前山悠のレビュー一覧
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定期的に本作を読み返しており、今回新訳が出たということで早速手にしてみた。
この新訳版には適度に注釈が付け加えられ、文章も従来の訳書より読みやすくなった様に思う。
しかし最も新訳の恩恵にあずかっているのは、本書を通してたった一人の語り手であるクラマンスである。彼を露悪的かつ魅力的に、そして親しげに表現することは、本書の仕掛け(罠)上で欠かせないからだ。
話の大筋は以下の通りである。
語り手であるクラマンスは、かつてパリで名を馳せた弁護士で、私人としても善行やその振舞いから評判であった。
当時の彼は順風満帆な人生を送っており、自身が「高みにある」ことを信じて疑わなかったが、あるきっかけか -
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アレクサンドル・デュマによる怪奇ロマン中編。
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27歳の作家アレクサンドル・デュマは、狩猟のためにフォントネを訪れていた。
狩りも一段落ついたところでデュマは血塗れの男を目撃する。
男は石切夫のジャックマンと名乗り、市長の家の玄関先で告白する。「俺は自分の女房を殺した。捕まえてくれ」
市長のルドリュは警察官たちと共に現場検証に向かうが、ジャックマンは現場に戻ることを激しく拒絶する。
どうにか現場であるジャックマンの自宅についた一行は、血塗れの地下室で首を切られた女房の遺体を見る。
ただでさえ凄惨な事件だが、殺人犯ジャックマンはさらに恐るべきことを告げる。「斬り落とした女房の首が俺に向か -
Posted by ブクログ
19世紀ヨーロッパ、主人公である作者は旅先で不可思議な事件に関わり、その縁で集まった人々がそれぞれの不可思議な体験を語る。
はじめに事件が起き、集まった人々がそれについて語り合っているところなど何となく推理小説のような状況だが、人々の話はHowdunitではなく、怪奇な事象に対して否定的な唯物論者に対しての百物語へと発展していく。
語られる幻想的な短編はそれぞれ魅力的で、夢中になって一冊読んでしまった。訳も大変読みやすい。
全体を通して、とくに王侯貴族の描かれ方などに他の時代物作品と通じるデュマらしさがある。なんと多彩な作家なのだろう。もっと幻想文学作品を読んでみたいものだ。 -
Posted by ブクログ
この『転落』は、いわゆる自分語りの形式をもって、パリからアムステルダムにやってきた弁護士クラマンスが自らの半生を打ち明ける。
前半は、細かな心理描写にさすがの感を抱きつつ楽しく読んだものの、自己愛というテーマ自体はそれなりに平凡で、作家であれば多かれ少なかれ誰でも書きそうな内容、という印象だった。
しかしクラマンス自らの無謬性が否定された中盤以降、哲学やキリスト教の要素をふんだんに盛り込みながら、タイトル通り『転落』のスピードに読者を巻き込んでいく手腕には圧倒された。
そして、終盤のミステリー的要素も踏まえた展開と結末。
短編ながら、文学的要素をこれでもかと詰め込んだ傑作と感じた。
ノーベル -
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怪奇幻想譚好きは絶対読んだ方が良い。流石「三銃士」を書いたデュマだけあって面白い!
ギロチンで切断された後も喋る生首、幽霊、呪い、吸血鬼……辺りのキーワードが好きな人にはオススメです。
ただの怪奇幻想譚ではなく、人体実験やメスメリズムなど、当時の『科学』の視点も組み入れつつ、18世紀~19世紀辺りのフランスの歴史も絡めて物語を描いてるのがこれまた手が込んでる。(実際に歴史上存在する人を登場人物にしているあたり、山風にも通ずる感じの面白さ…)
タイトルの「千霊一霊」は「千夜一夜」リスペクトから来てるらしいですが、市長の家に招待された客が順番に自分たちが体験した不思議な怪奇幻想譚を語るという体裁 -
Posted by ブクログ
殺人の場に偶然居合わせた著者が、出会った市長宅に招かれ、
集った人々から奇怪な体験談を聞くことになる。
短編を枠物語の形式で綴っていく幻想怪奇譚。
年表有り。
「この人殺し!」生首がしゃべったことが発端。
死とは?死体が動くことはありうるのか?
当時の科学の論議から始まり、集った人々が語っていく。
市長ルドリュー・・・ギロチンの犠牲者の怒りと悲しみ。
医師ロベール・・・判事のもとに訪れるのは呪いの産物か?
ルノワール士爵・・・サン=ドニの王墓の事件と亡霊たち。
ムール神父・・・死刑となった盗賊との約束は果たされるのか。
アリエット氏・・・商人の妻が遭遇する不可思議な出来事の数々。
グレゴリスカ -
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ネタバレ間違えて削除してしまった。再度、ブログから感想上げ直しします。
ブログから感想を移しました。
枠形式といわれる物語の中に物語に込められていく語られていくのですが、タイトルの翻訳は大変だったでしょうね。
アラビアンナイトは枠形式の代表です。一つの物語の中にいくつも入っているので、私はマトリョーシカっぽいとか言ってましたが。
この形式はインド文学から大陸を流れて、アラビアでこうした形でまとまったものですので、興味がある方はアラビアンナイトは手に入れやすいですし、一度、読まれることをお勧めします。
インド文学だと「屍鬼二十五話」「ラーマーヤナ」、「カターサリット・ナーガラ―」「マハ -
Posted by ブクログ
弁護士として順風満帆な生活を送っていたフランス人ジャン=バティスト・クラマンス。なぜか今は落ちぶれた様で、アムステルダムのバー「メキシコ・シティ」にたむろしているらしい。そして、バーに来ていた同国人に話しかけるところから始まり、最初から最後まで彼の一人語りで話が進む。
今彼は、「告解者にして裁判官」のようなものだと言う。一体それはどういうことなのか?どうして彼は以前の生活から“転落”してしまったのか?彼の語りから、徐々に謎が明かされていく。
あらすじ的に言うと、こんな感じ。
語りの文なので、読むこと自体は難しくないが、語られる中身は、自分にも当てはまるとドキッとしたことも多いし、人間の