2025/5/10
そして集団が組織になるためには、次の2つの要件が必要です(図表001)。
組む:目的を共有している
人は、それぞれ違った目的を持って組織に所属しています。例えば給与のためという人も、仕事自体にやりがいを感じる人も、自己実現が大切な人も、仲間たちとの切磋琢磨が楽しい人もいます。 しかもその目的は年齢や環境の変化によって変わります。
これらの多様で可変なメンバーたちを束ねるために必要なのが「共通の目的」です。組織目的にむけて貢献しその達成を通じて自分自身の目的が叶う、つまり目的が重なって「共有」されて、組む状態になっている必要があるのです。
織りなす: 協働する
一人ずつバラバラにやった方が効果的なのであれば、複数人が集まる必要がありません。役割分担されて力が織りなされていること、つまり「協働」によって効果があがることが組織となる意味 。ここでいう効果とは、共有された組織目的と、それに重なり合う個人の目的がどちらも達成されることです。
→組織の「目的」を一緒に目指せない人は、その組織に属してはいけません。
組織開発の目的:組織を良くすること(組織の健全さ・効果性・自己革新力を高める)
組織開発の方法:関係性への働きかけ、技術・構造的働きかけ、人材マネジメントによる働きかけ、戦略的働きかけ
組織開発の「やり方」の4分類
アメリカの大学院でよく教科書として使われている『Organization Development and Change』 (Cummings & Worley, 2009)によれば、組織開発のやり方は大きく4つに分類されます。
①関係性への働きかけ: 人と人との関係性へ働きかける、組織開発の中心的な領域です。サーベイ・ フィードバック(Chapter3.)、プロセス・コンサルテーション(ツボ013)、ホールシステム・アプローチ(ツボ035)など。
②人材マネジメントによる働きかけ: 狭義での人材マネジメントの領域です。人材開発、目標設定、 人事制度などを通じて組織開発を行います。
③技術・構造的働きかけ: 仕事のやり方、組織のデザインに対して働きかける領域です。QCや組織構造の変革などを通じて組織開発を行います。
④戦略的働きかけ: 戦略的な変革、合併、提携など、ビジョンと戦略を明確にするプロセスを通じて組織開発を行う領域です。
HOWの議論、WHYの対話
対話を理解するために、よく似た言葉である「議論」との違いを考えてみます(図表031)。
議論:議論とは、すでに決まっているテーマ(議)を解決するために、どうするべきか意見を戦わせるもの(論)です。つまり議題 (WHY) はすでに決まっている前提で、その具体的なやり方 (HOW) を決めるための話しあいが議論なのです。「結論が出ない」 議論は失敗と言えます。論という字は物事の道理をあらわし 「あげつらう」と読みます。 意見を戦わせて、必ず何かを決めなければならないのです。分析的な思考が強く求められます。
対話:対話とは、そもそも私たちが何に対して取り組みたいか(対)、それぞれの前提や文脈をわかちあうもの(話)です。つまり共通の目的や意義 (WHY) を生み出すための話しあいが対話なのです。 「共創のない」 対話は失敗です。そこで行うべきは相手の意見をあげつらって結論を出すことではありません。自分の意見が場に出て、他の人も意見も場に出て、お互いに受け止めた上で、「私たち」 にとっての意味を新しく創造することです。研究家アイザックスが「Thinking together」 とシンプルに示したとおり、共創的な思考が求められるのです。
仲の良さや優しい雰囲気のことではない
関係の質が高いというと、メンバー同士の仲が良く、感じ良く振舞っている組織を指していると認識されることがありますが、それは違います。 関係の質を築く上で大切な考え方として『心理的安全性』という言葉がありますが、この言葉を生み出したエドモンドソンはこう言っています。
心理的安全性は、率直であるということであり、 建設的に反対したり、気兼ねなく考えを交換しあったりできるということなのだ。これなくして学習もイノベーションもあり得ないのは、言うまでもない。(中略)心理的安全性があれば、対人関係のリスクを克服してラーン・ハウ (対人関係のリスクを伴う行動)の行動をとりやすくなり、そのため学習が促進されることがはっきり証明された。(エイミー・C・エドモンドソン 『恐れのない組織』)
つまり、関係の質を高めるとは、単に雰囲気の良い組織ということではなく、集団としての「思考の質」を高めることであり、組織の「学習の質」 を高めることなのです。関係の質を高めることは、 即効性のある取り組みではありませんが、価値を生み出す持続的な組織を築く上で、これからますます大切な考え方となっていくことでしょう。
まずは7つの学習障害に気づくこと
図表042に学習が止まってしまっているモデルを示しました。ビールの卸業者が急激な受注増加によって在庫数をコントロールできず苦しんでいる状態です。ここに7つの学習障害が見出せます。
①私の仕事は○○だから: 自分の職務に忠実であるよう教育されてきたことによって、事業全体の目的について考えられない。その目的に自分が影響を及ぼしていることを理解できない。
②悪いのはあちら: うまくいかないとき、誰かや何かのせいにする。本当は自分も影響しているのだが、①の前提があるため認識できない。
いのか?
