あらすじ
アメリカにおける福音派の巨大な存在感は、近年よく言及される。しかし、彼らはどのように影響力を拡大し、トランプ大統領の誕生や再選、あるいは政治的・文化的闘争に関係していったのか。本書は、第二次世界大戦後のアメリカの軌跡を、福音派とその背景にある終末論に着目して描き出す。そこからは大統領の政治姿勢はもとより、中絶や同性婚、人種差別、イスラエルとの関わりなど多くの論点が見えてくる。
まえがき
序 章 起源としての原理主義
第1章 「福音派の年」という転換点――一九五〇年代から七〇年代
1 原理主義者と福音派のはざまで
2「福音派の年」とカーター大統領
3 終末に生きる選ばれし者たち
第2章 目覚めた人々とレーガンの保守革命――一九八〇年代
1 政治的な目覚め
2 モラル・マジョリティの誕生
3 レーガン政権と福音派のせめぎ合い――保守革命の裏で
第3章 キリスト教連合と郊外への影響――一九九〇年代
1 パット・ロバートソンの政治戦略
2 フォーカス・オン・ザ・ファミリーと伝統的家族観
3 クリントンの信仰と六〇年代の精神
4 ウォルマートとメガチャーチの止まらぬ拡大
第4章 福音派の指導者としてのブッシュ――二〇〇〇年代
1 ボーン・アゲイン大統領とネオコンの思惑
2 九・一一と小説のなかの終末論
3 信仰の公共性
4 スキャンダラスな福音派と右派の失速
第5章 オバマ・ケアvs.ティーパーティー――二〇一〇年代前半
1 初の黒人大統領と福音派左派
2 オバマ・ケアと中絶問題
3 ティーパーティー運動
4 アメリカ建国偽史
5 高まる人種間の緊張
第6章 トランプとキリスト教ナショナリズム――二〇一〇年代後半~
1 白人とイスラエルの味方として
2 保守化する司法と中絶・同性婚問題
3 キリスト教国家と非宗教者
終 章 アメリカ社会と福音派のゆくえ
あとがき
主要参考文献
略年表
主要人名索引
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
アメリカ社会における伝統的白人社会を基盤として社会や政治に大きく影響を与えているキリスト教福音派の歴史とその特徴について網羅的に解説した新書。アメリカを知るには必須の著作です。
Posted by ブクログ
キリスト教の書物と言うより、現代の米国の政治・社会をキリスト教の観点から分析した好著。キリスト教福音派とは何なのか?原理主義者が「福音派」のグループに含まれ、その右派としての活動を強めていったこと、それが現在のトランプの岩盤支持層になっている背景が良く分かった。その一方で福音派左派と言われる人たちもいて、「クリスチャン・トゥデイ」はその流れの雑誌でありラインホルド・ニーバー、ディートリッヒ・ボンヘッファーは福音派からは容共産主義と批判されているという!
彼らはトランプに対して批判的らしいが、マスコミの報道では全く取り上げられていない。カーターが大統領選で勝利した1976年は「福音派元年」と呼ばれていたように、それまでは福音派はもっと常識的だったように感じる。そしてレーガン、クリントン、ブッシュ(子)、オバマ各大統領のキリスト教との接し方も興味深い。ブッシュは福音派として知られていたが、彼らはすべて主流派キリスト教に近い立場だったようだ。人種差別・分離政策、女性蔑視に最も熱心だったという白人福音派が徐々に少数派になりつつあるという危機感がオバマ大統領誕生後に強まっていたことがトランプを産んだという皮肉の背景も強く理解できた。キリスト教国家米国の「非宗教者」の割合が、1972年には5%だったのに、今や30%に及んでいるらしい。
それにしてもビリー・グラハム、フランシス・シェーファー、ジェームズ・ドプソン、ハル・リンゼイ、ティム・ラヘイら、私自身も良く知るキリスト教の指導者たちがこの系統の人たちだということは悲しいことに感じた。愛を説き、社会正義を追求するべき人たちが、実はセレブ崇拝、繁栄賛美、そして権力に寄り添う人たちだったのか!
Posted by ブクログ
とても面白い。宗教右派、特に過激で排他的な言動を厭わない福音派が、アメリカ政治や社会に与えた影響に関する良書。
特に人種問題や中東、中絶、同性愛の問題が蔓延るアメリカにおいて、過去にも分断を煽ってきた歴史があり、現在はトランプの存在がそれを正当化してしまった様相すらある。
被害者意識の強いアメリカの白人にとっては、自身に響いてしまうストーリーが、福音派の言葉にはあるんだろうな。きっと。
より穏当な、リベラルな意見にも耳を傾ける、そんな集団に変わる事を期待したいものの、原理的に難しいのだろう。
Posted by ブクログ
トランプ大統領来日記念、アメリカをもっと知ろーのコーナーー!(わー)
と言うわけで、トランプ大統領の支持基盤でもあるキリスト教「福音派」について学びます
ちなみ「ふくいんは」と読みます
地味に読み方とか書かかれてるのうれしいでしょ?
うーん、この親切設計レビューね
「福音派」です
めちゃめちゃ簡単に言うと「聖書ガチ勢」(分かりやすいw)
終末論を信奉する人たちで、アメリカの人口の二十五%近くを占めるとされています
多っ!
