地球の気候学を俯瞰できる好著。観測機器の発達やサンプル採取の苦労から論理構成まで凝縮してある。
短いスケールの気候変動…主に大気海洋雪氷圏の循環で考える。エキソジェニックシステム。
1000万年超の長いスケールの気候変動…固体地球の中の循環で考える。マントルと地殻、プレートテクトニクスなど。エンド
...続きを読むジェニックシステム。
「古代地球の温度を推定する」 化石には放射性同位元素がわずかに含まれている。試料採取方法やそこから分析用のガスを作るやり方の工夫を経て、放射性同位元素の割合で当時の気温がわかるようになった。しかし、地球が寒冷化したと思われる時期の海水温を復元したところ、マイナス3度というありえない数値が出た。原因を追究したところ蒸発した水蒸気に含まれる同位体の割合が水として運ばれるうちに「軽く」なり氷床として定着すること、温暖化が進んだ時にそれが溶け出し、海水に混ざることで同位体の割合に変化を与えていたことがわかった。分析を厳密に行うことで当時の海水温だけでなく、氷床の大きさもわかるようになった。
「暗い太陽のパラドックス」 太陽で起きている核融合反応は次第に加速するということが分かっている。太陽ができたての頃、太陽の明るさは現在の25-30%ほど暗かった、とされる。その状況下で太陽がきちんと地球を暖められたのか?が暗い太陽のパラドックス。計算上、二酸化炭素が今の10倍、メタンガスが50倍あれば保温効果で地球は古生物が生きられる範囲の温度になっていたはず。ただしこの問題には完全な答えは見つかっていない。
「大酸化イベント」 空気中の酸素は20-25億年前と5-7億年前の二回に分かれて濃度が上昇している。一回目と二回目の間にどうして10億年以上酸素濃度が上がらなかった時期があったのか(退屈な10億年)論争となっていた。この原因については結論が出ており、地殻の組成が変わり、二酸化炭素が大量に地殻に貯められる(炭素レザボア)ようになった。このレザボアが一杯になったところで貯めきれず空気中にでてきた二酸化炭素の濃度が上がり光合成により酸素濃度が上がった、というシナリオ。これを受けて5億年前に多彩な生物が登場したカンブリア爆発が起き、恐竜時代へ続く。白亜紀には二酸化炭素濃度は現在の6倍、2400ppmに達していたと推定される。当時、地殻プレートの動きが活発で現在の40-50%も動きが早かったと推測され、地殻から絞り出された二酸化炭素により濃度が上がったと考えれている。
「中生代後の寒冷化」 そのころインド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかってできたヒマラヤ山脈の形成により岩石風化が進み、二酸化炭素を固定したことが原因。
「南極の寒冷化と氷床の形成」 オーストラリアと南極大陸の間に海ができ、南極の周りを周回する寒流が出来上がったことが原因。中緯度で暖められた海水が南極に近づけなくなり、南極が冷えた。
「ミランコビッチサイクル」 ここまでで億年から数千万年単位の気候変動の原因は明らかになったが10万年周期で氷河期を繰り返す理由がわからなかった。そこで規則正しく起きる天文学的な要因が原因ではないかと考えられた。①地球の自転軸の傾きのブレ(4万年)、②太陽の周囲を回る軌道(離心率)のブレ(10万年)、③自転軸がコマの軸のようにゆらぐ歳差(2万6千年)を重ね合わせ、太陽から届く熱量が変化することが原因では、と考えられた。同位体分析の結果、ミランコビッチサイクルと氷床の量はよくリンクした。最近で最も氷床が発達したのは1万7千年前で海水面が現在より130m低かったとされる。これを達成するために必要な氷床の量と当時どこにそれがあったかの研究ではカナダに巨大氷床があったことが分かっている。
「深海と二酸化炭素」 表層の海水が冷やされ深海に沈み込む過程で大量の二酸化炭素が深海に送り込まれる。氷河期には二酸化炭素濃度は180-200ppm、間氷期には280ppm、という循環が繰り返されている。これは①氷床が解け、淡水が海に放出され、前記の沈み込みが止まる、②その結果二酸化炭素濃度が上がる、③湿潤な気候となり氷の素が供給され氷床が元に戻る、の繰り返し、と思われる。水温が下がれば海水に溶け込める二酸化炭素も増えるのでさらに二酸化炭素濃度が減る。現在、化石燃料の燃焼により二酸化炭素濃度は400ppmに達しており、今後どのような気候が表れるのか予想がつかない状態。
この10万年単位の気候変動には有機生物による二酸化炭素固着、などほかにもいろいろな要因が組み合わさり、精妙な仕組みになっている。
「急激に起きる寒冷化」 さらに細かく地球の温度を見ていくと10年ほどで10度程度の変動が起きることがある。その原因も氷床の量。ある科学者が海底の微生物化石に残った気候の痕跡を分析しようとして泥の中に丸い石があることに気づいた。氷床が地表を削りながら海に出、溶けていくなかで海に落とした石、と考えられた。氷床は自律的に成長と縮小を繰り返す。成長し大きくなった氷床は重みで地表との摩擦が増し、接地面が溶けやすくなる。陸地から滑り落ちる形で海にでることで氷床が減る。そこで寒冷化が起き…という先のサイクルを繰り返す。
「今後の地球気候」 二酸化炭素濃度がすでにサイクル外の400ppmに達していることから今後どのような気候となっていくか予想がつかない。数億年、数千万年の単位なら岩石風化などで固着される二酸化炭素も出てくるが急速な濃度上昇をすべて吸収するものではな