葉山博子のレビュー一覧
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著者のアガサ・クリスティー賞受賞後第一作。在台日本人と台湾生まれの本島人の男性二人が共に南洋探険と植物学研究を志すも、一方は戦争のために、もう一方は本島人というアイデンティティゆえにそれぞれの壁にぶつかっていく、というストーリー。
物語の展開もさることながら、歴史的背景のディティールが現在の研究の水準に拮抗するレベルで精緻に、かつ生彩ある形で書き込まれていて、著者の力量を感じさせる。中でも著者は、在台日本人・琴司のパートよりも、本島人・陳永豊のほうにより焦点を当てていく。陳(台湾語読みで「タン」と読ませる)の実父は台湾民主国のリーダーのひとりで、彼はその父の最期を知る本島人の通訳によって -
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〈「琴司君、どうだろう。きみはこれから内南洋の植物を究めて、僕は外南洋を究める。そうしていつか、僕らで南洋植物専門の標本館を作らないか?」〉
父親を不当に処刑されて、富豪の陳家の貰い子となり、陳永豊と名乗るようになった台湾人の少年は、大正十一年、総督府高等学校尋常科に入学する。ほとんどが日本人が占める学級内で、夏目漱石を愛読し、清らかな日本語を扱う陳と同級生になった台湾で生まれ育った生田琴司は友情を育んでいく。植物を愛するふたりにとって、植物をひたむきに追いかけ続ける人生こそが、一番の望みだったのかもしれないが、戦争の暗い影はそれを許してはくれなかった――。
彼が陳永豊と名乗るまでの壮 -
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台湾は2回しか行ったことがないが、とても好きで、これからも何度も行きたいと思っている。
台湾は親日とか言うけど、どうなのか、日本人がそんなこと言っていいのかとは思っていた。
ただ、植民地下で生きた現地の人のことをしみじみ考えることはなかった。
この小説を読んで初めて、植民地で生きるということはこういうことなのかと細かく実感できてとても良かった。
本人にはほとんど意志的ではない波乱万丈の人生の中で、植物学が芯になり、どれほどの苦しい境遇にあっても一筋の道を生きられたことは幸運であった。このようなものがあることは重要なことだった。
それと対比する形の人生を送った琴司。彼は彼なりの苦労をしたとしても -
Posted by ブクログ
日本統治下の台湾で皇民として生きなければならなかった本島人の陳(タン)と、台湾生まれの内地人琴司のアイデンティティのひずみを巡る苦悩は読んでいてつらくはあるのだけれど、奇跡的な平和の中で、生まれた土地と国籍が一致している私がそれを“分かる”と感じ読んでしまってもいいのだろうかと、少なくない後ろめたさに似た感覚をおぼえもして、読み終わったいまも咀嚼した物語をすべて飲み込み「面白かった」とただ手を合わせるのには微かな躊躇いが有るにはある、それくらい考えさせられる核をもっていた。境界線、文化、そしてそこにある人々の生活と続く人生を無慈悲に捻じ曲げた戦争という圧倒的な暴力によって流れた夥しい血が直接の