クラム・ラーマンのレビュー一覧

  • テロリストとは呼ばせない

    Posted by ブクログ

    1作目に引き続き善悪の境が分からなくなるようなハードな物語ながら、だがしかし現代社会をテーマにしたらこう描かざるを得ないよなっていう絶妙なバランスを保っている。今作は一人称語りの視点を2人にしているが、ムスリムのコミュニティの同胞を救いたいジェイ、白人の家族と幸せな人生を送りたい元テロリストのイミーの視点は、ムスリムが一方的な被害者ではないことを共通して語っていて、非常にバランスよく誠実な描き方だと感じた。
    最後はクリフハンガーかつ救いのない終わり方で、続編が気になるところ。はやく出版されますように。

    0
    2023年06月02日
  • テロリストとは呼ばせない

    Posted by ブクログ

     ジェイ・カシーム三部作の二作目ということである。前作のラストは異様であった。本作はそれを継いで始まる。ぼくは前作で、町の移民である若者ジェイが悪を倒すために国家的組織に利用される構図を、『傷だらけの天使』のヒーロー修とアキラの兄弟に例えてしまったのだが、それは本作でもあまり変わぬ印象のまま。

     『傷だらけの天使』という稀代のTVドラマをかつて青春真っただ中で体感したぼくには、木暮修たちは純情なコアの部分を持ちながら青春を精いっぱい生きる若者たちであるにも関わらず、東京という大都市に蠢く大人たちの欲望や駆け引きに否応なく利用されてしまう悲しき天使たちとして描かれていた。等身大のヒーローならまだしも、社会の底辺で、教育もなければ立派な家庭もなく、到底平均生活レベルに達していない純情な青年たちであるように見えた。

     さて本作だが、イギリスに移民として暮らすイスラム社会の若者たちと対照的に、イスラム移民たちを極度に差別してテロに走る歪んだ白人青年たちの世界をも同時並行的に描くことで、より二極化した対立構造が浮き彫りになっているところが特徴である。しかも若い世代間でのストレスの捌け口としての人種差別が、誤ったヒーローイメージを作り出し、人種が異なるということだけで嘲りや暴力の対象としてしまう。この辺りから物語は、平和な国ニッポンの『傷だらけの天使』の世界をぐっと離れて、よりきな臭く、根深く見えてきた国際問題・人種問題を孕む現代的対立構造へと傾斜してゆく危険な風景として見えてくる。

     乾いた暴力の残酷さを露にする子供たち。彼らを操る冷血な大人たち。彼らのふるう暴力によって犠牲となる無垢な異人種の子供たちの運命をも過酷なまでに描いら印象的な悲劇として本書の前段の中心に持って行く。平均的日本人が知るイギリスとは全く異なる闇の部分をぼくらは読まされることになる。ずんと来る衝撃のような感覚。

     本書では、二つの一人称が並行する。「おれ」で描かれるジェイに加え、「わたし」で描かれる複雑な二重生活の青年イムラン。さらに白人のテロ組織に勧誘されかかっている少年ダニエルが三人称で登場。それぞれの章は、最初は独立して描かれてゆくのだが、彼ら三人の運命は、血と憎悪とヘイトと暴力によって徐々に物語の核となる場所へと手繰り寄せられてゆく。

     トライアングル構造のこの三人主人公で物語を進めることにより、本書は前作よりもさらに奥行きのある立体構造を持つ。イギリスという国における宗教や人種の問題の複雑さ、またそこに住む者たちの分断や苦しみを日常レベルで表現しているように思う。一方の側からだけではない三つの視点を経験しつつ、またもクライマックスの新たな大規模テロ事件へと本書は疾走し続ける。

     前回とは異なるスリルと厚みを持った二作目の本書。暴力の風が吹き荒れる国で懊悩する青春群像と、そこに蠢く魑魅魍魎のような仕掛け人たちの冷たい暴力装置に目を向けつつ、自分が自分であることに拘る主人公・ジェイたちの、独自としか言えない青春冒険小説が再び発火する。緊迫感が増し増しの第二作となった本作。注目あれ!

    1
    2022年12月21日
  • ロスト・アイデンティティ

    Posted by ブクログ

    主人公はイギリス生まれのパキスタン人。ムスリムでありながら、麻薬の売人、酒も飲む、と言う設定。イギリスの組織に計略的にスパイの仲間入りをさせられる。始めは主語は一人称だが、ある時から主語が変わっていき、それと共に物語のスピード感も増す。ジハードの話?と懸念する必要はなかった。訳が上手くて、明治維新の時の戦いとかにも置き換えられそう。最後はびっくり‼️それって英国の差金かとも思った。悲しい物語。

