川北省吾のレビュー一覧
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レコンキスタというキーワードを使いつつ、リベラル自由貿易の世界から、力をむき出しにして自国優位を確保しようとするパワーポリティクスへと変化しつつある、現代の国際社会を論じている。
各国の研究者、有識者へのインタビューが素晴らしい。例えば、トランプ大統領支持者のベースになっている、グローバル化による格差拡大への反発については、今後大きな変革に繋がる可能性があり、それは1930年代の世界大恐慌からのニューディールや、1950-60年代の公民権運動に例を見る事が出来る、との事。こう言った過去に学ぶ事は、扇動的な情報でフィルターバブルが形成されやすいSNS時代においては、特に重要であると感じる。 -
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ロシアのウクライナ侵攻以来、米国の関税見直しやイスラエルによるパレスチナ攻撃、米国とのイラン攻撃など、えっ、えっ、と驚きを感じる事態が続いている。
少し前に普通だった民主主義や自由貿易がどんどん姿を変えて時代が巻き戻されている感覚を覚える。
そして世界はこんなに不安定な状況を抱えながら、不思議なほど平常心を保っているようにも見える。
この本を読み、ただ自分が気づかなかっただけで、今の状況はなるべくしてなったことを知った。
一つ一つの出来事が世界の潮流を形造っていることに気づかなかっただけなのだ。
2013年にオバマが「米国は世界の警察官ではない」と宣言したこと、ソビエト連邦やKGB解体に直面したプーチンがヨーロッパでの立ち位置を持てず東欧諸国のNATO加盟の動きに直面していたこと、習近平が「一体一路」を掲げ中国を利する外交を続けてきていること。
2025年1月、第二次トランプ政権の国務長官を務めるマルコ・ルビオは、第二次世界大戦後の国際秩序は時代遅れであると断じ、自由貿易や移動の自由を否定する発言をした。
「力こそ正義」の時代、日本と日本国民は何を信条に生きていくべきなのだろうか。 -
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トランプ、プーチン、習近平、ゼレンスキー、ヨーロッパの極右、BRICS、第三世界などの様々な異なる思惑、毎日のニュースを見ているだけでは分からない時代の流れや行動原理が、著名な人物へのインタビューとして大変わかりやすく描かれていた。
この一冊があれば冷戦終結から2026年の今日までの世界の流れを把握することができるだろう。
我々日本人はアメリカの民主主義の顔しか知らない。大手メディアの流すニュースは西や東海岸の成功したリベラルな人々によるもので中西部の人々の生活や思いを知らない。だから初めてトランプが当選した時も再選した時も驚いたが、それは単に我々日本人がその内情を知らなかったに過ぎず、今のアメリカではそれがメインストリームなのかもしれない。
そんな日本人の知らないロシア、中国、ヨーロッパ極右などの思想などを公平な視点で教えてくれる。
かつて力のあった者達が新興勢力に押され衰えていく段階で、失地回復としての行動原理に説明ができるものが多く、目から鱗だった。
世界は常に均衡を取ろうと、ある一方向に急激に流れが向かい過ぎると反対の流れが自然と生まれる。
冷戦終結時に「歴史の終わり」とされ、民主主義が人類の統治の最終形になると説き、西側の勝利で終わり、アメリカ一強が続くと思われていたがまたしても群雄割拠の新たな勢力図に塗り替えられていくのだろう。
我々はまさに「その力こそが正義」という歴史の渦中にいるのだ。
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ツァイトガイスト(時代精神)と呼ぶべき時代の精神
