あらすじ
脳は推論するシステムだ! 知覚,認知,運動,思考,意識──それぞれの仕組みの解明は進んできたが,それらを統一的に説明する理論が長らく不在だった.神経科学者フリストンは新たに「能動的推論」を定義し,単一の「自由エネルギー原理」によって脳の多様な機能を説明する理論を提唱した.注目の理論を解説する初の入門書.
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Posted by ブクログ
脳による「意識や心」を解明する本だ。まず、脳は推論するシステムで、知覚とは無意識的推論を指すという定義から始まる。推論がキーワードだが、これは、たとえば、ハンバーガーを見ると、見ることで得られる視覚の感覚(外受容感覚)や、以前にハンバーガーを食べたときの経験から思い出される味覚の感覚(これも外受容感覚)に加えて、これを食べると血糖値が上昇するという内受容感覚が過去の経験から学習され、脳内に記憶されている。こうした感覚の想起により、食べたい、という感情が起こるというものだ。
ー 他人にくすぐられるとくすぐったいのに、自分でくすぐってもくすぐったく感じない。これは、自分でくすぐったときには皮膚感覚の予測によって感覚減衰が生じることが原因で起こるらしい。自分でくすぐっているときに触覚をつかさどる大脳体性感覚野を調べても、大きい活動は見られない。逆に、他人にくすぐられるときには感覚減衰が生じないため感覚野に強い活動が見られる。
ー 統合失調症は、幻覚や妄想などの陽性症状や意欲の低下などの陰性症状が見られる精神疾患である。統合失調症の患者では、自分が行った行為であるにもかかわらず、他人にさせられたと認知する妄想、すなわち「させられ体験」が生じることが知られている。させられ体験の症状も自己主体感の喪失として解釈できる。実際、させられ体験が生じているときの脳を調べると、前節で述べた催眠誘導の場合と同様、頭頂葉に大きな活動が見られる。この現象は、健常者では自己運動時に生じる頭頂葉での感覚減衰が統合失調症患者では生じないことによるものと考えられる。つまり、感覚減衰が起こると自己主体感が生じ、感覚減衰が起こらないとさせられ体験が生じるのである。
ー 赤ちゃんがどのような行動をとるかを調べる実験。この実験では、生後11か月の赤ちゃんが110人参加した。その結果、赤ちゃんは自分が予測した内容と観察した内容の差異に敏感で、この差を新しい学習の足場として使用していることが明らかになった。すなわち、赤ちゃんは期待に反する物体を見たとき、その物体についてよりよく学び、その物体をより多く探索し、その物体の振る舞いに関連する仮説を調べたのである。
推論を修正したり、減衰させる機能が脳にはある。直感的に空腹を認識し、食べたいという感情がわけば、身体は食料を求めて動く。経験的期待により冷蔵庫を開けるが、中には何もなく、その期待外れが、残念だという感情を起こす。アロスタシスは、私たちの脳の中にあるこのような知識(生成モデル)のもとで機能している。パターン認識が複雑化されて現出される状況でなければ、案外、心の動きなどシンプルで、我々人類が勿体ぶっているだけなのかも知れない。
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一瞬オカルトな理論の話かと思っていたが、脳の仕組みを数理的に説明する野心的かつ大真面目な理論の話だった。ベイズ推論ベースの適応的制御理論のようで、非常に興味深かった。ホメオスタシスとアロスタシス。ただ2006年に生まれた理論でいかんせん新しいので、まだ理論体系の構築は途上も途上なのかなと。面白いので発展してほしい理論。ウィーナーのサイバネティックスを読んでる感覚だった。
Posted by ブクログ
専門家用の難しい本ではなく,難しい内容をなるべく簡単に解説した本です.「フリストンの自由エネルギー原理」を,やさしく(それでも難しいかも知れません)解説しています.感覚,運動,精神,などの複数の問題が,この原理でどのように解釈されるのかがよくわかります.付録に,十分ではありませんが,少し理論的な話が書かれていて,そちらに興味がある方にも参考になるでしょう.解説書として傑出した出来だと思います.