    0
    2022年10月29日
  • ロスト・アイデンティティ

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    敬虔、とはいえないムスリムでありドラッグの売人でもある主人公がMI5にスカウトされて、イスラム過激派のグループに潜入する。
    なぜ彼がスカウトされ、なぜスムーズにグループに招き入れられたのか?一つのパズルがきちっと嵌り、ストーリーがしっかりと動き出す。
    根底にあるイスラムの物語の上に、主人公の軽妙さや周囲の人間との結びつきが描かれ、スピーディーな展開で面白い。
    主人公はチャチな悪党かと思いきや、母や友達を大事に思い、正義感をもった人物で本当に魅力的。
    翻訳が素晴らしい。


    が!ラスト!嫌な予感はしてたけど。
    これは一体どうなるの…?
    ここで終わるっていうことは、そういうことなんだろうけど、でもこれじゃあ無理では…。
    早く、早く続きを…!

    1
    2022年07月11日
  • ロスト・アイデンティティ

    Posted by ブクログ

    普段読まないタイプのの内容。
    とても、ハイテンポで読みやすかった。
    ムスリムについて知識はあまりない私でも分かりやすく、そして、宗教について考えさせられた。

    0
    2022年05月03日
  • ロスト・アイデンティティ

    Posted by ブクログ

     イギリス在住の作者クラム・ラーマンはパキスタンはカラチ生まれ。一歳で英国移住、ロンドン育ちの現在はIT企業会社役員、という珍しい肩書の新人作家だ。本書は、作者お馴染みの、ロンドン西部の移民率が高い自治区にあるハウンズロウに育ったムスリムの青年たちの日常からスタートする。

     主人公のジェイ・カシームは麻薬の売人だが、友人の一人は警察官、もう一人はテロリストキャンプにまで参加する民族主義者。再婚相手ができたばかりの母は冒頭からカタールに引っ越ししてしまい、父なし子のジェイは、初めての独り立ちを迎える。

     本書はそうした環境下で、青春小説、成長小説としての基盤を持ちながら、大枠ではイスラム・テロを主題として扱ってゆく。ジェイは独りになった途端、麻薬の元締めに追われ危機を迎え、MI5のテロ対策室メンバーから唐突なスカウトを受ける。

     そう。これは青春小説であると同時に、スパイ小説でもあり、最後は大掛かりなテロ計画とそれを阻止しようと動くMI5や、その中心になぜか巻き込まれてしまったジェイを描く壮大な冒険小説でもあるのだ。平凡な警察小説でもミステリーでもなく、今時珍しいれっきとしたスパイ・アドベンチャー・アクション!

     最初に言うべきだったが、本書は、ひとたびストーリーに入り込むとなかなか読みやめることができなくなる超面白本である。

     ハイテンポな描写力。見知らぬ情報世界の闇の深さ。テロの裏側へのスリリングかつ初心者主人公による潜入の奇抜さ。警官やテロリストであるご近所の友人たちとの駆け引き。そして主軸となるテロ計画への導線と時間単位での息を飲むその結末。それら、スケールある題材やアクションを、離れた第三者視点の中に、二十代の若者の視点を交えながら描き切っているところが秀逸なのだ。

     面白いのは、ある部分はジェイの一人称で、ソフトかつ時にはユーモラスな視点で移民たちの文化、家族の歴史を綴ってゆく部分。それとは逆に、三人称で描かれるMI5を含めた大人たちの側からは、ジェイの勧誘に至る経緯や、テロの実行に至るスピーディな流れが、物語に変則的なリズムを与える。ジェイの内と外と、まさに両側から描かれる立体感である。どうにも緊張と面白さに震えるこの最終部分がたまらない。

     さらにラストのラストは、ショッキングだが、あとがきを見てなお唖然! ネタバレに触れそうなので言えません。ここでは、次作の翻訳も決まっているとのこと、その作品への期待感と強い好奇心とをお伝えできれば、と思う。

    ☆もう一つ気になる視点からのレビューを以下に追加します!

     おかしいかもしれないが、ぼくの印象では、主人公ジャヴィド(ジェイ)・カシームは、ムスリム版『傷だらけの天使』木暮修である。舞台は英国。イスラム過激派のテロ組織という、木暮修には荷が重いくらいの相手だが、彼を起用するのはジェイムズ・ボンドが在籍したMI5。世界中で一番有名なスパイアクションの胴元なのだ。

     そうなるとスケールとしては『傷だらけの天使』よりずっと大掛かりじゃないか、との声が聴こえてきそうだ。しかし、そうでもない。主人公は、大人になり切れていない不幸な家庭の一人息子だ。でも愛の対象であるママはどんな形であれ存在しているのは、木暮修よりずっと有利に働く。でも彼が生業としているドラッグ売人は木暮修の探偵助手という職業より、ずっとずっと腐敗していて、かつ危険だ。

     何も『傷だらけの天使』と比較しなくても良いのだろうけれど、読むにつれますます比較したくなってくる。きちんとした将来が見据えられない青春の時代、傷ついた心が求める何ものかを、利用する誰かがいて、利用される若い主人公はすべての傷を負い、叫ばざるを得ない。そうした環境自体が両方の作品を印象として繋ぐのだ。そして愛せる。ここは重要ではないだろうか? 両作品に通停する魅力の在処として。如何? 

