加藤喜之のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
アメリカの選挙のニュースを見ているとかならず出てくる「福音派」。名前は知っているけど、結局どういう人たちで、なぜあんなに政治を動かせるのか、自分はずっとよくわかっていなかった。この本でようやく腑に落ちた。
ざっくり言うと、聖書を字義どおりに受け止める信仰と、世界の終わりをめぐる終末論が核にあって、それが選挙や外交みたいな現実の政治とどう結びついてきたのかを、歴史をたどりながら整理してくれる。トランプ支持に至る流れも、ここまで背景から丁寧に説明されると見え方が変わる。
いちばん面白かったのは、福音派をひとくくりの保守集団として扱っていないところ。中身はけっこうバラバラで、副題の「引き裂かれる」はむしろ彼ら自身のことなんだと気づかされた。終末論という一見遠い信念が、イスラエル支持みたいな現実の判断を実際に動かしているという話は、正直ぞっとした。
自分とは縁遠い宗教の話だと思って読み始めたのに、読み終わると「人は何を信じているかで動く」という、もっと普遍的な話として残った。違う価値観の人を「よくわからない人」で片づけないでおこう、と思えた。
アメリカ政治や国際ニュースの「なんで?」をもう一段深く知りたい人に。新書大賞2026で3位に入った一冊でもある。 -
Posted by ブクログ
ネタバレキリスト教の終末論は、十字架の上で死んだイエスは3日目に復活しており、現在は神の右に座し、いつの日か「生者と死者を裁くため」に再臨する。特に米の福音派は再臨が近いと信じ、自らを神の側に立つ善の力とみなすことで、世俗化や道徳的退廃といった悪に立ち向かう。この悪はサタンや悪魔などの実体を持った悪で霊的な戦いでもある。聖書の本文の成立過程や著者や編集の歴史等を批判的に分析する「高等批評」。神の軌跡や誤りなき言葉としての聖書を信じ、進化論や高等批評はもちろん、異端的な宗派を批判する保守的なプロテスタントを「原理主義」、つまり「ファンダメンタリズム」という。「ディスぺンセーション主義」とはできる限り聖書の記述を文字通りン意味で読もうとする解釈の方法。これによると、聖書に記されている歴史は、7つの異なった「体制(ディスペンセーション)に分けられており、ユダヤ民族の体制は5番目、イエスは6番目。最後の7番目の「体制」が終わりの始まりで、キリスト教徒は空中に「携挙」され、地上に残された未信者たちは、戦争や基金の政変による苦しみの時を過ごす。さらに地上を治める「反キリスト」という悪魔的な支配者が現れ、キリストが再臨すると、この反キリストとの「最終戦争(ハルマゲドン)」を戦う。この戦争に勝利したイエスは千年王国を築き、新しいエルサレムに王座を据える。イスラエル建国をはじめとする中東情勢がハルマゲドンへの道。50年代の米国宗教復興は、共産主義の脅威と迫りくるアポカリプス、つまり核戦争による世界の終わりを前に、神への悔い改めを求めた結果。共産主義の脅威に対する汎プロテスタント的な市民宗教的な活動(教会に通わなければ非国民の疑いをかけられる)。60年代は進歩的なリベラリズムが席巻し、公立学校での祈りや聖書朗読が禁止され、原理主義者たちに危機感。キリスト教系私立学校の増加。ここで自らの考える自由の中で人種差別を継続させ、進化論や高等批評を批判したり世俗的人間主義を悪魔の教えとしたいがため、政治に参加する必要。かつて中絶問題はカトリックがリードしていたが、プロテスタントは個人的選択の問題としていた。福音派は教育とテレビ放送を巧みに活用。政権と近づいたり離れたりしながら政治に近づいていく。繁栄したいずれの文明も性的に厳格な立場から始まり、性的な自由が蔓延することで滅んでいく。その理由は、性的なエネルギーを抑制すると経済の生産性は上がり、反対に自由にセックスが行われると生産性が落ち、経済が衰退し、文明が滅ぶ。資本主義を成り立たせる倫理観とは、世俗内禁欲、つまり消費や快楽をできるだけ抑えることで経済的生産性や投資効率を上げること。だから、放縦なセックスや中絶や同性愛を消費主義的な浪費として批判。クリントン大統領のホワイトハウスに聖職者たちを集めての懺悔。「悔い改め」「変わろうとする決意」の表明は国民への印象操作だという批判も一部あったが、このおかげで支持率を維持。メガチャーチは、行政や私企業では満たせない人々の必要、すなわち他人とつながる欲求を満たす可能性。ウォルマートとメガチャーチ。