パトリシアハイスミスのレビュー一覧
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ハイスミスの短編は、タイプの異なる独特な世界観がコンパクトに詰まっていて、とても面白かった。
ハイスミスの魅力は何と言っても心理描写。
主人公の頭の中を覗くように「なぜそんなことをしてしまうのか」が見えてきて、人間の本質が浮き彫りになる。
最初は「この人ヤバい」と思っても、だんだん「でもそうなる気持ちも…」と共感してしまうこともあって、善と悪の境目がグラグラしてきてクセになってくる。
私は頭の中で、不安や心配なことを自問自答して脳内反省会をしてしまう癖があるので、登場人物たちの不安や、それを必死に落ち着かせようとする姿に共感してしまった。
これで自分が読むハイスミス作品は4冊目。『太陽 -
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以前「見知らぬ乗客」だったかな?デビュー作、めずらしく投げ出してしまったが、数年ぶりに手に取ってみて正解でした。きっと自分が成長したのだろう(と思いたい)。
かたつむりに魅せられた男の奇妙な話とか(なぜかカタツムリの話が二編も入っている。ハイスミスはカタツムリに何か思い入れがあるのだろうか)、日常の延長線上に待ち構えていそうな、夫婦の最悪な結末が描かれている「モビールに艦隊が入港したとき」とか、私が好きな主題のひとつである”いかれた人”たちが描かれている「ヒロイン」「アフトン夫人の優雅な生活」とか。不気味、とは違うんだけど、どこか一本ずれているような世界に酔い続けていられる短編集でした。 -
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ネタバレヴィム・ヴェンダース監督「PERFECT DAYS」(パーフェクトデイズ)にて、平山(役所広司)の妹の娘ニコ(中野有紗)が、平山の部屋の文庫本を読んで、
「おじさん、わたし、この『すっぽん』って話好きかも。ヴィクターって男の子の気持ちがわかるっていう意味」
母が迎えに来たとき、
「おじさん、ねえ、おじさん。わたし、ヴィクターみたいになっちゃうかもよ」
という場面が強烈だったので、積読を崩してみた。
勝手に初読のつもりでいたが、実は「厭な物語」(文春文庫)で「すっぽん」のみ既読だった。
再読してみて、確かにこの作品への言及は大きい要素だなと思った。
また、他の短編も読んでよかった。
作者が同性愛 -
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シャーリイ・ジャクスンから毒気を少しばかり抜きとり、世にも奇妙な物語をひとさじ足したような作品集。
「すっぽん」は他の短編集で読んだことがあったけれど、ハイスミスの作風がここまでバラエティ豊かだとは!
ヒッチコック風の「かたつむり観察者」、シャーリイ・ジャクスンみを感じる「愛の叫び」「野蛮人たち」、切ない読後感の「もうひとつの橋」が特に好き。
日常に得体の知れないなにかが入り込み、もう今までの日々には戻れない...という「からっぽの巣箱」もよかった。
ある事象が起きたときに、なぜか過去のやましい記憶を(ほんとうはなんの関係もないとしても)関連づけてしまう、不思議な感覚に共感を覚える。
すっ -
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面白いね
解説で稀有な作家と評されるがまさにその通りだと思う。
いわゆる人間の心理を描く繊細さが群を抜いて優れている。
11個の短編の登場人物全てが印象的だった。
それはなぜか。
その答えは彼らが唯一無二であるからだ。
現実の個人が全て異なるのならば、小説の世界の個人もまた全て特異であるべきだ。
この理想にパトリシア・ハイスミスは究極的に漸近した作家といえる。
つまり、登場人物のそれぞれが何かの経験をした時に生じる心理的運びが異様で、奇妙である。
「そうはならないだろ」と突っ込みたくなるが、ふと思い直す。
他者の心理など理解できないのが普通だ。他者とは本来的に奇妙で理解できない存在のはずだ -
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映画『太陽がいっぱい』の原作であるトム・リプリーものなどで知られるパトリシア・ハイスミスの短編集。タイトル通り11作品を収録している。原題は“Eleven”(アメリカでは“The Snail-Watcher and Other Stories”として刊行)。原著は1970年刊、短編集としては最初のもののようだ(短編自体はずっと以前から書いており、例えば収録作の1つである「ヒロイン(The Heroine)」は1945年に発表されている)。日本での刊行は1990年、その後、2005年に改版されている。
サスペンスやミステリとして評価されがちなハイスミス作品だが、本人はそう見られることを必ずしも快 -
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ハイスミスが1970年に出した短篇集。処女長篇『見知らぬ乗客』以前に書かれたものも含む。グレアム・グリーンの序文付き。
ハイスミスって短篇もこんなに上手いのかと驚く(長篇もまだ『キャロル』しか読んでないけど)。ものすごく型がきっちりしているので展開は読めるのだが、スリリングな語り口に引き込まれ、不安を掻き立てられてしまう。津原泰水が自作『11』の解題で『ナボコフの1ダース』と一緒にこの『11の物語』を引き合いに出していたけれど、たしかにナボコフを連想させる技巧派だなぁ。
しかし何が面白いって11作収録のうち2つもヒトがかたつむりに殺される話が入ってるとこ(笑)。普通サイズのかたつむりが大量