    1
    2022年04月30日
  • テロリストとは呼ばせない

    Posted by ブクログ

    イギリスに暮らすイスラム教徒とアングロサクソンの対立を描く三部作の二部作め。前作は未読だが問題なく読めた。

    人種差別的発言の目立つ白人
    リベラルな白人
    イスラム教徒同士の繋がりを重視する排他的なムスリム
    白人との融和を拒まない穏健派ムスリム

    主要な登場人物たちは上のいずれかに当てはまり、それぞれの立場のキャラが交わってストーリーが進む。
    想像していたような「追跡、格闘、推理」の展開ではなく、割と地味に話は進むがそれもリアルな描写で、自分は面白いと思った。

    他者を受け入れなくても認める
    そこにある、ということを認知することから対立は収められるのではないか。
    敢えて交わらず我関せずでも、結果はオーライだと自分は感じるが…。

    0
    2023年12月02日
  • テロリストとは呼ばせない

    Posted by ブクログ

    麻薬の売人時代にMI5に引き込まれ、イスラム過激派に潜入するはめになったパキスタン系の青年ジェイ。
    事件解決後にMI5を去り役所勤めを始めた彼は、生まれて初めてまともな生活を送っていた。
    そんなとき、人種差別主義者に暴行されたムスリムの少女が自殺。
    復讐を誓う恋人の少年を“テロリスト”にさせまいと、ジェイは奔走する。
    一方、ジェイの正体を知ったテロ組織は彼の暗殺を命じ――。

    前作「ロスト・アイデンティティ」もなかなかの良作だったが、今回も良い。読後、漂う寂寥感。

    0
    2023年09月17日
  • ロスト・アイデンティティ

    Posted by ブクログ

    スパイスリラーとして面白かった。
    一人称での語りは、主人公ジェイの視点で世界を認識する際の葛藤や苦しみ、怒りが強調されたので、うまく機能していた。世界を知っていく中で信念が揺らぐなど、未熟だが等身大の語り口は読者に感情移入させやすかった。
    テーマとしては、ロンドンでのムスリムの立ち位置、今なお続く憎しみの連鎖、と言った非常にセンシティブで身につまされるもの。ジェイの語りでどちらの立場に対しても共感させられるためモヤモヤした気持ちになるが、現代このテーマを語る上ではこれくらいのバランスが最適解だと感じた。

    0
    2023年03月28日
  • ロスト・アイデンティティ

    Posted by ブクログ

    ロンドンにあるモスクが人種差別主義者たちに荒らされた。モスクに通う“敬虔な"ドラッグの売人ジェイ・カシームは怒りを覚えながらも、同胞の過剰な反撃に疑問を抱く。

    そんなとき、麻薬密売の容疑で逮捕されたジェイは、無罪放免と引き換えにMI5の一員となってテロ対策に協力するよう命じられる。

    やがてイスラム過激派の中枢部に迫るにつれ、無差別テロが現実味を帯びていき――。

    後半、予想の斜め上を行く展開に。

    0
    2022年10月23日
  • ロスト・アイデンティティ

    Posted by ブクログ

    ジェイは、パキスタン系でロンドンでドラッグの売人をしている。イスラム教徒とキリスト教徒の対立に巻き込まれ、金を失いドラッグの総元締に迫られる。すると、MI5からリクルートされ、テロ組織に潜入するよう言われる。

    なかなか面白かった。作者自身がパキスタン系で、これがリアルロンドンの人種、宗教対立なのかと、ヒリヒリしながら読んだ。あっと驚く展開も良かった。特になぜジェイが選ばれたのかが分かったときが。

    1
    2022年06月18日
  • ロスト・アイデンティティ

    Posted by ブクログ

    登場人物のキャラクターは魅力的。テーマもまあ目新しい。が、最期があれっそうなるの?って感じの幕切れでした。

    1
    2022年04月15日
  • ロスト・アイデンティティ

    Posted by ブクログ

    某動画配信でみたような光景、そういえばBBCのドキュメンタリーでもこんなシチュエーションあったじゃないか。目の前の文字面を追えば追うほど、既視感のある映像が浮かぶ。続編も読みたい。

    0
    2023年03月25日
  • テロリストとは呼ばせない

    Posted by ブクログ

    イギリスに暮らすイスラムの少年らと彼らを追い詰める白人の少年たちをメインに、同じコミュニティにいるジェイが彼らがテロリストになるのを阻止する中で、ジェイ自身もテロ組織に狙われる、
    と言うサスペンスアクション。

    0
    2023年03月16日