【感想・ネタバレ】地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来のレビュー

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Posted by ブクログ

最新の研究結果が丁寧に説明されている。特に、新世代の気候変動のメカニズムが詳細にわかってきたと感じた。

大気中の酸素量は、25~20億年前の大酸化イベント(GOE)、7~5億年前の原生代後期酸化イベント(NOE)で急上昇した。25億年前までには本格的なプレートテクトニクスが始まっており、相当大きな大陸地殻が形成されていたが、鉄やマグネシウム、還元態硫黄を多く含む苦鉄質岩(玄武岩)でできていたため、大気中の酸素濃度は上昇しなかった。25億年前に大規模なプレートの沈み込みによってマントルに大量の水が供給され、玄武岩質のマグマがケイ長質岩に置き換わったため、酸素が消費されなくなり、大気中の酸素濃度が増加した。23億年前には、紫外線によって起きる硫化鉱物に刻まれたMIFの痕跡が消えていることから、オゾン層が形成されるほど潤沢な酸素が存在していた。GOE後に酸素濃度は現在の1%となり、生物のエネルギー経路が発酵から酸素呼吸へと変わる転換点であり、真核生物の生存限界であるパスツールポイントに達した。

GOE終了後の10億年間は、大気中の二酸化炭素が少なかったために光合成の量や酸素濃度の上昇が妨げられた。プレートテクトニクスの進行によって陸地の周りに水深の浅い海域が広がり、光合成生物によってつくられた有機物が堆積し、それが酸化されることで二酸化炭素の供給能力が高まり、酸素の生成が向上してNOEとなった。

植物化石の気孔の密度等から推測される白亜紀の二酸化炭素濃度は1000~2400ppmで、平均気温は24~29℃だった。パプアニューギニア東方のオントンジャワ海台やカリブ海台、ケルゲレン海台、ヒクランギ海台、マニヒキ海台などは白亜紀に形成されたもので、白亜紀中期は地球史においてもまれにみるほどに火山活動が活発な時期だった。また、白亜紀の火山分布から海洋プレートの沈み込み帯が現在の2倍広がっており、海面水準が50m以上高く、浅い海や広大な低地にサンゴ礁が広がっていたため、炭酸カルシウムが大量に蓄積され、これが大量の二酸化炭素を生成していた可能性がある。

地表に雨が降り注ぐと二酸化炭素は水に溶け込み炭酸となる。弱酸性の水には岩石から陽イオンが溶け出し、河川を通じて海に流れ込む(風化)。海には、大気から二酸化炭素が溶け込んだ重炭酸イオンや炭酸イオンが存在している。海の炭酸イオンと河川から流れ込んだ陽イオンが結合して、炭酸塩鉱物が沈殿することにより、大気中の二酸化炭素が除去される。インド亜大陸とユーラシア大陸が衝突したことによって隆起したヒマラヤ・チベット山脈が、この風化作用を起こしたため地球が寒冷化した。ヒマラヤ・チベット山脈の形成に先立って二酸化炭素が減少しているのは、海洋地殻での造山活動によって形成されたカルシウムやマグネシウムに富んだオフィオライトの岩石帯をアフリカ大陸やインド亜大陸が隆起させて風化されたため(8000万年前と5000万年前)。

3400万年前に南極大陸に氷床が形成されたことについては様々な仮説があるが、オーシャン・ゲートウェイ仮説が有名。オーストラリアと南極大陸の間にタスマン海が形成されると、周南極海流(ACC)が形成され、それまで東オーストラリアを流れていた熱帯からの海流が南極大陸に届かなくなったため、南極の寒冷化を促進させた。南極大陸に氷床が形成されたことにより、海面水準は70m以上低下した。