多くのメトロノームを一斉に起動させると最初はバラバラだが時間と共に同調してリズムが揃っていく。同期現象、シンクロ現象
万物は共鳴する。異なる国に暮らしていても相互に作用し合いメトロノームのように同調し、一つの時代潮流(トレンドライン)を形成する
プーチン、習近平、トランプを突き動かしているのは失地回復(レコンキスタ)
強権指導者(ストロングマン)
プロローグ 「警察官」の退却/
アメリカは世界の警察ではない、我々の力だけで全ての悪を正すことは不可能だ。オバマの2013/9のシリアに向けた演説で、超大国アメリカが退却モードにあると捉え、中ロが南シナ海埋め立てやウクライナ南部のクリミナ併合を行った。
第1章 覇者の驕り──「無敵」から「Gゼロ」へ/
歴史の終わり
WW2でファシズムを、冷戦で共産主義に勝利したリベラルな民主主義は人類の統治の最終形で歴史における思想上の終点
ネオコンサバティズ新保守主義 国際社会の同意がなくとも自由と民主主義のためなら、アメリカ単独で行動し軍事力を行使することも厭わない
テロを根絶するには世界を民主化する必要がある。過激思想を醸成する土壌を取り除き自由を育む新たな土壌と入れ替え独裁を倒し民主主義を作る必要がある。独裁を倒すためなら武力行為も辞さない
リベラル帝国主義 多国間協調で国際的な合意を取り付けた上で行動することを好む
アメリカは人類を進歩に導く例外の国とみなすのは諸刃の剣
他国の文化や宗教に配慮せずに独善を押し付ける可能性がある
スンニ派 フセイン 2014年 イスラム国IS
シーア派
ダグラスルート 私たちはアフガンに関する基本的な理解を欠いていた。人口構成は?経済のエンジンは?100億ドルの資金でアフガンで何かやるつもりなのか?
独裁者を追放し民主主義体制への転換を目指すというのは、主権国家征服の試みに等しい
市民的自由や民主主義の伝統を持たない国に西洋の思想を押し付けても、土地に合わない作物を植えてもうまく育たないのと同じようにうまくいかない。
イアンブレマー G0 主導国なき世界 どの国も国内の問題に足を取られ国外における責務を積極的に果たそうとしないために結果的に弱肉強食のジャングルの掟が罷り通る世界になった
ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンにはソ連の残した核兵器が大量に残されていたが1991年のブダペスト覚書で核兵器を引き渡せば主権領土を尊重して武力行使をしないと約束した。その20年後の2022年にクリミア併合
ノーマンズランド 主なき荒れ野
イギリスのEU脱退、ヨーロッパのポピュリズム、アフガンからの米軍撤退、泥沼化するシリア内戦、ミャンマー軍事クーデター
G0は新しい秩序が生まれるまでの過渡期であり、不安定な地政学的な後退期
第2章 「格差」の超大国──アメリカを蝕む病/
上位1%の超富裕層国富の30%を占有する
格差への不満は左右を問わず煽動家が登場する余地を生む
第3章 リバンチズム──「大ロシア」再興の野望 /
シュタージ
KGB
プーチン 東ドイツ ザクセン ドレスデンに勤務
冷戦期の世界を二分していたアメリカとソ連は対立しながらも対等の立場から両国と世界の安定に責任を持つ。
フリーダムアジェンダ フセインの独裁体制を打倒してイラクを民主国家に作り替えるのを危険視した
色の革命
2003年 グルジア 現ジョージアのバラ革命
2004年 ウクライナ オレンジ革命
2007年 ミュンヘン安全保障会議 一極世界を批判
NATO
1990 統一ドイツ
1999 チェコ、ハンガリー、ポーランド
2004 バルト3国などの7カ国
ソ連が東欧から立ち去った後アメリカがドン底状態のロシアに押し付けた秩序。かつての勢力圏が次々と西側の陣地に塗り変わった
グルジアとウクライナのNATO加盟承認はロシアへの宣戦布告に等しいと考えメルケルは反対した
国家消滅と再建 1989冷戦終結、1991 ソ連崩壊
米欧と協力模索 2000プーチン大統領就任
