乾敏郎のレビュー一覧
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本書をどれくらい理解できているか覚束ないところはあるが、これの前に「脳は世界をどう見ているのか」などの書籍を読んでいたこともあって、「予測」が脳の本質的な機能であるという点は腑に落ちる。
ただ、感覚信号と予測信号の間の差異が脳にフィードバックされ、脳はその誤差を最小化するように「世界のモデル」を更新していくというサイクルが知覚・学習の実体である、という説明は、分かったような分からないような。
これとの関連で、本書では、「期待自由エネルギー」というものについても解説されている。
曰く、脳は、未来の不確実性を数値化した指標である期待自由エネルギーを最小化するように行動を選択するのだとか。
これまた一知半解といったところであるが、この辺りは情報理論と関連がありそうな話である(そういえば、最初の方でシャノンも登場する。)。
終盤には下條信輔先生の「後付け的再構成」(ポストディクション)の話も登場し、だいぶ前に読んだ下條先生の本のことを思い出すなどした。
本書は、「脳と意識」に関する研究の到達点を知るにはよい本だと思う。
ただし、的確に理解するには、それなりの準備と覚悟が必要であろう。 -
Posted by ブクログ
「人が考えること」「意識的に行動すること」が、脳の各所によって処理されているという仕組みと学ぶ。その脳は、生まれ持ったものだけではなく、育った環境や経験によって発達の度合いも異なり、さらにニューロンという神経細胞の伝達のパターンまでもが変化する――これが、人が「それぞれ違う」ということの科学的な裏づけと言えるのだと思う。
この前提に立つと、「自分が正しい」と思っていることも、あくまで「自分という存在の中で培われた基準」に過ぎないということが見えてきます。つまり、他人にも他人の脳があり、他人の基準がある。そのことを意識するだけで、人との接し方が変わってくると感じた。
自分が他人と接するとき、「自分の基準に合わせてもらうべきか」「相手の基準をそのまま尊重するべきか」という問いが生まれます。この思考の往復運動そのものが、きっと成熟への一歩と思います。そして、仕事のように「共通のルール」がある場では、「決められたことに従う」ことが、ひとまずのよりどころになる考えに至った。 -
Posted by ブクログ
【この本のテーマ】
人間の脳がいかにして知性を獲得するのかを紐解きながら、その知識を日々の生活に活かしたり、そもそも人間とはなんなのかを考えるきっかけを与える。
【概要】
全8章をかけて、脳科学の歴史と脳が持つ機能や学習・発達のメカニズムが述べられている。
脳の研究自体は古代ギリシャ時代からあるものだが、高次機能研究は1800年代後半にヘルマン・フォン・ヘルムホルツが基盤を築いた。ヘルムホルツは、我々が見ている世界は脳が推論して作り上げているということを提唱したり、「位置の恒常性」を解明したりしたが、さらに重要な発見は「自由エネルギー」という概念を導き出したことだった。自由エネルギーとは、脳の予測と現実とのズレ(誤差)を表す指標であり、ズレが大きいことを自由エネルギーが高い(不確実性が高い)、ズレが小さいことを自由エネルギーが小さい(不確実性が低い)と表現する。(1章)
後のカール・フリストンは、この自由エネルギーの概念をもとに「自由エネルギー原理」を考案した。脳は自由エネルギーを最小化することで生命を維持しているといい、この原理によってこれまで説明し得なかった多くの脳機能と神経回路の関係が説明できるようになった。たとえば身体運動では、脳の予測にもとづいて筋肉を動かし、実際に得た知覚のフィードバックを繰り返し、その誤差を最小化していくことで狙い通りの運動を実現・習得する。(2章)
感情においては、自由エネルギーが高まる状態、つまり不確実性が高くなるときにネガティブな感情(恐れなど)になり、不確実性が下がるときにポジティブな感情(希望、安心)になる。(3章)
このようにして人間はあらゆることを「予測」しながら活動しており、会話やモチベーション、意識にまで、自由エネルギーが関わっている。(6、7章)
これらから導き出せる「脳の本質」は、「予測」である。より具体的には、①環境を知る、②複数データに基づき推論する、③誤差を修正する、④環境に働きかける、⑤神経修飾物質で精度をコントロールする、⑥世界のモデルを学び続ける。(終章)
