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突然の失明が巻き起こす未曾有の事態。「ミルク色の海」が感染し、善意と悪意の狭間で人間の価値が試される。ノーベル賞作家が「真に恐ろしい暴力的な状況」に挑み、世界を震撼させた傑作。
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Posted by ブクログ
「他者の視線によって人間は自己を形作る」 この小説を読みはじめたとき、一番に驚愕したのは、著しい改行と括弧の排除、登場人物全員の名前が明かされないことでした。 こうした特殊な手法は、読んでいるこちらを有無を言わさずミルク色の海の中に引き摺り込むようで気味が悪く、それでいて登場人物達の内面をこれでも...続きを読むかと描写することにより没入すればするほどにページを捲ることが苦痛に思えるような、他の小説では味わえない読書体験をさせてくれます。 とりわけ、印象深かったのは社会全体が失明してからの街を覆うリアルな悪臭と汚物に覆われた歩道を踏みしめる感触の描写です。 作中の文章を引用させていただくと「その道の権威によれば、罪人が耐えるべき最悪のものは、焼けた石炭ばさみや、煮えたぎるタールの大釜や、鋳造所と調理場にある種々の道具ではなく、鼻が曲がるほどの強烈な腐臭と、吐き気をもよおす有害な異臭だという」 失明社会は他者の視線がない分、皆が傍若無人に振る舞う様をこれでもかとたたきつけてきます。 序盤はただただ、登場人物達を襲う理不尽な苦難に対して苦痛を感じるばかりでしたが、視覚を失ったことで、それまで出会う等の無かった人々が衝突しつつも手に手を取り合い、助け合う姿を見て、少しずつ読み手の自分も救われていくようでした。普段は清潔な服に身を包み、自然の爽やかな風が当たり前のように吹くことが奇跡のような気持ちにさせられます。 「瓶を透かして明かりが光り、中身の宝物がきらめいた。医者の妻はそれをテーブルに置くと、夫婦の持っている最高級のクリスタルグラスを取りにいった」こんなにも美しい表現があるとは。瓶の中身はぜひ本書を読んで確かめて欲しいです。
運転中の男が突然失明した。目の前に広がるのは漆黒の闇ではなくミルク色の白い闇。車から助け出した男、失明した男を診た医師、待合室の患者たち……失明は次々に伝染して……。ノーベル賞作家の傑作長編→ 怖かった。「地球上のすべての人が目が見えなくなる」と、こんなことになるのか……と、ショックを受けた。まさ...続きを読むに、文明の崩壊。 最初は隔離された病院内で、そして、街全体に広がる無秩序の世界。 目が見えないと人はこんなにも残酷になれるのか。動物に近づくのかと思ったが、そうじゃない。→ そんな世界でキーになる人物がいるわけで、その人がいるからこの話は進むんだけど。 ラストよ……いやもう、怖い。本当に怖い。 この話の四年後を描く「見えることの試み(原題)」が河出さんで翻訳されているみたいなんで、読んでみたい。あのあとあの人はどうなったのだろう。
目が見えなくなる伝染病が急速に伝播しパンデミックになる世界。一人、なぜか病に罹らず目が見える女性が主人公。身の危険を感じ、「見える」ことを隠しながら家族や仲間の世話をするのだが、食べ物がない、トイレもいけない、情報も途絶え弱肉強食、世界が無法地帯と成り果てる中、彼女たちは苛烈な状態に追い込まれる。 ...続きを読む2020年夏に読んだ。Covid19が世界に蔓延してパニック状態だった頃。現実と物語との境界が曖昧になるほどリアルな恐怖を覚えた一冊。傑作。
とても面白かった。 最序盤からトップスピードで気が抜けない展開が続く。 登場人物がやや多く、会話に鉤括弧が付いておらず多数の会話が連続して入り乱れるため誰の発言なのか熟読する必要があったが、翻訳を担当した方はもっと大変だっただろうなぁと思った。 残酷なシーンも多いが読み応えがあった。 この作品が好き...続きを読むな方は、ハプニング、ブラインドネスといった映画をお勧めします!
