佐藤次高のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
イスラームの「英雄」サラディン
十字軍と戦った男
著:佐藤 次高
出版社:講談社
講談社学術文庫 2083
イスラームの英雄である、サラディン(1137-1193)は、その言行から、味方である、ムスリムからはもちろん、敵であったキリスト教世界でも人気が高い。
では、なぜ、英雄なのか。
それは、キリスト教徒によって、奪われた聖地エルサレムを奪還したから
では、なぜ、キリスト教徒からも人気が高いのか
それは、敵に対しても慈悲深く高潔な人物だから
本書は、上記のような評価を虚像として、本来のサラディンの実像をあばくことを目標としているとあります
眼でみたことがあるわけではありませんが、納得感はありました。
ひとことでいえば、サラディンは、エジプトを拠点としなかったら、おそらく、何度も、遠征をおこなうことができなかったのではないかということです
1.なぜ、サラディンは、エジプトを拠点にえらんだのか
・シリア、パレスチナは、肥沃な土地であっても、ナイルの賜物、エジプトにはかなわない
・当時の経済力の主力は農業生産である
・エジプトは、パレスチナの5倍の収益があり、ダントツの生産性をほこる。
・エジプトを拠点としておけば、そこから上がってくる税は、5倍もあり、それを軍事力に投入できる
・パレスチナからシナイ半島を通過する陸路、紅海からナイルを通じてアレクサンドリアに達する海路の2つの貿易の拠点になっているため、交易の重要地点になっている
・昔も今もエジプトは、地政学的重要拠点なのである。
2.サラディンの内政について
・サラディンの印象は、人を大切にする人
・父アイユーブの人材をひきついで、それを踏襲した。かれらの能力を信じて、任せる政治をおこなった
・シリアから自分についてきた兵を守るため、領地の組み換えをおこなった
・エジプトにいた言うことを聞きにくい、黒人傭兵を排除、反乱をおこしても鎮圧し、以後利用することはなかった
・サラディンは、収益性を細かく把握するために、検地をやっている
・クルドはスンニ派、エジプトを支配していたシーア派の裁判官を更迭し、スンニ派に入れ換えた。
・そのために、シーア派の暗殺者に狙われることとなるも、逃げ回ていた。
3 サラディンの外交、外征
・カリフとスルタン、当時は、国王たるスルタンは、世俗の象徴であり、イスラームの宗教的象徴であるカリフより任命される仕組みになっていた。
・カリフの宰相となり、カリフの死後は、武力ではなく推戴されてイスラームの中心人物となった。
・調整能力にたけていた。ジハード(聖戦)は、自分だけが行うのではなく、呼びかけて、ムスリム全体が剣をとることとなる。サラディーンの呼びかけで、各地のムスリムが立ち上がった。
・妥協を知る政治家であった、とことんまで、敵を追いつめない。和を結び、引くべきところでは兵を引いた。
4 人となり
・清廉で、財をなさなかった
・道半ばで、亡くなったことも、人気の秘密かもしれない。本書には、「未完の君主」とある
現代も、第三の聖地、エルサレムをイスラエルに奪われたままになっていることから、ムスリムからは、第二のサラディンを望む声が、さらに、最後のカリフの復活を期待する声がある
目次
プロローグ――サラディンの生きた時代
第一章 修行時代
1 誕生
2 カリフ権力の衰退と十字軍の侵攻
3 少年サラディン
4 ヌール・アッディーンとの出会い
5 エジプト遠征
第二章 エジプトの若きスルタン
1 アイユーブ朝の創設
2 バイナル・カスラインの戦い
3 サラディンの補佐役たち
4 イエメン征服の謎
5 シリアへの進出
6 新体制の確立
第三章 カイロからエルサレムへ
1 エジプト経済の繁栄
2 聖戦(ジハード)へ向けて
3 エルサレム奪回
4 アッカーをめぐる攻防
5 サラディンの死
エピローグ――サラディン以後
ISBN:9784062920834
判型:文庫
