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ユーザーレビュー みんなが手話で話した島 ノーラエレングロース / 佐野正信 アメリカの有名な避暑地マーサズ・ヴィンヤード島。ネットで検索してみると、いかにも風光明媚な光景が広がっている。しかし、この島ではかつて統計上あり得ないほど多くの遺伝性聾者が暮らし、健聴者も含めて島民は日常的に手話で会話をしていたという。著者が島に入ったとき、すでに島の最後の遺伝性聾者が亡くなってから...続きを読むずいぶんと時間が経っていたが、少ないながらその時代の島での暮らしを知る人々がまだ存命であった。本書は医療人類学社会である著者がフィールドワークをし、島のオーラルヒストリーを収集した貴重かつユニークな書籍である。 本書の前半は、マーサズ・ヴィンヤード島の歴史がひもとかれ、島に遺伝性聾者が出現した由来が検証される。それによると、島にヨーロッパ人が入植を開始したのは1644年。この移民の集団の中に、聾の潜在性遺伝保有者がいたと推測される。島は大陸との交通の便がよくなく、1710年に移住が終了して以降、島外生活者との定期的な接触や結婚は激減した。ただでさえ当時は、友人や配偶者は近場の人で決めるという時代である。結果、限られた地域で、近縁の者同士の婚姻・出産が繰り返され、遺伝性聾者が高率で出現することとなった。 19世紀アメリカ全土の遺伝性聾の出現率は5,728対1。一方、マーサズ・ヴィンヤード島は155対1 で、地区によっては何と4人に1人が遺伝性聾だったという。この数字だけで、ヴィンヤード島の特異さがよくわかる。 島民自身は聾がどうして現れるのかを理解していなかったという。遺伝性であることや自分たちの生活様式に理由があるとも夢にも思わず、耳が聞こえない人たちのことを普通に受け容れていた。アメリカの他の地域の聾者の数もこんなものだと思っていたのである。 実際、島の聾者たちは、健聴者と何も変わらずに生活をしていた。言葉は不自由しない。何せ島民は皆、手話が使えるのだ。むしろ聞かれたくない話をする際には役に立っていた。 彼らの教育レベルは島の健聴者のそれよりも高いほどだった。聾学校で健聴者の倍の期間学ぶことができたのである。 島では、アメリカの健聴者と同じ8割の聾者が結婚をしていた。聾者同士の結婚は少なく、健聴者と聾者、聾者と健聴者のカップルが多かった。出生率も健聴者と変わらない。ちなみにアメリカ全土の聾者の婚姻率は45%に過ぎなかった。 島の聾者は、聾者とだけしか付き合わないという人はおらず、聾者同士のコミュニティも形成していなかったという。また聾者の全国的な組織にも加わっていなかった。彼らは自身を異なる社会集団とみなしてなかったのである。 しかし、そんな島の暮らしも20世紀に入り変化する。マスコミや避暑客が、聾に関する新しい態度を持ち込んだ。また、新たに島に定住する人たちも増えてきて、外部の血が入り、1920年代には聾者の数も減って、若者は手話を覚えようとはしなくなった。1950年代以後、遺伝性聾者は島に生まれていない。 アメリカだけでなく、聾者は半人前と見なされ、ひどい偏見や抑圧を受けてきたという。それは現代にも尾を引いている。本書を読み、障害学を学んだことのある人間なら、おそらくすぐに「障害の社会モデル」という言葉が出てくるだろう。障害は病ではなく、社会環境が作り出しているとする考え方だ。マーサズ・ヴィンヤード島は、まさにそれを地でいく地域だった。著者が聾者についてのインタビューを行うまで、聞かれた相手は知人が聾者であったことを忘れていたケースがいくつもあったという。 島の古老が語った「あの人たちにハンディキャップなんてなかったですよ。ただ聾というだけでした」という言葉には感動すら覚える。 Posted by ブクログ みんなが手話で話した島 ノーラエレングロース / 佐野正信 島民が皆「聾?何それ」ってなるくらいバリアがない暮らしに興味津々。あと、何かひとつのテーマをこの本くらい研究したいなって思いました Posted by ブクログ みんなが手話で話した島 ノーラエレングロース / 佐野正信 マーサズ・ヴィンヤード島 島では聾の人たちも健聴者の人たちも、なんら分けられることく暮らしていた。 職業も、収入も他の地域とも違い両者の差が無い。 「障害」というものは、なんなんだろう。 「五体満足で他の大勢と同じようなことができる」ことを社会が要請してしまう。 更に、その中で「より上手に」「より...続きを読む多く」生産するものがより高いものを得る。 そのような社会構造そのものが、「障害」という概念を生み出してしまう。 大勢よりも何かが不便であったり、苦手だったりする人を「障害者」としてしまう。 そういう視座を与えてくれた。 Posted by ブクログ みんなが手話で話した島 ノーラエレングロース / 佐野正信 論文を読んでいるかのよう。ヴィンヤード島の話を聞いていると、そもそもハンディキャップとは?と言葉そのものについて考えさせられる。島では手話は聾者のものではなく、健聴者も手話を操り当たり前の会話の手段として用いられている。それは、生まれた時からその環境にいたから聴こえようが聴こえまいが話題にもならない...続きを読む。知らないから不便や差別が生まれるのだと改めて思った。 Posted by ブクログ みんなが手話で話した島 ノーラエレングロース / 佐野正信 住民みんなが聾でも健聴でも手話で話していた時代があったアメリカの島の話。前半は島の成り立ちやどこから来た遺伝なのかにページが割かれて研究者でもない俺には退屈だった。後半は島の実際の姿を沢山のインタビューから活写しててとても興味深かった。ハンディキャップとは気まぐれな社会的カテゴリであると言うこと。社...続きを読む会のあり方について考えさせられる一冊。今後の自分のあり方に影響を残すと思う。訳者の後書きは言い訳くさくて要らないなって思ったけど、島について映画ジョーズの舞台だったとかかわぐちかいじのジパングに出てきたとかなかなか面白かった。最近ドラマや映画ばかり観てて電車の中で少しずつ読んでて大変読むのに時間がかかった。 Posted by ブクログ ノーラエレングロースのレビューをもっと見る