ノーラエレングロースのレビュー一覧
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「障害」とは何か?
身体の欠如ではなく、社会の想像力の欠如である。
マーサズ・ヴィンヤード島では、聾者も健聴者も関係なく、誰もが手話で話していた。
そこでは聾者は「特別」ではなく、ただの「島民」であり「人間」だった。
壁も区別も存在せず、手話が自然に日常に溶け込んでいたその社会が、たまらなく美しく感じた。
聾者の自分にとって、その暮らしは少し羨ましくもあった。
現実では、今もなお一部の人々が障害者を「半人前」とみなし、マイノリティにだけ努力を求める。
その根底には、古代から続く偏見──“欠陥としての障害”──という思想がある。
時代が進んでも、無知による差別の構造はなかなか消えない。
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障害は作られている。
本書を読んで改めて感じたことだ。
「かわいそう」がどれだけ無知な言葉なのか、わたしはいつも考えている。
本書では、聴覚障害があっても島の社会に溶け込み、健聴者との区別なく営まれてきた島の歴史が書かれている。
差別がないということは、誰もそのことに頓着しないということだ。
その人を思い出すとき、その人が持っているアイデンティティの中に、障害を含めないことだ。
いま、時代はゆるやかに変化し、社会のしくみが障害を生み出している、という考え方にシフトしつつある。
しかし、解説で書かれているように、聞こえる側が手話をきちんと理解しないあまり、聞こえない側の理解に頼ろうとする -
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原題は“Everyone Here Spoke Sign Language”。著者のノーラ・グロースは医療人類学者、現在はロンドン大学(UCL)教授。刊行は1985年。31歳の時に書いた博士論文がもと。グロース自身も、まさかこの本がろう文化や医療人類学のロングセラーになるとは思ってもいなかったに違いない。
調査研究のプロとして、腰が据わっているというべきか。ルポライターやノンフィクション作家だとこうはいかない。300年近くにわたってマーサズ・ヴィンヤード島で続いたろうの文化、それを文献や文書にあたり、聴き取りをして明らかにし、さらには聴覚障害が遺伝したという点についてもデータにもとづいて明確に -
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〈ヴィンヤード島で聾者が手に入れたステータスを最もよく示しているのはおそらく八〇代の島の女性による次の言葉であろう。あなたが小さい頃、聾というハンディキャップを負わされていた人たちはどんなふうでしたか、とたずねると、この女性は断固とした口調でこう答えた。
「あの人たちにハンディキャップなんてなかったですよ。ただ聾というだけでした」〉
二十世紀前半まで、二半世紀以上にわたり、アメリカ全体に比べて、遺伝性の聴覚障害が多かったとされるマサチューセッツ州のマーサズ・ヴィンヤード島では、島のほとんど住民が手話で話すことができたらしい。その島の歴史や人々の触れ合いを丁寧に紐解きながら、「他者を理解する -
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アメリカにある、1700年代~1900年代前半まで遺伝性の聴覚障がい者が多く見られたマーサズ・ヴィンヤード島の調査記録を一般向けに記載した書籍である。
特筆すべきは、社会として聴覚障害がある人を「障がい者」として全く扱っておらず、現在の社会での認識と異なる社会が自然と形成されていた事である。
以前どこかの書籍で、「視力が悪い人は眼鏡という道具で他の人と変わりない生活を過ごせている。車いすの歩けない人が他の人と変わりある生活をするのは、技術者の怠慢だ」という、技術者の指導をする人の意見を目にしたことがあったが、
まさに、「障がい」とは、社会(上記の場合であれば社会の中で持ちうる技術)が定義するこ -
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ネタバレ遺伝性の聾者がかつて高頻度で存在していたアメリカのマーサズヴィンヤード島に関するノンフィクション。
遺伝性聾の発祥に関する考察も興味深いが、なにより、島のコミュニティでは聾者が特別視されず、社会的役割や地位も健聴者と変わらなかったという点を興味深く読んだ。
また、訳者の方による注やあとがきも素晴らしかった。
伊藤計劃氏『ハーモニー』でこの島のことを言及されていたのが本書を読んだきっかけ。
島における遺伝性聾の人は本書執筆時点では全員亡くなっていたため、聾者の人数や家族関係などが分からなくなってしまっていた。そもそも遺伝性であるかどうかも当初ははっきりとしていなかったが、著者が住人にインタビュ -
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非常に示唆に富んでいてとてもおもしろかったです。文句なし星5。1991年刊行とのことですが、色褪せるところはなく、今読むべき本でした。