炭素が深海に運ばれるメカニズムは3つある。大気の二酸化炭素は海水に溶けて炭酸などに変わり、海流によって深い海に運ばれる(溶解ポンプ)。植物プランクトンが光合成によって固定した二酸化炭素は、食物連鎖によって大型の生物に取り込まれた後、排泄物として沈降する。これはバクテリアによって分解されて無機炭素として放出されるが、深層海流によって平均1000年以上隔離される(有機物ポンプ)。二酸化炭素が海水に溶けた炭酸は、貝類やクリオネによって炭酸カルシウムの殻として取り込まれる(炭酸塩ポンプ)。

過去数十万年間の気候変動は、溶解ポンプだけでは説明できないため、有機物ポンプや炭酸塩ポンプの変化があったと考えられる。氷期の氷床コアの中に、気温に反比例する量の鉄分が含まれており、現在の大陸棚が陸地だった時に河川や風によって運ばれていたと考えられる(鉄仮説)。海面の低下によって大陸棚が陸地になったため、サンゴが死滅して二酸化炭素の排出量が減り、その結果として海の二酸化炭素の取り込み能力が高まった(サンゴ礁仮説)。激しい風によって陸地から削り取られた土砂が海域に飛来し、ケイ酸が補われたことによって植物プランクトンの光合成が活発になった(ケイ酸リーク仮説)。氷期の二酸化炭素の濃度の低下は、どの仮説も単独では説明できないため、複数のメカニズムが作用することで起こったと考えられるが、詳細なメカニズムについてはコンセンサスが得られていない。

アンドレ・ベルジェらのコンピューターシミュレーションでは、大気中の二酸化炭素濃度が400ppmを超えている現在の状況では、今後5万年間は間氷期が続くと予想されている。

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2022年10月06日

Posted by ブクログ

地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来。横山祐典先生の著書。世界中の名門大学で学ばれて世界中の研究所で研究員として気候変動についての研究生活をされてきた横山祐典博士のお話だからすごく説得力がある。温暖化が進めば自分が住む場所が水没するというシミュレーションを見ればびっくりする人も多いはず。気候変動や温暖化というキーワードに少しでも興味がある人が気候変動の第一人者である横山祐典博士から気候変動や温暖化を一から学べる良書。

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2022年06月27日

Jan

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過去の気候変動がよく分かる

地球の気候がなぜ変動するのか、何が原因なのか、一体どれぐらいのスパンで変わって来たのか。
これらの疑問に対して現在までに分かってきたことが、とても詳しく書かれている。

気候変動を知るには古気候を知る必要があると思う。古気候が分かっていないと、現在の気候変動も理解ができない。
今年の夏が暑いから温暖化だ、といった単純な話ではないと言うことだ。
温暖化が進むと言われているが、もしかするとグリーンランドの氷床が溶けて反対に寒冷化するかもしれないのだから。

今後温暖化するにしても寒冷化するにしても、人間が今の生活レベルを保てるほどの緩やかなものであれば問題ないだろうが、極端なものとなった場合に100億近い人類の大半が生存できなくなる可能性はある。
日本でも海面上昇で住む場所がなくなったり、砂漠化進行で食料生産ができなくなる、あるいは雨が降らなくなり飲料水が取れなくなる可能性もある。

もし、本当にそうなったときに全人類が争うことなく手を取り合っていけるのか。
世界的にナショナリズムが高まって、自分の国の利益だけを得ようとし、弱い者を力でねじ伏せている現在の状況を見ると、とても協力できるとは思えない。
おそらく悲惨な何億という大勢の犠牲者が出ることになるだろう。

そういった過酷な気候変動が起こる可能性があるからこそ、その原因となるかもしれない二酸化炭素の増加を食い止める必要があるのだと改めて感じた。




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2020年06月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

地球の気候学を俯瞰できる好著。観測機器の発達やサンプル採取の苦労から論理構成まで凝縮してある。

短いスケールの気候変動…主に大気海洋雪氷圏の循環で考える。エキソジェニックシステム。
1000万年超の長いスケールの気候変動…固体地球の中の循環で考える。マントルと地殻、プレートテクトニクスなど。エンドジェニックシステム。