レーガンとブッシュとの接近。進化論を支持する米国人のが54%の多数派になったのは2019年。米国メディアの政治的・社会的立場での細分化。そして、SNSの台頭とアルゴリズムの進化は建設的な批判を遠ざけた。そして、教育。「キリスト教国アメリカ」のビジョンによる教科書。大部分の福音派は人種差別をあくまで個人の道徳的な問題とみなし、貧困や教育や福祉など社会の構造的な問題として扱わない。「Make America Great Again」はレーガンのフレーズだが、トランプが2012に商標登録。今日のキリスト教ナショナリズムは、社会的影響力の喪失への危機感と既得権益を奪われつつあるという被害者意識に基づいてた恐れと怨恨。キリスト教シオニスト。トランプ信仰は大衆化された終末論。多方面からの攻撃をものともしないトランプの背後には闇の力に立ち向かう神の恩寵があると信じる。善悪論の下で敵を悪魔化。アメリカ社会の分極化。世俗的人間中心主義は敵であり、失われつつあった白人男性の特権を再度アメリカ社会に打ち立てることが重要で、人間の完全なる平等を目指す多様な社会という理想へは反対する。白人福音派人種主義。米国文化のキリスト教化を目指す福音派と、リベラルで進歩主義的なカウンターカルチャー勢との対立は先鋭化し、米国社会の分断や分極化は深まる。政治と宗教の境界線が曖昧となることで、権力者への忠誠とその敵への攻撃が神の意志への服従と混同され、無批判な権威主義を涵養する危険性が高まっている。
-
Posted by ブクログ
トランプがあれほど熱狂的に支持される理由がずっとわからなかった。その背景にキリスト教福音派の存在があると知ってから、両者の関係性が気になり本書を手に取った。
読んでみての率直な感想は、"白人としての権力"を手放したくない人々が根強く存在し、自分たちの生活や経済的な閉塞感の原因を白人以外に求めているということだ。そこに都合のよい物語性を与え、"信仰"として堂々と掲げられるものとして機能しているのが"福音派"なのではないかと思った。
宗教と社会の関係という観点で特に印象的だったのは、人工妊娠中絶や同性愛をはじめとする性的マイノリティへの拒否感についての記述だ。それらは福音派の教義的な問題というよりも、人種差別が公には許されなくなった時代に、権力者たちが支持者へのアピールとして掲げるようになった代替的な"脅威"だという。正直、呆れるほかなかった。
さらに厄介なのは、福音派が妥協点を見出そうとしないことだ。終末論的な世界観のなかで対立する相手をサタンや悪魔の手先とみなす傾向があり、話し合いを通じて折り合いをつけるというアプローチ自体が成立しにくい。政治的なイシューはただただ議論を重ね、妥協点を見つけながら都度改善していくほかないはずなのに、彼らの信仰する物語のなかでは相手が簡単に非人間化されてしまう。どう対話すればいいのか、正直途方に暮れる。
宗教は本来、人の救いや共同体の絆のためにあるはずだ。しかしその"信仰"が差別や排除の隠れ蓑として機能し、対話の回路さえも閉ざしてしまうとすれば、それはもはや宗教の問題ではなく、民主主義の問題だと感じた。日本にいる私にとっても、無関係とは言いきれない。 -
Posted by ブクログ
「できる限り聖書の記述を文字通りの意味で読もうとする解釈の方法。旧約聖書の預言や約束は、イエスの到来やキリスト教徒達の存在によって成就されたのではなく、まだ成就されていないことになる。したがって、ユダヤ民族も、キリスト教徒と同様にいつの日か神の約束に与れる」というデイスペンレーション主義、そこから解釈される終末論、善悪二元論を特徴とする福音派がどのようにアメリカ社会に浸透し、歴代政権に関与していったのかを描いた本。
黒人差別の根の深さ、政治とキリスト教の緊密さ、進化論を教える事を禁じる州がある程の以上な保守性など、日本人の理解の外にあるアメリカの姿を知ることができた。
善悪二元論に立脚する福音派は他の考えや価値観との相互理解や合意形成に至らない。正にトランプ大統領の行動そのものである。福音派の白人は減少傾向にあるが、その価値観や手法が現在の政治的・社会的な運動の中に確かな足跡を残しているという。
今のアメリカの福音派の活動や影響は、マイノリティとなりつつある保守的な白人キリスト教徒の最後の足掻きである事を信じたい。 -
Posted by ブクログ