【印象に残ったポイント】
本書で紹介されるすべての人間の活動が「予測」とその「誤差の修正」によって成り立っているという点。
また、さまざまな認知を担う脳の部位がかなり詳細に特定されていること。
ラバーハンド錯覚など、どこかで聞いたことのある実験がたくさん紹介されている。
【気づき】
これまで自分は「生成AIは単に言葉の繋がりを予測しているだけであり、人間とはやっていることが全然違う。AIが人間を超えることはまだまだ遠い未来なのでは」と漠然と考えていた。
しかし本書を読むと、人間の活動はほぼ予測によって行われているということを目の当たりにし、生成AIは人間がやっていることそのものだという理解に至った。そして人間が過去の経験・知見をもとに予測・誤差修正をしていることに対して、AIには人間では処理しきれないほどの膨大なデータに基づいたアウトプットが出せる性能がある。
このように考えると、AIが人間を超えるのは時間の問題だな、と考えを改めるようになっし、AIが人間の理解を超える(自由エネルギーが高騰)し、不安でたまらない世の中になってしまうのではないかと考えるようになった。
そのとき、自分も含めて人間はどのような挙動を示すのだろうか? -
Posted by ブクログ
【はじめに】
自由エネルギー原理の解説書としては今までで一番わかりやすい。著者は『脳の大統一理論 自由エネルギー原理とはなにか』という解説本も書いているが、こちらは数式もたっぷりで決してわかりやすいとは言えなかった。本書は、新書というフォーマットであることもあり、本の構成も説明もやさしい。本当にわかっている人が丁寧に書くととてもわかりやすいものになるという実例になっている。
【本書の内容】
この本の軸は、カール・フリストンが提唱した自由エネルギー原理にある。この原理はあらゆる脳機能が自由エネルギーという評価関数が最小になるように設計されて動作しているというものである。ここで言う脳機能には認識だけでなく、運動や探索も含まれる。さらには内環境感覚とその制御(ホメオスタシス)や感情もこの原理で説明可能であるという。現在、この原理が脳の働きを説明する大統一理論として期待されている。
著者はヘルムホルツの法則、ベイズ統計、深層学習、ヘブの法則などの説明を通して説明していく。また最新の脳生理学の観点から、ミラーニューロンやガンマ波の同期、眼球のサッカード運動、胎児の動作学習、海馬による記憶再生などを解説し、自由エネルギー原理との関係を説明する。
自己意識についても、まずは世界の予測であるとして、ここからいかにして自己意識を構成する自己主体感、自己所有感、自己存在感が生まれているのかの仮説を提示する。自己意識をこの三つの要素に分解して考えるというのはこれまで意識することはなかったが、説明してもらうと確かにこの三つはいったん分けて考えた上で総合するべきだと腑に落ちた。ここからAIは自己意識を持ちうるのかという議論をしてみても面白い議論になるだろうなと期待する。
すべてが予測であるということについてはそれをある程度裏付けるポストディクションの話が興味深い。自己主体感が基本的には正しい意味で錯覚に基づくものであることもよくわかる。われわれの自己認識が、未来の状態の予測と過去の状態から現在を予測するということを繰り返すという絶え間ない脳の働きから生まれるのではないかと考えられているということも理解できた。
【脳の本質】
タイトルの『脳の本質』の答えとして、著者らは脳機能の本質は「予測」であると結論づけた。われわれが知覚するのは構築した世界モデルに対する予測した世界なのだ。運動を含めて予測誤差を最小化するサイクルが常に働いて感覚データとの誤差を合わせこむようにして後付けしたものだという。
認識や意識に関する実験がおおむねその仮説を支持していることから、「予測」と「学習」がその基礎にあることは間違いないだろう。以下が終章にまとめられた著者が考える脳で何が起きているのか(=脳の本質)である。著者の考えが比較的シンプルにまとまっていることとともに、意識の問題を考えるにあたってのベースにもなりうると考えるのでいったんここに書き写してみた。
① 環境を知る
・脳の最重要課題は生命維持である。そのために身体内外の環境を性格に把握するよう努める。
・私たちは感覚を通じて世界を推論しているのであり、それを直接知ることはできない。
・知覚している世界は、現実の世界ではなく、予測された世界である。
