映像作品のノベライズ、どうしても映像媒体と小説媒体で差が生まれるもの。特に『超かぐや姫!』のように動きと音楽に注力した作品の場合、映像媒体で存在した魅力をそのまま小説に移行するなんて不可能
だからこそ求められるのは小説ならではの表現、本ノベライズはその役目を充分に果たしてくれる内容と思えましたよ
ノベライズだから当然かも知れないけれど、話の筋やシーン構成は映画とほぼ変わらず。むしろライブシーンがカットされている事を思えば物足りなさすら在るかもしれない
けれど、ハイテンポでローストレスな構成がされていた映画では敢えて省かれていただろう要素が盛られている為にノベライズ版は映画では見えてこなかった諸々が見えてくる仕様となっているね
特に大きな要素は彩葉の家庭環境か
映画では回想シーンで少し触れるのが主で、彩葉が父の喪われた母子家庭でどのような思いを抱え、そして家を出るに至ったかは想像によって補完する必要があった。まあ、それでも伝わってくるものはきちんとあったけど
ノベライズで伝わり過ぎるくらいに伝わってくる一助と成っているのが、度々挿入される母のお小言か。母の言葉は正論で満ちている故に反論を許してくれない。成功例に裏打ちされただろう言葉の数々は、何か1つを反論したところで10のお小言が返ってくると容易に想像できるもの
それは子供の意思を奪いかねない環境だね。勿論、そこには母自身が親の支援を受けられない環境で精一杯生きてきたという経験が背景にあり、父を喪った彩葉の人生を慮る部分は有ったのだろうけど
それでも、彩葉が自由を感じられる環境ではなかった。だから彼女は家を出た
そうして自由を謳歌しているつもりで、母に対抗する為に母が望むだろうレールを進んでいた彩葉の前に現れたのがあらゆるレールもルールも存在しない完全自由なかぐやとなるわけだ
ノベライズで彼女の人となりを見ても改めて無茶苦茶だと思えてしまうタイプだね。ゲーミング電柱から生まれて、あっという間に大きくなって、資金を使い切ったり友人との集いに乱入したりとかぐやの遣ること成すこと全てが無茶苦茶。ヤチヨカップで優勝する為にする何もかもが無軌道。でも、そうした姿は彼女の自由さを示している
それは彩葉が羨んでいた姿であるのは間違いない。というか、彩葉がかぐやの無茶苦茶さに巻き込まれたのって、かぐやを放っておけないというよりもかぐやの自由さに魅了されてしまったからではなかろうかと改めて思えたよ
だって常識的に考えれば、ツクヨミにログインしたばかりでまだ何もしていないかぐやがヤチヨカップを優勝するなんて不可能に決まっている。彩葉が東大に入る為に日常をどれだけ費やしているか、どれだけ苦労しているかを当て嵌めてみれば自明の理というもの
でも、かぐやはライバー活動の為にしている何もかもが楽しそうなんだよね。大変なのに楽しそうだし、不可能な筈なのに出来てしまいそう。彩葉がかぐやに魅せられるのは納得しか無い
だからこそ、自由の象徴のようなかぐやには避けられない終わりが存在していて、その終わりを受け容れてしまった姿を彩葉は許せなかった訳だ
その瞬間、これまでの彩葉なら難しかった他人に頼るという行動が出来るようになるのは印象的
それでも無理な不自由は無理として立ちはだかって
そうして気付かされるのは自分の弱さか。母のお小言を不自由の象徴と受け取って反発して何でも自分一人で出来ると思い上がっていた彩葉は大切な人を再び喪って、頼った皆に迷惑かけて、ようやく自分がとても小さい存在だと気づけた訳だ
だから不自由な“めでたしめでたし”が訪れた後に彼女が目指すのはとても小さな願い、かぐやを月から取り戻す為の小さな戦い
そうして辿り着いた“めでたしめでたし”の裏側にあった物語には映画を見た時も感情が揺さぶられたものだけど、このノベライズを読んだ際にかなりうるっと来てしまったな…
だって映画だと彼女と人々の会話が描かれていたものだから、そこまで強烈な孤独は感じられなかったのだけど、ノベライズは心象表現がしっかりしているから、孤独がより伝わってくる形となっていたね。最初に歌を聞き届けてくれた男の子は何も出来ないままに亡くなって、見る世界には人の死や戦が満ちていて。楽しい事が大好きな彼女にしてみれば、その光景は看過し難いものだったろうと想像できてしまう。見続ける事しか出来ない悔しさがあったろうと
彼女がそのような経験をしたと描かれたからこそ、夢と希望に満ちたツクヨミという空間が作り出され、彩葉との再会が待ち望まれたのだろうと判る。でも、待ち続け過ぎた彼女は再会を単純に自由自在に喜ぶ感情をも制御できるようになってしまっていて
それも一種の終わり、不自由さ。とてもじゃないがハッピーエンドには思えない
だからこそ、かぐやと一緒に自由を求め続けた彩葉が真であり新の“めでたしめでたし”へ向けて『やりたいこと』を見出し実現まで突き進むラストに感動を覚えられるんだよね
映画の『ray』で締められたラストも良かったけど、ノベライズの彩葉とヤチヨの楽しそうな会話で締められたラストも良いものと思えたな
映画とは異なる手法で描かれたノベライズ版『超かぐや姫!』を読む事で改めて本作の物語に魅せられてしまったし、映画だけでは判らなかった本作の魅力を更に深堀りできたのは良かったな
ノベライズ版で知れた彩葉の心情を踏まえ、改めて映画版を見たく成ったし、もっと本作の楽曲に心を浸していたと思える経験となりましたよ!