③先制攻撃の幻想:難しい問題に直面したとき、積極的に「敵」へ攻撃をしかける。しかし実は 「敵」はどこにも存在せず問題を引き起こしているのは自分自身(自分を含めたシステム)である。
④出来事への執着:先月の売上、予算削減額、 誰が昇進したのか、競合他社の新製品など、短期的な出来事を重視して、その背後にある長期的な変化のパターンに目を向けられない。
⑤ゆでガエルの寓話: 突然の変化には反応できるが、徐々に進行するゆるやかな脅威に適応できない。カエルは熱湯の入った鍋にいれると飛び出すが、水の入った鍋に入れて少しずつ熱するとタイミングを逸して飛び出せず、ゆで上がってしまう。
⑥経験から学ぶことができない: 最善の学び方は 「経験から学ぶ」ことだが、組織における重要な意思決定は数年や数十年かけて影響が現れるため、 結果を直接経験できる機会が少ない。
⑦経営陣の神話:経営陣は、①の職務の垣根を越えて複雑な問題を解決したり、数年先を見越した意思決定を行ったり、組織学習を促進すべき存在だが、逆に組織を学習から遠ざけていることも多い。縄張り争いに時間を費やし、自分が格好悪く見えることを避け、全員がまとまっているフリをするため、意見の不一致をもみ消そうとする。
具体的な5つの方法論
偉大な企業を築くためには「基本理念を維持」 しながら同時に「進歩を促す組織づくり」を行うことが重要です(ツボ063)。
そのための具体的な方法論は以下の5つです。
①社運をかけた大胆な目標 BHAG: 偉大な企業は、絶え間ない進歩を促すために、社運をかけた大胆な目標「BHAG (Big Hairy Audacious Goals)」を掲げます。これがあることで、従業員は迷うことなく挑戦的な目標の達成に向けた意欲的な行動をとることができるようになります。
②カルトのような文化: 偉大な企業は、従業員に対して、自社独自の基本理念に基づいた一貫したシグナルを送り続けることで、ときにカルト的とも呼ばれるほどの求心力を備えた文化を醸成します。ここで「カルトのような文化」 は、従業員の自社への高い帰属意識を育み、一体感のある組織活動を推進していくことに貢献します。
③大量に試してうまくいったものを残す: 偉大な企業は「大量のものを試して、うまくいったものを残す」という良質な試行錯誤のプロセスを意識的に育みます。一例としては、従業員の自主的な創意工夫を奨励する人事制度の構築などがあげられます。
④生え抜きの経営陣: 偉大な企業は、社外から招くのではなく社内登用を通じた「生え抜きの経営陣」を重視します。そうすることで、時代を超えて自社独自の基本理念を継承し、経営の継続性が保たれることを大事にします。
⑤決して満足しない: 偉大な企業は、現状に安住することなく、不断の改善を追い求めていくための実効的な仕組みの構築を目指します。環境変化に適応し、持続的な成長を実現していくうえでは、自己満足が最大の敵となると考えているためです。
最も重要なのは一貫性
これらを進めていくにあたり、最も重要となるのは「一貫性」です。すべての部分が協力しあい、 整合して経営哲学に向かっている状態のことです。
ビジョナリー・カンパニーの真髄は、基本理念と進歩への意欲を、組織のすみずみにまで浸透させていることにある。(中略)一貫した職場環境をつくりあげ、相互に矛盾がなく、相互に補強し合う大量のシグナルを送って、会社の理念と理想を誤解することはまずできないようにしている。(「ビジョナリーカンパニー』より)
衰退の5段階
