リチャード・フラナガンのレビュー一覧
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凄まじい本だった。圧倒的。まず描写力がすごい。体験した本人しか書けないんじゃないかと思うような、各人の具体的な感触、思考の流れ、感情。臨場感ありすぎ。
物語の構成も凄い。語られていく断片が徐々にパズルのピースのように埋められていき全貌を露わにし新たな意味を表す。
父親の経験を基に12年をかけて書かれた本。この本には血肉があり、何人もの個人的な叫び、痛み、疑問があり、人類全体の持つ闇、結局のところ暴力とは何なのか、人が人を虐げ続けることとは何なのか、という恐怖や絶望もある。
そして欺瞞や、一つの嘘が人間を壊してしまうということも。
これからもこの本に書かれている一つ一つの文章について考える必要が -
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ネタバレ第二次大戦中、ミャンマーとタイを結ぶ鉄道いわゆる泰緬鉄道の建設に捕虜として従事することになったオーストラリア人医師の人生の物語。その医師の視点だけでなく、他の登場人物の視点からも、また作者の俯瞰的な視点からも物語は描かれる。作者の成就しない恋愛を第1軸、鉄道建設を第2軸、時間軸を第3軸として物語は重層的に展開する。
戦時下の行動を決して善悪の二項対立では評価できないということが繰り返し表現される。
日本人の行動が戯画化されているような印象があるが、これは仕方がないのだろう。
著者リチャードフラナガンの父親が実際に捕虜として鉄道建設に従事し、その体験談をもとに様々な取材をし、12年かけて書き -
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『彼らはそういったことを考えていたのではない。そういうものだと知っていたのだ』
歴史上の出来事を一つの記号に集約させる。例えば、大化の改新とか、応仁の乱とか、関ヶ原の戦いとか。するとあたかもその様な結果になったのは全て必然であったという錯覚に陥る。それどころか、複雑な要素は至極単純な因果関係に収斂し数学の公式と同じような記憶の対象となってしまう。勧善懲悪。ブラック・アンド・ホワイト。それと同じように泰緬鉄道という言葉の意味するところも、二百字以内で要約可能な出来事に矮小化される。そして自分たちの世代だと、水野晴郎や高島忠夫の顔とともにあの口笛の旋律が喚起され、ウィリアム・ホールデンや早川雪洲 -
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主人公はドリゴ・エヴァンス。七十七歳、職業医師、オーストラリア人。第二次世界大戦に軍医として出征し、捕虜となるも生還して英雄となり、テレビその他で顔が売れ、今は地元の名士である。既婚、子ども二人。医師仲間の妻と不倫中。他人はどうあれ、ある時期以降の自分をドリゴは全く評価しない。戦争の英雄という役割を演じているだけだ。とっかえひっかえ女とつきあうが愛しているわけでも肉欲に駆られてのことでもない。アイデンティティ・クライシスから抜け出せないで歳をとってしまっただけだ。
きっかけは分かっている。戦争が二人の仲を裂いたのだ。婚約者のいる身で他人の妻、それも自分の叔父の妻と恋に落ちてしまった。それが叔 -
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ネタバレ普通に難しい笑
大学受験でこれが出てきたが嫌だなって思ったのと同時に読ませるべき内容でもあるように思える。広島原爆について是非を問うのは非常に難しい問題だ。私はアメリカを悪いとは思わない。日本が様々なことをやった結末であるし本書で言われてた通りもっと大きな被害が起こるかも知れなかったからだ。科学が政治家よりも偉いというのは面白い発想だと思った。確かに昔の哲学者も科学者が多いし、もし科学者の道徳がなければいつでもこの地球は滅びしてしまうだろう。
科学者ではなく芸術家の方が未来を見ることがあるというのも興味深かった。現代では様々な漫画やアニメなどSF関係のものが沢山出ているがおそらくいくつかは本当 -
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泰緬鉄道の建設に捕虜として動員されたオーストラリア兵たちの惨状。第二次大戦中の軍の蛮行というのは、国、場所を問わずだが、それでも日本人として恥じることは多いし、そもそも人の尊厳を顧みることができないような状況を作ってしまう戦争そのものの悪性を考えることも多い。この小説はその悪性、惨状を伝えることのみにとどまらず、被害、加害の枠組みを超えて、自分の意思とは無関係に戦争に巻き込まれた人間たちの、“心の惨状”が描かれている。
オーストラリア側では、過酷な捕虜生活を生き抜いた医師が、ボタンの掛け違いのような不毛な結婚生活に自己嫌悪、戦地での過酷さと戦後の日常の落差に心の均衡を失い、口を閉ざす。日本側 -
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オーストラリア小説を読みたいと思って選んだので、泰緬鉄道の話だとは知らずに読み始めた。恥ずかしながら泰緬鉄道と捕虜の強制労働のことはこの作品で初めて知った。
過酷な戦中の体験はもちろん、戦後の日本のこと、そして戦争が忘れられ、記憶が上書きされ、人々の心の中に残した痕跡までが、鮮やかに描かれる。
主人公のドリゴやオーストラリア人捕虜、日本人兵士の視点で語られる物語を読んでいると、なぜこの戦争の泥沼から誰も逃れられなかったのか、少しわかった気がする。
文句があるとしたら、ドリゴが(特に男性的視点で?)かっこよすぎることくらいか。優しく、勇気があって、繊細で、影があって、男にも女にもモテて、最後 -
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Posted by ブクログ
第二次大戦中日本軍のオーストラリア人捕虜として過酷な生活を送った著者の父親の実体験をベースに書かれた小説。
軍医として従軍し、日本軍の捕虜となって泰緬鉄道の建設部隊に配置された主人公の回想形式。
タイトルはもちろん松尾芭蕉の著作から引かれたもので、本作にもところどころで俳句が登場する。
重い。
第二次大戦中の日本軍捕虜を描いた作品としては『戦場にかける橋』『戦場のメリークリスマス』、或いは戦争の悲惨さを描いた作品では『西部戦線異状なし』『ジョニーは戦場へ行った』(いずれも第一次大戦だが)などを読んだり観たりしてきたが、レベルが違う。
究極まで地に堕ちた衛生状態、その中で押し付けられる理不尽、