・私たちは、自分が作り上げた「世界に対するモデル」に基づいて予測する。
・脳は予測を行うための推論エンジンである。
② 複数データに基づき推論する
・正確な推論のためには、単一ではなく複数の感覚データを利用する。
・多感覚を利用するには統合が必要である。感覚統合は、ベイズ推論に基づく(ベイズ統合)。
・ベイズ統合は、信頼性(精度)により各感覚データに重みづけがされる。
・複数時点の感覚データを使い、現在の状態を推論する。情態がいかに推移するか(時間変化、時系列)も推論している。
③ 誤差を修正する
・予測で生じる誤差は側役正しいものに修正され、修正されたものだけが知覚される。
・環境の推移とともに予測するため、必然的に過去に遡った修正が必要となる。
・過去の修正とは、記憶の書き換えである。
・現在の状態を決定するために、過去の状態に基づく予測、また未来の状態からの後付けがなされる。
④ 環境に働きかける
・現在の状態を推論するためにも、私たちは世界に働きかけ、反応や変化を見る。
・未来において生体が望ましい状態を維持できるよう、適切な行動(運動)が選択され、実行される(アロスタシス)。
・私たちは予測可能で、組織化された世界を好む。行動は、目標達成と不確実性を低下させることを目的に実行される。
・不確実性を低下させるため、置かれた環境を的確に知る探索行動を取る。その際、環境から最大の情報が得られるような方法が選ばれる。視線移動もこのように決定される。
・環境の不確実性が低下すると、次に望ましい状態を達成する行動に移る。
⑤ 神経就職物質で精度をコントロールする
・脳内の予測信号や予測誤差信号の精度をコントロールするのが神経修飾物質である。
・アセチルコリンによって予測誤差の精度を上げると、対象物をより正確に捉えることができる。注意を向けることによって、感覚信号に対する予測誤差の精度を高める。
・モチベーションは、行動の結果得られる報酬量と不確実性の低下量によって決定される。ドーパミンによる制度制御と関連する。
・不確実性が低下すればポジティブな感情が生まれ、不確実性が増加すればネガティブな感情が生まれる。
・精神疾患や神経発達症の特徴は、神経修飾物質が精度をうまくコントロールできないことで説明される。
⑥ 世界のモデルを学び続ける
・私たちは環境の変化に関するモデルを学習する。このモデルは、現在を推論する以外に、未来を予測するためにもある。
・世界を探索し、世界に関する適応的で予測可能な知識を使うことで、こうしたらどうなるか、ああしたらどうなるかといった疑問に答える能力を鍛えている。そのため外環境(世界)のさまざまな知識をつねに学習し、記憶しなければならない。
・予測誤差が生じた場合、モデルを書き換える。世界に対するモデルはつねに修正され昂進される。
・経験した多くの感覚や自分の運動も記憶される。一つのエピソードを構成する感覚や運動のインデックスが海馬にある。インデックスに紐づけられた、大脳新皮質の活性化があって、記憶の再現が可能となる。
・記憶の役割は、過去の出来事を思い出すこと(リプレイ)の他に、未来の出来事をイメージすること(プレプレイ)である。いずれも海馬が担う。
【まとめ】
自由エネルギー原理が、知覚、運動、感情などを統一的に説明可能であり、かつ数理モデル化が可能であることから個人的にも近年における非常に重要なステップだと思う。本書は数式をほとんど使わずに自由エネルギー原理を説明してくれており、その分野に興味をもっている人にはぜひ広く読まれてほしい本である。
同時に本書内でも言及されているが、現在のGenAIの動作原理とも整合性があるところも多く、それが自由エネルギー原理の正しさを不完全ながらも裏打ちをするものでもあり、またAIの意識についても理論的に議論することができる素地が整いつつあるのかと思った。
硬派だが、難しい内容をとてもReadableにまとめており、その射程も(あるレベルにおいて)一般的な興味とも重なる部分もあるというとても優れた本だと思うので、あまり意識とか興味がないという人にもおすすめ。そういう人が読んでどういう感想を持つのかも興味がある。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ人間が他の動物と比べて格段に優れた知性を獲得しているが、魔法のようなその力は物理的な存在である脳から生じている。
では、どのようにして人間は脳という生体システムを使って意識や知性を生み出しているのだろうか?