米欧と対立 2007NATO東方拡大を批判、2008グルジア侵攻
失地回復 2014 ソチ五輪、ウクライナクリミア併合、2015 シリア軍事介入、2018 サッカーワールドカップロシア大会 2022 ウクライナ侵攻
ピョートル1世に自らを重ねる
第4章 百年国恥──中華民族の偉大な復興 /
洋の東西を問わず政治とは利害調整でおる。権力を目指す者は各集団の力学を把握し均衡に腐心する
文化大革命で四回投獄され農村で農作業をする下放運動で15〜22まで働いた
2013年1月 南方週末では憲政の夢の社説で言論、出版、集会、結社、行進やデモの自由を主張したが弾圧を受けた
第5章 「南」の逆襲──BRICSの論理と心理 /
ヨーロッパ諸国は欧州の問題こそ世界の問題であり、南の問題は自分たちの問題ではないという発想から脱却しなくてはならない。新型コロナのワクチンの配布に先進国と発展途上国とで差があり、命の格差がある
南の阻害感
アメリカはロシアに制裁を科して、キャスティングボードを握るグローバルサウスにも加えるように求めたが、ロシアのエネルギーに頼っている国々であり関わりたくないという言い分。
「相手が誰であれ名指しで非難し恥をかかせ、孤立させようとしても望ましい結果をもたらさない。そうした向き合い方は逆に態度を硬化させ建設的な対処法になり得ない」
南アフリカのスークラルが、ロシアのウクライナ侵略行為に対してなぜ西側と一緒にロシア非難に加わらずに決議案に棄権票を投じるのか、に対する回答。89年の冷戦終結後にNATOを拡大しないと言質をソ連側に与えていたのに約束を違えて東方拡大した事にも大局的に考えて一因はある。
BRICSは権力の再配分を目指す。
既得権を握っている者は新参者にそれを譲ろうとしない。権力の上座にいる人を追い出そうというのではなくテーブルを広げ椅子を増やすように求めているだけだ
第6章 白人の焦燥──「人種置換」の世界観 /
1619 黒人奴隷が初めてアメリカ大陸に連れてこられた
2045年には白人は半数を割り人種的少数派に転落すると予測される
1965 移民法改正ビザの発行をヨーロッパ出身者への優遇枠をなくし、アジアや中南米からの大量移民に道を開いた
ポリティカル コレクトネス 人種、性別ら性的指向に関する差別偏見を避けるために言動に気をつけること
かつて、白人、アングロサクソン(イギリス系)、プロテスタントのワスプWASP
大量の移住は大量の敵対心を生み出す。よそ者に対する恐怖心は最も本能的な人間の反応
政治や経済界の支配集団が少数にとどまる「マジョリティマイノリティ」
多様性の中の統一「エ・プルリズム・ウヌム」
ドイツ 最近の世論調査でAfDの支持率は最大29%に達し、メルツ氏率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の約22%を上回っている
エコーチェンバー 閉鎖空間で互いに反響し増幅しながら共振し時空を超えて同期していく
第7章 SNSと情報工作──民主主義の新たな脅威 /
クロスポリネーション 他家受粉
本来植物は自身の個体に受粉するが風や虫によって花粉が運ばれて別の個体に付着して受精する事
SNSでグローバルに展開した
自由より統制、民主主義より権威主義を志向する者たちのレコンキスタ
個人の権利を重んじる民主主義は西側の価値観に基づく政体。ロシアでは中世の農奴制に始まり長らく個人が国家に従属してきた。西側の価値観は自分たちの伝統を破壊しロシアの偉大さを否定する悪。全権力を指導者へ
ジョージオーウェル 全体主義を鋭く批判した
第8章 「警察官」の犯罪──時代遅れの戦後秩序/
リヒテンシュタイン ウェナウェザー
安保理決議と異なり中小国の多い総会の決議には限界があることは十分承知している。それでも特権乱用に異を唱え説明責任を果たすよう粘り強く働きかけることで拒否権の正当性や影響力を削ぐことはできるのではないか?
