小砂川チトのレビュー一覧
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国家において人間よりも上の存在である憲法で、働くことが義務とされている。その重さというか、逃げられなさというか。
自分も仕事辞めてから次の仕事に就くまでのあいだニート生活をしていた経験があって、お金の不安とかももちろんあるのだけど、「働いていない」こと自体に罪悪感を感じたのを思い出した。
主人公はそれに加え、幼少期に親からかけられた言葉や期待によって「誰かの役に立たなければ」と強く思いすぎる人格に形成されているらしく、生きにくいだろうなあ、と。
VRの世界ではプログラミングされたことしか起こらないけど、現実世界ではそうはいかない。これは良い意味でも悪い意味でも。
それと、ゾンビ・アラスカは僕だと思った。社会で生きるというか生きさせていただくためには、何かしらで貢献しないといけない(という気がして)、それがつまり労働。それに対して僕は苦手意識があって、怖くもあって、でもやるしかないから挑戦して、失敗してまた怖くなって、クマに相談することも多々。 -
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ネタバレ強烈なタイトル通り、ゾンビの遺体を回収し続ける女性の話。ただしVRゲームの中で。
AIに仕事を奪われた主人公は、ゾンビゲームの中でもプレイヤーではなく裏方の汚れ仕事をしてしまう。本来はAIが行うべき仕事を奪った彼女はAIに復讐したかったのか、ただ仕事がしたかったのか。いつしか彼女はAIの世界に取り込まれてしまう。
幼い頃から優等生を演じ続けて裏切られ続けたことによる傷が、承認欲求が、彼女の心を次第に壊していく。そんな中で彼女と心を通わせていたのは、同じくAIに取り込まれてしまった「あなたたち」だったのか。
ゾンビゲームの独特の世界観と終始情緒不安定な主人公の語りが続き、正直読みづらさがあったが、人間らしさについて考えさせられる不思議な読み応えの一冊だった。
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ゾンビ映画はかなり観てるので(WDも全シーズン視聴済み)、もうあまり目新しさを感じないことが多いけど、ゾンビ✕芥川賞は気になって読んでみた
まったく目新しかった!
てかこの物語、昔ながらのゾンビも出てくるけど、人間の身体性の話であり、物理的な肉体はそこに存在し続けているのに、その身体性は希薄化している、新たなゾンビ誕生の物語として読んだ
そして現実の世界でアンソロピックのCEOなどがAIの破局的リスクを警告している今、実際に本当の意味での生きる屍は既に生まれつつあるのかもしれない
I've seen quite a lot of zombie movies (and I've watched every season of The Walking Dead), so these days it's rare for the genre to feel genuinely new to me. But “zombies × the Akutagawa Prize” caught my attention, so I gave this a read.
And it felt completely new!
Sure, there are old-school zombies in this story, but it's also a story about human embodiment—perhaps even the birth of a new kind of zombie, one whose physical body continues to exist while its sense of embodiment gradually fades away.
And now, with CEOs of companies like Anthropic warning about the catastrophic risks of AI in the real world, maybe true “living dead” are already beginning to emerge.
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ネタバレとあるうらびれたホテル館内、他の戦闘者が撃ち飛ばしたゾンビ達のカケラを掃除して回る主人公。
SF、もしくは特殊設定ものの芥川賞?と思ったのも束の間、失業のショックから「演奏旅行」に旅立った夫の残したVRゲーム内での話とわかり地に足が着く。
のかと思いきや、やはりそう一筋縄ではなく、そのにわかによじれた世界観の中で夫と同時期に失職した主人公の心の内がじわじわと明らかになってくる。
ワーカホリック症状をゲーム世界に転嫁し(しかもプレイヤー達に倒されたゾンビを回収して清掃するというNPC[non prayer character]の立場)、直接的な言葉でなく湧き立つ滑稽さから現実世界の無益さを浮き彫りにする物語。
無名性や縁の下の力持ち的な尊さを掲げながらの承認や評価を求めてしまう矛盾は身に覚えがあるもの。
また責任を全うするために、そのあらゆる能力を無理に引き上げることで「痛み」が伴うという訴えも、よくぞ言語化してくれたと思った感覚。
最後の方はなぜそんなにこねくり回すのかよく分からなくなるけどこの手の話は大抵落としがそんな感じになるのが常なので、まあ気にしない。
ユーリカの存在は役割としてもエピソードとしても面白かったけど、何の象徴なのか解し切れなかった気がする。
対立する悪ではないし、もう一つの救われるべき存在?それとも悩める神の存在的な?
