副題がしめすように、経済成長と不平等の起源に関する壮大な人類史。
本の前半では、まず経済成長の起源について説明がなされる。大まかには、産業革命や技術発展が原因なわけだけど、著者は産業革命で全く違う原理で世界が動き始めたとはみていなくて、産業革命以前からの変化が積み重なって一種の相転移のようなものがおきたとする。そのドライバーとして人口の役割を重視している。産業革命の前と後の連続性を指摘するところはなるほどな議論ではあるが、それほどの驚きはない。
後半では、格差の起源ということになるが、ここで扱われるのは、ある社会のなかでの階層的な格差ではなく、国ごとの経済格差。なぜならば、そちらのほうが大きな差があるからとのこと。
若干の疑問は残るが、とりあえず著者の議論に乗っかって、先を読み進めていくと、現代社会から、格差の起源をもとめて、歴史を遡り、制度、文化、地理、農業革命、そして最後には人類の出アフリカということになる。
一つ一つの議論には、なるほどな面もあるし、経済的な要因だけでなく、文化的な要素など多様な側面に格差の原因を求めるのは、健全な議論ではある。
で、この本の狙いである「経済成長」と「格差」を一つの統一理論によって説明するという展開になって、ここでも人口や人の多様性ということに議論は整理される。
本を最後までよめば、そういうこともあるだろうなとは思うものの、なんだか後付けの説明のようにも思えて、全体としては、あまり説得力のある議論とは思えなかった。
とはいえ、いわゆるワシントン・コンセサス的な「発展途上国も経済発展することで貧困をなくし、人々の幸せを作り出すことができる。そのためには、自由主義的な経済政策が有効」みたいな処方箋からは、一歩、前進して、国の文化、歴史などにも配慮した政策が必要という結論には至るので、そのあたりは評価できるかな?
が、格差の説明要因に、さまざまな文化、歴史要因を入れたからといって、国の経済格差を発展度合い・スピードの違いで理解しようという姿勢は、相変わらずのワシントン・コンセンサスの世界観。
マルクス的な搾取の構造とまでは言わないにしろ、豊かな国があるため貧しい国が構造的に生み出されてしまう、そして、国内でも豊かな社会階層があるので、貧しい階層が生み出され、構造的に再生産されるという視点もやはり必要なんじゃないかと思った。