そもそも普通の人にとって安保理の決議か総会の決議かなんて大した問題ではない。大切なのは巨大な危機に対して誰かが何かを決めるかどうかなんだ
中国 腰の低い韜光養晦から急速に存在感が高まった
第9章 逆流する歴史──よみがえる伝統主義 /
冷戦終結後に歴史の終わりでフランシスフクヤマがリベラルな民主主義が人類の統治の最終形になると説き、西側の勝利で終わったはずだった。冷戦終結から35年、アメリカ主導で築き上げてきた国際秩序を塗り替え新秩序の形成を狙う権威主義、独裁国家による反米の枢軸の中ロ朝
都市に対する農村の、エリートに対する大衆の、ウォークに対する常識の、自由陣営の店子(同盟国)に対する大家(盟主)の失地回復
近代に対する伝統主義や修正主義の失地回復
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なぜいま、国際政治の前面に、再び「力」が姿を現しているのでしょうか。
ロシアによるウクライナ侵攻、中国による台湾や南シナ海への圧力、アメリカで繰り返される「偉大な国を取り戻す」という訴え、各地で強まる移民排斥や伝統主義。一見すると別々の問題に見えるこれらの現象を、本書は「レコンキスタ(失地回復)」という一つの言葉で結び直します。
本書は、共同通信社が2022年3月から2025年4月にかけて隔週で配信した大型国際インタビュー連載「レコンキスタの時代」を土台に、書き下ろしとして全面改訂したものです。
#### 【目次】
プロローグ 「警察官」の退却
第1章 覇者の驕り―「無敵」から「Gゼロ」へ
第2章 「格差」の超大国―アメリカを蝕む病
第3章 リバンチズムー「大ロシア」再興の野望
第4章 百年国恥 ー中華民族の偉大な復興
第5章 「南」の逆襲ーBRICSの論理と心理
第6章 白人の焦燥ー「人種置換」の世界観
第7章 SNSと情報工作ー民主主義の新たな脅威
第8章 「警察官」の犯罪―時代遅れの戦後秩序
第9章 逆流する歴史―よみがえる伝統主義
エピローグ 「19世紀」へ向かう歴史 -
Posted by ブクログ
本書は、現代の複雑極まる国際情勢の核心に位置するロシア、中国、アメリカという3大国の混迷と動向を、「失地回復(レコンキスタ)」という共通の視点から紐解いた壮大な考察である。
世界を左右する主導権を握る3カ国の動きが、それぞれ「レコンキスタ」という固有の情念と目標に向かって連動し、共振していくダイナミズムには終始惹きつけられる。同時に、その巨大な振幅に我が国・日本もまた巻き込まれ、共振しようとしているのではないかという戦慄を禁じ得ない。
多士済々の専門家に対するインタビュー形式の記述も充実しており、多角的な視点が立体的に配置されている点も秀逸だ。過去の各時代において発生した個別の問題が、一本の伏線として現在へとつながり、今日の混迷を結実させているという構造的な分析は極めて興味深い。
不透明さを増す現代の国際情勢を、感情論ではなく巨視的な視点(マクロな視界)から俯瞰するために、決して欠かすことのできない「必読の一冊」であると断言したい。 -
Posted by ブクログ
歴史は繰り返されるってよく言われるけれど、
なるほど、こうやって繰り返されるのかと思った。
誰もがきっと戦争はしたくない。だけども、その時代において恩恵を受けることができず、常に変わる世界の環境や状況の中で、変化を受け入れられない人々がいる。そういう人が増えていくことで、自分たちの権威を守るため、人は戦うのだと、
後から振り返れば、なんであの戦争が、、、とか何も学ばないとか色々言えるけど、今を生きるこの瞬間を置き換えることはできない。
第二次世界大戦以後最大のうねりが起き始めてるように思う。
各国のそれぞれの事情や思惑が交差していく。
