非常に興味深い内容で面白い一冊だった。
(上下巻まとめて上巻でレビュー)
冒頭で著者が、本書の内容を映画に例えて「アベンジャーズとジュラシックワールドを併せたような」と語っていたが、要は、ヒトゲノムを編集するクリスパーそのものというより、その研究者のヒトトナリ、その活動、いかにその科学的発見を
...続きを読む医療に活かすか、あるいは官民一体となった団体の組成といった周辺の丁々発止に多く紙面が割かれている。
著者が、スティーブ・ジョブズなど著名人の評伝作家であり、その力量がいかんなく発揮された、さすがのベストセラーという趣き。飽きずに読み進むことが出来た。
とはいえ、遺伝子操作も、もうここまで来たか、というのがなによりの感想だ。ホモ・サピエンスはついに神の領域に踏み込もうとしている。いや、もう踏み込んでいる。
倫理の問題はもちろん、今後、政治的に利用される危険性も大いに孕む。様々な警鐘も鳴らしながらではあるが、本書のトーンは、既にゲノム編集は人類が獲得した進化の成果であるという論調だ。当然予想される、巻き上がる倫理観や神への冒涜といった反論に、著者はこう言ってのける。
「自然と自然の神はその無限の叡智によって、自らのゲノムを修正できる種を進化させた。その種が、たまたまわたしたち人類なのだ」。
2020年に世界を巻き込んだコロナ禍が起こったのも、偶然ではなかったのかもしれないと思わされる。ゲノム編集の動きにドライブをかけることになるウイルスとの戦いですら、神の無限の叡智のなせる業か。
ゲノム編集がヒトに施されている将来は、「あるもの」と覚悟をしておいたほうが良さそうだ。
甥っ子たち世代が、小学校の授業でコンピュータのプログラミングを学習していると聞いて驚いたのも、もう今は昔。数年後、数十年後には、遺伝子コードを彼らは学ぶことになるのだろう。そして、遺伝子情報をいかに編集すれば、より進化した人類が生み出せるのかをプログラミングしていくのだろう。
見たいような見たくないような未来が、もうすぐそこまで来ていると震撼させてくれた。