ジョゼ・サラマーゴのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
2026年読んだ中で1番おもしろい。
『進撃の巨人』もそうだけど、既成権力の転倒か墜落に対面するとおもしろいな。旧価値的なものの本質的な無意味さがよくわかる。例えば、お金が無意味なものとして、それに対する信頼が棄却されるような現象を扱った小説とか漫画とか映画があってもすごくいいと思う。
ともあれ、動物的でない側面としての人間の価値をずっと問うている作品だった。その点で、組織化が大事な価値観になっていた。
病院内の状況が、社会の縮図のようになっていておもしろい。唯一持ち込まれた銃器が最大権力化していた。それだけ、弾がなくなったときの失墜が大きいが。寝るための道具であるベッドの部品から鉄の棍棒が作られて、銃器より弱いがそれも権力化していた。
それでも最も権力化できる武器は視力であった。1人だけ見えているという最高のアドバンテージ。それを権力に使うのではなく、組織化と力強く生きていくために使っていた。力強く生きるとは、無為と退廃に沈まないこと。
二点気になったことをとりあげたい。一つ目は、視力がなくならない人がいたのはなぜか。もう一つは、作品中で焦点化されたグループの外の人はどうやって生きていけるか。だれも目が見えないのだから、ほとんど絶望的な状況のはず。生きていくのは難しい。ただ最後の方で、目の見えない小説家が出てきたのはよかった。あの人がいるおかげで、考えうる限り絶望的な状況の中でさえ希望的な生き方を模索できた。
文体はおもしろい。特に、会話が地の文と融合していて、改行も少ない。
時間ある時に舐めるように読めたのでよかった。
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Posted by ブクログ
王家とカトリック教会が権勢を振るう18世紀のポルトガルを舞台に、権力に翻弄される人々を描く物語。本書の魅力はなんといってもその臨場感にある。読み手は冒頭からリスボンの雑踏と喧騒に放り込まれ、主人公たち同様明日もわからぬまま、時に天上の音楽に包まれ時に血と汗と泥にまみれる。
心に残るのは主人公ふたりが神父とともに飛行機械を作る日々だ。かたわらでは宮廷音楽家がチェンバロを弾いている。身分も立場も違うこの4人が風変わりな友情と信頼で結ばれるひとときは、ほのかな光を放って物語全体を照らしているかのようだ。異端審問がそこに暗い影を落とすが、その影もまた光を引き立てている。まるでラ・トゥールの絵画のように。
語りがたいへんおもしろく、とくに権力側に対する辛辣さは時に笑ってしまうほど。ただそうなると現在もカトリック国であるポルトガルでどのような立ち位置になるのか気になるところ‥と思いながら読んだが、あとがきで丁寧に解説されていた。満足。 -
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「他者の視線によって人間は自己を形作る」
この小説を読みはじめたとき、一番に驚愕したのは、著しい改行と括弧の排除、登場人物全員の名前が明かされないことでした。
こうした特殊な手法は、読んでいるこちらを有無を言わさずミルク色の海の中に引き摺り込むようで気味が悪く、それでいて登場人物達の内面をこれでもかと描写することにより没入すればするほどにページを捲ることが苦痛に思えるような、他の小説では味わえない読書体験をさせてくれます。
とりわけ、印象深かったのは社会全体が失明してからの街を覆うリアルな悪臭と汚物に覆われた歩道を踏みしめる感触の描写です。
作中の文章を引用させていただくと「その道の権威によれば、罪人が耐えるべき最悪のものは、焼けた石炭ばさみや、煮えたぎるタールの大釜や、鋳造所と調理場にある種々の道具ではなく、鼻が曲がるほどの強烈な腐臭と、吐き気をもよおす有害な異臭だという」
失明社会は他者の視線がない分、皆が傍若無人に振る舞う様をこれでもかとたたきつけてきます。
序盤はただただ、登場人物達を襲う理不尽な苦難に対して苦痛を感じるばかりでしたが、視覚を失ったことで、それまで出会う等の無かった人々が衝突しつつも手に手を取り合い、助け合う姿を見て、少しずつ読み手の自分も救われていくようでした。普段は清潔な服に身を包み、自然の爽やかな風が当たり前のように吹くことが奇跡のような気持ちにさせられます。
「瓶を透かして明かりが光り、中身の宝物がきらめいた。医者の妻はそれをテーブルに置くと、夫婦の持っている最高級のクリスタルグラスを取りにいった」こんなにも美しい表現があるとは。瓶の中身はぜひ本書を読んで確かめて欲しいです。 -
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運転中の男が突然失明した。目の前に広がるのは漆黒の闇ではなくミルク色の白い闇。車から助け出した男、失明した男を診た医師、待合室の患者たち……失明は次々に伝染して……。ノーベル賞作家の傑作長編→
怖かった。「地球上のすべての人が目が見えなくなる」と、こんなことになるのか……と、ショックを受けた。まさに、文明の崩壊。