という疑問に対して主に認知神経科学という生理学の分野からアプローチする。
アプローチの仕方としては外部感覚入力、内部感覚入力、運動出力、脳を大きなユニットとして考え、各々の入出力の制御が脳機能にどうつながるかを見るエンジニアリングに近いアプローチ。
このシステムとしてとらえる方法で、知覚、運動、注意、感情、記憶、言語、思考、他社理解、コミュニケーション、意識などについて説明ができてしまうのがスゴイ。
脳の基本的な機能としては不確実性をなるべく排除して、現在の内外の入力信号から最もありそうな現実モデルを生成し、それをもとに予測し続けてフィードバックループを得て修正し続けるが骨子のようだ。
これは太古の生存競争の中で、確率の高い予測を行ったものが生き残りやすかったので、そちらのほうに進化の圧力が強まったと考えるとなるほどなあと思った。
現在、AIが話題になっているが、AIは人間の言語、記憶、できても思考の領域しか模倣していない。
人間の脳はもっとそれ以上の生体システムを感知、制御しており、それは過去の生存競争の結果だと考えると生命の不可思議さを感じざるを得ない。
脳と思考の本はちょいちょい読んでいたが、一番納得できた本だった。 -
Posted by ブクログ
復習になってよかった
第4章
車にもアクセルとブレーキがあるように、脳にもアクセルとブレーキがある。
(認知症の人が常同行動起こすのは脳のブレーキが効かないからって授業で習ったな、前頭葉が出力(アクセル)だったような)
GABAシフト不全は、神経発達症を生じさせる可能性が指摘されている。
適切なタイミングでGABAシフトが生じなければ、アクセルは効きやすく、ブレーキはかかりにくい。
(ADHDの子が衝動的、感情的になって周りの声が入ってこないときはこういうことが脳で起きてるのかな。)
大人がすぐ飽きたり面倒になる事でも、小さな子どもは興味を持って繰り返すことができる
(自分はドーパミン足りてないなと日々痛感している)
第二言語の習得の可塑性、臨界期終わる時期およそ16-17歳
(若いうちにもっと英語やれば良かった…!24歳まだまだ頑張る努力あるのみ)
海馬が損傷されると、新たに体験したことを長期記憶に保持できない
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Posted by ブクログ
ネタバレ脳の動作の根本的な目的を、自由エネルギーの最小化であるとする理論(自由エネルギー原理)について述べた本です。
脳は、①外界への仮説を形成、②外界からの感覚信号の情報を受け取る、③形成した仮説が正しい場合に得られるであろう感覚信号と、実際に受け取った感覚信号との違いを計算、④計算結果に応じて外界への仮説を修正、というサイクルで稼働しているという話で始まります。
また、"注意を向ける"という行為は、どの感覚信号の精度を高めるかを決めることであり、注意を向けられた感覚信号の予測誤差は、仮説の修正に対して重要視されることとなります。
自由エネルギー原理の面白いポイントは、運動制御という一見推論(仮説形成)には思えない行為も、運動の目的達成時に得られるであろう筋繊維の状態(での筋センサから得られる信号)の推論と、実際に筋センサから得られた信号との差を小さくすることで実現されているという主張です。
知覚や運動だけでなく、パーキンソン病や統合失調症などの疾患も自由エネルギー原理で説明できているため、脳機能の統一的な理論になり得る可能性があるそうです。
しかし、理論ではまだ説明していない(できない)機能も大いに残されているであろうし、今後も様々な研究が進められていくのだろうと思います。
内容としては面白かったですが、やはり文庫本であるため数式はあまり触れれず、お気持ちだけの理解になってしまいました。時間がある時に数式をきちんと追う「自由エネルギー原理入門」も読めたらいいなと思います。 -
Posted by ブクログ
知覚、運動、世界モデルの構築、予測、信念の形成、意識、体内のホメオスターシス、などの脳が関わる機能が「脳はヘルムホルツの自由エネルギーを最小化するように推論を行う」という原理に基づいて統一的に説明できてしまう、という目から鱗が落ちる本でした。
個々のニューロンやシナプスの動きや、脳の機能局在マップなど90年代くらいまでに分かってきた個々のメカニズムを大きく結びつけて統一してしまう原理で驚きました。これからも、様々な脳や神経の働き方がこの理論をベースに解明されていくのだろうと期待させられます。また、AIへも応用されていくのだろうなと感じました。