なぜトランプが福音派を重要視しているかの理解を深めるのに適した一冊。福音派はプロテスタントの一部であり、古くから米国の重要基盤として政権に多くの影響を及ぼしている。強力なリーダーにより支持政権をバックアップし、1億もの選挙権を得ることができるためアメリカのリーダーたちは言葉巧みに彼らを利用していたし、彼らも政策に影響を与え続けてきた。人種差別・中絶問題・イスラエルとの関係など、福音派の意見が組み込まれている。印象的だったのはドブソンによる中絶反対の考えであり、自由奔放な性を可能にすると文明として滅ぶため、それを防ぐための中絶禁止という考え方はなぜ中絶反対をしているのかの主張に対して、理解できた。
福音派という存在を理解するためにおすすめの一冊。 -
Posted by ブクログ
アメリカで勢力を拡大する
「福音派」とは何か。
その政治との関わりを解き明かす。
米国では人口の25%近くを
占めるとされる福音派。
その誕生と歴史を追った労作。
現在、トランプ政権への影響力が
大きいとされる福音派は
どうして生まれたのか。
まずは著者による
福音派の定義から。
「神の言葉としての聖書、個人的な回心体験、
救いの条件としてのキリストへの信仰、
そして布教を重視する、
複数の教団、協会、個人からなる
宗派の壁を超えた宗教集団であり、運動」とする。
実際に福音派と名乗り出したのは1940年代で、
強力な政治勢力として台頭したのは
70年代後半だった、そうだ。
福音派が台頭した背景には、
60年代以降の一連の社会変化がある。
公教育の世俗化、
公民権運動やフェミニズムが掲げた自由と平等の理念、
さらには性的規範の変容やドラッグ文化の拡大。
こうした変化が米国南部・南西部の
白人プロテスタント社会に根付いていた
伝統的な価値観を根底から揺るがした。
そこで浮上してきたのが終末論である。
もっと端的に言えば。
福音派とは聖書至上主義で
最後の審判が起こり、イエスの再臨が近いと信じ、
世俗化や道徳的退廃という悪と戦う。
その戦うべき悪は、
人工中絶であり、
進化論であり、
白人私立学校への抑圧であり、
共産主義であり、
エルサレム王国成立(つまりはイスラエルのヨルダン西地区進出)への妨害であり、
最近では黒人や有色人種の地位向上である。
そもそもは1910~1915年に
神学モダニズムに対抗して、
原理主義、ディスペンセーション主義が台頭する。
その後、1942年に原理主義者たちは
「全国福音派協会」というロビー団体を立ち上げる。
ここから福音派が始まった。
そして。
福音派は自らの信条を実現すべく、
政治に、もっと言えば、大統領に接近していく。
リチャード・ニクソンとビリー・グラハム。
ロナルド・レーガンとジェリー・ファルウェル。
ジョージ・H・W・ブッシュとパット・ロバートソン。
ジョージ・W・ブッシュとリチャード・ランド。
ドナルド・トランプとラルフ・リード。
歴代大統領の横には福音派がいた。
福音派がロビー勢力として力をつけていくに連れ、
共和党の大統領候補者が
福音派に近づいていく構図もある。
そして、現在。
思想的にはもっとも近い
トランプ大横領と福音派は蜜月のように思える。
福音派内部では
いわゆる白人プロテスタント主義者の伝統的価値観に立つ
中年・高齢白人男性が主流を占めており、
主にトランプ支持の基盤となっているが、
若い世代や女性、黒人など白人以外の人種も
一定程度存在し、その人々は
違う動きを模索している様相もあるようだ。
なぜ米国では中絶反対の声が上がるのか。
どうして進化論を否定する人がいるのか。
イスラエルを支持する層がいるのか。
その背景としての
福音派の理解は、
大変に興味深い内容だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ序章 起源としての原理主義
第1章 「福音派の年」という転換点ー1950年代から70年代
第2章 目覚めた人々とレーガンの保守革命ー1980年代
第3章 キリスト教連合と郊外への影響ー1990年代
第4章 福音派の指導者としてのブッシュー2000年代
第5章 オバマ・ケア vs. ティーパーティー2010年代前半
第6章 トランプとキリスト教ナショナリズムー2010年代後半~
終章 アメリカ社会と福音派のゆくえ
福音派にも色々あって一枚岩ではないのがわかったが、
”終末論的な世界観”、
”対立する相手をサタンや悪魔の支配下とみなす・善悪二元論”.........。
宗教観は個人的・センシティブなことではありますが理解することは難しいですね。
「八百万の神」を信じる方が気持ちが楽な気がします。