詩人・長田弘氏が私たちに書き送る手紙39篇が収められている本。
どの手紙も言葉の一つ一つが味わい深く、それぞれの手紙に
ハッとさせられる一言がある。
私は「行きどまりと思ったとき、笑い声が聞こえてきた」から始まる
中国の詩を紹介している手紙8と
エミリ・ディキンソンの詩を紹介している”痛み”について
...続きを読む書かれた
手紙39が特に印象に残った。
<手紙8からの抜粋>
人びとの日常の明証としての笑い声。
そうした笑い声をもつ世界のすがたを
あたかも行きどまりのようにおもえる現在の向こうに、
あきらめることなくたずねること。
誰にも言われなくともしなければならないこと、
よくよく思いさだめておきたいことは、
どんなときも、たぶんそれのみ。
易しいようで、とても難しいこと。
<手紙39より抜粋>
わたしはあなたが好きではありません。
しかし、人間の高慢や思い上がりを断じてゆるさないのがあなたです。
「痛み」があなたの名です。
一つの心が壊れるのをとめられるなら
わたしの人生だって無駄ではないだろう
一つのいのちの痛みを癒せるなら
一つの苦しみを静められるなら
一羽の弱ったコマツグミを
もう一ど巣に戻してやれるなら
わたしの人生だって無駄ではないだろう
あなたのことを考えるとき、いつも思いだす
エミリ・ディキンソンの詩です。
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そして…
「書くというのは、二人称をつくりだす試みです。
書くことは、そこにいない人にむかって書くという行為です。
文字をつかって書くことは、目の前にいない人を、
じぶんにとってなくてはならぬ存在に変えてゆくことです。」
長田氏のこの言葉は忘れずにいつまでも心に留めておこうと思った。