶道である。とくに、侘茶といって、寂庵宗沢などがいう、茶禅一如の境地では、足るを知ること、不足に甘んじることが、茶道の真意であるとされている。宗沢の『禅茶録』に、「侘とは物不足して、一切我意に任ぜず、蹉跎する意」であり、「其の不自由なるも不自由なりとおもふ念を不生。不足も不足の念を起さず。不調も不調の念を抱かぬ」ことが侘である。  そうして、たんに不足を不足としないだけではなく、「 不如意をもつて楽みとす」るというのが、『禅茶録』の不足主義なのである。

     また男女にかぎらず、他人の顔かたちについても、一般に関心の強いことは、アメリカの本には、かならず著者のポートレートがはいっていることでもわかる。  日本でも、戦後には、アメリカの影響から、右にのべたような肉体主義が、しだいに強くなってきた。たとえば戦後の本で、著者のポートレートをのせているものが、だんだんふえている。日本的な精神主義の心理的伝統によれば、本というものは、著者の精神労働の産物で、著者が、どんな顔つきをしているかは問題にならないはずである。戦前の読者は、本の著者へ「精神的」に近づくのであって、著者個人の肉体的条件は問題にしなかったのである。

    〈著者略歴〉 南   博 1914-2001年 1940京都大学卒業 1943年コーネル大学大学院卒業 一橋大学名誉教授,中国人民大学名誉教授, 日本心理センター所長などを歴任 専攻—社会心理学 著書—『社会心理学入門』『日本的自我』(2点,岩波新書) 『体系社会心理学』(全4冊)『社会心理学の性格と課題』 『行動理論史』(岩波全書)『ストレスとのつき合い方』 『化粧とゆらぐ性』『日本人論—明治から今日まで』 編著書—『大正文化』『昭和文化』『続・昭和文化』 『近代庶民生活誌』(全20巻)

    経歴
    1914年、東京市赤坂区田町(現在の東京都港区赤坂)に生まれる。父は医師の南大曹(福島県出身、1878年生まれ[1]。日本医科大学教授、日本消化器病学会会長、財団法人癌研究会理事長、南胃腸病院院長)。近藤達児は父の兄[2]。石川千代松は母方祖母の弟[3]。大倉喜八郎は叔母の祖父であり[4]、林達夫も叔母の縁続きに当たる[4]。

    慶應義塾幼稚舎、東京高等学校 (旧制) 尋常科から理科乙類を経て、父親の希望により医師を志すが、父の激務に恐れをなし[5]1937年東京帝国大学医学部を中退。1940年京都帝国大学文学部哲学科卒、同年京都帝国大学文学部副手就任。母親の幼友達であった高木貞二(心理学者、東京大学教授)の推薦を受け、アメリカのコーネル大学大学院に留学しダレンバックに師事、1943年コーネル大学Ph.D.。

    日米開戦後は敵性市民として軟禁状態に置かれ、大学院修了後は日本への帰国を望んだが、入国ビザが下りずコーネル大学講師等を経て1947年に帰国。同年日本女子大学教授就任とともに、高木貞二の紹介で東京商科大学(現一橋大学)予科非常勤講師となる。1949年一橋大学法学社会学部専任講師、1950年一橋大学社会学部助教授、1958年同教授。一橋大学に国立大学で初めて社会心理学の講座を設け、1964年国際心理学会常任理事就任。1969年から1974年まで日本心理学会常任理事。社会心理研究所、伝統芸術の会、映画と心理の会を設立し、後にそれらを統合し日本心理センターとし、その所長を務めた。全日本気功協会会長。民主主義科学者協会でも活動。1962年文学博士(京都大学)。学位論文は「体系社会心理学」。

    1978年に一橋大学を定年により退官し、同大学名誉教授。定年退官後は弟子の石川弘義の招きにより、1978年から成城大学教授をつとめ、1985年に成城大学を定年退職。中華人民大学名誉教授。また俳優座の養成所でも教鞭を執り愛川欽也等を教えた。1999年まで原宿に居住し、1999年から病気療養をかね国立がんセンターおよび聖路加国際病院に近い佃島に転居。2001年、肺炎のため死去。