グローバル化して発展したその裏で失われた価値観や、文化を取り戻そうとどんどん自国ファーストがトレンドになっていってるこの世界はどこへ向かうのだろう。
そして自分は何を信じて生きていけばいいのだろう。 -
Posted by ブクログ
複雑怪奇な現代社会の秘密を、「レコンキスタ」というマンガっぽい響きを感じるコトバを幹に据えながら、数多の関係者を縦横無尽にインタビューしてあぶり出した一冊。小説より小説だった。問題は、これが小説と違って、ノンフィクションだということ。小説と違って、結論がコントロールできないこと。
かつての猪瀬直樹作品のような、お世辞にも面白いとはいいにくい切実な話題まで、ぐいぐい読ませる筆力に脱帽。
あまりに巧すぎて、なるほど!うわーそうなのか!という感想が止まらないのだが、逆にそこまで巧すぎることで、「この本の主張って、ホントのホントに世界の解説になってるんだろうか?偏向ないんだろうか?」と勘繰りたくなるぐらい、物語に飲み込まれてしまう。
大学生じゃ遅いかもしれない。高校生2年生には読んで欲しい一冊。 -
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アンジェラ・ステントによれば「プーチンは内心、脅威を感じていた」と言う。民主化のうねりが近隣諸国に及び、ドミノのように波及すれば、いずれはロシアにも押し寄せてくると危惧していたのだ。
プーチンは東ドイツのKGB支部に勤務していた時、「ベルリンの壁」が崩壊するさまを目の当たりにしている。ドレスデンのKGBオフィスに押し寄せた群衆の姿も脳裏に焼き付いていたに違いない。
「彼は民主主義の力を身に染みて知っている」とステントは語る。現代ロシアの「皇帝」はグルジアやウクライナで進行する「色の革命」を眺めながら、「敵に包囲された要塞の城主のように」不安に駆られていた。
イラクから旧ソ連諸国へ波及する「自由の拡大」。冷戦後に失った勢力圏の回復という野望を秘めたプーチンにとって、自分の〝縄張り”に手を突っ込まれるような感覚だったろう。
07年、その怒りが頂点に達し、誰の目にも明らかになる事件が起きる。舞台となったのが、世界の首脳や閣僚らが一堂に会するハイレベル外交の舞台「ミュンヘン安全保障会議」だった。
ソ連的世界観
「皇帝」の心理と論理はどのようなものなのか。アンジェラ・ステントは自著『プーチンの世界』で、プーチンを突き動かすドクトリンを考察した。核心にあるのは「国の大小によって主権に差がある」との信念だという。
「彼は『一握りの大国だけが完全な主権を備えている』と語ったことがあります。ロシア、中国、インド、そしてアメリカです。逆に言えば大国は、不完全な主権しか持っていない近隣の中小国の主権を制限し、従属させる権利すら持っていると信じ込んでいる。(中東欧諸国を衛星国化した)旧ソ連に似た世界観と言えるでしょう。『ウクライナは国ですらない』という彼の言葉は、こうした世界観に由来します」
プーチンはウクライナだけでなく、アメリカの安全保障に頼る日本やドイツの主権にも疑問を呈したことがある。ドイツは今なお「占領」下にあると公言し、日本にも「(ワシントンの意向を離れ)主体的に行動できるのか」と問いかけた。
「ウクライナの非ナチ化」というプーチンの要求も、こうした文脈に照らすと分かりやすい。「国ですらない」のに国家主権を掲げるのは、ナチス・ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーのような「極右ナショナリスト」というわけだ。
だからこそ、プーチンはウクライナの大統領ウォロディミル・ゼレンスキーを「ネオナチ」と呼ぶ。彼の目には、ウクライナ人の愛国心を鼓舞する指導者の姿が、ソ連に牙をむいた「ナチス」のヒトラーと重なるのだろう。
戦略的中立
ーーだが、ロシアを非難しなければ、侵略行為に目をつぶることにならないか?