最初は隔離された病院内で、そして、街全体に広がる無秩序の世界。
目が見えないと人はこんなにも残酷になれるのか。動物に近づくのかと思ったが、そうじゃない。→
そんな世界でキーになる人物がいるわけで、その人がいるからこの話は進むんだけど。
ラストよ……いやもう、怖い。本当に怖い。
この話の四年後を描く「見えることの試み(原題)」が河出さんで翻訳されているみたいなんで、読んでみたい。あのあとあの人はどうなったのだろう。 -
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ネタバレ初作家。この作品の成功により、ノーベル文学賞を受賞。人間とは、個人と文明について、善悪とは・・・etc。あらゆる物事を全人類(ほぼ)失明という事象を用いて寓話的に淡々と、時に神の視点を挟みながら記された天から人類に齎された(——作者曰く、突然"全人類が失明したらどうなるのか"という…)書物ではなかろうか。作中一切キャラクタ名が出て来ず『医者の妻』『サングラスの娘』『黒い眼帯の老人』…等、眼が見えない世界では名前など不要ですものね。また台詞には「」が使用されておらず、最初は誰が言葉を発しているかわからず、大変読みづらい。しかし二つの事柄を合わせて考えてみると、読者をよりこの世界に取り込む(→読者すらこの物語の登場人物のひとりのように)のに大変効果的なことに気付かされた。結末はまた新たに生まれ変わった"新"人類の誕生(?)で幕を閉じた——。
(※続編もあるようだが、翻訳されておらず…残念だ。)
人によっていろいろ考察しながら読める、素晴らしき作品!全人類必読の書である。星五つ。 -
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ネタバレある日突然、失明が伝染していく。視界が白の闇に包まれる。
失明も怖いけれど、全ての人が盲目になった世界で一人だけ目が見えているというのも壮絶です。
何も見えない世界で理性を保てるのは、その人自身の理性なのか、やっぱり「彼女には見えている」という“見られている”意識なのか……。
一人だけ失明しない人物である医師の妻は、支援と介護とのプレッシャーも、目の当たりにしている悲惨な世界のストレスも、自分の目もいつか見えなくなるかもしれないという恐怖もかなり強かっただろうと思います。ラストの不穏さも印象に残ります。
地の文と会話文の区別がつけられてない文章で、会話も何人もいるけど誰がどの発言をしているかも書いてないところもありはじめは戸惑いましたが、それでもぐいぐい読まされる力がありました。考えさせられて目が止まる一文もサラッと書いてあって、読む度に深まっていきそうな作品です。
映画「ブラインドネス」も観ました。原作を読み終わる前に観てしまったけれど随分とコンパクト。でも壮絶さはありました。最初に失明した男とその妻を伊勢谷友介さんと木村佳乃さんが演じられててびっくりでしたが不思議としっくりきます。 -
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ネタバレわたしたちは目が見えなくなったんじゃない。わたしたちは目が見えないのよ。目が見える、目の見えない人びと。でも、見ていない。
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暗い作品の得意な私でも読むのに少々骨が折れた作品だった。読んで、考えて、手が止まる。とても面白く、そして恐ろしい作品。現在のパンデミック下で、状況は違えど同じようなことが起こっている。得体の知れない脅威と背中合わせの生活。いつまで続くかわからない、まさに「闇」だ。
ある時突然視力を失った男。
男を助けたあと男の車を盗んだ車泥棒。最初に失明した男の妻。眼医者の診療所にいたサングラスの娘、斜視の少年、白内障で眼帯をつけた老人。次々と失明していく。失明した人々の視界にはどこまでも続く、ミルクをこぼしたような一面に広がる白い海。彼らは使われなくなった精神病院の病棟へ隔離され、外に出ることは許されない。満足な食糧も提供されない上に、饐えた匂いのする水しか出ない水道、生きる上で必要なものはほとんど揃っていなかった。
目の見えない人々は増え続けて、三百人ほどの人が病棟へ収容された。
人が人らしく生きていくことを忘れる者。人間的でないならせめて動物的にならないようにしようとする者。
当然のように起こる想定しうる最悪の出来事。
医者の妻だけが、最後まで失明しなかったのは何故なのか。
ある日突然人々が白い闇から脱出することができたのか。
わたしたちはずっと、盲目だったことだけは確かなようだ。 -
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ネタバレともに歩き、ともに倒れ、ともに死ぬ(P158)
ある男性の目が急に見えなくなった。手を貸した男性の目もその後見えなくなり、あちこちで失明する人間が発生する。失明した患者と感染者は隔離施設に閉じ込められ、地獄のような日々が過ぎるだけだったが、患者たちが知らないうちに外の世界もまた刻一刻と変わっているのだった。