    受賞
    1949年:毎日出版文化賞
    家族・親族
    妻は新劇女優の東恵美子で、日本で早くから夫婦別姓婚を行った夫婦としても知られた。その婚姻関係は「自由結婚」「別居結婚」「日本のサルトルとボーヴォワール」などとも呼ばれ、マスコミなどでも話題になった[6]。

    業績・研究内容
    戦後、アメリカ社会心理学を日本に導入し、国民性から大衆文化まで様々な社会現象の背景にある心理を解き明かし「日本人論」ブームをリードした。また、伝統芸能や映画、テレビ番組においても幅広く活躍した。フラストレーションの訳語に欲求不満という言葉を当てた。

    人物像
    仕事に熱心なことで知られ、子どもの頃から毎日8時間以上勉強するのが習慣だった。父から「勉強しすぎて死んだ奴はいない」と教えを受けたという。生涯無休で仕事を行い、亡くなる直前まで口述筆記で著書を遺している。

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    2024年01月19日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    SDGsがどのような交渉過程を経て、2015年9月25日に成立したかなどを、日本の首席交渉官だった南さんとNGOの取りまとめ役として政府との交渉に関わった稲葉さんによる共著で書かれていた。SDGsはコロンビアの1人の役人がまず訴えたことから始まり、ゴールの数や内容で途上国や先進国の主張のぶつかり合いなど、多くの交渉と妥協を経ていたことがとてもわかった。外交をやっている中での、作者の感情も綴られていて、意外とガチガチではなくお互い様子を見ながら交渉していることがわかり面白いかった。
    SDGsは2030年までなので意外と時間はないが、少しでも何か貢献できたら嬉しい。

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    2022年01月26日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    国内も海外も悲鳴をあげたくなる地域がある。打開に取り組もうと尽力される方の声や知恵は凄いものだと感じる出来事(事例)を本書でいくつか知った。本当は入門書的な本を手にしたかったのだが、結果として頭より胸で感じた良質なSDGs読本だった◎

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    2021年10月02日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    ネタバレ

    日本政府の元SDGs交渉官である南氏と、現役NGO職員で民間セクターからSDGs策定に貢献した稲場氏の共著。稲場氏には前職でお世話になったこともあり、本を物したと聞いて即購入。

    南氏の立場と経験を活かし、SDGsの成り立ちや交渉の裏話を楽しむことができるのが面白い点の一つ。他のSDGs解説の本では、こういった各国のSDGs策定における思惑や経緯を知ることは難しいと思われる。
    中盤以降は、稲葉氏と南氏の人脈や経験に基づく、SDGs達成に向けた様々なアクターの取り組みの実例が紹介されていく。SDGsを絵空事にしないためには、地方自治体や個人といった「下からの力」が必要なのだということがよく分かる。
    終盤では、SDGsのうち主だったゴールを達成するためのヒントや視点についてまとめられている。著者2名が冒頭で断っている通り、17のゴールすべてについて扱うのは難しいということで、取り上げられているのは半数程度。元々、SDGsのゴールやターゲットは膨大なので致し方ないところもあるが、ページ数が増えて価格が上がってしまったとしても、もう少しだけ多くのテーマを取り上げてほしかった、という気持ちもある。

    COVID-19以降に出版されたこともあり、今、人類が直面している「新しい危機」と、2020年以前から存在していた「古い危機」とを、SDGsを軸に繋ぎ合わせ、関連づけて考えることができるように工夫されている。概論に留まるところもややあるが、2020年末時点のSDGs入門書・概説書としては最良の部類に入るのではないか。

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    2020年12月30日
  • 白鍵と黒鍵の間に ~ジャズピアニスト・エレジー銀座編~

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    まあ南の大人の男にモテるのなんのって。
そこそこダルい呑気者のお調子者の部分もありながら、先生の教示に感動する青年部分もあり、上手く誤魔化す小賢しさもあり、でも結局、内側に隠している尖ったプライドとその反対側にある純粋さが偉いさんには見えてるんでしょうね。
そんなわけで無事なんとかアメリカ留学まで行きつき、銀座の皆さんに感謝するところまで行きつきました。
一番笑ったのはバンマス曽根さんに詰め詰めに詰められる所の書き口で、そういう点では南博のノンシャラントな文章は魅力的でもあります。
続刊にも手を出すかな。

