【感想・ネタバレ】南洋標本館のレビュー

あらすじ

日本統治下台湾の植物学者たち──南洋探検が織りなす人生のランドスケープ
僕らで南洋植物専門の標本館を作らないか?──日本統治下の台湾。漱石を読み、端正な日本語を話す陳は、台湾生まれの日本人・琴司と共に植物学者を志した。だが養父母の期待を背負った陳は、意思とは裏腹に医学の道へ。琴司は台北帝大に進み、帝国委任統治領南洋群島への採集旅行に出掛けた。一方、自らの道に行くと決めた陳は、陸軍属の技師としてニューギニア探検へと向かう。波瀾の運命を生きる台湾人青年の大ロマン

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Posted by ブクログ

日本の台湾統治50年。とても長い。それによって生まれる歪みは、人々を翻弄する。それでも植物学者たろうと生きる陳と琴司。おもしろい。もうちょっと陳の米国での葛藤も読んでみたかった。

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2025年11月15日

Posted by ブクログ

著者のアガサ・クリスティー賞受賞後第一作。在台日本人と台湾生まれの本島人の男性二人が共に南洋探険と植物学研究を志すも、一方は戦争のために、もう一方は本島人というアイデンティティゆえにそれぞれの壁にぶつかっていく、というストーリー。
 
 物語の展開もさることながら、歴史的背景のディティールが現在の研究の水準に拮抗するレベルで精緻に、かつ生彩ある形で書き込まれていて、著者の力量を感じさせる。中でも著者は、在台日本人・琴司のパートよりも、本島人・陳永豊のほうにより焦点を当てていく。陳(台湾語読みで「タン」と読ませる)の実父は台湾民主国のリーダーのひとりで、彼はその父の最期を知る本島人の通訳によって台湾の民族資本の担い手の家にもらわれ、こんどは経済と政治の面で植民地支配の現実と直面させられる。一方で、その陳を救った男は大陸に渡り、国民党の諜報機関の元締めとして陳を抗日戦争に動員しようと画策する。その誘いを断った陳は、アジア太平洋戦争が始まると日本名「永山」を名乗り、インドネシアを支配する日本の軍政府と結びつきながら、研究を継続しようと企てていく――。こうした展開の積み重ねによって、戦時下の中で心ならずも生きるための選択を強いられただろう多くの台湾人たちの姿を浮かび上がらせていく。
 琴司のパートよりも、陳の台湾脱出後、アメリカやカナダでの学究生活のことを読みたいと思ってしまったが、それはさすがに要求しすぎかもしれない。

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2025年11月02日

Posted by ブクログ

前作「時の睡蓮を詰みに」で感動し、待ってました、この作品!もう圧巻!これほんとにフィクションなの?そいでお一人で書いてるの?…凄すぎる。今1番気になる作家さんです!語彙力なくてすみません。日本人必読。やっぱり学校の歴史って公平に教えてないのだなと思う。いやそれはどの国も仕方のないことか…。ただただ戦争は起こらないでほしいと、みんな仲良くしようぜ…と祈るだけのへなちょこ日本人です…。お会いしてみたい。ダ・ヴィンチあたりで特集してもらいたい。そして、個人的に当たりの本はいつも坂野公一さん装幀だ!

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2025年10月18日

Posted by ブクログ

戦時中の出来事は全然知らないので少しずつ知識を深めていきたいと思わせるような小説だった。1週間もかかって読み終えた2人の植物学者のドラマは波瀾万丈でお金があってもこの時代、占領下にあったらなくなってしまう。生きていくのにお金ではなく意志の強さ、情熱が必要でしぶとさもなくてはいけない。すごく考えさせられる内容と分厚さで久々に長く付き合った一冊だった。
でも諦めずに読んでよかったし、途中でやめることができないぐらいに没頭した。

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2025年09月21日

Posted by ブクログ

〈「琴司君、どうだろう。きみはこれから内南洋の植物を究めて、僕は外南洋を究める。そうしていつか、僕らで南洋植物専門の標本館を作らないか?」〉

 父親を不当に処刑されて、富豪の陳家の貰い子となり、陳永豊と名乗るようになった台湾人の少年は、大正十一年、総督府高等学校尋常科に入学する。ほとんどが日本人が占める学級内で、夏目漱石を愛読し、清らかな日本語を扱う陳と同級生になった台湾で生まれ育った生田琴司は友情を育んでいく。植物を愛するふたりにとって、植物をひたむきに追いかけ続ける人生こそが、一番の望みだったのかもしれないが、戦争の暗い影はそれを許してはくれなかった――。