ヴィンヤード島は聾というステータスを持つ人にとっては理想的な共同体であり、多様性うんぬん、差別うんぬん、うるさい現代において、色々な意味で学びがある事例かと思います。特に印象的だったのは、ヴィンヤード島がこのような共同体であった理由の1つとして挙げられていた、”ただ単に聞こえないという事実が共同体内においてなんの影響もなかっただけである”というような趣旨の一文です。これは本当にその通りで究極の状態だと思いますが、同じように実現することはとてつもなく難しいことだ -
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アメリカの有名な避暑地マーサズ・ヴィンヤード島。ネットで検索してみると、いかにも風光明媚な光景が広がっている。しかし、この島ではかつて統計上あり得ないほど多くの遺伝性聾者が暮らし、健聴者も含めて島民は日常的に手話で会話をしていたという。著者が島に入ったとき、すでに島の最後の遺伝性聾者が亡くなってからずいぶんと時間が経っていたが、少ないながらその時代の島での暮らしを知る人々がまだ存命であった。本書は医療人類学社会である著者がフィールドワークをし、島のオーラルヒストリーを収集した貴重かつユニークな書籍である。
本書の前半は、マーサズ・ヴィンヤード島の歴史がひもとかれ、島に遺伝性聾者が出現した由 -
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アメリカ北東部マサチューセッツ州にあるマーサーズ・ヴィンヤード島では、耳が聞こえる/聞こえないは関係なくコミュニケーションの一つとして手話が使われてきた。むしろ口語よりも手話の方が便利な場面すらあり、また聾者はとくに差別されることもなく普通に暮らしていた。
ヴィンヤード島の主要産業は漁業や牧畜業であり、1644年にイギリス・ケルト地方から移民がやってきて以降約3世紀12世代に渡って聾者が共同体の中に存在してきた。それは遺伝的な要因で、島という閉じられた共同体において婚姻が繰り返された結果と考えられており、10-20%という高い割合で聾者が生まれてきた。しかし現業を中心とした仕事をするのには耳 -
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読ませるドキュメンタリーではなく、文化人類学者のフィールドワークの研究結果としての本。だから多分に記録媒体としての部分もあるのだが、その事実や住民の声の記録が面白い。
アメリカ・マサチューセッツ州のマーサズ・ヴィンヤード島では、かつて聞こえない人だけでなく、聞こえる人も当たり前のように手話を使っていた。場合によっては聞こえる人同士でも手話で会話する。聞こえないことがハンディキャップではない。手話は単なる第二言語のような扱いだ。
今ではもうこんなパラダイスな環境は失われているのだが、英語と手話のバイリンガルだ。多言語国家で公用語と第二言語を使い分けるようなものだ。
その歴史を移民前のイギリ -
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世間では合理的配慮や多様性などの言葉が取り立たされているが、これによって、障害を持つ人たちは暮らしやすさを感じる世の中に変わっているのだろうか。私一個人として、まだまだ身の回りの配慮の必要な方が様々な場面で苦労を強いられてる状況は変わっていないと思う。
今回この本を読んで、本人の器質的な障害は変わらずとも、周りの状況次第で本人の障害は障害では無くなるとゆう事ことを見事に立証するこの島の実話に深く感銘した。
この島では耳が聞こえない事は周りにとっても本人にとってもさほど重要視される事では無い。手話を誰もが使いこなせる為、コミュニケーションになんら影響がない。聞こえる人はそうして違和感なく言語 -
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ネタバレ最初の入植者が族内婚で、次第に自分たちでも気づかないまま近親婚を繰り返すことになっていったという。
島の人々はわざわざ手話を学んだわけではなく、自然に覚えたという話には驚いた。それほど頻繁に手話が使われていたということだ。健聴者と聾者をつなぐ共通言語としての手話があれば、生活する上で何も問題がないことは証明されているのだな。
手話が当たり前に併用されていた驚きと共に、障害とされるものは社会がつくっていると言っても過言ではないことに悲しい気持ちになる。十九世紀以前の本土での差別の箇所は深刻だった。偏見は主に無知からきていると思うので、ひとつこういった島での歴史があったことを知れて良かった。
副次 -
Posted by ブクログ
住民みんなが聾でも健聴でも手話で話していた時代があったアメリカの島の話。前半は島の成り立ちやどこから来た遺伝なのかにページが割かれて研究者でもない俺には退屈だった。後半は島の実際の姿を沢山のインタビューから活写しててとても興味深かった。ハンディキャップとは気まぐれな社会的カテゴリであると言うこと。社会のあり方について考えさせられる一冊。今後の自分のあり方に影響を残すと思う。訳者の後書きは言い訳くさくて要らないなって思ったけど、島について映画ジョーズの舞台だったとかかわぐちかいじのジパングに出てきたとかなかなか面白かった。最近ドラマや映画ばかり観てて電車の中で少しずつ読んでて大変読むのに時間がか