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    2025年02月04日
  • 白鍵と黒鍵の間に ~ジャズピアニスト・エレジー銀座編~

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    映画をみて興味を持ったので手に取った。
    生まれる前の知らない時代、知らない世界の空気感をありありと感じられるエッセイ。

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    2023年11月11日
  • 音楽の黙示録 クラシックとジャズの対話

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    現在的な立場から「音楽」の成り立ちの歴史とその背後にあるものについて、クラシック音楽とジャスの両面から触れることができる。

    特に森本氏による西洋音楽の成立に関するさまざま言及が刺激的で、音楽というものを見つめ直す重要な手がかりをいくつももらった。(一方で、18もトピックがあるので仕方がないところではあるが、クオリティの浮き沈みは結構あったように思う)

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    2023年10月10日
  • 白鍵と黒鍵の間に ~ジャズピアニスト・エレジー銀座編~

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    シン仮面ライダー観に行った時の予告編で池松が主演だみたいにやってたのきっかけで読んでみた。

    20代の青春。80年代。
    著者は夢破れず、今もピアニストとして生きている。。自分の仕事、自分の居場所を失わずに済んだみたいな。
    自分は著者よりだいぶ若いけど、あの時にああしとけば?とかそんな過去について思わされた感じ。あと80年代ノスタルジーがいい感じ。

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    映画は低予算ゆえか衣装やセットなどから80年代ノスタルジーを排除して青春の希望と焦燥に焦点を合わせた感じで、最期はその辺の辻褄合わせか幻想シーンに突入。いまいちだった。

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    2023年08月08日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    ここ数年「SDGs」という言葉をよく耳にする。私の職場でもSDGsの取り組み例を募集!みたいな案内が来ていたっけ。
    SDGsは「持続可能な開発目標」と翻訳されるものだが、2030年を期限とする17のゴールと169のターゲット、および232の指標を示して、地球の再生能力を超えない持続可能な世界を目指すという国際的な取り組みである。
    本書はSDGsの概要、日本での取り組みなどが簡潔にまとめられているので、大人向けではあるけれども入門書としてはよく整理されていると思う。
    SDGsをテーマにした本が数多く出版されている中で、本書のオリジナリティとして挙げたいのは、日本政府代表として国連で交渉にあたった当事者である著者が、合意文書の採択に向けた交渉過程の舞台裏を明らかにしている部分で、ここが一番面白く読めた。
    まあ個人的には、SDGsの目指す方向性は疑いなく正しいという暗黙の大前提のうえで書かれているので、SDGsの理念に対して批判的な視点があまり見られないところは物足りないところではある。個々の内容を掘り下げていくと結構ツッコミどころはあるように思われ、本書の不足分を埋めるために別の本も読んでみたのだけれど・・・。(続く)

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    2022年11月29日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    SDGs策定までの道のりや、SDGsの活用例等が掲載されている。
    個人的に面白いと感じたのはSDGsのそれぞれのゴールの関連性と地方創生のお話である。SDGsのそれぞれのゴールは相関しているが、それはあまり世の中に周知されていない感覚がある。SDGsの投資基準等の概念であるESGでは、Eの環境問題への取り組みや脱炭素に関しては理解できるのであるが、Sの不平等の是正や、GのガバナンスがEにすぐには結びつかないと考える人もいるであろう。本書では、この部分についてレジリエンスを高めるためと説明している。資源が不均等、非効率に配分されている社会は、気候変動などの地球の限界に関わる危機や急性感染症などのその他のグローバルな危機に対して弾力性や回復力が十分にない、脆弱性を抱えた社会である。Eに取り組む前提として、SやGが必要であるという考え方である。ESGはこれまで不可視であったが重要と考えられていた概念を言葉にしたものである。私の好きな宇沢弘文氏は『自動車の社会的費用』の中で、何十年も前から、カーボンプライシングについて言及しているし、『社会的共通資本』でもSの在り方について述べている。資本主義はこれまで外部を作り出し、外部にコストを移転することで成長してきた。兼ねてより公害問題等は外部不経済と言われてきたが、我々の生きる世界に外部は存在しない。経済学における外部とは数値化できないというだけのことである。環境問題は危機的な状況であり、今後日本でも気温上昇により熱帯地域での感染症等が発生する可能性もある。そうした危機の時代の中で、社会が立ち向かうためにはレジリエンスが必要であり、レジリエンスを高めるためには根本的な不平等の是正や情報の開示が求められている。
    地方創生と言う観点であるが、個人的な感覚としてはローカリゼーションとグローバリゼーションはウロボロスの蛇のように、突き詰めると繋がってくるのではないかと感じた。地方における社会課題の解決に、SDGsの言葉を当てはめて進めている地方自治体もある。国家という枠組みの中では解決できていない概念は地方ではあきらめられていたが、SDGsという言葉を活用することで世界性をもった取り組みになるというある種逆説的な動きにはミュニシパリズムの流れも感じる。

