衣刀信吾のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ミステリー好きの現役弁護士が、自らの職務や裁判員制度を土台に描いた謎解きエンターテインメント。
日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しただけあって、多数の伏線が繋がり、二転三転する後半の展開は迫力があり、没頭してしまった。
補充裁判員選任の案内が届き、事前オリエンテーションに呼び出された大学生・神山実帆が主人公。
案内状に書かれていた事件は、彼女のアルバイト先である羽水法律事務所が担当する殺人事件であった。
オリエンテーションの場には彼女を含め、7人の裁判員が集められ、密室となった評議室で担当判事である元邑から事件の説明を受ける。
ところが、この後のAI音声によるオリエンテーションが、裁判員たちに驚愕と恐怖を与える。
AIは、評議のタイムリミットを午前零時と定め、全員一致で有罪か無罪のボタンスイッチを押すよう命じる。
正解であれば全員解放、不正解であれば評議室が自動的に爆破されるという過激な説明が続く。
元邑は、AIによるオリエンテーションの前に、過去にあった殺人事件の裁判員裁判で誤った無罪判決が出た話を持ち出していた。
そして、実帆を除く6人の裁判員は、いずれもその判決になんらかの形で絡んでいた。
また、羽水は、当時、無罪となった被告人の弁護士であった。
裁判員制度の意義と難点、国家権力として強力な組織である検察側に対し、徒手空拳の孤独な闘いを挑む弁護側。
この小説のバックボーンとして、こういった現役弁護士ならではの視点が浮かび上がってくる。
しかしながら、羽水のもとで勤務する佐藤弁護士や事件の加害者、被害者、証人も含め、実帆以外の登場人物が全て、くせ者揃いであり、終盤に真の人物像が曝かれていく展開は、ストーリーテラーとしての実力も十分見せつけている。
タイムリミットが迫る評議室でパニックになりながらも、それぞれの裁判員の言動を冷静に見つめ、怜悧な推理を行う実帆が探偵としての役割を果たすが、ここの描き方は、やや強引過ぎる嫌いがあるかなと感じた。
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Posted by ブクログ
とある殺人事件の裁判員として集められた七人の男女。オリエンテーションと称して集められたが、「正しい評決をできなければこの場に仕掛けられた爆弾を爆発させる」と。
法廷ミステリとデスゲームの融合。いい感じにきれいにまとまっていて面白かったです。デビュー作みたいですが読みづらいということもなく最後までサクッといけましたし。
ただ、なんだろうな?奇麗にまとまりすぎていて謎があって真相なのか、真相ありきの逆算で謎や伏線がつくられたのかそんな気にもなってしまった。
あとは被害者の悪辣っぷりへの同情や言及がやたら少ないのとか、依頼主のしたたかさみたいなのは現役弁護士さんだからこその視点なんだろうなあ。こちらのほうがむしろ作り物めいていないリアルさが感じられてしまった。 -
Posted by ブクログ
第28回ミステリー文学大賞新人賞受賞作(この賞は、光文社の関連団体である光文文化財団が主催している。正賞・副賞のほか、受賞作が光文社から出版されることになっている)。
女性容疑者が過去の交際相手を殺したとされる事件。裁判員裁判となることが決まっていた。事件の裁判員に選ばれた面々が、「オリエンテーションがある」と、とあるビルに呼び出されていた。折しも外は大雨で、交通にも影響が出る可能性があるほどだった。
主人公・神山実帆(こうやまみほ)は、補充裁判員として選ばれた。欠員が生じた場合のための要員だが、裁判には最初から参加することになるため、オリエンテーションにも来てほしいと請われた。
ところが、集まった7人は、呼び出した裁判官により、スマホ等を没収され、1室に閉じ込められてしまう。実は、実帆以外の6人は、過去、別の裁判員裁判に関与しており、彼らの評決で無罪となった被告が、その後、有罪であったことが判明していた。
別室へと移った裁判官は、今回の事件では、全員一致で正しい結論を導け、そうでなければ7人のいる部屋を爆破する、と宣言した。
タイムリミットは午前零時。あと6時間。事件の資料はすべて揃っている。
さて、彼らは正しい答えにたどり着けるのだろうか。
なかなか凝った作りのクローズドサークルもの。田舎町のビルの1室なのだが、大雨の中、停電するといった条件も緊迫感を高めている。何より、現代では、電子機器を取り上げられ、外部との連絡手段がないという状態は、精神的に追い詰められるものとなるだろう。
ジャンル的には、あとがきで著者が述べる通り、本格ミステリとして書かれている。一応、伏線はちりばめられ、さほど姑息な感じはしないのだが、ところどころ、力技の印象を受ける。
事件を討論するうち、6人の素性もいろいろとわかってくる。糾弾されるべき人物は糾弾され、次にまた別の人物が槍玉に上がり、事態は二転三転する。
そもそも彼らを招集した裁判官の目的は何か。そして当該事件の真相は。
彼らはひとつの結論に到達するのだが、それは果たして真相だっただろうか。
さらには、事件は実は評議室では終わらない。
裁き、裁かれるどんでん返し。最後の数ページで読者が見る景色はどんなものだろうか。
脳をこねくり回されたような読み心地。少々てんこ盛り過ぎではないかと思うが、時には悪くない。
*著者の衣刀(いとう)信吾という名前もなかなかですが、登場人物にも西志(にし)、元邑(もとむら)、羽水(うすい)と結構こだわりを感じる名前が付けられています。作中、1点、名前の読みがキーとなるエピソードもあります。単なるこだわりかもしれないですが、別の作品等で、トリックに使われることもあるのかも?
*爆発物を仕掛けてなんちゃら、みたいな展開は、小説にも映像作品なんかにもありがちですが、そんな簡単に取り扱えるものなんですかね・・・? (「仕掛けたぞ」という威力業務妨害みたいなやつはともかく)現実の事件ではそれほど聞かないように思うのですが。そうでもないのかな。
*選評を読んでいたら、選考委員の作家さんたちが結構温かい言葉をかけていて、ちょっと「へぇ」と思いました。同士、あるいはプレ同士に向けたエール、的なものなのかな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ裁判員裁判への問題提起。
裁判員裁判をちょっとでも知っていたら、舞台設定が不自然なのがわかる(弁護士事務所でアルバイトしている実帆がそこに気づかないとか…)が、そこはスルーしないと話が進まない。
裁判の対象になっている事件と、それを巡って集められた人たちの事件と、二つの事件を扱っている。
復讐、なのだろうが、最も悪い相手(=事情もわからなずバッシングしてくる外部者)には復讐できないジレンマがある。
言論の自由をはき違えている輩にはそろそろ黙ってもらいたいものだが、諸刃の剣なので難しい。マスコミにはプロの矜持を見せてもらいたいものだ。