Posted by ブクログ
発達障害や認知症を脳機能の観点から思考したくて手に取ってみたけど、予想以上に面白かった。私たちの脳は、観たいように見る。のかもしれないけど、、、感覚を使って推論の"誤差"を修正していくんだなと知ると、五感を意識する楽しさが湧いてきた。
推論ができるという事は、私たちの脳はそもそも"前提"を持っているということ?お母さんのお腹の中でその前提を養うのだとしたら、興味深いよね。
科学がどんどん進化して、もっと色んな理論が分かってくるのも楽しみ。
Posted by ブクログ
人間がどのようにして知覚しているのかについて理論の一つを学ぶことができた。個人的には一貫性があり納得できる内容だったように思う。
神経を通して推論や現実の感覚、またその誤差を送り、調整しているというのは驚き。
Posted by ブクログ
脳の動作の根本的な目的を、自由エネルギーの最小化であるとする理論(自由エネルギー原理)について述べた本です。
脳は、①外界への仮説を形成、②外界からの感覚信号の情報を受け取る、③形成した仮説が正しい場合に得られるであろう感覚信号と、実際に受け取った感覚信号との違いを計算、④計算結果に応じて外界への仮説を修正、というサイクルで稼働しているという話で始まります。
また、"注意を向ける"という行為は、どの感覚信号の精度を高めるかを決めることであり、注意を向けられた感覚信号の予測誤差は、仮説の修正に対して重要視されることとなります。
自由エネルギー原理の面白いポイントは、運動制御という一見推論(仮説形成)には思えない行為も、運動の目的達成時に得られるであろう筋繊維の状態(での筋センサから得られる信号)の推論と、実際に筋センサから得られた信号との差を小さくすることで実現されているという主張です。
知覚や運動だけでなく、パーキンソン病や統合失調症などの疾患も自由エネルギー原理で説明できているため、脳機能の統一的な理論になり得る可能性があるそうです。
しかし、理論ではまだ説明していない(できない)機能も大いに残されているであろうし、今後も様々な研究が進められていくのだろうと思います。
内容としては面白かったですが、やはり文庫本であるため数式はあまり触れれず、お気持ちだけの理解になってしまいました。時間がある時に数式をきちんと追う「自由エネルギー原理入門」も読めたらいいなと思います。
Posted by ブクログ
知覚、運動、世界モデルの構築、予測、信念の形成、意識、体内のホメオスターシス、などの脳が関わる機能が「脳はヘルムホルツの自由エネルギーを最小化するように推論を行う」という原理に基づいて統一的に説明できてしまう、という目から鱗が落ちる本でした。
個々のニューロンやシナプスの動きや、脳の機能局在マップなど90年代くらいまでに分かってきた個々のメカニズムを大きく結びつけて統一してしまう原理で驚きました。これからも、様々な脳や神経の働き方がこの理論をベースに解明されていくのだろうと期待させられます。また、AIへも応用されていくのだろうなと感じました。
Posted by ブクログ
●主題
2006年ごろ イギリスの研究者カール・フリストン
「自由エネルギー原理」を提案
数式を使って具体的に記述されたもの。ニューラルネットワークでの処理として表すことが可能
○感情はどのようにして作られるのか
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前帯状皮質から前島に送られる内臓状態の推論内容が内臓知覚の実態
このメカニズムは単なる内臓状態の知覚(つまり、内感覚受容)にとどまらず、私たちの感情を作る基盤にもなっている。
感情は、このような内臓状態の予測信号に加えて、内臓状態に変化をもたらした(隠れ)原因に関する推論(高次の認知情報)とも密接な関係があるといわれている
つまり、この高次の認知情報と内受容感覚が統合されて一つの感情が生まれるらしい。
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自由エネルギー原理についての概略を知ることができた。脳の大統一理論は壮大であり、それを部分的にでも知ることができ、参考となった。
知覚と同時に内受容感覚から生じる信号の精度が向上した時に、意識はうまれるのではないか。というイメージは、納得感があるように感じた。
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自由エネルギー原理について初めて知った。数学が全くダメなのに加えて、一つ一つの用語に関しても捉えきれていない為、部分的に分かったようなアウトラインは掴めたかどうかという低いレベルの理解である。ミラーニューロン、内臓感覚と情動の関係、自己主体感と感覚減衰、ASDの特性などへの解釈が興味深かった。いつか再読したい一冊。
Posted by ブクログ
感覚、知覚、認知、運動は神経細胞ニューロンの間で自由エネルギー原理による信号が行き来することで起きる。
赤ちゃんは予想に反することを見ると注視する。予想する能力を修正しようとしている。
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脳は常に指令だけを与えているのではなく、推論をしてその誤差は測っている。面白い観点だと思った。何かを認識することだけではなく、運動や目標志向性などにも推論が関与しているというのも驚きであった。運動にせよ、目標志向性にせよ、感覚信号の不確実性や推論の不確実性を最小化するように動いている。つまり、何事も不確実性を低下させるように自分でも意識的に生きると推論の精度が上がるのであろう。