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    2022年03月13日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    SDGsについての入門書。SDGsとは何か、どのような経緯で策定され、どんな内容なのか、課題は何かといったことがざっくりわかります。
    策定の経緯については、実際に交渉を担当した外交官が執筆しており、多国間交渉の裏話などもあって興味深いです。SDGsが、策定に3年かけたという、大変な努力のな賜物ということがわかりました。
    その他に、NGO関係者との共同執筆で、日本での行動事例、経済界で必要な対応などが述べられています。
    最後に、期限となる2030年までの道のりがSDGsの5つのグループ(People,Prosperity,Planet,Peace,Partnership)ごとに提言されています。
    概要がコンパクトにまとめられているだけでなく、読み物としても面白く、おすすめです。

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    2021年03月27日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    外交官とNGO活動家による共著。SDGsがそもそも何か、ポーラ・カバジェロの発案から合意に至るまでの交渉、日本での受容や活動、官民での取り組みなどわかりやすく説明されている。
    現状に妥協せずあるべき目標を立てそのギャップを埋めるための政策を総動員するというバックキャスティングという考え方。資源の枯渇や汚染が閾値を超えるために強制的な人口減少が始まる時期が2030-40年の間。国連での交渉においてG77+中国が発揮するダイナミズム。2年半の交渉において各国がオーナーシップを持ち始め、これまでかけた時間と労力の成果を失いたくないという思惑から合意に向かっていった。国連の持つ意味としてのコンビーニングパワー。
    日本の地方創生SDGsとして模範的な例となっている岡山市と智頭町はいつか訪れてみたい。

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    2020年12月29日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    日本政府のSDGs首席交渉官であった南氏が、国連や各国政府の立場や思惑が交錯しながら合意に至った背景を、SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)から市民社会で取り組みを続けている稲葉氏が、地方自治体や民間企業等で自分たちの課題に取り組む人々の行動や思いを、それぞれリアルに描いています。

    SDGsの「内容」を解説する書籍は、本書より大判でカラー図解入りのものが多く出ていますが、諸問題を統合的に捉え、あらゆる人々が参加し、そのつながりをエンジンにして解決に取組む、というSDGsの「精神」を理解するには、本書は最適の一冊と言えます。

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    2020年12月11日
  • 白鍵と黒鍵の間に ~ジャズピアニスト・エレジー銀座編~

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    南博は非常に美しい音色を奏でるジャズピアニストだが、その美しさは美辞麗句や綺麗事などではなく、バブルの銀座での生活で人間社会の汚さを体験した上で濾過された美しさであることを感じた。バブル期の空気を感じる読み物としても秀逸。

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    2012年02月01日
  • 日本人の心理

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    戦争の反省を踏まえ日本人は変わっていかねばならないため、そのためにあえて日本人にとって耳の痛い日本人特有の心理を描く、という本だった。
    日本人全般の心理を概観してくれる本かと思っていたのでちょっと思っていたのと違った......
    副題に「〜戦争の反省を踏まえて〜」みたいな言葉があればタイトルと内容のギャップが減りそうに思う。(が、発行が1953年と思うとそういう副題はいらないのかもしれない。)

    反省が主なので主に日本人の悪いところが描かれるが、大方自分にも当てはまる内容が多く、やはり根っこから日本人なんだなと思った。一方で、本当にこれって日本だけの特徴なのか?そしてそれは悪いことなのか?という話もチラホラあった。