「われわれに言わせれば、何がこの紛争を引き起こしたのかという対局的な視点に立って物事を見る必要がある。根本原因をたどっていくと、ロシアだけの問題ではないことが分かる最たる例が米欧軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大だろう。西側は89年の冷戦終結後、(NATOを拡大しないという)言質をソ連側に与えていたのに、その約束を果たさなかった」
ロシア大統領ウラジーミル・プーチンの西側批判さながらである。ただし、スークラルに言わせれば、南アは必ずしも反米ではない。対立する当事者のどちらか一方の肩を持たないようにしているだけだという。
「相手が誰であれ、名指しで非難し、恥をかかせ、孤立させようとしても望ましい結果をもたらさない」とスークラルは言う。「そうした向き合い方は逆に態度を硬化させ、建設的な対処法になり得ない」
だから、ウクライナ戦争に限らず、対立する当事者同士が交渉のテーブルに着き、話し合って解決策を探るよう働きかけるという。「そうした『戦略的中立』こそ、われわれの基本的な外交路線なんだ」
グレンコは言う。
「ロシアの介入目的はアサド体制の維持だった。シリアにはロシア海軍や空軍の拠点がある。アサド政権が倒れたら、中東のど真ん中に築いた貴重な足場が失われる。だが、アサドという独裁者を守るだけなら、反政府軍を狙えばいい。住宅地への無差別攻撃を繰り返し、民間人を殺傷して、膨大な数の住民を国外に追いやる必要など全くない。だから軍事介入の前か後かは分からないが、ロシアはある時点で、戦災者を使って西側を弱体化できることに気づき、大量の難民をヨーロッパに送り込む工作に乗り出したとみている」
事実とすれば驚きである。情報操作にとどまらず、難民を「武器」として利用していたことになるからだ。確たる証拠があるわけではない。ただ、状況証拠はいくつもある。その一つがロシアの同盟国ベラルーシからの難民流入だ。ロシアがウクライナへ侵攻する前年の2年6月以降、イラクやシリアなど中東から、べラルーシ経由でポーランドやリトアニアなどに流入する難民が急増した。EUはベラルーシが故意に送り込んだと非難した。22年2月のウクライナ侵攻後も、ロシア軍は住宅、学校、病院と、あらゆる民間施設を標的にした。パトルシェフの発言やシリア内戦の先例を踏まえると、大量の難民をヨーロッパに送り込み、不安定化を図る狙いがあっても不思議はない。
実際、大量のウクライナ人が家を追われ、ヨーロッパ各国に避難した。ただ、シリア内戦時と異なり、ヨーロッパと同じキリスト教の文化的背景を持っていたため、15年の欧州難民危機時のような軋轢は生じなかった。
それでも大量の外国人を抱え込むのは簡単ではない。支援のために税金を投入したら、納税者の負担となる。支援疲れが広がれば、移民や難民への不満は膨れ上がる。ロシアはそれを見越し、さまざまな工作を仕掛けている。
カールによれば、ゲノンのような伝統主義者と独裁者には親和性がある。相通じる信念を持っているからだという。それは一体、どのような信念か。「現代社会は堕落している」という考えだ。
カールは言う。
「彼らは『近代合理主義や物質主義は人生のよりどころとなる精神的価値を蝕んでいる』と強く信じている。人は神を信じなければ存在意義を失う。民族の"純血”を信じない者は無価値だ。道を示してくれるストロングマン(強権指導者・独裁者)を信じないと方向を見失う―――とね」
彼の言葉を聞きながら、ウラジスラフ・スルコフを思い浮かべた。帝政期の怪僧になぞらえ、「プーチンのラスプーチン」と呼ばれたクレムリンの戦略家。時空を超え、現代ロシアに現れた伝統主義者である。
スルコフは2021年、「過度の自由は致命的だ」と述べている。プーチンがインタビューで「リベラルな考えは時代遅れ」と公言した2年後だ。「2人の目には、行き過ぎた西洋化は「堕落」と映っていたのだ。
カールによれば、サウジやロシアのジレンマは、強烈な外来文化と対峙した全ての社会に共通する。日本でも1853年の黒船来航後、尊皇攘夷運動が沸き起こった。天皇を敬い外国排斥を唱える伝統主義である
現在のヨーロッパも似た状況にあるという。中東や北アフリカから流入するイスラム系移民との文化摩擦の中で、伝統回帰を説く「ドイツのための選択肢(AfD)」やフランスの「国民連合(RN)」などの右翼政党が台頭している。
