タイトルに「取調室」秘録とあるように、基本的にはいくつかの有名事件に関して「どのように犯人を落としたのか」を語るノンフィクションである。
それぞれの事件は興味深いものがあるが、正直な話、著者は何が書きたかったのかな?というくらい「実がない」。
まず、著者は全てにおいて警察側(大峯氏)に肯定的である。
...続きを読む否定的な描写は一切、ない。
私個人としてはこの本で披露される「落とし」のテクニックは危ういものにしか見えないのだが、それを検証してみることはしない。勿論証拠固めをしっかりやっているから公判が維持できて有罪判決がくだったのだろう(と思いたい)が…。
「落とし」に絞ってしまったせいで、すごいというより恐怖を感じる。前後の地道な部分が捨象されているので「落とし」のテクニックが予断になっていなかったのか判断する術がないのだ。勘や筋読みは大事だが、それだけでは駄目なのは過去の冤罪事件が証明している。
終章にかけてが、その危うさに対する取ってつけた回答のようになっているのがまた奇妙である。世田谷事件のエピソードは、ただ物語を〆るためのものでしかない(まず未解決なのだから)。科学への確信めいた傾倒も若干気になる。
終章は良いエピソードなのだが、これもまたある重要な信念を最後に伝えたいが為に無理に構成した感がある。
取調べのテクニックは否定しない(駆け引きは凄いなとは思った)し、「生まれながらの犯罪者はいない」という考えにも同意するものの、とにかくこの書籍は内容が薄い。単純な聞き書きレベルに留まってしまっていて、そこか何かを引っ張り出そうという意思を感じない。著者の主体がないというか。聞き書きに徹しているなら分かるのだが…。