    戦争の反省を踏まえ日本が同じ過ちをおかさないようにする必要があるのはもちろん同調している。
    しかし日本人の心理は状況に応じて良くも悪くも発露するものであろう。
    そしてそれはそれこそ「悪いところを変えよう」という気の持ちようでは精神論でどうにもならないであろうから、日本人の心理を把握したうえでそれが暴走しない社会の仕組みが必要なのではないかと思った。

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    2026年01月09日
  • 白鍵と黒鍵の間に ~ジャズピアニスト・エレジー銀座編~

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    下積み時代のお話
    運が良いとかよく言うけれど
    そういうふうに言う方も
    必ずどこかで
    必死に今を生きてきたのだなぁと思うエッセイでした

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    2024年07月07日
  • 白鍵と黒鍵の間に ~ジャズピアニスト・エレジー銀座編~

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    先日公開された同名映画の原作本で、ジャズピアニストである著者が銀座で高級クラブの雇われピアニストをしていた下積み時代を綴った回顧録。癖の強いバンマスや歌い手を相手に社会の厳しさを学ぶ様子は身につまされるし、ピンチを持ち前の機転で上手く乗り切る様子は痛快である。同世代の人間が決して手に出来ない高給を受け取れる一方、自分の人生はこれで良いのかと思い悩む南青年の姿もまた身につまされる。本書と地続きとなる渡米編もあるらしいが、こちらは入手するのが難しそう。店の重鎮・ジョージさんにまつわるエピソードが興味深かった。

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    2023年10月16日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    SDGについての研究書ではなく、政治的説明の本であった。民間運動についても少しは説明されている。卒論で研究するために、SDGについて政治的な説明としてはいいかもしれない。グレタさんについても少しは言及しているが、ほんのわずかに触れているだけでその説明はほとんどない。グレタさんについてはNHKのテレビ番組で見た方がいいと思われる。

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    2022年05月19日
  • SDGs 危機の時代の羅針盤

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    最近耳にするSDGs、なぜこんなに盛んに言及されるようになったのか、
    自分達はSDGsにどう向き合っていけばいいのか、そういうことを考えてしまう人にはおすすめしたい。

    近年の自然災害規模の甚大さを受けて、我々が環境に対する関心が高まっているというのも環境問題への取り組みを含んだSDGsのブームの一因ではある。
    が、ESG投資の興隆に伴い、ビジネスとして環境への取り組みが真ん中に据えられたことが大きい。同じような取り組みとしてCSRもあったが、それはどちらかというと、ビジネスの周縁の取り組みのような存在だったように思う。
    民間企業が本腰をいれるようになったのが、SDGsのブームの大きな一因であるといえる。

    また、あまりにも多すぎると思われがちなゴールと目標も実は大きな意味を持っている。
    17のゴールと169のターゲットがあることによって、どれかには必ず自分達が当てはまるというのが世界的にも大きな関心ごとになった要因となっている。
    前身MDGs(そもそもこの単語を本書を読むまで知らなかった)ではどちらかというと途上国の発展、飢餓・貧困の根絶が謳われ、じぶんごとではない先進国での関心は低かった。その反省を生かし、今回のSDGsは先進国でも発生する相対的貧困や地域格差など国の中の問題にも焦点が当たっている。
    MDGsの反省を踏まえた包摂度の高さがターゲットの多さになっているのだが、その包摂度の高さこそが世界のあらゆる国・地域のあらゆる立場の膨大な数の人々の参画によるSDGsの成立を成功させたといえる。つまりみんながみんな自身の関心ごとをSDGsの中に見ることができたので、成立できたと。(筆者が外務省勤務でまさにこのSDGsの交渉担当であり、国連会議の決議までのリアルな動きが記述されているのも本書の特徴の一つである。)
    まさにこれは我々個人にも適用される。つまり、17のゴール、169のターゲットから、自分達の関心や興味、問題を踏まえて選び取ればいい。関心や興味などがまだ漠然としている人はSDGsのターゲットや取り組みなどを見て、どれが一番関心があるかを考えてみる、問題の見取り図としての機能も果たす。

    なにか急に現れたSDGsというカタカナ語に毛嫌いせず、少し中をのぞいてみる、そのための一歩に本書はなり得ると思う。

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    2022年04月10日