①成功から生まれる傲慢: 経営者が慢心して「成功は当然だ」と考え、本業が成功している背景を軽んじると、好奇心や学習意欲が低下して変化を拒否するようになります。それが第1段階の兆候です。ここでの対策は「窓と鏡」の思考様式です。 成功しているときは窓の外を見て外部環境や運のおかげであることを思い出し、失敗したら鏡を見て内省しましょう。
②規律なき拡大路線: 適切な人材を集める速さより速いペースで企業を成長させようとして、不適切な人材を主要ポストにつけてしまう、その欠陥を補うため官僚的な手続きが横行し、規律が破壊されていく、それが第2段階の兆候です。
著名な指導者が引退した後に加速する傾向があります。ここでの対策は、一人の英雄的な指導者に頼らない体制を築くこと、誰をバスに乗せるか (ツボ066)を徹底し主要なポストに適切な人材を配置することです。
③リスクと問題の否認: 規律がなくなった企業は、 リスクと問題を否認するようになります。経営に届くデータが悪化し、組織再編が主戦略として用いられるようになると第3段階です。ここでの対策は、直接観察し実験を重ね具体的な事実と向き合うことです(実証的創造力、ツボ068)。
④一発逆転策の追究: 成長の後退に反応し始めます。一発逆転できる博打のような「特効薬」を追究し、カリスマ経営者への期待、新技術、大型買収などを行うようになると第4段階の兆候です。 一時的に業績は回復しますが長くは続きません。 ここでの対策は、内部CEOを登用し、不要なことをやめて針鼠の概念 (ツボ066)に従った本業に回帰することです。
⑤屈服と凡庸な企業への転落か消滅:第5段階には2つの形態があります。「屈服した方が良いと考える」「選択肢が尽きて企業が完全に死に絶えるか縮小する」。もう後戻りはできません。
不確実なカオスの時代においても躍進し成長し続ける企業の特徴はなんでしょうか? 『ビジョナリーカンパニー④』では、厳しい経営環境の中で業界平均の10倍を上回る成長(株価上昇と配当金)を遂げた企業を10倍型企業と名付けて調査し、その特徴を『10X型リーダー (10倍型リーダーと読む)』にあるとしています。
狂信的規律 -20マイル行進
10X型リーダーは徹底した「行動の一貫性」を示します。長い時間を経ても行動がブレず、 偏執狂のように目標に向かって突き進みます。その規律は、集団心理や社会的圧力に左右されず、自ら設定した目標に向けて一貫して進むことです。
長期にわたって並外れた一貫性で「工程表に準拠して」好調なときも不調なときも必ず一定のペースで進み続けることから、毎日20マイルを着実に歩いてアメリカ横断3000マイルを達成した逸話になぞらえて「20マイル行進」と呼ばれます。
実証的創造力 一銃撃に続いて大砲発射
不確実な状況に直面したとき、10X型リーダーは科学的に実証できる根拠を頼りにします。直接観察し実験を重ね具体的な事実と向き合います。 その実証されたデータ分析をもとにして大胆な対策を打ち出すと同時にリスクも制御しています。
まずは低コスト・低リスクで影響の少ない実証的テストを「銃撃」として行います。そして実際に何が有効なのかを検証してから経営資源を集中させた「大砲」を発射します。
建設的パラノイア 一死戦を避ける
10X型リーダーは警戒心や不安をテコに行動しています。最悪のシナリオを想定して日頃から準備を怠りません。そうすることで完全に運に見放されてもリスクを最小にでき、創造的な仕事を継続できるのです。10X型リーダーは成功したときには 「幸運に恵まれた」と言いますが、失敗しても「運が悪かった」とは言いません。不運に襲われることは前提なのです(窓と鏡の思考様式、ツボ066)。
レベルファイブ野心 一自らの意志