「古代地球の温度を推定する」 化石には放射性同位元素がわずかに含まれている。試料採取方法やそこから分析用のガスを作るやり方の工夫を経て、放射性同位元素の割合で当時の気温がわかるようになった。しかし、地球が寒冷化したと思われる時期の海水温を復元したところ、マイナス3度というありえない数値が出た。原因を追究したところ蒸発した水蒸気に含まれる同位体の割合が水として運ばれるうちに「軽く」なり氷床として定着すること、温暖化が進んだ時にそれが溶け出し、海水に混ざることで同位体の割合に変化を与えていたことがわかった。分析を厳密に行うことで当時の海水温だけでなく、氷床の大きさもわかるようになった。

「暗い太陽のパラドックス」 太陽で起きている核融合反応は次第に加速するということが分かっている。太陽ができたての頃、太陽の明るさは現在の25-30%ほど暗かった、とされる。その状況下で太陽がきちんと地球を暖められたのか?が暗い太陽のパラドックス。計算上、二酸化炭素が今の10倍、メタンガスが50倍あれば保温効果で地球は古生物が生きられる範囲の温度になっていたはず。ただしこの問題には完全な答えは見つかっていない。

「大酸化イベント」 空気中の酸素は20-25億年前と5-7億年前の二回に分かれて濃度が上昇している。一回目と二回目の間にどうして10億年以上酸素濃度が上がらなかった時期があったのか(退屈な10億年)論争となっていた。この原因については結論が出ており、地殻の組成が変わり、二酸化炭素が大量に地殻に貯められる(炭素レザボア)ようになった。このレザボアが一杯になったところで貯めきれず空気中にでてきた二酸化炭素の濃度が上がり光合成により酸素濃度が上がった、というシナリオ。これを受けて5億年前に多彩な生物が登場したカンブリア爆発が起き、恐竜時代へ続く。白亜紀には二酸化炭素濃度は現在の6倍、2400ppmに達していたと推定される。当時、地殻プレートの動きが活発で現在の40-50%も動きが早かったと推測され、地殻から絞り出された二酸化炭素により濃度が上がったと考えれている。

「中生代後の寒冷化」 そのころインド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかってできたヒマラヤ山脈の形成により岩石風化が進み、二酸化炭素を固定したことが原因。

「南極の寒冷化と氷床の形成」 オーストラリアと南極大陸の間に海ができ、南極の周りを周回する寒流が出来上がったことが原因。中緯度で暖められた海水が南極に近づけなくなり、南極が冷えた。

「ミランコビッチサイクル」 ここまでで億年から数千万年単位の気候変動の原因は明らかになったが10万年周期で氷河期を繰り返す理由がわからなかった。そこで規則正しく起きる天文学的な要因が原因ではないかと考えられた。①地球の自転軸の傾きのブレ(4万年)、②太陽の周囲を回る軌道(離心率)のブレ(10万年)、③自転軸がコマの軸のようにゆらぐ歳差(2万6千年)を重ね合わせ、太陽から届く熱量が変化することが原因では、と考えられた。同位体分析の結果、ミランコビッチサイクルと氷床の量はよくリンクした。最近で最も氷床が発達したのは1万7千年前で海水面が現在より130m低かったとされる。これを達成するために必要な氷床の量と当時どこにそれがあったかの研究ではカナダに巨大氷床があったことが分かっている。

「深海と二酸化炭素」 表層の海水が冷やされ深海に沈み込む過程で大量の二酸化炭素が深海に送り込まれる。氷河期には二酸化炭素濃度は180-200ppm、間氷期には280ppm、という循環が繰り返されている。これは①氷床が解け、淡水が海に放出され、前記の沈み込みが止まる、②その結果二酸化炭素濃度が上がる、③湿潤な気候となり氷の素が供給され氷床が元に戻る、の繰り返し、と思われる。水温が下がれば海水に溶け込める二酸化炭素も増えるのでさらに二酸化炭素濃度が減る。現在、化石燃料の燃焼により二酸化炭素濃度は400ppmに達しており、今後どのような気候が表れるのか予想がつかない状態。
 この10万年単位の気候変動には有機生物による二酸化炭素固着、などほかにもいろいろな要因が組み合わさり、精妙な仕組みになっている。

