遅塚忠躬のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
遅塚忠躬(1932~2010年)氏は、東大文学部卒、東大大学院中退、北大文学部助教授、東京都立大学人文学部教授等を経て、元東大文学部教授、お茶の水女子大学名誉教授。専門は西洋史学。
フランス革命は、世界で最も有名な市民(ブルジョワ)革命のひとつで、「自由・平等・友愛」というスローガンのもと、民衆の力で絶対君主制・封建体制を倒し、新たな近代国家体制を築くきっかけとなった一方で、独裁と恐怖政治により多くの犠牲者を出したことから、革命はフランス人にとってプラス面よりもマイナス面が大きかったと主張する人さえあり、フランスの人々の中に今も修復できない亀裂を残しているという。
本書は、そのフランス革命を、偉大と悲惨の両面を持たざるを得なかった(独裁と恐怖政治は不可避であった)劇薬になぞらえ、考察したものである。必ずしも時系列とはなっていないが、劇薬の効果と痛みという視点から整理・説明されており、フランス革命のポイントを掴むのに有用である。
大まかな論旨、私が印象に残った点は以下である。
◆仏革命の解釈には、前半は良かったが後半に悪くなったとする「革命二分説」と、ひとつの塊と考える「革命ブロック説」があるが、著者は後者を採用する。
◆仏革命に劇薬が用いられた背景は、①古い体制(身分制、領主制、絶対王政)の行き詰まりが深刻で、対外的にはイギリスに劣位になっていたこと、②徹底的に変革を求めて、劇薬の使用を要求する人々が革命の担い手になったことである。
◆仏革命は、貴族、ブルジョワ、大衆(民衆と農民)という3つの社会層の担った3つの革命の複合体である。1787年を始まりとする革命は、貴族寄りのブルジョワ(+貴族)vs大衆寄りのブルジョワ(+大衆)、大衆寄りのブルジョワの中のジャコバン派(左翼・急進派)vsジロンド派(右翼・穏健派)、ジャコバン派の中の左派(エベール派)vs右派(ダントン派)という、いくつもの対立(その結果の追放・処刑)を経て、勝ち残ったロベスピエールも94年にクーデターで処刑され、混乱の中で99年にナポレオン独裁政権が生まれて終わりを告げた。
◆革命の中で制定された93年憲法では、直接民主制、人民の蜂起の権利の容認、生存権の優位などの原理が取り入れられた。同憲法はその後の混乱で実施されることはなかった(実施・定着したのは第三共和政下の1875年以降)が、人々の意識の変化により新しい政治文化が成長し、それはフランスの重要な遺産となった。また、この過程で、穀物価格の談合の禁止、領主的諸権利の無償廃棄などが実現した。
◆他国との比較では、仏革命は、大衆が主役となり、デモクラティックな(平等を目指す)変革であった代わりに、恐怖政治に苦しんだ。イギリス革命(17世紀のピューリタン革命と名誉革命)は、大衆は脇役であり、リベラルな(自由を目指す)変革であった代わりに、デモクラシーの達成を先延ばしにした。日本の明治維新(19世紀)では、ブルジョワも大衆も成熟しておらず、武士による「上から」の改革が行われ、殖産興業と富国強兵の影で、基本的人権の保障がなおざりにされた。
◆仏革命は、指導者も大衆も含めて、偉大でもあり悲惨でもある人間たちがあげた魂の叫びであり、巨大な熱情の噴出であったといえる。人間が(個人でも集団でも)その全人格を傾けて、ある目的のために身を捧げるという情念がなければ、世界史ではどんな偉大な事業も成し遂げることはできない。
フランス革命を劇薬になぞらえ、その効果と痛み、偉大と悲惨を考察した好著である。
(2021年10月了) -
Posted by ブクログ
授業でフランス革命を習ったけど、結局どんな事件だったか説明できない。そもそも、歴史を学ぶ意味ってあるの?そんな疑問に答えてくれるのが、『フランス革命―歴史における劇薬』(遅塚 忠躬) (岩波ジュニア新書)です。
フランス革命は、フランス人が新しい社会を作るために行った偉大な活動です。でも、多くの犠牲者を出した心の痛む面も持ちます。そのことを、著者は「劇薬」と表現しました。
劇薬は、飲むと効果がバツグン。でも、使いすぎると命の危なくなる薬のことです。とっても恐ろしい薬なんですが、それでも飲まなくてはいけない時がある。それがフランス革命だった……というのが本書の主張。つまり、フランス革命は避けることのできな事件だったと言っているんですよね。
「フランス革命」というものを、単なる単語ではなく、それそものが著者の情熱のほとばしりになっているのが面白い!
著者にとって歴史を学ぶ意味は3つです。1つめは、過去と現在を比較し、今の生き方を「反省」すること。2つめは、過去から現在までの変化を知って、今を理解するための「参考」。3つめは、歴史の中に生きた人たちを知って、共感し「感動」すること。
この本は、そんな著者の「歴史の学び方実践ノート」を目の前で開いてもらえている気持ちになれます。
フランス革命は、偉大であり悲惨な事業でした。そんな革命時代に生きた人々を知り共感や感動を覚える。その方法こそ、歴史が退屈な授業ではなく、「面白い!」に変えてくれる。
「今」を知り、「今」に役立てるという歴史を学ぶ意味を教えてくれる一冊です。
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Posted by ブクログ
インパク知8・5
かかった時間150分くらいか?
フランス革命について書かれたジュニア新書。気になっている「世界史との対話-70時間の歴史批評」の前書きにあったので、とりあえずそこから手をつけてみた。
フランス革命を劇薬にたとえ、その功罪を語る。一貫して誠実かつ確固たるフランス革命観をもって、比較的易しいことばで(高校生の時には読めなかったと思うが笑)包括的に説明しつつ、フランス革命に象徴される「人間の偉大と悲惨」を繰り返し強調する。
とくに後半、フランス革命の功罪つまり偉大と悲惨を、人間ほんらいがもつ避けがたいものととらえ、フランスがおかれた状況や歴史の傾向のなかで、それが国全体の熱情として現れたのだと分析しているところは、ちょっと感動的でさえある。
いやあよい本を読んだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレフランス革命は人間の熱情の噴出であり、社会に良き変化をもたらすとともに恐怖政治で多くのものを失わせた「劇薬」であった。
恐怖政治を推し進めたロベスピエールの論理も、それ単独で見れば悪いものではない。生存権は何より優先されること、個人の利益ではなく公共の利益を考えること。しかしそれがよいものであるために、それを正義と盲信しすぎればそれは排除につながる。自分が正義だと信じる人間はどこまでも残酷になれる、というのは昨今の自粛警察やアメリカのデモにも通じることがある気がする。ロベスピエールといえば悪の巨魁のようなイメージだったが全然そうではなく、冷徹で理想に燃える正義漢だったのかなという気がした。生存権は第二次大戦後にやっと根づき、今もその都城にある。いつの日か、と願った彼らの理想は、いつか完遂するのだろうか。人間の悲惨さと偉大さは裏表、というのも分かる気がする。