 彼が陳永豊と名乗るまでの壮絶な経緯から幕を開ける本書は、時代の残酷さと闘いながらも、自身のアイデンティティと最後まで対峙することになるひとりの台湾人青年を描いた物語で、ただ苦難だけが綴られるだけではなく、もうひとりの主役である琴司との夢を語り合う青春や未知への冒険、大切なひととの出会い、と様々な煌きが散りばめられています。植物を愛した青年たちが辿った人生に、何度も目頭が熱くなりました。

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2025年07月18日

Posted by ブクログ

全然思った話と違ってびっくりした。
植物学者の話だけど、
これは歴史の話だ。
台湾が日本の統治下にあったと知識としてはあるが、
それがどういうことなのか、考えさせられた。
当時の人々の感情に想いを馳せられる、
これが文学の力なのだと思う。

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2025年09月28日

Posted by ブクログ

台湾は2回しか行ったことがないが、とても好きで、これからも何度も行きたいと思っている。
台湾は親日とか言うけど、どうなのか、日本人がそんなこと言っていいのかとは思っていた。
ただ、植民地下で生きた現地の人のことをしみじみ考えることはなかった。
この小説を読んで初めて、植民地で生きるということはこういうことなのかと細かく実感できてとても良かった。
本人にはほとんど意志的ではない波乱万丈の人生の中で、植物学が芯になり、どれほどの苦しい境遇にあっても一筋の道を生きられたことは幸運であった。このようなものがあることは重要なことだった。
それと対比する形の人生を送った琴司。彼は彼なりの苦労をしたとしても、やはり陳よりは相当楽だった。

80年はあまりにも遠いけれど、この小説を読んで考えるに、アジアの国に対する日本人の思いは、相手の国より相当薄いような気がする。いじめっ子はとうに忘れている出来事を、いじめられた子は大人になっても全く忘れられないという関係にも似ているのかもしれない。その時代のことを知る人が双方で全員いなくなった時、どういう形で、どういう思いで歴史の事実は捉えられていくのか。

そうは思いつつ、2人がまた再会して南洋標本館を作るみたいな夢の結末を期待していた自分は、まだまだわかっていないと反省した。


「どうして人はより愚かな存在に惹かれ、低い物を高い所に置いて崇めようとするのか。自分の心に嘘をついてまで愚者を礼賛しつづけるのか?」 165ページ

-日本人である僕の三十七年間の幸福は、きみを三十七年間抑圧し、あらゆる不条理と我慢を強いることによって成り立っていたものだ。僕らは、日本の台湾支配は合法的だったと言い、あらゆる苦痛と哀しみを合法化してきた。    494ページ

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2025年09月16日

Posted by ブクログ

舞台が戦前の台湾と戦中のインドネシアということで、非常に興味深く読んだ。
特に台湾では、本当人の思いがよく理解でき私の中にあった失われたピースが埋まった気がした。
しかし物語としては冗長で、理屈っぽく、必ずしも共感出来なかった。その意味でとても残念に思った。

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2025年11月26日

Posted by ブクログ

戦時中の激動の時代の中で生きた2人の植物学者の話。日本支配時代の台湾のことなんて全然知らなかったし、インドネシア統治のことも、資料や教科書で読むのと、小説で読むのとでは大違い。その時代をリアルに感じられるのが小説の役割だよな…と考えさせられました。陳の激動の人生、最後は幸せだと思えたのか…。植物への情熱が生きる原動力となり得たのか。生まれた場所が、時代が違えば、彼はもっと簡単に優秀な学者として世界的に活躍できただろうに。他国を支配する、侵略する、戦争する、その行為の末にどれくらいの人の人生が壊れるのか、思いを巡らせた作品。

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2025年09月20日

Posted by ブクログ

日本統治下の台湾で皇民として生きなければならなかった本島人の陳(タン)と、台湾生まれの内地人琴司のアイデンティティのひずみを巡る苦悩は読んでいてつらくはあるのだけれど、奇跡的な平和の中で、生まれた土地と国籍が一致している私がそれを“分かる”と感じ読んでしまってもいいのだろうかと、少なくない後ろめたさに似た感覚をおぼえもして、読み終わったいまも咀嚼した物語をすべて飲み込み「面白かった」とただ手を合わせるのには微かな躊躇いが有るにはある、それくらい考えさせられる核をもっていた。境界線、文化、そしてそこにある人々の生活と続く人生を無慈悲に捻じ曲げた戦争という圧倒的な暴力によって流れた夥しい血が直接の戦場描写はなくとも行間を確かに伝い落ちている。南洋の島々での採集探検のシーンでの噎せ返るような湿度や草熱れなども含めて、見えないものをちゃんと見せてくれる文章だと思った。

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2025年08月22日

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