人びとの目がいきなり見えなくなった。ただひとりを除いて。ということで何が起こるかについての小説である。ポルトガルの作家とあるがアメリカの状況でもおかしくない。いまのコロナの状況での推薦本であった。
だれしも死の次に怖いのは病気、次に盲目になることではないか。 次々と、人々が盲人になっていく話。 見えなくなった目に広がるのは、白の闇。 ヒッチコックの映画を彷彿とさせる、決まり悪い臨場感。 私も目が見えなくなるのでは?と、本から汚染物質を感じるくらいの迫力。 自分も周囲の者も全員盲目になった...続きを読むらなんて、これまで想像してみたことがない。 原始的になるのか? 否、ベクトルが違う。 無秩序とも違う。 獣みたいになる、というのも違う。 名前が意味を失う。形容詞が役にたたなくなる。言葉への信頼がなくなる。 面白いと思ったのは、ひとりだけ、なぜか盲目にならない「医者の妻」が、盲人たちよりも地獄を味わうということ。家中、町中に溢れる糞便と、糞便をそこいらに垂れる人々の姿を見てしまうのだから。 この人の意味はなんだろう。 優れたファンタジーはリアリティと相反しないものだ、と痛感する作品。
ある男が交差点で車を待機させてる間、唐突に視界全体がのっぺりとした白に覆われるという形で失明したことをきっかけに、国中でこの失明が伝染した。 この荒唐無稽な設定の上で、全ての人が失明したら何が起きるのか、目が見えることを前提として作られた社会はどのような事態に陥るのか、を残酷なまでに克明に描き出した...続きを読む。さらにこれを通して、目が見えているように思われる私たちの日常の中における捉えがたい(見えない)現実をも鮮やかに表した この小説の特徴はなんと言っても、登場人物の名前がついぞ判明することの無いまま物語が終わることと、鉤括弧を用いずに会話文と地の文が入り交じって記述されることであろう。それに加え段落分けが極端に少ないこともあって、とても読みづらそうだと初めは思われるだろう しかしこの文体に慣れればすっと作中に入り込んで読むことができるようになるし、この物語にもこの文体が合っているように思われる 他人からの視線が無くなったことで現れる人間の本性、一方で他人の姿形に囚われないことで生じる人間の善性といったものがどちらも丁寧に表現されている 前者は中盤に非常におぞましく描かれ、人間なんて所詮は理性を失ったら野蛮な獣にすぎない、と思わせる一方、終盤では人間自らの努力によって友愛の情を獲得し垣根を越えた愛情を描くことで、人間も捨てたもんじゃないなと思わされる。作者の掌で転がされている感覚を味わうことができるだろう あらゆる人が光を失っているという状況において、他人から見られないという点で人々は悪事を働きやすくなる(お天道様も目が見えていないらしい)が、他人の姿を見ることができないという点では姿形からもたらされる第一印象を排して相手の内面と接触できるため、フェイス・トゥ・フェイス以上の心を通わせたコミュニケーションが可能になりもするだろう 本作が、登場人物の名前が明らかにしないこと、鉤括弧を使わないことで発話者を判然とさせてないこと、を通して示唆される匿名性という要素に注目すると、現代のSNSにおける人々の振る舞いは、ユーザー全員が失明している状態と似ているように思われる 匿名性を逆手にとって相手に誹謗中傷するような事態も起こるが、その一方でマッチングアプリなどに見られるように、匿名がゆえ相手の容姿というコミュニケーションにおける大きなハードルを通り抜けて、相手の内面に直に接触することが可能になってもいる 名前や顔などの相手の情報を制限することによって生じるコミュニケーションもあるのだろう そして、その逆もまた然り
固有名詞が一切出てこない。 『 』で会話が書かれていない。 なのに個が判断できるし、どんどん読み進められる。 面白い作品に出会えた。 もちろん、訳者の多大な尽力にも感謝。
目の前が真っ白になる感染症。具体的に作中で表現される世界は救いがない。その惨状を自分だけが見えていたら…?段落は多用せず、鉤括弧を使わない作風がそんなものは不要だと言われているようで、特に効果的。
突然失明する感染者が慢性。隔離された病院では、まともな食事、排泄、清潔が保たれず、自尊心を失っていく。極限状態に追い詰められた時の暴力性や、崩壊していく日常は生々しく、恐怖がこびりつく作品だった。翻訳の言い回しは慣れない。
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