ストロングマン(強権指導者・独裁者)も現れた。代表格が「ハンガリーのトランプ」と称されるビクトル・オルバンである。欧州連合(EU)加盟国の首相でありながら、プーチンに理解を示し、異端児と評される。
ヨーロッパだけではない。インド首相のナレンドラ・モディ、トルコ大統領のレジェプ・タイップ・エルドアン、イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ・・・・・・。ストロングマンは各地で権力の頂に立っている。
「地域を問わず、伝統主義がよみがえっている証しだ」とカールは言う。民主主義大国アメリカも例外ではない。行き過ぎたリベラル化への反動として伝統回帰のトレンドが生まれ、力強く脈打っている。
ドナルド・トランプはその産物だ。2016年の大統領選に当選後、20年に敗北したものの、不倒翁のように再起し、24年に再び勝利した。彼を支える「MAGA(米国を再び偉大に)」運動は、アメリカの土壌で咲いた伝統主義とも言える。
MAGA派の思想的支柱の一人で、トランプの右腕だったスティーブ・バノンも、ルネ・ゲノンの伝統主義に心酔していた。「バノンはアメリカの伝統主義者だ。米国版のスルコフなんだ」とカールは言った。
トレンドライン
キメジが語る。
「冷戦終結後、リベラルな民主主義が失速し、リビジョニズム(修正主義)が勢いを増す『トレンドライン(時代潮流)』が形成され始めた。そうした歴史の転換は、恐らく12年ごろにロシアで始まった。それから中国、インドやトルコにも波及し、修正主義に立脚する
『ストロングマン(強権指導者・独裁者)』が次々と現れた」修正主義とは、既存の秩序や歴史観の書き換えを図る立場や運動である。その担い手は修正主義者(リビジョニスト)と呼ばれる。アメリカやヨーロッパは、欧米主導の秩序を打破しようとするプーチンや習を修正主義者と見なした。
ところが、その時代潮流は、当の西側にも押し寄せていた。「『民主主義の欧米』対『権威主義の口中』」という構図がしばしば喧伝されたが、アメリカやヨーロッパの民主主義も侵食されていたのだ。
キメジは率直に告白する。「私は14~15年、国務省の政策企画局に籍を置いていた。アメリカでも修正主義の胎動が始まっていたはずだが、私や同僚はそうした変化をよく理解していなかった」
時の大統領はリベラル派のオバマである。彼に仕える外交エリートは自由民主主義を信じ、非リベラルの伝統主義とは正反対の価値観を持っていた。「要するに、われわれは伝統回帰のトレンドラインを見通せていなかったのだ」
しかし、程なく「覚醒」がもたらされる。16年1月の大統領選だ。公職経験を持たない異端のトランプ(共和党)が、第1次オバマ政権の国務長官だった正統のヒラリー・クリントン(民主党)を破り、当選を果たしたのだ。
エスタブリッシュメント(体制エリート)の予想を覆す大事件だった。修正主義のトレンドラインにおける「最も重要な瞬間だ」とキメジは言う。民主主義大国アメリカがロシアや中国と同じように、ストロングマンを権力の頂に押し上げたのだ。
だから「トランプは遅れてきたリーダーだ」とキメジは言う。「彼は修正主義という新たな潮流の『生みの親』ではなく、ロシアから始まったトレンドラインに乗り、その系譜に連なる形で登場した」
その意味で、トランプは孤立した存在ではない。グローバル化の負の遺産が生んだトレンドラインのアメリカ的表現だ。プーチンや習近平も同じ潮流から生まれたストロングマンであり、肌が合うのもうなずける。 -
Posted by ブクログ
積ん読にして、状況が変わると読む価値が減じられると思ったので、購入して直ぐに読み進める。
挙げられている事件はニュースで見聞きしているものばかりだが、その時にその相互のニュースが原因(の1つ)→結果にあることを理解できておらず、本書で整理が進んだ。
また、習近平やプーチンなどの『権威主義国」の為政者が何を考えているかについて、ニュース解説を見てもイマイチ理解できていなかった点について、その一端が理解できた気がする。
多義的な概念やイデオロギーとイデオロギーとの関係などについての説明が少なく、調べながら読み進めないと直ぐに理解ができなかった点で読みづらいが、分量的には仕方がないか。
著者の中国現代史、ロシア現代史などにテーマを絞った本を読んでみたい。