「急激に起きる寒冷化」 さらに細かく地球の温度を見ていくと10年ほどで10度程度の変動が起きることがある。その原因も氷床の量。ある科学者が海底の微生物化石に残った気候の痕跡を分析しようとして泥の中に丸い石があることに気づいた。氷床が地表を削りながら海に出、溶けていくなかで海に落とした石、と考えられた。氷床は自律的に成長と縮小を繰り返す。成長し大きくなった氷床は重みで地表との摩擦が増し、接地面が溶けやすくなる。陸地から滑り落ちる形で海にでることで氷床が減る。そこで寒冷化が起き…という先のサイクルを繰り返す。

「今後の地球気候」 二酸化炭素濃度がすでにサイクル外の400ppmに達していることから今後どのような気候となっていくか予想がつかない。数億年、数千万年の単位なら岩石風化などで固着される二酸化炭素も出てくるが急速な濃度上昇をすべて吸収するものではな

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2019年03月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

地球科学の復習と、最新学説のアップデートのために購読。

感想としては、地球科学も、時間分解能が飛躍的に高まっている。数年や10年単位の変動をも説明しようとしている。
一方、大きなテーマは開拓されておらず、既存学説の補完や、隙間を埋める研究だなという感じ。20年前に漠然と感じた事が、やはりそうなったんだなあ。
ただ、面白いしこれからますます大事だからこれからもウォッチする。

以下、要点。

・炭素循環や、氷床の挙動が、気候変動を起こす。
・10万年周期で規則正しい起こる気温と温室効果ガスの変動の要因は、解明されていない。
・数年〜数10年という短い周期の気候変動は、氷床の融解が海洋の熱塩循環に作用して起こる。気温は10度くらい変化する。

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2020年05月04日

Posted by ブクログ

地球は約46億年前に誕生したと言われます。その間には恐竜が全盛期を迎えた数億年前に現代よりも平均気温が7℃も高い時期があったり、一方では地球全域が氷で覆われた「スノーボールアース」という時期が存在するなど、気候変動は非常に振幅の激しいものであったことが分かっています。
その「からくり」と、どのようにしてそれほど過去の時代の気候を知ることが出来たのかを地球誕生直後から時間をさかのぼりつつ解説しています。
1000万年を超える時間スケールの変動では大気と大陸地殻との間での炭素のやり取りが、10万年程度の時間スケールでは大気と海洋との間での炭素のやり取りが支配的であり、2万年~4万年周期になると、実は地球の公転軌道の”ゆがみ”が重要となり、さらに数百年~数十年スケールの変動では、極域の氷の量が重要であるなど、取り扱う時間スケール、空間スケールのダイナミックさに圧倒されます。プレートテクトニクスが気候に影響を与えているなどという事実は本書を読むまでは全く想像もしていませんでした。
気候変動の研究の成果を分かり易く紹介した名著として「チェンジングブルー(大河内直彦著)」がありますが、その出版から10年以上が経過し、さらに最新の研究成果も盛り込んだ本書は、帯に書かれていた「大河内直彦氏絶賛」という文言や書名から受ける期待を裏切らない内容充実の1冊でした。
その著者が本書エピローグで、昨今の二酸化炭素濃度の上昇が過去の気候変動の振幅から考慮しても、非常に深刻なレベルであると警鐘を鳴らしています。地球温暖化が非常に深刻なステージに突入しつつあるという事実を再認識させられます。

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2019年01月27日

Posted by ブクログ

地球の46億年を気候変動から振り返るような本かと思っていたのですが、この本は気候変動のサイクルを二酸化炭素などの温室効果ガス等から読み解く、その読み解きの歴史を紹介するものでした。この本を読む前に、大きな気候変動の流れは、別の本で把握しておいたほうが良いかも

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2019年01月07日

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