ページ数:275ページ
定価:1010円(本体)
2011年11月10日第1刷発行 -
Posted by ブクログ
続いて下巻。
まずは、エジプト、マムルーク朝下のカイロ。イスラムと商取引について、コンメンダ、貨幣と信用取引、カーリミー商人等々解説があるのだが、正直この辺りについて十分理解出来なかった。
続いてアジアの海上交易について。アラビア海、インド洋、南シナ海の3つの回路。
この辺り、ポルトガル来航以前のインドとアラブの交易の具体相は良く知らなかったし、まして東南アジア海峡における中国、インドとのつながりの細目などはほとんど知らなかったので、勉強になった。
最後の第11章は、「13世紀世界システムの再構成」という題で、なぜ世界システムは崩壊したのかを問う。
そもそも13世紀世界システムが存在したと言えるかどうかとの批判もあるようだが、グローバルな視点での世界の見方を教えてくれる、とても知的関心を呼び起こす書だと思う。
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Posted by ブクログ
13世紀の「世界経済」、ヨーロッパがウォーラーステインのいう「近代世界システム」を構築しようとしていた16世紀前に世界システムがあったと、著者は言う。そしてそこには8つのサブシステムがあり、それぞれ西ヨーロッパ、中東及び東方アジアの3つの回路に組分けできるとする。
以下、それぞれの地域ごとに、交易の産物や参加者の商人の範囲、信用取引等の仕組み、その繁栄と衰退の様子などの具体相が叙述されていく。
第1部は、ヨーロッパ。
トロワとプロヴァン等のシャンパーニュの大市、フランドルの織物生産に関する工業/商業町、ヘントとブリュージュ、そして北西ヨーロッパを中東の商品生産地に結び付けたイタリア海港都市、ジェノヴァとヴェネツィア。
第2部は、中東。と言いつつも、まず東洋への3つのルートが紹介される。①コンスタンティノープルから中央アジアの陸地を横切る北方ルート、②地中海とインド洋をバグダード、バスラ、ペルシア湾を経由して結びつける中央ルート、③アレクサンドリアーカイロー紅海とアラビア海そしてインド洋とを結びつける南方ルートである。
まず取り上げられるのは、モンゴルと北方の道。
次に、モンゴルによるイラク、ペルシアの征服により、バグダードの衰退とペルシア湾の中心性の喪失が生じたことが説明される。
ここまでが上巻。
AというところとBというところの経済的な結び付き、交易の様相が具体的に叙述されていて、これまでバラバラには知っていたことが、世界システムの一環として全体の中に位置付けられているところが、特に印象深かった。
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Posted by ブクログ
イスラームの「英雄」と呼ばれるサラディン。エルサレムを奪回し、十字軍と戦った人物という程度の知識しか持っていなかったので、もう少し詳しくその生涯や治績等を知りたかったことから、読んでみたもの。
サラディンは1100年代の人であるが、アラビア語の伝記史料が何点もあり、後半生についてはかなり詳しく記録があるということに先ずは驚いた。そうした史料を元に著者はサラディンの行動を跡付けていく。
メインは、サラディンが指導者、支配者へと駆け上がっていく過程や統治者として行ったこと、また、軍事面での動きが描かれるのだが、それらとともに、生地タクリート、子ども時代を過ごしたバールベック、少年時代から30代始めを父とともに過ごしたダマスクス、政権を取りアイユーブ朝を創設したエジプトの都カイロといった主要な町の様相が簡潔に描かれる。また、イクタ―制や軍団編成といった当時の政治経済、軍事等の状況が説明される。
サラディンは、分裂していたイスラーム世界を統一した訳だが、エジプトとシリア地域の関係、ジハードというものの意義、十字軍国家との単純ではない関係など、いろいろと学ぶべきことが多かった。