タイトルに惹かれて購入。美が人に恵を齎す一方で、美には危険性があるという。本書は高村光太郎の「必死の時」、アニメ「風立ちぬ」を例にひきながら美が齎す眩惑作用を明らかにし、トーマス・マンの「魔の山」、軍歌「同期の桜」を例に、感性が悪を美化するプロセスを考察する。とても興味深く読みました。特に「魔の山」
...続きを読むで描かれる結核について、この病が作品が書かれた当時の、ひとつの「美学」であったことに驚きました。結核という当時不治の病であった忌まわしい疫病が患者を魅力的に、美しく見せる作用があることを見事に解説しています。当時の知識人や芸術家達がこぞって結核になりたいと望むのも今となっては奇異に思えますが。第四章の軍歌「同期の桜」では「散華」という言葉を糸口に桜の持つイメージと死にゆくことの美化、特に戦時下の特攻の美化について考察しています。読みながら今の時代も物事を美化して誤魔化していることの多さに危機感を覚えます。美はいいこと、快である故にそこに悪い面があっても見落とされがちです。寧ろ権力者はそこを利用して悪い面を美の眩惑作用で見せないようにします。「美しい」ことに惑わされてはいけないなと考えさせられる1冊。