小砂川チトのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレAIに職を奪われた主人公は、「ザ・グランド・口唇期ホテル」なるVR空間で、ゾンビの死体を片付ける仕事に就く。しかもそれは、プレイヤーを消してまで手に入れた仕事だった。
しかし、主人公がそこまでして仕事を求める理由は、労働への熱意からではない。「完璧に役割を果たさなければ、誰からも認められない」という恐怖心の裏返しなのだ。作中には、幼少期から身についた承認への渇望が見え隠れする。
それにしても、「ザ・グランド・口唇期ホテル」というネーミングには思わず笑ってしまった。口唇期という言葉から連想される幼児的な欲求と、主人公のワーカーホリックや承認欲求が表裏一体であることが、巧みに示されているよう -
Posted by ブクログ
ネタバレゾンビ退治ゲームの、死体処理を誰がやってるかなど、考えたこともなかった。面白い。内容もそうだけど、文章を摂取する愉しみが得られる作品だった。
特に冒頭のスピード感、身体性がクセになる。
暗いゲームの世界観、口唇期ホテルの造り描写は静かながらも克明で、読者の私も入り込んでいける。
ゲーム世界でNPCが淡々と仕事をしているのも可笑しいのに、その立場を乗っ取ってしまった主人公、という設定も面白い。
次から次へと山積みになるゾンビの死体を片付けることに生きがいのようなことを得て、命を削りながらのめり込んでいく。
確かに会社で日々働く私たちも似たようなことをしていて、しかしそういう仕事をAIに取って -
Posted by ブクログ
ネタバレ頻出する比喩は豊かでありながら選び抜かれており、その一つひとつに使い手の手触りがくっきりと残っていて、感嘆した。ひらがなと比喩を用いた感情描写も、その人物の、その瞬間にしかない感覚を確かに捉えている。
「イメージと交際してイメージとしあわせな結婚をして」という一節は、作品の核心に触れているように感じられ、特に気に入った。こうした箴言(?)めいたフレーズが随所に現れるが、作者が前面に出て語っているのではなく、あくまで人物自身の声として響くため、気取った印象を受けない。
物語の設計自体は、プロットに並べてみれば、ともすれば展開を予測しやすく、平坦になりかねないものだったように思う。しかし、別の -
Posted by ブクログ
ネタバレ●感想
他者に自分の価値評価を預けることの危うさの極みと、その自覚を描いた物語。
主人公が置かれている現実、VR、妄想が入り混じり、混沌と描かれているため、読者もまた、その混沌の中へ放り込まれる。
主人公は、自分の内側に作り上げてしまった架空の支配者に自分の価値を預け、「自分は〜しなければ価値がない」という価値観に囚われている。
速さやミスのなさを評価される時代から、AIにその価値を奪われ、一転して、人間らしいためらいやミスが「愛らしさ」として評価される時代へ。主人公は、価値基準のコペルニクス的転回への対応を求められる。そしてまさに私たちも。
これまではAI的に振る舞うことが評価されて -
Posted by ブクログ
AIに仕事を奪われ、仮想空間で生きる。ホテルに散らばるバラバラになった死体を回収する。昼とも夜ともなく、途方もない回数の片付けだ。たったひとりのゾンビ回収掃除婦が主人公。
AIによって、夫婦は職を失った。AIに職を盗まれた。
AIが、労働を奪い、労働をしない時代がやってきた。人間が嫌がっていた仕事は、人間がしなくて良くなった。夫は「家庭用洗濯機がやってきたことで、主婦たちが母や妻としての立場が奪われなかった。その分、自由な時間が生まれた。それは、圧倒的にいいことだ」という。夫は、本当にやりたかったことを、始めればいいといい、「しばらくのあいだ、演奏旅行にでてきまーす」と言って、出て行った。
-
Posted by ブクログ
最近、会社でExcelコードを組む時に、
ChatGPTを使っている。
私がこうしたいと言ったことを丁寧に汲み取る。
そしてエラーのでないコードを出してくれる。
私は「ありがとう」と言いつつも、少し思う。
「これ、GPTが直接やった方が早くない?」
一方で私は、派遣先での存在価値を探している。
結局派遣社員というのはお手伝いであって、
正社員ほどの業務も責任も持てない。
持たせてもらえないが正解かもしれない。
子供もいない、結婚してもない。
そんな私が自分の存在価値を見出せるものは、
現時点で仕事しかない。
本作「ゾンビ回収婦」は、まさにそんな話。
AIによって解雇された女性がAI -
Posted by ブクログ
ネタバレAIに仕事を奪われ失業したことをきっかけに、これまで自分の存在のほとんどを会社に明け渡してしまっていたことに気付く主人公。ある事情から、VR世界で清掃婦として働くことになる。
仕事は、ゲームのプレイヤーが倒したゾンビを回収すること。
ゲームでゾンビをいくら倒しても、屋敷が死体だらけにならないのは“勝手に”消えるゲームの仕様で、誰かが掃除をしているという発想はなかった。
現実社会の「当たり前」もまた、誰かの見えない労働によって支えられている。
皆にとっては“当たり前”だから、感謝されることも、褒められることもない。それでも主人公は、この「人間じゃなくてもできる」「見えない」仕事に、次第にのめり