読み応えがありました。世界の人間すべての目が見えなくとも必ず未来はあって生きていかなければならない。
ポルトガルでは1995年(日本では2001年)発行、なのでコロナ禍を経た現在では最初の政府の動向がやや古さを感じるものの狂っていく人たちは今もさほどアップデートはできていないのではないだろうか。
あとポルトガルは野犬が多いのかな?昨今の日本だと熊のほうが心配ではある。
ずっとトイレ問題が付きまとうので(またこの話題か…)という感は否めないけど重要な問題ですよね。本書をお茶をしながら読むのはお勧めできないです(汗 -
Posted by ブクログ
カミュの「ペスト」のようなパンデミック物のパニックストーリーの体をなしているが、白くミルク状に視界が覆われるという不条理な失明の仕方、終盤の教会で発見する聖像の状態などから、そうではない。どちらかというとマッカーシーの「ザ・ロード」に近い雰囲気で(会話文に括弧がない点でも似ている)、終始終末期の世界のような暗い雰囲気の中で、すべての人から視力が奪われたときに陥る、人間の暴力、狂気、それらに対抗する理性、勇気などが描かれる。特に食と排泄が人間の尊厳に及ぼす影響がいかに大きいかがわかる。極限状況にあるとき人としての尊厳を保つには?と読者に問いかける作品である。
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ある男が交差点で車を待機させてる間、唐突に視界全体がのっぺりとした白に覆われるという形で失明したことをきっかけに、国中でこの失明が伝染した。
この荒唐無稽な設定の上で、全ての人が失明したら何が起きるのか、目が見えることを前提として作られた社会はどのような事態に陥るのか、を残酷なまでに克明に描き出した。さらにこれを通して、目が見えているように思われる私たちの日常の中における捉えがたい(見えない)現実をも鮮やかに表した
この小説の特徴はなんと言っても、登場人物の名前がついぞ判明することの無いまま物語が終わることと、鉤括弧を用いずに会話文と地の文が入り交じって記述されることであろう。それに加え段落分けが極端に少ないこともあって、とても読みづらそうだと初めは思われるだろう
しかしこの文体に慣れればすっと作中に入り込んで読むことができるようになるし、この物語にもこの文体が合っているように思われる
他人からの視線が無くなったことで現れる人間の本性、一方で他人の姿形に囚われないことで生じる人間の善性といったものがどちらも丁寧に表現されている
前者は中盤に非常におぞましく描かれ、人間なんて所詮は理性を失ったら野蛮な獣にすぎない、と思わせる一方、終盤では人間自らの努力によって友愛の情を獲得し垣根を越えた愛情を描くことで、人間も捨てたもんじゃないなと思わされる。作者の掌で転がされている感覚を味わうことができるだろう
あらゆる人が光を失っているという状況において、他人から見られないという点で人々は悪事を働きやすくなる(お天道様も目が見えていないらしい)が、他人の姿を見ることができないという点では姿形からもたらされる第一印象を排して相手の内面と接触できるため、フェイス・トゥ・フェイス以上の心を通わせたコミュニケーションが可能になりもするだろう
本作が、登場人物の名前が明らかにしないこと、鉤括弧を使わないことで発話者を判然とさせてないこと、を通して示唆される匿名性という要素に注目すると、現代のSNSにおける人々の振る舞いは、ユーザー全員が失明している状態と似ているように思われる
匿名性を逆手にとって相手に誹謗中傷するような事態も起こるが、その一方でマッチングアプリなどに見られるように、匿名がゆえ相手の容姿というコミュニケーションにおける大きなハードルを通り抜けて、相手の内面に直に接触することが可能になってもいる
名前や顔などの相手の情報を制限することによって生じるコミュニケーションもあるのだろう
そして、その逆もまた然り -
Posted by ブクログ
ネタバレ最初の1ページから、これは面白いぞ!という予感。「」のない台詞も、違和感なく、というか、むしろ引っ掛かりがなく流れるように読めた。時々、あれ?これは誰が言っている?となる時もあったけれど。
眼の見えない人々の(時々滑稽にも見える)動作が、演劇や映画を見ているように思い浮かべられる。目が見える医者の妻を通して伝えられる、嗅覚や触覚の表現も、とてもリアリティを持っている。
レイプや殺人シーンの描写があまり具体的でなかったのはよかった。もし他のシーンと同じように描かれていたらちょっとトラウマになりそう。
絶望感漂うストーリーだけれど、なんだかんだで悪人は粛清され、最後は突然に人々の眼が見えるようになって話は終わる。
眼が見える、という土台の上にこの社会が成り立っていることはよくわかった。では、眼が見えない人の社会というのは、どのような可能性があり、どう構築され得るのか?結局そこまでは描かれなかったのは残念。しかし、それは読者が考えることなのかもしれない。