10X型リーダーのエゴは自分の利益ではなく大義に振り向けられています。やる気を起こす原動力は、 自己を超越した大義を達成したり、偉大な企業を育てる情熱です。偉大なリーダーは勝利と同じくらい価値観にこだわり、利益と同じくらい目的に執着し、成功するのと同じくらい役立つことに注力するのです(野心は会社のために、ツボ066)。
リーダーシップ行動サーベイ
1. メンバーが予定どおり仕事をしたときでも、さらに高い目標を要求する
2. メンバーの力からみてギリギリいっぱいの仕事を要求する
3. メンバーに仕事の改善を求めている
4. メンバーに期待を上回る業績を求めている
5. メンバーの成長に気を配っている
6. メンバーがやる気をなくしたときに勇気づけている
7. メンバーの人間関係がうまくいくよう配慮している
8. メンバーの仕事で問題が起きたとき一緒になって考えている
9. メンバーの良い仕事を認めている
10. メンバーに仕事の計画を知らせている
11. メンバーに仕事に必要な情報を知らせている
12. メンバーに会社全体の動きを知らせている
13. メンバーの能力や知識の不足をつかんで指導している
14. 仕事の方針や計画を変更したとき、そのことをただちにメンバーに知らせている
15. メンバーが問題を抱えているとき適切な処置ができる
16. 一度決定したことは実行している
17. メンバーの仕事に対するアドバイスが適切である
18. 仕事に必要な知識や技術をもっている
19. メンバーはこのリーダーの決定や判断を信頼している
6つのリーダーシップの実践
持続的イノベーションを起こし続けるSECI スパイラルを回すのは、ワイズリーダーの6つの実践です。
何が善かを判断する: ワイズリーダーは何が「善」かを判断する習慣を身につけています。創業者は共通善を「生き方」とすること、そしてその率先垂範を見ながら、現場の社員は「いま・ここ」で判断し行動する、これを習慣としていくのです。
その能力を育むためには①逆境や失敗の経験、 ②あくなき卓越の追求、③リベラルアーツを学ぶ、 ④価値観や倫理観の原則を共有する、という4つの方法があります(詳細はツボ094)。
本質をつかむ: ワイズリーダーは本質を素早くつかみ、出来事や人の真の性質を見抜きます。
その能力を育むためには①徹底的に問う、②木と森を見る、③仮説を立て試し検証する、という 3つの方法があります(詳細はツボ095)。
「場」を創造する: ワイズリーダーは、経営幹部や社員が互いに学び合い、新しい知識を共同で創造できるよう、相互交流の機会を作っています。
その能力を育むためには①垣根を作らない、② タイミングを見計らう、③セレンディピティを引き出す、④本音で話す、⑥共通の目的意識を育む、⑥コミットメントの範を示す、という6つの方法があります(詳細はツボ096)。
本質を伝える: ワイズリーダーは、レトリック・メタファー・物語を使い、伝わる言葉で本質を届けます。
その能力を育むためには①小説をたくさん読む、 ②感動的なスピーチを聞く、③率直な会話を交わす、④歴史を再構築する、という4つの方法があります(詳細はツボ097)。
政治力を行使する: ワイズリーダーは、善なる目的に向けて、あらゆる手段を使って人を動かします。
その能力を育むためには①弁証法の利用、②ミドルアップダウンマネジメントの適用、③肯定的な反抗を奨励する、という3つの方法があります (詳細はツボ098)。
社員の実践知を育む: ワイズリーダーは、自律分散型リーダーシップによって組織のあらゆる層の人々の実践知を育みます。
その能力を育むためには①現代版の徒弟制度、 ②全員経営、③ ジャズのような即興、④ダイナミックなネットワーク型組織、という4つの方法があります(詳細はツボ099)。