推し作家のパリュスあや子さんが、新刊を2月に出してはったー!!
今回のテーマは、自転車イベントの「ブルベ」。(“Brevet”「認定」を意味するフランス語) この時点でブルベをご存知の方はいらっしゃるだろうか。
ブルベは日本を含む世界中で開催されているが、「競技」ではない。順位がつかない代わりに、決まった距離を制限時間内に走り切るという、いわば「自己満足の耐久自転車イベント」だ。
主人公の進(すすむ)は今回、世界中の自転車乗りが憧れるというフランスのブルベPBPに挑戦する。
「常夜灯もほとんどない真っ暗な深夜、星だけがパノラマのように広がる空に惜しみなくちりばめられ、夜通し自転車を走らせる物好きを慰めている」(P 70)
90時間で1,200kmを往復するという、聞くだけでも肉離れを起こしそうな地獄イベント。日本のブルベで一度脱落した進は、果たして時間内に完走できるのか。
一応スポ根もの…なんだけど、汗臭さよりも、春風のような朗らかさ・爽やかさが心の中を吹き抜けていった。春色たっぷりの表紙も相まって、こちらも温かさを得たし、進さんたちと一緒にいい汗をかくことだってできた!
あ、ほんのり涙も(*´ー`*)
それにしても進さんの何ともいじらしいこと…彼を応援しない(できない)読者なんているのだろうか。
彼の献身的な半生やPBPでの奮闘ぶりは、同情を通り越して胸に突き刺さってくる。彼自身は何も成し遂げられなかったと話すけど、こちらからしたら充分すぎるくらい家族のために頑張ってきた。それを別のかたちで更に頑張ろうとするなんて…。
タイトルの「アレ」(”allez”)は、フランス語で「行け」「頑張れ」の意味。出場者への声かけを指すのは勿論のこと、進さんを大切に想う人たち・応援したい人たちからのエールでもあろう。
私は私で文章だけじゃ飽き足らず、ライブカメラを進さんの自転車に設置して、モニター越しからでも声援を送りたい気持ちだった。
「世界は複雑だ。国同士の問題もややこしい。だが本来、人間ひとりひとりは、シンプルで優しい生き物なのではないだろうか……」(P 145)
進さんはPBPで、実に様々な同志と出会い伴走していく。
その最たる同志は、自転車競技の元プロだった爽(そう)と、ある人物を探しながらブルベに参加しているフレデリックだろう。
三人の共通点は、簡単には抜け出せないトラウマを抱えているところ。一人で走っていると、風圧で身体が重たくなる。しかし伴走すること、「お互い様」と助け合うことで、一人でいる時よりも前に進むことができる…。
「彼らにとって自転車とは?」その問いの答えが、出発前と後とで三者三様変わっているところにも注目していただきたい。
順位がつかない分、選手は自分との真剣勝負を迫られる。身体にガタが来てリタイアする選手も大勢いたが、それは決して自分に負けたわけではないと、私は信じている。
だって過去の自分であれば、挑むこと自体、拒絶していただろうから。たとえ負けそうになっても、今では応援し助け合える同志だって、ついてくれているわけだし!