運動に関しては武井壮が言っていたことを思い出した。どうすれば運動能力が向上するか?のような質問に対して、
「体を思った通りに動かすことを真面目に考える。まず、両手を両横方向に水平に開いてみる。自分は水平に開いているつもりでも実際は水平から少しズレていることがよくある。その時に、そのズレを意識的に修正した位置を体に覚えさせる。このような修正をあらゆる動きに対して行うことで、理想とする動きが実現できる体になる」
と答えていた。今考えればこれは自由エネルギー原理の推論の精度を上げていくような、生成モデルの正確さの向上に取り組むことなのだと理解できた。このようなことを意識してスポーツに取り組みたい。要は、自分の動きを第三者の視点で観察、分析し、修正することが基本となるのであろう。
とすると、この理解は運動に対する推論に留まらない。意思決定等の推論においても、自分の現在の生成モデルでは確実性が不十分であることを認め、ズレを修正していくことで理想の状態に脳や体が動いていくはずだ。理想の状態にはどうすれば到達するのか?理想の状態を作り出せている対象を徹底的に分析してマネる。そのような意識を強めていきたい。
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推論を始める時、脳はまず外環境について何らかの想定を置き、その想定が正しければこんな感覚信号が得られるのではないかという予測信号を生成する。次に、この予測信号と実際に受け取っている感覚信号を比較すると、その誤差が小さくなるように元々の想定を更新する。そして、新しい想定のもとで再び予測信号を生成して感覚信号と比較する…という計算を繰り返して、最終的に予測誤差がゼロになったときに、外環境の推定結果として知覚が得られる。
上記が脳が推論する基本原理だという。
ここまででもなるほどと思うのだが、この本が面白いのはその先で、この原理があらゆる脳の機能(ひいては身体活動)にも適応できると主張する点だと思う。
たとえば「運動」。学校では、人間の脳は「こういう運動をしろ」という指令を各器官へ出し、逆に各器官は自分が得た感覚を脳へ送るものだと習った。
しかし、先に述べた原理を適応すると次のように考えられる。
脳はまず、これからやろうとしている運動を実際に実行したときに受け取ることになるだろう信号を予測し、その「予測信号」を発する。それに対して予測誤差をなるべく最小化するように筋を収縮させる。
これが運動の正体というのである。
こうした考え方の是非については私は専門外なのでわからないが、今までの常識が揺さぶられるような感覚が味わえてとても面白く読めた。
Posted by ブクログ
難しかった…。自由エネルギーを最小化するという原理一つで、知覚や運動、感情や学習など、脳に関係する現象を説明しようとする、という考え方を紹介するもの。
知能を説明する新しい考え方があると聞いて自由エネルギー原理に興味を持って、岩波科学ライブラリーで見つけたからちょうど良いと思ったものの、たった120ページを読み切るのにとても苦労したし、まだ一言二言分の理解しかできていないと思う。
すぐにまた読むような気力がないけれど、少し寝かせて、再読するか、関連するものは読みたい。
そもそも岩波科学ライブラリーは自分の専門にほぼ当てはまるものを一冊読んだだけで、斜め読みするのにちょうど良いと思い込んでいたけれど、そもそもその本の内容もそれなりに高度だったのかもしれない。
220815
Posted by ブクログ
Fristonの自由エネルギー理論の紹介。
脳の持つモデルと外界を知覚した結果の差分(驚き)が意識である、と文章にしてしまうと単純なモデルなのだけど、ベイズ統計や情報理論など、かなりの数学的な背景がないと本当に意味しているところは理解できない。本書で興味を持った人は原著に当たってね、というところだろうか。
Fristonも90年代からずっと、脳機能画像の分野ではトップを走り続けてきており、その集大成として自由エネルギー理論をまとめたというところだろう。正直、本質は相当に難解だけど、関連書籍もずいぶん日本語で読めるものが出てきておりボチボチ読んでいこう。。。
Posted by ブクログ
AI、シンギュラリティの大元になっているのがこの本で言うところの自由エネルギー原理である。
大脳皮質の感覚、運動、認知(連合野)、モチベーション(内臓運動皮質)はループを形成しているだけでなくこれらの働きは「自由エネルギー原理」で説明できるというのが「大統一」ということらしい。
統合失調症、自閉症もこの理論で説明可能となる。発達障害、自閉症スペクトラムも同様な説明ができていくものと考えられる。(個人的にはきっかけであり、その後の生活の積重によるものだと思っているが)
「情動はこうしてつくられる ── 脳の隠れた働きと構成主義的情動理論」では「身体予算管理能力」と称されていたが要は生物の生存戦略とは「予測」の精度を如何に上げるかとうことなのだと思う。逆に考えればこの世は偏りがあり、それをうまく使えば「長寿と繁栄」(バルカン人の挨拶「バルカン・サリュート」)がもたらされる。