第175回(2026年上半期)芥川賞。 -
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AIに仕事を奪われ、怒りを抱えて逃げるように完全無欠のバーチャルの世界へ飛び込んだはずの女性が、現実世界と同じように職を求め、立ち位置を奪われそうになればまた同じように怒りを露わにするという皮肉に満ちたプロットが痛快だった。物語を抽象的にしつつランダムに配置する構成はかのリチャード・ブローディガンを彷彿とさせるもので、読んでいて心地よい。終盤の文章を見る限り著者は詩文を得意としていないようだったが、バイオハザードを思い起こさせる非現実的な舞台を用意することでこれをカバーしてみせる巧みさに思わず唸った。ここ最近の芥川賞受賞作の中では抜群に面白かったと思う。ゲームの中でAIのように完璧な仕事を求めようとする人間に対し、創造主ともいえるクリエイターがAI達に人間的に不完全であることを願う構図も面白い。文体も親しみやすく、最後まで飽きることなく駆け抜けるように読み終えることができた。
ただ惜しいかな、最初の感動に比べて後半はかなり尻すぼみしてしまっている印象だった。大きく風呂敷包を広げておきながら、最終的にありがちな幕引きへと収束させてしまっている。
作家としての力量は相当なものの、やはりこの方も「良い書き手」の域を出る人間ではないのだなと思った。 -
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AIが人間の仕事を奪う世界が来たあとのことを描いているのだと思う。
生まれ育った時代のせいか、仕事がお金のためだけではなく自己実現につながるのだと思い込んでいる。しかし、一方で、貴族・大名等の持てる者と、小作人、奴隷等社会格差が今以上にあった時代には、盆暮れしか休みが取れない丁稚奉公や、それこそ、休みのない水飲み百姓であったならば、「働かないで大旦那様みたいに暮らせたらどんなにいいだろう?」と思ったに違いないとも想像するのである。
でも、仕事が楽しく充実感を与えてくれるものと刷り込まれてしまった私には、AIやフィジカルAIが人間の代わりに多くの仕事をやってくれて、ベーシック・インカムなんかもらえて、という生活を楽しそうとも思えないのであり、それはそれで、あるひと時代にしか過ぎないけれど、私が大部分を生きてきた価値観に固定されてるからとも思う。
で、新しい価値観でもって、そこがどうなるかを描いてくれてるのでは、と期待して読んだ。
「ここいらでもう労働といういち文化が終わるんじゃないかと、思うんだあ。まだ誰も生きたことない。新しい時代がこれからきっと・・・〜」
「〜だとすれば、ぼくらみんなもう、それぞれ好きなことだけしちゃったらいいってことになる。人間が嫌がっていた仕事なら今後一切人間以外が請け負ってくれちゃうんだから」
「ほんとうにやりたかったことを、ぼくらをはじめればいいじゃない!」
いやぁ、期待させてくれる文章たちである!!!
そして、主人公の前に現れるVR ヘッドセット。
VRゲームの世界でも、過酷な労働している主人公。そして過酷な労働の隙間に浮き足だった。気持ちになってりする瞬間があら、VR の中の世界でも失職の2文字が現実を帯び始めたりする。
VRの世界でカウンセラーらしきものに尋ねられる。
「〜あなたはなぜ、ご自身を痛めつけてまで、そうまでして、はたらきたいのですか?あるいはなぜ、そうしなければならないと信じておられるのですか?」
カウンセラーもどきは言う。
「発生する賃金のためにとか、生活のためにとかいうのはじつはどれも全部、体のいい建前です。それにかこつけて、誰かとかかわりあいになりたいというのがほんとうです。傷ついた大人たちはもうすでに、そうした大義なしにはこわくてまともに人間関係をつくれないから、そこにたがいの<役割>を噛ませるのです。役なのだから仕方がないと〜」
VRの世界も、古い人価値観の人間が作ったからこうなるのか?
