〇人生の「トリガー」はどこにあるかわからない!恋愛かと思いきや、な短篇集
タイトルだけでは単なる「恋愛小説」のような気さえしてしまうのだが、6つの短編には人生の「トリガー」はどこにあるかわからない、そんな話。
・呼ぶ骨
大学生の真白には、「物品に呼ばれる」特殊な能力がある。いけないこととわかってい
...続きを読むるが、やめられない。ある日、電車の忘れ物に呼ばれ持ち帰るとそこには「骨」があり。
自分と向き合う。向き合った結果真白は捕まるのか?
・燃える息
ほのかを救った灯馬。彼女の郁実とは結婚が待ち構えているほどの仲だが、ふと出会ったほのかの「ガソリン」の香りが忘れられず。
人によってトリガーになるものが違うけど、びっくり。そして意外と胸アツな。
・ジューンブライド・バナナパフェ
結婚間近の芙美香は、ウェディングショップで恭平に言われたことをきっかけにダイエットを始めるが、だんだんとエスカレートしていき。
いやぁ、絶対ありそうでないと思うけど、でもありそうなリアリティが絶妙な作品。三十代で結婚したい僕だから思う?
・鈴木さんのこだわり
十数年前に実家を飛び出した善太は、姉・優子にそそのかされて父親を亡くしてひとりぐらしをしている母親のところに向かう。しかし母親はボケはじめていて。
微笑ましい善太の行動に思わず感嘆。最後(´∀`*)ウフフな展開。
・二十一週六日
満員電車に揺られて学校に通う江麻は痴漢にあってトラウマを抱えていたが、ふと同じ駅で同じ学年の千晴と出会い、同じトラウマを抱えていると思いきや。
守りたくなるものが現れると自分がブレイクスルーできる瞬間がやってくる、そう信じていいと思った。勇気づけられる。
・ファントム・バイブレーション
スマホ依存している僕は、彼女に注意されるも止められずに彼女と別れることになってしまった。するとスマホを落として車に粉々にひかれてしまう。あれ、僕のやりたいことは何だったのか?
我に返る瞬間、自分を見つめる瞬間、後悔もあるけど前に進む。
トリガーとは、ピストルなど銃器の撃発装置のことで、ピストルの場合利き手の人差し指で発砲することがほとんどだ。比喩的には、ものごとが引き起こされるきっかけ、と広辞苑第七版には掲載がある。
多くの方は依存がテーマになっているとおっしゃっているし、依存症を書いているには違いないのだが、依存の一言で片づけてしまうにはこの本はなんだか悔しいと思う。
僕ら人間の行動原理としては、自身の中に何かしらの琴線となるものがあり、無意識的であったとしても、その琴線に触れることで突き動かされる行動につながることが多い。この短篇集はそんな我々の心を見透かしているように描いていくのがこの本。
ついつい盗み取ってしまう衝動
守ってあげたいと思う親近感
このままでは好かれないという恐怖
家族じゃないからこそ話ができる他人感(?単語が合ってるかは微妙、語彙が無い)
似た者同士だから結束できる仲間
好きなことへの没頭
………どれも日常的に経験していることであり、強く強く、私たちの心を動かし続けていることの一つだ。
当事者とその周りとの関係がイメージできていないとこれは表現できないし、これを文章化した作者は私たち市井の人々の代弁者になりうるのかもしれない。
小説現代長編新人賞受賞後の第一作、受賞作の「隣人X」も期待して読みたいところです!