白石一文のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
近いはずで遠い政治の世界が動いていくさまのドキドキ感、絶妙なミステリ仕立てで描かれる主人公のある過去が、ページをめくらせる。主人公の気持ちなどとノイズだといわんばかりの現実。それが、恋心の切なさを浮き彫りにさせる。でも結局は、主軸はその現実を享受する人間なのだ。
白石一文の小説を「不倫モノ」と片付けてしまう読者が多いけれど、おそらく既婚者である著者が人の心を揺り動かしてしまう恋愛について書くには、じつに誠実な書き方なのではないだろうかと思っている。「女性への幻想に耐えられない」という女性読者は、彼の書く異性への幻想や男性のセックス依存みたいなものを自分だって持っている(女だって所詮ビッチ -
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全5編からなる短編小説集。
全話、男女の許されざる関係性をテーマにしているがその質はどれも様々である。
不倫の他に一貫するテーマが死。結婚は愛の偽装であるとするならば、この作品集の主たるテーマは愛と死である。
特に表題となった不自由な心では、愛と死について、独善的に捉える主人公の心が、事故によって体の自由を奪われた妻の体と対比するような形で描かれている。
愛とはどうあるべきか。誓うものか、祈るものか、縛るものか、背負うものか、押し付けるものか。そしてその先にある諦念を受け入れることが愛であるのか。
無責任な愛ほど他者を不幸に貶めるものはない。それは死も同じである。
感情で小説を読む人にはオス -
Posted by ブクログ
今日はもの凄い黄砂でしたね。
そのモヤ〜っとした空気の中を仁川まで行った往復の電車の中で読む。
本の中も同じような空気が澱む。
部下の自殺をきっかけにうつ病に罹り、会社を辞め妻子とも別れ故郷・博多に戻った精一郎。
肺がんを発病し、死の恐怖から逃れようとするかのように結婚と離婚をくりかえす敦。
48歳となって再び寄り添うように支え合う小学校以来の親友ふたり。
う〜ん。私より2級下の主人公たちは、ほぼ同じ時期に同じ福岡で高校時代を生き、大学へ行き就職をした。
華やいだ若かりし頃と、そして相反するような現在。
主人公たちほど酷い状況にはないけど、気分的には良く分かるような気がする。
齢50も過ぎると -
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『すぐそばの彼方』(白石一文、2005年、角川文庫)
政治と女をめぐるフィクション。
次期首相最有力候補を父に持ち、父親の私設秘書をつとめる龍彦。
龍彦が過去に犯した過ちから徐々に立ち直っていくが、同時に父親から再度信頼を得、政界(政局)の権力争いへと巻き込まれていく。その過程にはある真実があったのだが…
政治の権力闘争の影にある闇の部分が随所にあり、政治に身を投じ権力を手にした者の裏の姿を描き出している点がおもしろい。
この小説では女性関係が物語と平行して明らかになっていく。政治に身を投じつつも、愛する女性を追い求める「政治家」の姿があった。
(2009年10月25日) -
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短編のすべてに「不倫」という題材が組み込まれているが、嫌悪よりも人間らしい愛情が描かれていることを感じ、深く響いた。
例えばもう二度と繋がることの出来ない相手でも(今現在傍らにいる人であれば尚いいが)、心の中に優しい傷となって生き続ける。
自分の中で記憶が形を変えながら死を迎えるその日まで共に歩み続ける。そんな愛情の素晴らしさに触れた作品だった。
この作品を読んでいると己にあった既存の常識が少し砕け破壊されたように思う。
個体で生まれて個体で死んでいくのには変わりがないが、胸の中を覗けば無数の物語があり、それらに時に苦しめられ時に励まされている。
そんなふうにして今日もやっと呼吸して、酸素を二 -
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短編集です。この人も初読でしたが…。
男性の書く文章だな、とものすごく思いました。いい意味でも悪い意味でも夢があって…ご都合主義(笑)
何年も不倫をした挙句に、振り返ってみた女がみんなそんないい女だったら誰も苦労しないってば、と言いたくなります。
予定調和のように理解ある愛人・恋人に対して、妻はみんなどうも反応が鈍くて…まるで浮気されてもしょうがない、といっているようでなんだかなー…とちょっと思ってしまいました。
あ、小説としては書き方もうまいし面白いですけどね。なんかうーん?と読みながら頭ひねっちゃう感じが…いいんだか悪いんだか。
登場する男性は皆、それほど強引でもなく押しが強すぎるでもな