そのような役割設定だからなのか?
仕事から解放された後に、VRの世界で、また仕事らしきものをしている姿、これが現時点での想像力の限界なのか?
もっと新しい世界を書いてると思った。 AI が仕事人間の仕事を代わりにしてくれる時代が来て、ベーシックインカムで好きなことをすればいいっていう時代が来た時にみんながどうなるか。それは昭和の価値観とかじゃなくて新しい世代 AI ネイティブの人がどう反応し感じるかを書いてるかと思ったけど、これは今までの価値観の延長で書いてると思った。AI 時代が来た後の世界を書いてるという意味では新しいのたけれど。テクノロジーは未来を描けても人間の価値観とその時代の延長でしか書けないのかもしれない。
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Posted by ブクログ
ネタバレ面白い題材と、難解なストーリー展開と、パプリカ的な現実と夢の交錯がまじりあって、不思議な読後感!
一般的なネットの評価は(現時点で)低そうです。
まあ、エンタメ作品ではないから当然だとは思いますが、導入はめっちゃエンタメですよね。
AIによって仕事を奪われた夫婦。
夫は訳の分からない言葉を残して蒸発。
目に入った夫のVRヘッドセットを装着し、まんまバイオハザードの世界へ……
しかし、突然(後で語られるとはいえ)、タイトル通りNPC『ゾンビ回収婦』となって、来る日も来る日も砕かれたゾンビの身体を回収する日々へ。
しかし、ここからどんどん難解なストーリー展開になっていきます……。
作者が文学部⇒心理学専という経歴からか、象徴や寓意が話をぐいぐいと進行させていくので、一瞬訳が分からなくなるんです~。
たとえば、『口唇期』ホテルという命名と、クマの吸てつは、いかにも示唆的です。認められたいという主人公の願望行動をみるかぎり、他者への依存を求めやすくなるという、「口唇性格」を暗に示しているのでしょうか……。
主人公だけではなく、私達現代人が。
クマと主人公が、AIのふりをした人間ということに双方気付かずにやり取りをしていたところは、いかにも滑稽ですが、アラスカを失って悲嘆にくれる主人公の独白が示す通り、ここが肝なのかもとも思いました。
『どう考えても、どこまでいっても、わたしたちはたがいに置換されうる命だ』
『世界の中心はこの場所だと、主要人物はわれわれでしかないのだと、われわれがそう言わないのなら、はたしてほかのだれが言ってくれるのだろうか?』
AI全盛の時代、自分たちの仕事、ひいては自身の価値がどんどん失われていく時代に対するアンチテーゼだと感じました。
自分たちはNPCと変わりないと確信して、口唇期ホテルに意識をすっ飛ばしていった主人公に悲哀を感じますが……。本人は幸せそうですね。
『今』の自分たちの在り方を考える、まさに『今』が旬の芥川賞受賞作だったと思います。 -
Posted by ブクログ
評価をつけるのが難しい。
どの文章も隠喩的で宙に浮いてるような、理解しようとすることが無駄だと思わさられるような、でもその感覚こそがAIの世界に没入してる主人公に対する私の気持ちというか。
脳みそ空っぽのまま言うと「なんかすごかったけどよく分からん」、でもその一言で片付けられる本ではなかったことは分かる。
読んでる最中からシゾの人の世界のようだと思っていたけど、最後までそんな感じで、どこまでが現実でどこからが虚構なのかの境界が曖昧な感じ、嫌いじゃない。
作者が何を思いながらこの本を書いたのかは気になる。
こういう文章、現国で読んで無理矢理理解させられそう。関係図において現実と虚構で同じようなベクトルがあり、その関係が…とか。