政治的には(かなり幅があるんだけど)、中絶禁止、同性愛禁止、イスラエル支持なんかで知られているよね
超保守的で「古き良きアメリカの倫理観」を取り戻そう!みたいな主張もあって、一部には人種隔離なんかを主張している人もいたりして
約6割から7割を無宗教者が占める日本人には、ちょっと過激に見えるところもあるよね
ダーウィンの進化論は嘘っぱちだ!地球は誕生してからまだ一万年だ!とか言うのはかなり唖然としちゃうんだけど、まぁ、神様が創ったんだからそうなのか…
はい、終末論ね
これもざっくり言うと、世界の終わりってやつがイエスの復活と共にやってきて、神様に「お前なかなかようやったやないか」って認めてもらえた人はいいとこ連れてってくれるっていう聖書に基づく考え方やね
そして、この「福音派」がアメリカ社会の分断の原因のひとつになっていると思われるんだが、本書では「福音派」の歴史、成り立ちと政治との関わりについての概説書となっていて、そのへんはそこまで深く立ち入ってはいませんでした
それでも非常に興味深いし、極端な人たちは「陰謀論」に傾倒しがちで、敵は悪魔なんよね
悪魔とは話し合いできん!みたいなんは、やっぱちょっと怖いよね
神様って「みんな仲良くしようよ」を説いてるんだと思うんだけどな〜
まぁ「みんな」に含まれない人がおるんやろうな〜
やっぱりちょっと神様って信用ならない
Posted by ブクログ
保守右派といわれるものはどこでもそうだが、「古きよき」を掲げ、過去虐げられてきた人々や様々な問題に関する先人の努力・解決を直視しないどころか、自分の目線の届かないところでの大量殺戮・貧困・人権侵害には目をつぶり、自己中心的な世界を押し付ける。しかし、人間は不安という避けがたい苦悩に向き合い、共に生きることが必要な生き物なはずではないか。
Posted by ブクログ
非常に学びになり、おもしろかったです。
福音派、なんとなくわかっていたつもりでしたが、より理解が深まりました。
キリスト教だから、福音派だから、プロテスタントだから、みたいな分かりやすいグループで今までは考えようとしていたのですが、かえって混乱しちゃってましたね。
当たり前といえば当たり前ですが、どれも一枚岩ではないわけです。
強いテーマに思える、同性愛・人種主義・中絶に対する考え方でさえもグラデーションであるということが分かりました。
他、特に印象的だったのは、社会の変容の結果、相対的に白人の優位性が失われて、現在、白人が被害者ムーブをしているといったところです。
これもよくある構造ですが、いざ当事者になったときに正しく認知するのは難しいと思います。自分たちは変わっていないのに、周りが変わったせいで自分たちの立場が悪くなっているわけですから。
宗教に触れてこなかった私からすると本当に共感できないことの連続で、非合理的的すぎてウケるなという感覚ですが、それはそれだし、これはこれなんです。
否定も肯定も納得も理解もなく、知識を得た上で、傍観したいなと思わされました。
Posted by ブクログ
福音派という切り口での分析で非常に興味深く、勉強になりました。昨今fanaticの度が増してるなと思ってましたが、さもありなんという感じで腹落ちしました。
また、日本も同様の状況に陥りつつあるような気がして、寒気を覚えた次第。
ただ、この本でも解き明かしていなかったように思いますが、白人男性至上主義ですよね?選挙制度の歪みがあるにせよ、この流れで大統領が選ばれていくというのはまだ納得できず。女性、白人以外の男性などを合わせても「少数派」ということなんでしょうか?
ここのところが何とも?で、やっぱり詰まるところ、経済が相当に悪くて、その辺を上手く擽る人物に傾くということの方が少なくともトップを選ぶという点において、民にとっては大きな話ではないのかな?と思う次第。
Posted by ブクログ
宗教についてあれこれ考えれば考えるほど、ほぼ無神論者的な自分には理解不能な部分があってそこが逆に面白いと思うことがある。
こんな情報や科学が発達した現代においても福音派とか原理主義と言われる強硬派の人たちの考えの変わらなさとかってすごいし、何ならアメリカの大統領までをも当選させる力を持ってたりして気持ち悪いなとか思って結構あっという間に読めた。
宗教って作り話から真実を生み出す科学だな、と。
Posted by ブクログ
pivotでアメリカ政治に影響を与えてきた宗教団体として福音派が紹介されていて、興味を持って読んでみた。
本書は、原理主義から始まった福音派がどのように政治的影響力を拡大し、トランプ政権の強力な支持基盤へと変化していったかを描いている。
特に印象的だったのは、「終末論」に基づく善悪二元論が、アメリカ社会の分断を深めているという指摘。リベラル派を「悪」とみなす構図が政治の対立を激化させ、民主主義の根幹を揺るがしているという点が恐ろしかった。
日本でも宗教と政治の関係はあるけれど、福音派のように“信仰が政治そのものを動かす”ほどの影響力はまだ感じない。ただ、議員数削減や代表制の変化次第では、価値観の偏りが生まれるリスクもあるのかもしれない。
宗教と政治の関係を考えるうえで、アメリカの現実が「対岸の火事」ではないことを教えてくれる一冊。