キナ臭さが収まらない、むしろ活発化を増す今日この頃。
ここ数年から、数十年の世界の動きを俯瞰して捉え、故の国際情勢の現在地を把握するのに格好の書。内容はともかく、読みやすかった。
世界の強者(あるいは狂者)の三者の思考回路の裏付けとして、「失地回復(レコンキスタ)」のひと言で筋を通している点が、なによりの読みやすさだろう。言葉遣いがキャッチ―だ。
“取材を重ねるうちに、おぼろげに見えてきたものがある。「ツァイトガイスト(時代精神)」とも呼ぶべき時代の空気だ”
キーワードを使って、一瞬、お、カッコいいな、と思わせるが、上記は英語?をつかって同じことを繰り返し言ってるだけで、「おぼろげに見えてきたのは時代の空気だ」、というだけだ。
「はじめに」のところで、こういう言葉遣いをする著者なのだな、ということを分かって読み進むのが良い。
2013年9月の「アメリカは世界の警察官ではありません。われわれの力で全ての悪を正すことは不可能なのです」というオバマ発言にはじまり、2013年12月に中国の習近平が南シナ海の埋め立てに乗り出し、14年3月、ロシアのプーチンはウクライナ南部のクリミア併合という畳みかける見せ方は小気味よい。
そして、本書の主題である、「オバマはプーチンや習に『失地回復(レコンキスタ)に打って出る好機が到来した』と思わせてしまったのだ」ということをNATO十二代事務総長 アナス・フォー・ラスムセン(元デンマーク首相)の発言を引いて記す。
この誰かの発言をもって、さもそれが「正」とするかのような筆致も本書の特徴か。
こうしてオバマ発言により、世界の覇者の立場から身を引いたアメリカも、今や、その失地回復のゲームに参戦し、トランプ、プーチン、習近平の三つ巴で世界の覇権を争う構図が現在だ。
それぞれが、その思考に至った経緯を、近年のアメリカの凋落ぶりから語り、プーチンはKGB時代に東ドイツでベルリンの壁崩壊を体験した過去を、習近平は文化大革命で辛酸を舐めた生い立ちから浮かび上がらせる。
そしてヨーロッパでも、反移民の動きが活発化し、「逆植民地化」と呼ばれる、北アフリカ出身の移民によるヨーロッパの“植民地化”に対する、レコンキスタが動き出していると説く。「逆植民地化」が進行しているとフランスの作家ルノー・カミュが警告している。が、ルノー・カミュって誰?
中国共産党は四書五経の教えを利用し、祖先から受け継いだ領土を縮小してはならない、つまり『失った領土を取り戻す』、それが習指導部が南シナ海の領有権を主張し、台湾統一にこだわるゆえんだ、と香港を代表する有力視「信報」の主筆だった練乙錚のコメントを伏す。 錬って、誰?
プーチンが、「米国内の対立をあおり、分断を広げるのが目的だった」とし、プーチンと右腕のスルコフでアメリカに情報工作を仕掛けだしたのが2011年ごろからだと、長年、米誌「ニューズウィーク」日本版のコラムニストを務めたカール氏の証言を語る。誰だよ、カールさんって?
なんだろう、この懐かしい感じは……? と思って読み進んでいると、ふと「あ、落合信彦!?」と、今年(2026年)2月に鬼籍に入られたバブル期の人気作家のことを思い出した。
まだ、何も知らない10代のころ、ワクワクして国際情勢の裏表を氏の著作で読んだものだが、大人になって思い返すと、CIAに努める知人とか、名前は明かせないモサドの高官などなど、随分、怪しげな人の証言を元に論を展開していたなと、眉唾が癖になったもの。
本書も、とは言わないが、ちょっとそんな雰囲気も感じないでもない。
国際情勢を面白おかしく、読者の興味を惹きながら物語を展開する、見事な筆致ではあることは認めておこう。 南北格差から、SNSといった情報発信の現代の問題をも包括し、新書にして分厚い300ページ超を、あっという間に読めた。